機動戦士ガンダムOOR   作:ミスト12523

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第10話 プトレマイオス

第10話 プトレマイオス

西暦2307年――王留美所有施設・格納区画

小型輸送艇を前にして。

レイナス・レノアークは腕を組んでいた。

「……本当に行くことになったな」

「昨夜から何度も説明したはずですが」

隣に立つ王留美が呆れたように答える。

「分かってる。実物を目の前にすると実感が違うって話だ」

地上での行動は、以前より遥かに難しくなっていた。

ユニオンは既にレイナスの顔と名前を把握している。

さらに先日の戦闘では、ソレスタルビーイングのガンダムと明確に役割を分担して戦った。

正式な構成員だと証明されたわけではない。

だが、少なくとも武力介入へ参加する協力者。

ユニオンがそう判断するには十分だった。

その状態で地上の秘匿施設を転々とすれば、いずれ追跡を許す可能性がある。

そこで。

スメラギと留美が出した結論が――

「地上に置いとくより、宇宙へ上げた方がマシってわけか」

「そういうことです」

「随分遠くへ追いやられたもんだ」

「嬉しそうに言わないでください」

「分かるか?」

「ええ」

レイナスは隠そうともしていなかった。

宇宙へ出ること自体は珍しくない。

だが目的地が違う。

ソレスタルビーイングの母艦。

プトレマイオス。

そして当然。

そこには――

「四機ともいるのか?」

「何がです?」

「ガンダム」

留美がため息をついた。

「やはりそれですか」

「他に何がある」

「あなた自身の安全確保です」

「それも大事だな」

「優先順位がおかしくありませんか?」

「命は大事だぞ。死んだらMSにも乗れん」

「…………」

「そんな顔するな。半分は冗談だ」

「半分しか冗談ではないのですね」

「全部って言ったら嘘になる」

留美は諦めたらしい。

紅龍がレイナスの荷物を運んでくる。

大きな鞄が一つ。

それだけだった。

「これで全部です」

「助かる」

「随分少ないですね」

「元々、こっちへ来た時は着の身着のままだったからな。むしろ増えた方だ」

レイナスが鞄を受け取る。

そして輸送艇へ向かい――

途中で止まった。

振り返る。

留美と紅龍。

この世界へ放り出され。

まともな身分すら持たなかった自分を拾った二人。

「留美」

「はい?」

「色々世話になったな」

留美が僅かに目を見開く。

「随分改まっていますね」

「こういう時くらい格好つけさせてくれ」

「格好をつけていたのですか?」

「……自分で言わせるな。締まらなくなるだろ」

留美が小さく笑う。

レイナスは紅龍にも視線を向けた。

「紅龍もありがとな」

「いえ」

「飯も美味かった」

「そちらですか」

「重要だろ」

レイナスは再び留美を見る。

「まあ、追い出されない限りは戻ってくるさ」

「ここはあなたの帰る場所でもありますから」

「……そうか」

一瞬だけ。

レイナスの表情が柔らかくなる。

だがすぐにいつもの調子へ戻った。

「なら安心して宇宙見物してくる」

「遠足ではありません」

「分かってるって」

「本当に?」

「何かあったら働く。それでいいだろ」

「勝手にMSを持ち出さないこと」

「まだ言うのか」

「念のためです」

レイナスは苦笑する。

「フラッグ一機で随分信用を失ったもんだ」

「当然です」

「返したんだけどな……」

誰も擁護してくれない。

仕方なく輸送艇へ乗り込む。

ハッチの前で一度だけ振り返った。

「じゃあ、行ってくる」

「はい」

留美が微笑む。

「いってらっしゃい、レイナス」

ハッチが閉じた。

          ◇

数時間後――地球低軌道

窓の向こう。

青い地球。

その手前に。

一隻の宇宙船が浮かんでいた。

「……へえ」

プトレマイオス。

映像では見た。

概要も聞いた。

だが実物を見るのは初めてだった。

四基の大型コンテナを備えた特徴的な船体。

一般的な軍艦とは明らかに異なる。

レイナスは窓際へ身体を寄せる。

「面白い構造してるな」

輸送艇の通信機が鳴った。

『こちらプトレマイオス。輸送艇を確認したよ』

クリス。

既に何度も通信で聞いている声だ。

