第103話 失敗
プトレマイオス2・展望区画
月が、遠く宇宙の闇に浮かんでいた。
ヴェーダへ続く手掛かり。
まだ場所を特定したわけではないが、いくつもの情報が月の裏側を指し始めている。
王留美は窓の向こうを眺めながら口を開いた。
「アニューさんの件は、ひとまず収まりましたね」
「目の前の火事は消えた、くらいに考えた方がいいだろうな」
レイナスは壁に背を預けていた。
「リボンズとの繋がりが完全に切れた保証はない。ティエリアが調べてるけど、本人も知らなかった仕組みだ。今日明日で取扱説明書が出てくるような話じゃないよ」
「ですが、レイナスさんは干渉そのものを止めた」
「今回はな。次も同じ手で通るとは限らないさ」
留美が横目で見る。
「随分と慎重ですのね」
「未知の仕組みに永久保証を付けるほど豪快な商売はしてないよ」
「メメントモリの砲撃を受け止めた方のお言葉とは思えませんわ」
「そこを一緒にされると困るな」
レイナスは苦笑した。
「あれは現場でやるしかなかった。分からないものを分かった顔で扱うのとは話が違うだろ?」
「なるほど」
「それに――」
レイナスも月を見る。
「向こうには、こっちがアニューへの干渉を止めたのが伝わってる。月を嗅ぎ回ってるのまで割れてたら、そろそろ苦情の一つも来る頃だろ」
「苦情、ですか?」
「穏便に通信一本で済ませてくれる相手なら助かるんだけどな。どう見ても実力行使が社風だろ、あいつら」
留美が小さく笑う。
「では、襲撃を?」
「来ないでくれとは思ってるよ。こっちは新しい機体がまだ骨組みだ。代車で客先対応なんて、できればやりたくない」
「GN-X IIIを気に入っているように見えましたが?」
「悪くはないさ。素直で扱いやすい。量産機としてはよくできてる」
一拍。
「だからって、自分の機体が工事中のまま働きたいわけじゃないよ」
「それは失礼しました」
「まあ、向こうの会議が長引いてくれるのを期待しよう。決裁印が一個足りないとか、担当者が休みとか」
「リボンズ・アルマークが、そのような理由で出撃を延期するとは思えませんけれど」
「俺も言ってて無理があると思った」
その瞬間。
艦内に警報が響いた。
二人が同時に顔を上げる。
『戦闘警報! 複数のGN粒子反応を確認!』
レイナスは数秒、天井を見た。
「……仕事が早いな」
「先ほどの希望は?」
「即日却下されたらしい」
壁から背を離す。
「留美はブリッジへ」
「レイナスさんは?」
「代車で出勤してくるよ」
◇
プトレマイオス2・ブリッジ
「敵影確認!」
フェルトが索敵情報をメインモニターへ送る。
「ガデッサ一機、ガラッゾ二機! さらに大型機が接近!」
クリスティナが映像を拡大した。
「何これ……モビルアーマー?」
これまで交戦したイノベイターの機体。
その中央を、見慣れない大型機が進んでいる。
エンプラス。
「前回とは編成が違う」
ティエリアが画面を見据える。
「戦力を増強してきたか」
アニューもブリッジ後方から映像を見ていた。
重要システムへのアクセス権は、まだ制限されたまま。
それでも敵機を見た瞬間、表情が強張った。
「アニュー?」
スメラギが気づく。
「声は……聞こえません」
胸元へ手を当てる。
「でも、知っているような感覚があります。あの人たちを……」
「無理に思い出そうとしなくていいわ」
スメラギはすぐに戦況へ視線を戻した。
「今は自分の状態だけ見ていて」
「……はい」
そこへ留美が入ってくる。
「予想以上に早かったようですわね」
「ええ」
スメラギは敵編成を見る。
「アニューの件だけじゃない。私たちが月へ近づいていることも警戒している可能性がある」
敵機が散開した。
「全機、迎撃準備!」
◇
プトレマイオス2・格納庫
GN-X IIIのコクピットへ身体を滑り込ませる。
レイナスがシステムを立ち上げると、イアンから通信が入った。
『レイナス!』
「聞こえてるよ」
『アルティオールは出せんぞ!』
「見れば分かるって。まだ外装すら揃ってないだろ」
『だからGN-X IIIを大事に使え!』
「俺に言うより敵に言ってくれないか?」
『お前にも言っとるんだ!』
