第110話 計画外の存在
西暦2312年――月・裏側宙域
白い機体の背から、六基の大型フィンファングが離れた。
《RE.NEW GUNDAM》
リ・ニューガンダム。
Oガンダムの面影を色濃く残しながら、その姿はまるで違う。
背部の片側だけに装備された六基の大型フィンファングが扇状に展開し、白い機体のシルエットを大きく崩している。
『さあ、始めようか』
リボンズの声と同時に。
六基が散った。
「来る!」
レイナスが操縦桿を倒す。
次の瞬間。
六方向からビーム。
アルティオールが急上昇する。
二条が下を抜け。
一条が正面。
機体を捻る。
残る三条。
「左推進――」
《アニマ》を集中。
アルティオールが横へ弾けた。
ビームが装甲のすぐ脇を通過する。
だが。
ファングは止まらない。
アルティオールを包囲するように軌道を変えた。
「でかい割に随分器用だな」
『フィンファングは単なる遠隔兵器ではない』
リボンズが答える。
六基のうち二基がリ・ニューガンダムの前へ戻る。
展開。
GN粒子による防御面が形成された。
残る四基が攻撃を継続する。
『攻撃、防御、包囲。僕の意思だけで、そのすべてを同時に行える』
「説明どうも」
アルティオールが急旋回。
追ってきたフィンファングへ射撃。
だが、かわされた。
「……そこまで親切に仕様を教えてくれるなら、弱点も頼む」
『君なら自分で探せるだろう?』
「そりゃ残念だ」
レイナスの目が細くなる。
「現場で図面起こすところからか」
青白い光が強まった。
◇
二機が激突するより先に。
別の戦場も動いた。
『散開しろ!』
ティエリアの声。
ガラッゾが突っ込む。
その一機をケルディムが迎え撃った。
『お前の相手は私よ、ロックオン・ストラトス!』
「ご指名とはありがたいね!」
ヒリング・ケア。
ガラッゾのGNビームクローが伸びる。
ライルはケルディムを後退させながらライフルを連射した。
遠距離から削る。
だがヒリングは射線を読み、強引に距離を詰めてくる。
「近接戦がお好みか!」
『君みたいな狙撃屋は、近づけば終わりでしょ!』
「決めつけが早いぜ!」
ケルディムのGNピストルIIが抜かれた。
◇
別方向。
アリオスの前に、もう一機のガラッゾ。
「アレルヤ!」
『分かってる、マリー!』
GNアーチャーが離れる。
ブリング・スタビティのガラッゾがアリオスへ突進した。
『排除する』
「君たちの言うことは、いつもそれだ!」
アリオスが変形。
高速ですれ違う。
ガラッゾのクローが翼端を掠めた。
即座に再変形。
ビームサーベル。
刃と爪がぶつかる。
「人間を導くと言いながら!」
アレルヤが押し返す。
「君たちは人間の声を聞こうともしない!」
◇
セラヴィー。
その前に。
大型のエンプラス。
『ヴェーダへは行かせない』
ディヴァイン・ノヴァ。
ティエリアの表情が険しくなる。
「僕の前でヴェーダを語るな」
エンプラスから放たれた電撃兵器が広がった。
セラヴィーが急停止。
軌道を変更する。
「ヴェーダは!」
四門のGNキャノンが展開。
「リボンズだけのものではない!」
砲撃。
エンプラスがかわす。
二機は巨大構造物へ近づきながら交戦を始めた。
◇
そして。
スサノオ。
グラハムの視線が、一機のガンダムを捉えた。
赤。
異様に長い四肢。
見覚えのない機体。
だが。
そこから聞こえた声には覚えがあった。
『ハッ! 面白えのがいるじゃねえか!』
グラハムの表情が変わる。
「その声……」
『あぁ?』
「アリー・アル・サーシェス」
一瞬。
サーシェスが黙った。
そして。
笑う。
『俺を知ってんのか!』
「資料でな」
スサノオが《シラヌイ》と《ウンリュウ》を構える。
「貴様については、少々調べさせてもらった」
『そいつぁ光栄だ!』
アルケーガンダムがGNバスターソードを抜く。
『なら――楽しもうぜぇ!』
二機が正面から激突した。
◇
00ライザー。
刹那の前には。