『誘導信号送るから、そのまま進入して』

輸送艇の操縦員が応答する。

レイナスはまだ船体を見ている。

「四つのコンテナに一機ずつか」

『聞こえてるよ、レイナス』

「聞かれて困ることは言ってないだろ」

『到着する前からガンダムのこと考えてるんだ』

「せっかく来たんだ。見るくらいは楽しみにさせてくれ」

『乗りたいんでしょ?』

「そりゃ乗せてくれるならな」

『正直だね』

「変に取り繕ってもしょうがないだろ」

別の声が入る。

『君には機密保持という概念が足りない』

ティエリア。

レイナスは窓を見たまま答える。

「その辺は守るさ」

『信用できないな』

「まあ、今までの実績を考えると強くは言えんな」

ティエリアが僅かに沈黙する。

『……随分素直だな』

「勝てない話で粘るほど元気じゃない」

クリスの笑い声。

『ティエリアが押し切った』

「今日は譲っとく」

『今日は?』

「言葉の綾だ」

『レイナス』

「分かった分かった。余計なことはしない」

輸送艇が減速する。

前方。

プトレマイオスの受け入れハッチが開いた。

「……いよいよか」

レイナスは少しだけ笑う。

「宇宙まで来たんだ。せいぜい楽しませてもらうさ」

          ◇

プトレマイオス・乗降区画

気密処理終了。

ハッチが開く。

レイナスが鞄を肩に掛けて降りる。

最初に目に入ったのは。

見覚えのある女性だった。

「ようこそ、プトレマイオスへ」

スメラギ・李・ノリエガ。

地上ですでに何度か顔を合わせている。

レイナスが片手を上げる。

「どうも」

「随分軽いわね」

「今さら改まって挨拶する仲でもないだろ」

「それもそうね」

スメラギの隣。

三人。

こちらは直接会うのは初めてだった。

最初に明るい髪の少女が一歩出る。

「やっと直接会えたね」

レイナスが声を聞いてすぐ気づく。

「クリスか」

「正解」

クリスティナ・シエラ。

「通信じゃ随分世話になったな」

「私は面白かったよ」

「俺は何度か怒られた覚えしかない」

「それスメラギさんじゃない?」

「半分くらいはな」

「じゃあ私じゃないじゃん」

「残り半分に入ってる」

「そんなに?」

二人の横で青年が笑う。

「通信通りだな、あんた」

レイナスがそちらを見る。

「そっちは?」

「リヒテンダール・ツエーリ。リヒティでいいぜ」

「レイナスだ。よろしく」

握手。

リヒティが言う。

「もちろん知ってるけどな」

「嫌な予感するな」

「フラッグを――」

「その話ならもう十分聞いた」

先回りされた。

リヒティが笑う。

「まだ何も言ってねえって」

「どうせ似たような話だろ」

「まあな」

「ほら見ろ」

そして。

もう一人。

フェルト・グレイス。

レイナスは彼女を見る。

通信映像では顔も知っている。

だが直接会うのは初めて。

「フェルト」

「うん」

「やっと直接会えたな」

「うん」

短い。

だが。

フェルトらしい。

「この前はありがとう」

「ああ、避難車両の件か」

「直接は言ってなかったから」

レイナスは少し笑う。

「律儀だな」

「駄目?」

「いや。悪くない」

フェルトが僅かに表情を緩める。

そこへ。

「挨拶はその辺にしておきなさい」

ティエリアがやってくる。

レイナスがそちらを見る。

「お前とは挨拶いらんな」

「僕も同感だ」

「珍しく気が合ったな」

「不本意だ」

「そこまで言うか」

ティエリアは腕を組む。

「先に言っておく。僕は君をこの艦へ乗せることに賛成していない」

「ああ」

「驚かないのか?」

「むしろ賛成してたら驚く」

「…………」

「俺だって、身元を証明できない奴をいきなり自分の船には乗せたくない」

スメラギが眉を上げる。

「分かってるじゃない」

「分かってるさ。その上で乗せたのはアンタらだろ」

「そうね」

「なら、しばらく大人しくしとく」

ティエリアが睨む。

「本当だろうな」

「努力はする」

「努力では困る!」

「……冗談だ。そこまで怒るな」

クリスが笑いを堪えている。

その時。

奥から別の男が歩いてきた。

体格がいい。

レイナスが見る。

男が片手を上げた。

「ラッセ・アイオンだ」

「レイナスだ。よろしく」

握手。