「イアン」
『何だ!』
「普通に喋れ」
『……お前にも言ってるんだ!』
「了解。できるだけ修理伝票を増やさない方向でやってみるよ」
『絶対に壊すなとは言わん! 無茶な使い方をするなと言ってる!』
「要求仕様がだいぶ現実的になったな」
『誰のせいだ!』
通信の向こうで怒鳴るイアンに苦笑する。
隣では00ガンダムとオーライザー。
ケルディム。
アリオス。
セラヴィー。
GNアーチャー。
次々と出撃準備が進んでいた。
そして。
もう一機。
黒と赤を基調とした鋭い機体がカタパルトへ移動してくる。
マスラオ。
『私も出る』
グラハムだった。
「今回は見学じゃないのか?」
『招かれざる客がここまで来たのだ。客人として座して見ているわけにもいくまい』
「律儀なことで」
『それに、君たちだけで戦うというのも気に入らん』
「そっちが本音だろ」
『否定はせん!』
「元気だなあ……」
レイナスは操縦桿を握り直す。
『君こそ私の獲物を横取りするなよ』
「仕事中に予約票を増やすなって。今の俺は代車なんだぞ」
『機体が変わった程度で君が大人しくなるとは思えんが?』
「……そこまで信用ないか、俺」
『実績を見ているだけだ!』
「はいはい。耳が痛いね」
カタパルトが開く。
「レイナス・レノアーク、GN-X III――出る!」
◇
プトレマイオス2周辺宙域
戦端は一瞬で開かれた。
リヴァイヴ・リバイバルのガデッサが長距離砲撃を放つ。
00ライザーが軌道を変え、粒子ビームがその横を抜けた。
セラヴィーが反撃。
アリオスとGNアーチャーは左右へ分かれ、ヒリングのガラッゾを挟み込む。
ケルディムの狙撃が敵の進路を削っていく。
そして。
マスラオが戦場を横断した。
「速い……!」
アレルヤの声。
グラハムは迷うことなくブリング・スタビティのガラッゾへ斬りかかる。
『その機体! 私が相手をしよう!』
『何だ、この男は!』
ビームサーベルとGNビームクローが激突。
火花のようにGN粒子が散った。
レイナスはその光景を横目にGN-X IIIを旋回させる。
「初出勤から飛ばしてるな、あいつ」
『レイナス、前!』
フェルトの警告。
「見えてる!」
大型機。
エンプラスが動いた。
複数の攻撃端末が射出される。
「新型か」
一つをかわす。
二つ目。
三つ目。
「動きが――」
ワイヤー状の兵装が急激に軌道を変えた。
GN-X IIIの脚部へ絡みつく。
「しまっ――」
次の瞬間。
凄まじい電流が機体を走った。
「っ! 電撃か! 血流が良くなりそうだ!」
コクピット内に火花が散る。
計器が一斉に乱れた。
だが。
レイナス自身にはほとんど影響がない。
《アニマ》が身体を巡り、電撃による負荷を押さえ込んでいる。
『レイナス!?』
「俺は平気だ!」
表示を見る。
出力低下。
姿勢制御異常。
一部システム停止。
レイナスが顔をしかめた。
「……俺じゃなくて機体の血流が止まりそうだな。イアンに何て説明すりゃいいんだ、これ」
エンプラスのコクピット。
ディヴァイン・ノヴァが僅かに目を見開く。
「電撃が効いていない?」
人体を行動不能にするには十分すぎる出力。
それを受けてなお。
敵パイロットは会話を続けている。
「これが……レイナス・レノアーク」
◇
「動きが止まった!」
リヴァイヴは好機を逃さなかった。
ガデッサが急加速。
エンプラスに拘束されたGN-X IIIへ接近し、その胴体を掴む。
『捕らえた!』
「……そう来るか」
『抵抗は無意味だ、レイナス・レノアーク』
通信が開く。
『君にはリボンズが興味を持っている。機体ごと来てもらう』
「そりゃ光栄だ」
レイナスは計器を見る。
GN-X IIIはまともに動かない。
そのままガデッサに牽引され始める。
「でも悪いな。今日は面接の予定を入れてないんだ」
シートベルトを外す。
『何を――』
「機体が動かないなら、別の手を使うだけだよ」
コクピットハッチを開いた。
宇宙。
そのまま外へ飛び出す。
《アニマ》が全身を包む。
身体の周囲に空気を保持し。
生身の人間が宇宙空間へ立つ。
「なっ――!」
リヴァイヴが息を呑む。
「報告にはあったが、本当に……!」