見たことのない機体。
ガデッサに近い。
だが。
シルエットはさらに鋭く、背部には大型のGN粒子制御ユニット。
砲撃戦だけではない。
高機動戦を前提とした構成。
リヴァイヴ・リバイバル専用機。
《ガディレウス》。
『純粋種』
リヴァイヴが呟く。
刹那の瞳は。
まだ淡く黄金に輝いている。
『君が……本当に?』
「リヴァイヴ・リバイバル」
『僕の名を覚えていたか』
「お前のガデッサは、俺たちの艦にある」
リヴァイヴの眉が動いた。
『……僕のガデッサだ』
「知っている」
『なら返してもらおう!』
ガディレウスが加速した。
GNビームが連続して放たれる。
刹那には。
射撃より先に。
リヴァイヴの意思が触れた。
右。
00ライザーが動く。
ビームが通過。
左。
かわす。
上。
機体を沈める。
『なっ……!』
リヴァイヴの目が見開かれる。
「見える……」
違う。
目で追っているのではない。
感じている。
敵意。
焦り。
次に何をしようとしているのか。
刹那の黄金の瞳が輝きを増す。
「お前の声が」
『僕の脳量子波を……読むというのか!?』
00ライザーが。
ガディレウスの射線を抜けた。
◇
各所で。
戦場が分かれていく。
そして。
その中央。
青白い光と。
六つの光が激突した。
◇
アルティオールが加速。
四基のフィンファングが追う。
一基目。
ビーム。
回避。
二基目。
射線が重なる。
「防御」
《アニマ》が左腕へ集中。
《アニマスフィア》。
青白い障壁がビームを受け流す。
三基目。
背後。
レイナスは機体を回転。
射撃。
ファングがかわす。
「速いな」
四基目が正面。
だが。
今度は避けなかった。
アルティオールが突っ込む。
『何を――』
フィンファングの砲口が光る。
その直前。
「そこだ」
《アニマソード》。
青白い刃が伸びた。
すれ違いざま。
大型フィンファングの先端が切断された。
爆発。
一基。
『……!』
「まず一つ」
アルティオールが反転する。
「数が多い装備ってのは便利だが、減れば減っただけ仕事が増える」
『一基落とした程度で』
「一基落とせたなら、残りも壊せる」
レイナスは淡々と答えた。
「六基全部に別々の弱点があるってんなら話は別だけどな」
リボンズの表情が僅かに険しくなる。
五基。
そのうち二基がリ・ニューガンダムへ戻る。
防御。
三基が攻撃。
「もう変えたか」
『君は観察しすぎる』
「初見の機械を相手にするなら普通だろ」
レイナスは正面のリ・ニューガンダムを見る。
「仕様書がないなら、動いてるところを見るしかない」
リ・ニューガンダム自身が動いた。
速い。
ファングだけではない。
本体も高い機動力を持っている。
ビームサーベル。
アルティオールが受ける。
衝撃。
レイナスの身体がシートへ押しつけられる。
「っ!」
『君のことは調べた』
刃が押し込まれる。
『百年以上を生き、異なる世界を渡り歩いた人間』
「随分熱心だな」
『君は僕の計画には存在しない』
「そりゃそうだろ」
アルティオールの右腕へ《アニマ》が集中する。
押し返す。
「俺だってこっちに来る予定なんかなかった」
『だからこそ!』
リ・ニューガンダムの蹴り。
アルティオールが吹き飛ぶ。
そこへ。
三基のフィンファング。
「っ!」
ビーム。
一発。
二発。
回避。
三発目が左肩を掠めた。
装甲が弾ける。
警告。
「初傷か」
『余裕だね』
「新品なんだ。もう少し綺麗に使いたかった」
レイナスは左肩の状態を見る。
可動に問題なし。
「帰ったらイアンに小言一件追加だな」
『帰れると思っているのかい?』
「帰る予定で来てる」
レイナスの声から。
軽さが消えた。
「こっちにも、その後の予定があるんでね」
アルティオールが突進する。
◇
リ・ニューガンダムの攻撃。
速い。
正確。
フィンファングとの連携にも隙がない。
それでも。
レイナスは少しずつ距離を詰めていた。
五基。
その位置。
本体。