ラッセはレイナスを軽く見回す。

「話は聞いてる。生身でMSとやり合う奴が来るってな」

「そこだけ聞くと、随分ろくでもない奴だな」

「違うのか?」

一拍。

「……否定できないのが困る」

ラッセが笑う。

「ならいいだろ」

「よくはない気もするけどな」

ラッセは細かいことを気にする様子もなく、レイナスの肩を軽く叩いた。

「まあ、よろしくな」

「ああ」

ティエリアとは随分違う。

レイナスとしては、こちらの方が付き合いやすそうだった。

「それじゃ」

スメラギが手を叩く。

「簡単に艦内を案内するわ」

レイナスが即座に聞く。

「格納庫は?」

スメラギが目を細める。

「……あなた、本当に分かりやすいわね」

「ここまで来て素通りは酷いだろ」

「最後に案内する」

「最後か」

「逃げないわよ」

「ならいい」

クリスがフェルトへ小声で言う。

「ほんとにMS好きなんだね」

フェルトも小さく頷いた。

          ◇

プトレマイオス・ブリッジ

最初に案内されたのはブリッジだった。

「へえ……」

レイナスが周囲を見る。

クリスが笑う。

「また言った」

「何が?」

「『へえ』」

「初めて見るんだから仕方ないだろ」

スメラギが各席を示す。

クリス。

フェルト。

リヒティ。

ラッセ。

それぞれの担当。

レイナスは設備を眺めながら歩く。

「思ったより人数少ないな」

「少数精鋭ってやつ」

クリスが答える。

「それで回してるのか」

「結構大変だよ」

「だろうな」

レイナスは窓の外を見る。

地球。

「こっちへ来てから宇宙は初めてだ」

ラッセが振り向く。

「宇宙自体は?」

「初めてじゃない」

「宇宙暮らしも経験ありか?」

「まあな」

それ以上は説明しない。

ラッセも無理には聞かなかった。

スメラギがレイナスを見る。

「あなたには今のところ、艦内で正式な役職は与えないわ」

「ああ」

「作戦参加も必要に応じて。あなたの意思も確認する」

「それでいい」

「閲覧できる情報にも制限をかける」

「当然だな」

スメラギが少し意外そうに見る。

「文句を言うと思った」

「俺が逆の立場でもそうする」

「物分かりがいいのね」

「飯と寝床まで制限されなきゃ文句はない」

クリスが振り返る。

「そこなの?」

「重要だろ。ここじゃ腹減ってもコンビニ行けん」

リヒティが吹き出す。

ラッセも笑った。

スメラギは額へ手を当てる。

「食事はちゃんと出るわよ」

「なら問題ない」

フェルトが小さく言う。

「そこは安心して」

「助かる」

「食べる量、多い?」

「普通だと思う」

スメラギが言う。

「その『普通』が信用できないのよね」

「失礼だな」

「あなたの場合、普通の基準から確認しないと駄目でしょう?」

「……そこは反論しにくい」

何しろ。

生身でMSと戦う人間の普通である。

自分でも一般人扱いを求める気はなかった。

          ◇

プトレマイオス・居住区

「ここがあなたの部屋」

スメラギが扉を開く。

簡素な個室。

ベッド。

机。

収納。

必要最低限。

レイナスは中へ入り。

一周見回した。

「十分だな」

「狭くない?」

クリスが聞く。

「一人ならこんなもんだろ」

鞄を置く。

ベッドを軽く押す。

「寝床があって、飯も出る」

少し考え。

「給料まで出たら完璧なんだけどな」

スメラギが即答する。

「出ないわよ」

「残念」

「外部協力者でしょう、あなた」

「言ってみただけだ。言うだけならタダだろ」

「妙なところで現実的ね……」

レイナスは笑う。

「百年以上生きると色々あるんだよ」

一瞬。

空気が変わる。

それは。

レイナス本人がそう主張しているだけで。

誰も事実だとは確認できていない。

スメラギがじっと見る。

「それも、まだ信じたわけじゃないからね」

「知ってる」

あっさり返す。

「信じろって頼んだ覚えもないしな」

「相変わらずね」

「今さら証拠出せって言われても困るんでな」

フェルトがレイナスを見る。

以前にも聞いた。

別世界。

百年以上。

どちらも証拠はない。

「……本当なの?」

レイナスはフェルトを見る。

「俺からすればな」

「そう」

それだけ。

「信じるのか?」