「なら、そっちを借りる!」
GN-X IIIの装甲を蹴る。
《アニマ》で足場を形成。
一気にガデッサへ。
「何!?」
腕部へ着地。
そのまま機体表面を走る。
リヴァイヴが意図を察した。
「まさか、ガデッサを奪う気か!?」
「今のより調子良さそうだからな!」
《アニマソード》。
青白い刃がコクピット周辺を走る。
装甲とロック機構だけを切断。
ハッチが開いた。
「貴様!」
リヴァイヴが拳銃を向ける。
レイナスは銃身を横から弾いた。
そのまま腕を掴む。
「悪いな」
「ぐっ!」
「ちょっと席を貸してくれ」
リヴァイヴをコクピットから引きずり出す。
《アニマスフィア》が身体を包んだ。
「何を――!」
「そこで待っててくれ。すぐ済む」
「待て!」
レイナスはガデッサのコクピットへ滑り込む。
シートへ座る。
操縦系へ目を走らせた。
「さて……」
明らかにGN-X IIIとは違う。
高性能機らしい情報量。
思わず口元が緩む。
「いいな、これ」
手を伸ばす。
「初イノベイター機。ちょっと試運転を――」
画面が切り替わった。
BIOMETRIC AUTHENTICATION
「……ん?」
認証失敗。
もう一度。
拒否。
「おい」
再認証。
やはり拒否。
「……生体認証?」
『当然だ!』
外からリヴァイヴが叫ぶ。
『ガデッサは認証なしでは起動できない!』
「そういう大事な仕様は機体の外に書いといてくれよ」
『貴様が勝手に奪ったんだろう!』
「そこは否定しないけどな」
もう一度操作。
拒否。
レイナスはシートへ背を預けた。
「ここまで来て入場拒否かよ。席まで取ったんだぞ」
『私の席だ!』
「細かいな」
『細かくない!』
レイナスは操縦席から立ち上がった。
「現地で発覚する仕様変更が一番困るんだよ……」
『仕様変更ではない! 最初からだ!』
「じゃあ事前資料不足だな」
『お前に渡す資料などあるか!』
「それもそうか」
コクピットから外へ出る。
「仕方ない。足がないなら自分で働くよ」
『……何?』
レイナスは宇宙へ身体を投げ出した。
◇
プトレマイオス2・ブリッジ
クリスティナが呆然とモニターを見ていた。
「……ねえ」
「何?」
フェルトが答える。
「今、レイナス……ガデッサ奪ったよね?」
「うん」
「動いてないけど」
「生体認証みたい」
スメラギが額を押さえた。
「だから言ったのよ……」
留美は口元へ手を添えている。
「残念でしたわね」
「留美?」
「レイナスさんです。随分と乗りたそうでしたから」
「慰めなくていいわよ!」
◇
戦闘宙域
青白い光が宇宙を走る。
レイナスは《アニマ》で足場を作り、加速。
エンプラスが即座に反応した。
「来る!」
ビーム。
レイナスは身体を捻って回避。
続いて電撃端末。
《アニマソード》。
青白い刃がワイヤーを切断した。
「二回目は遠慮するよ!」
さらに加速。
エンプラス正面。
ディヴァインがGNフィールドを展開する。
「止めろ!」
レイナスの拳がGNフィールドへ叩き込まれた。
衝撃。
巨大なエンプラスが揺れる。
「っ!?」
「硬いな!」
一度離れる。
今度は両手を前へ。
《アニマブラスト》。
青白い奔流がGNフィールドへ直撃する。
フィールドが激しく明滅した。
「出力低下!?」
「もう一発――」
『レイナス!』
刹那。
00ライザーが横から飛び込んでくる。
『一人で落とすな!』
「別に競争してないって!」
00ライザーのGNソードIIIがエンプラスを斬りつける。
大型機が大きく後退した。
◇
別方向。
マスラオとブリングのガラッゾが高速で交錯する。
『面白い!』
グラハムの声が響く。
『その性能、実に興味深い!』
「何なんだ、この男は!」
ガラッゾが距離を取る。
マスラオが追う。
推力が跳ね上がった。
一閃。
ガラッゾの腕部装甲が裂ける。
「速い!」
『まだだ!』
グラハムがさらに踏み込もうとしたところで、スメラギの声が飛ぶ。
『グラハム! 深追いしないで!』
『承知した!』
マスラオが即座に進路を変える。
レイナスが通信を聞いていた。
「意外と素直だな」
『私は作戦行動中の指示を無視するほど無粋ではない!』
「普段の印象との落差がすごいな」
『何か言ったか!?』
「戦闘に集中しろ!」
◇
ヒリングのガラッゾが急に進路を変えた。
向かう先。
プトレマイオス2。
「アニューを回収する!」
だが。
その前へケルディムが滑り込む。
『悪いな』
ライルの声。
『そっちは通行止めだ』
狙撃。
ヒリングが急回避。
『邪魔をするな!』
「するに決まってんだろ!」
ケルディムがGNビームピストルを抜く。
距離を詰めた。
◇
プトレマイオス2・ブリッジ
「ケルディム、ガラッゾと交戦!」
フェルトの報告。
アニューはモニターを見つめていた。
「ライル……」
自分を取り戻そうとしている。
だが。
頭の中は静かなまま。
あの声は聞こえない。
アニューは胸元へ置いていた手を下ろした。
「私は……戻らない」
留美が彼女を見る。
「ここに残るって、自分で決めたから」
その声に迷いはなかった。
◇
戦闘宙域
エンプラスの電撃端末が一斉に展開された。
狙いはレイナスだけではない。
00ライザーまでまとめて捕らえる軌道。
「刹那!」
『分かっている!』
00ライザーが回避。
だが、端末が四方から迫る。
レイナスが両手を広げた。
複数の《アニマスフィア》。
一斉射出。
電撃端末へ直撃。
爆発。
開いた空間へ00ライザーが飛び込む。
『TRANS-AM!』
赤い光。
00ライザーが加速する。
ディヴァインが追う。
「そこだ!」
攻撃。
直撃する。
はずだった。
00ライザーの姿が揺らぎ。
消失した。
「何!?」
量子化。
機体そのものがGN粒子へ溶けるように消え。
次の瞬間。
エンプラスの背後へ出現する。
『そこだ!』
GNソードIII。
GNフィールドが大きく切り裂かれた。
「フィールドが!」
正面。
レイナス。
「前も空いてるぞ!」
《アニマブラスト》。
青白い光がエンプラスへ直撃。
装甲が吹き飛ぶ。
「ぐあっ!」
大型MAが大きく傾く。
ディヴァインが姿勢を立て直す。
だが。
そこへセラヴィーの砲撃。
さらにケルディムの狙撃。
戦線が一気に崩れた。
◇
リボンズの声が各機へ届く。
『撤退して』
『もう?』
ヒリングが不満そうに返す。
『十分なデータは取れた』
00ライザーの量子化。
レイナスの生身での戦闘。
マスラオ。
そして。
アニューの奪還失敗。
何より。
リヴァイヴのガデッサを失った。
『ディヴァイン、エンプラスは?』
「戦闘継続は可能だ。だがGNフィールド発生器と電撃端末に損傷」
『撤退を』
「了解」
ヒリングとブリングも後退を開始する。
グラハムが反応した。
『逃がすか!』
『追撃禁止!』
スメラギの声。
マスラオが止まる。
『……承知した』
レイナスも追わなかった。
「俺たちの仕事は艦を守るところまでだ。帰り道まで面倒見る必要はないさ」
敵機が距離を取っていく。
エンプラス。
二機のガラッゾ。
やがて。
GN粒子の光が宇宙の闇へ消えていった。
◇
「……終わったか」
戦場に静けさが戻る。
レイナスは宇宙空間に浮かびながら周囲を見る。
電撃で停止したGN-X III。
そして。
無人のガデッサ。
さらに。
《アニマスフィア》の中でこちらを睨んでいるリヴァイヴ。
『レイナス』
スメラギから通信。
「聞こえてる」
『GN-X IIIを回収するわ。あなたも戻ってきて』
「ああ」
レイナスがガデッサを見る。
数秒。
「ついでに、こいつも頼む」
『……何を?』
「ガデッサ」
沈黙。
『動かないんでしょう?』
「俺にはな」
『じゃあ何に使うのよ!』
「解析できるだろ」
ガデッサの装甲を軽く叩く。
「イノベイターの機体がほぼ無傷で一機だぞ。生体認証も含めて調べられる。ここに置いて帰る方が後で怒られると思うけどな」
『誰に?』
「俺が俺に」
『聞くんじゃなかったわ』
「それにイアンなら――」
『解除できるかも、とか考えてないでしょうね?』
沈黙。
『レイナス?』
「……解析してから考えよう」
『考えなくていい!』
◇
プトレマイオス2・格納庫
最初に回収されたのはGN-X IIIだった。
電撃によって制御系の一部が損傷している。
イアンが端末を見て顔をしかめた。