フェルトは少し考えた。

「分からない」

「だろうな」

「でも、嘘だとも決めてない」

レイナスが少しだけ目を細める。

「……そうか」

「うん」

「なら、それでいい」

証明できない話を無理に信じさせるつもりはない。

昔から。

その辺は変わらなかった。

          ◇

プトレマイオス・格納区画

そして。

ようやく。

レイナスが待っていた場所へ来た。

扉が開く。

その向こう。

「…………」

ガンダム。

間近で見る。

エクシア。

デュナメス。

キュリオス。

ヴァーチェ。

レイナスの足が止まった。

スメラギが横を見る。

「静かになったわね」

「ちょっと待ってくれ」

「何?」

「今見てる」

「見れば分かるわよ」

返事が雑になる。

レイナスはエクシアへ近づいていく。

足元。

装甲。

関節部。

頭部。

GN粒子。

視線が忙しい。

「……いいな」

ティエリアが警戒する。

「近づきすぎだ」

「触ってないだろ」

「そういう問題ではない!」

「じゃあ、どこまでならいい?」

「そこから三歩下がれ」

レイナスはティエリアを見る。

そして。

素直に三歩下がった。

ティエリアが逆に少し驚く。

「……何だ?」

「いや」

レイナスはエクシアから目を離さない。

「見せてもらってる立場だからな。そのくらいは聞くさ」

「なら最初から――」

「でも近くで見たいのも本音だ」

「君は!」

「分かったって」

その時。

格納区画の奥から声。

「騒がしいと思ったら、お前が例のレイナスか」

レイナスが振り返る。

作業服姿の男。

スメラギが紹介する。

「イアン・ヴァスティ。プトレマイオスの整備責任者」

イアンが手を差し出す。

「イアンだ」

「レイナスだ。よろしく」

握手。

イアンはレイナスを見る。

「生身でMSを止めたそうだな」

「何機かは」

「ユニオンのフラッグにも乗った」

「ああ」

「短時間で操作を覚えたとか」

「完全に使いこなしたわけじゃない。飛ばして戦うくらいなら何とかなったってだけだ」

「それでも十分おかしい」

「俺に言われてもな」

イアンが笑う。

「MSには詳しいのか?」

「多少は。前にいたところでも乗ってた」

「どんな機体だ?」

レイナスは一瞬考える。

「話すと長くなるぞ」

「整備屋にMSの話が長いなんて言うな」

その返しに。

レイナスの表情が少し変わった。

「……気が合いそうだな、あんた」

「俺もそう思う」

スメラギが嫌な予感を覚えた。

ティエリアも同じらしい。

「イアン」

「何だ?」

「余計な情報を与えないでくれ」

「分かってるって」

レイナスがエクシアを見る。

「GNドライヴの構造は?」

「いきなりそこか」

「駄目ならいい」

「駄目だ」

「コックピット」

「駄目」

「OS」

「もっと駄目だ」

「整備記録」

「駄目だ」

「……世知辛いな」

「最高機密だぞ」

「分かってる。聞くだけ聞いてみた」

「図々しいな」

「言うだけならタダだろ」

「さっきも聞いたわよ、それ」

スメラギが呆れる。

レイナスは肩をすくめる。

「便利なんだ、この言葉」

イアンが笑った。

「一般的なところなら話してやる」

レイナスが即座に振り向く。

「本当か?」

「食いつきが凄いな」

「そこは悩む理由がない」

          ◇

しばらくして。

イアンの簡単な説明を受けながら。

レイナスは四機を見て回っていた。

エクシア。

「近接主体か。刹那らしいな」

デュナメス。

「こいつはロックオン以外が乗ったら勿体ない」

キュリオス。

「……やっぱり可変機はいいな」

ヴァーチェ。

「何度見ても割り切ってる」

ティエリアが反応する。

「どういう意味だ?」

「褒めてる」

「具体的に言え」

「撃ったら大体片付く」

「そんな単純な機体ではない!」

「知ってるって」

イアンが笑う。

「お前、ヴァーチェ好きだろ」

「好きだぞ。俺が乗りたいかは別として」

「ならどれだ?」

「何が?」

「四機の中で乗るなら」

レイナスは真剣に悩んだ。

「……難しいな」

「そこは即答じゃないのか」

「全部違うからな」

エクシアを見る。

「今ならこいつか」

ティエリアが僅かに眉を動かす。

「理由は?」

「反応が良さそうだ。近接主体なら機体の癖も分かりやすい」

「なるほどな」

イアンが腕を組む。

「なら、自分専用なら?」

レイナスが止まる。

「俺の?」

「ああ。好きに注文できるとしたら、どんなMSが欲しい?」

「好きに?」

「あくまで話だぞ」

「分かってる」

それでも。

真剣に考える。

「まず反応がいい奴だな」

「機動性重視?」

「そうなる。こっちが動かしてから機体が考え始めるようなのは勘弁してほしい」

「装甲は?」

「最低限あればいい」

「パイロットはすぐそう言う」

「当たらなきゃ――」

途中で止める。

イアンを見る。

「いや。整備する側からしたら嫌な台詞だな、これ」

「分かってるじゃないか」

「昔、似たようなことで怒られた覚えがある」

「なら学習しろ」

「善処する」

「信用できないな」

レイナスが笑う。

「武装は近距離も遠距離も欲しい。火力だけに振る必要はない。どっちかっていうと、何でも自分でやれる方が好みだな」

「欲張りだな」

「自分用って言われたら欲も出るだろ」

「変形は?」

「なくてもいい」

「大型火器」

「持てるなら欲しい」

「やっぱり欲張りじゃないか」

「注文するだけならタダだろ?」

イアンが吹き出す。

「本当に作れと言われたら頭抱えるな」

「安心しろ。今すぐ作れなんて言わん」

「意外だな」

「こっちの技術も材料も知らんのに、注文だけ並べても仕方ないだろ」

レイナスは四機を見る。

少しだけ。

目を細める。

「それに――」

「それに?」

「いつか自分の機体を持てるなら、その時に考えるさ」

イアンがレイナスを見る。

「欲しいんだな?」

「そりゃな」

少し笑う。

「せっかく新しい世界まで来たんだ。一機くらい、こっちで相棒を見つけても罰は当たらんだろ」

言ってから。

僅かな沈黙。

クリスがニヤッとする。

「今ちょっと格好つけた?」

レイナスが止まる。

「……聞かなかったことにしてくれ」

「やっぱり」

「こういうのは突っ込まれると締まらんだろ」

ラッセが笑う。

「自分で言ったんだから諦めろ」

「世知辛いな……」

フェルトも。

ほんの少しだけ笑っていた。

          ◇

同日――プトレマイオス・食堂

「これは重要だ」

レイナスは真剣だった。

目の前。

夕食。

クリスが向かいから聞く。

「何が?」

「飯だ」

「見れば分かるよ」

「宇宙生活で飯が不味いと地味に効くんだぞ」

ラッセが頷く。

「それは分かる」

「だろ?」

リヒティも席につく。

「気に入らなかったらどうすんだ?」

「我慢する」

「そこは普通なんだな」

「食えるものに文句言うほど贅沢じゃない」

一口。

レイナスが止まる。

フェルトが見る。

「どう?」

「悪くない」

「それだけ?」

「美味いぞ」

「なら最初からそう言えばいいのに」

「食レポは専門外なんでな」

そこへ。

刹那。

ロックオン。

アレルヤ。

ティエリア。

作業を終えたマイスターたちも食堂へ入ってくる。

ロックオンがレイナスを見つける。

「お、もう馴染んでんな」

「飯食ってるだけだ」

「格納庫で随分はしゃいでたらしいじゃねえか」

レイナスの手が止まる。

クリス。

フェルト。

ラッセ。

イアン。

誰から漏れた。

候補が多すぎる。

「……情報伝達が早いな、この船」

ロックオンが笑う。

「狭いからな」

アレルヤが向かいへ座る。

「どう? プトレマイオス」

「悪くない」

「それだけ?」

「ガンダムが四機あって、飯も出て、寝床もある」

少し考える。

「今のところ文句はないな」

ロックオンが笑う。

「基準そこかよ」

「大事だろ」

刹那がレイナスを見る。

「エクシアを見たか」

「ああ」

「どうだった」

レイナスの顔が少し変わる。

「いい機体だな」

刹那が僅かに反応する。

「乗りたいか」

「乗りたい」

即答。

スメラギが少し離れた席から言った。

「駄目よ」

「まだ何も頼んでないだろ」

「今頼もうとしたでしょう?」

「……まあな」

「駄目」

「分かった」

意外なほど素直に引く。

刹那がレイナスを見る。

「なら、俺と戦え」

食堂が静かになる。

レイナスはゆっくり刹那を見る。