「派手にやられたな」
「先に言っとくけど、今回は俺じゃないぞ」
レイナスが答える。
「敵の電撃だ。俺は普通に乗ってただけ」
「珍しいな」
「その感想が最初に出る時点で、俺の職場環境にも問題があると思うんだよ」
「お前が作った環境だ!」
「労災申請は通らなそうだな」
「当たり前だ!」
そして。
格納庫の入口に巨大な影が現れる。
ガデッサ。
曳航され。
ゆっくりと内部へ運び込まれてくる。
イアンは何も言わなかった。
ただ。
格納庫を見渡した。
00ガンダム。
オーライザー。
ケルディム。
アリオス。
セラヴィー。
GNアーチャー。
マスラオ。
GN-X III。
もう一機のGN-X III。
そしてレイナスが今回乗っていたGN-X III。
アヘッドスマルトロン。
建造途中のガンダムアルティオール。
そこへ。
ガデッサ。
沈黙が続いた。
「……レイナス」
「何だよ、その静かな呼び方。怒鳴られるより怖いんだけど」
「置く場所がない」
レイナスも格納庫を見渡した。
右を見る。
左を見る。
上を見る。
もう一度ガデッサを見る。
「……詰めれば何とかならないか?」
「ならん!」
「だよなあ……」
「誰のせいだと思ってる!」
「半分くらい俺かな」
「ほぼお前だ!」
「いや、待て待て」
レイナスは指を折り始めた。
「マスラオはグラハムのだろ。アルティオールは元からここの機体。00もケルディムもアリオスもセラヴィーも俺には関係ない。そこまで俺の責任に入れられると割合計算がおかしくなる」
「そういう話をしてるんじゃない!」
「分かってるよ。ただ責任範囲は明確にしとかないと、後から全部こっちに回されるだろ?」
「お前が持ってきた機体の話だ!」
イアンが格納庫を指差す。
「GN-X III! アヘッドスマルトロン! またGN-X III! そして今度はガデッサ!」
「GN-X IIIを三機まとめて俺の案件にするのはちょっと乱暴じゃないか?」
「少なくとも増える原因の中心にはお前がいる!」
「そこまで言われると反論材料が薄いな……」
レイナスは頭を掻いた。
「でもガデッサは捨てるには惜しいだろ?」
「……」
イアンが黙る。
レイナスは逃さなかった。
「敵の新型がほぼ無傷。推進系も武装も制御系も残ってる。生体認証まで付いてる。技術屋としては気になるんじゃないか?」
「それは……」
「ほら」
「だからって持って帰ってくるな!」
「どっちなんだよ」
少し離れた場所。
マスラオから降りたグラハムが腕を組んでいた。
「必要ならマスラオを艦外へ係留しても構わんぞ」
「やめろ」
レイナスが即答した。
「今度は駐機場の話まで始まる。格納庫会議だけで今日が終わるぞ」
グラハムは周囲を見渡した。
「しかし、壮観ではあるな」
「他人事だと思って楽しんでるだろ」
「否定はせん」
「だろうな」
レイナスも改めて格納庫を見る。
さすがに多い。
本来のガンダム群だけでも相応の場所を使う。
そこへ鹵獲機。
マスラオ。
建造中のアルティオール。
さらにガデッサ。
通路や整備スペースまで考えれば、余裕などほとんど残っていない。
「まさか敵より先に床面積が戦力の上限になるとはな……」
「誰がそうした!」
「分かったって。俺も反省してるよ」
「本当か?」
「次から持って帰る前に置き場を確認する」
「持って帰らないという選択肢を覚えろ!」
「それは現物を見てから判断させてくれ」
「レイナス!」
怒声が格納庫に響いた。
レイナスは肩を竦める。
その視線は。
いつの間にかガデッサへ戻っていた。
「しかし生体認証か……」
「触るなよ」
「まだ何もしてないだろ」
「その目はもう何かする奴の目だ!」
「いやいや。純粋な技術的興味だよ」
「お前の場合、その興味がコクピットに座るところまで直結するんだ!」
「そこまで行ったら試したくなるのが人情だろ?」
「ならん!」
「厳しい職場だなあ……」
「誰のせいだ!」
再びイアンの怒声。
その向こうで。
新たに加わったガデッサが、静かに格納庫へ固定されていく。
乗れるかどうかは別として。
プトレマイオス2の格納庫は。
そろそろ本気で限界だった。