「まだその話続いてたのか」

「お前の力を確認する」

「他に確認方法あるだろ」

「戦えば分かる」

「お前、そこだけ妙に頑固だな」

「レイナス」

スメラギが低い声を出す。

「俺に言うな。誘ってるのは刹那だろ」

「受けそうな顔してるからよ」

「…………」

否定できない。

少し興味はある。

エクシアが相手なら。

なおさら。

「顔に出てたか」

「かなり」

クリスが笑う。

「MSのことになると分かりやすいよね」

レイナスはため息をついた。

「歳取ると隠すのも面倒になるんだよ」

ティエリア。

「また年齢の話か」

「別に信じなくていいって」

その時。

ブリッジから警告音。

続いて。

艦内通信。

『スメラギさん、入って』

空気が変わった。

クリスがすぐ立つ。

フェルトも席を離れる。

先ほどまで笑っていた者たちの表情が切り替わる。

レイナスはそれを見る。

この船の日常。

そして。

その裏側にある戦場。

スメラギが立った。

「全員、ブリッジへ」

マイスターたちも動く。

レイナスは座ったまま。

一瞬だけ彼らを見る。

スメラギが振り返った。

「レイナス」

「俺もか?」

「来て」

レイナスは残っていた食事を見る。

「……タイミング悪いな」

ラッセが笑う。

「残しとけ。後で食える」

「ならいい」

立ち上がる。

          ◇

プトレマイオス・ブリッジ

大型モニター。

各国のニュース。

軍事情報。

新たな紛争。

ソレスタルビーイングの武力介入を受け。

世界は既に動き始めていた。

ガンダムへ対抗するため。

各国は戦力を増強し。

情報を集め。

そして。

利用できるものは利用しようとしている。

レイナスはブリッジ後方に立っていた。

クリスが情報を整理する。

フェルトが関連データを展開。

ラッセとリヒティもそれぞれの席につく。

スメラギは中央で画面を見る。

もう。

先ほどの食堂の空気はない。

「……これが普段のアンタらか」

スメラギが振り返る。

「幻滅した?」

「逆だな」

レイナスはモニターを見る。

「やっと中に入った気がする」

世界各地で動く軍。

武力介入。

それに対抗しようとする国家。

人間。

組織。

思惑。

これまで。

レイナスはその外から見ていた。

少し手伝う。

必要なら戦う。

それだけだった。

だが。

今は違う。

プトレマイオスの中にいる。

その中心で。

ソレスタルビーイングが何を見て。

何を考え。

何を選ぶのか。

それを見ることができる。

スメラギがレイナスを見る。

「怖くなったなら、今からでも地上へ戻れるわよ」

「そりゃ魅力的な提案だな」

「そう?」

「地上なら飯屋もあるし、買い物にも行ける」

クリスが振り返る。

「そこ?」

「重要だろ」

少し笑う。

そして。

レイナスはもう一度モニターを見た。

「ただ――」

声の調子が変わる。

「ここまで来て、入口だけ見て帰るのも格好悪い」

スメラギが黙る。

レイナスは肩をすくめた。

「どうせ乗りかかった船だ」

一拍。

プトレマイオスの床を軽く踏む。

「……今度は比喩でもないしな」

クリスが吹き出した。

ラッセも笑う。

スメラギは呆れたように。

だが。

少しだけ笑っていた。

「それじゃあ、付き合ってもらうわよ」

「ああ」

レイナスは地球を見る。

「しばらく見せてもらう」

青い星。

そのどこかで。

次の戦いが始まろうとしている。

レイナスはまだ。

ソレスタルビーイングが正しいとは思っていない。

武力による戦争根絶という理念を。

全面的に信じてもいない。

それでも。

ここから先は。

遠くから眺めているだけでは分からない。

なら。

近くで見る。

必要なら手を出す。

間違っていると思えば。

その時に考える。

百年以上。

いくつもの世界を渡ってきた男は。

また一つ。

自分から居場所を選んだ。

そして――

プトレマイオスは次なる武力介入へ向けて動き始める。

ここから。

世界は再び。

本来の歴史へと流れ始める。

その流れの中に。

本来なら存在しない男を乗せたまま。

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