防御に戻る二基。
攻撃に回る三基。
切り替えの瞬間。
「……そこか」
レイナスが呟く。
『何?』
一基が防御へ戻る。
その瞬間。
アルティオールが急加速。
フィンファングの横を抜ける。
リボンズが反応。
残る二基を戻す。
だが。
「遅い」
《アニマブラスト》。
青白い光が放たれた。
戻ろうとした一基へ直撃。
爆発。
二基目。
リボンズが回避させる。
その隙。
アルティオールは。
本体の懐へ入っていた。
『くっ!』
リ・ニューガンダムがサーベル。
アルティオールも刃を抜く。
激突。
二機が高速で切り結ぶ。
一撃。
二撃。
三撃。
リボンズも強い。
機体性能だけではない。
ヴェーダから得られる情報。
膨大な戦闘データ。
人間を超える反応速度。
『理解できない』
リボンズが言う。
『君ほどの力を持ちながら、なぜ人間と同じ場所に立とうとする?』
「同じ場所?」
『君は彼らとは違う』
六基あったフィンファング。
残る四基が。
再びアルティオールを囲む。
『寿命も』
一基。
『能力も』
二基。
『存在そのものも』
三基。
『君は人間を導く側に立てる』
四基。
全方位。
「……」
『僕と同じように』
レイナスが。
小さく息を吐いた。
「そこまで話がずれると、訂正するのも面倒だな」
『何?』
「俺は百年以上生きてる」
アルティオールの青白い光が増す。
「MSを素手で壊せる」
さらに。
「宇宙にも生身で出られる」
《アニマ》が。
機体全体を巡り始める。
「まあ、普通じゃないって話なら否定はしない」
リボンズが見つめる。
レイナスは。
操縦桿を握った。
「だからって、他人の人生まで俺が決めていい理由にはならないだろ」
六基。
否。
残る四基のフィンファングが。
同時に砲口を向ける。
「人を導きたいなら、まず本人に聞け」
『愚かな』
「かもな」
レイナスが笑った。
「でも百年以上これでやってる。今さら生き方まで仕様変更する気はない」
光が。
爆発的に膨れ上がった。
「《オーバーライズ》」
青白い閃光。
アルティオールが。
姿を消した。
『何――!?』
四基のフィンファングが一斉射撃。
だが。
そこにはもういない。
右。
リボンズが反応。
一基を向ける。
切断。
左。
二基目。
爆発。
背後。
三基目。
《アニマソード》が貫く。
最後の一基を。
リ・ニューガンダムの前へ。
防御へ戻す。
「そこ!」
フィンファングが障壁を形成。
青白い刃。
衝突。
障壁が耐える。
『無駄だ!』
「そうでもない」
レイナスの目が。
本体を捉える。
アルティオールの左手。
《アニマスフィア》。
青白い球体が。
防御へ集中したフィンファングの脇を抜ける。
『しまっ――』
リ・ニューガンダムの右肩へ直撃。
爆発。
機体が流れる。
アルティオールが追う。
最後のフィンファング。
切断。
六基。
全損。
左右非対称だったリ・ニューガンダムの背部から。
翼が消えた。
「これで」
レイナスが加速する。
「一対一だ」
◇
『調子に乗るな!』
リボンズの声が。
初めて荒れた。
リ・ニューガンダムが突っ込む。
ビームサーベル。
アルティオール。
《アニマソード》。
白。
青白。
二つの光が激突する。
巨大構造物を背に。
何度も。
何度も。
二機が交差した。
アルティオールの装甲が削れる。
右脚。
左肩。
腰部。
リ・ニューガンダムも。
胸部。
左腕。
背部。
互いに損傷が増える。
それでも。
レイナスの表情は変わらない。
一方。
リボンズには。
焦りが生まれていた。
ヴェーダから。
戦闘データは来る。
予測もできる。
だが。
レイナスは。
予測の外側へ動く。
機体の性能ではない。
ヴェーダが知らない。
《アニマ》。
百年以上に及ぶ経験。
そして。
何より。
その場で見て。
考えて。
対応を変える。
『なぜだ……!』
リボンズの斬撃。
回避。
「何が?」
『なぜヴェーダで君を捉えきれない!』
「知らんよ」
レイナスが踏み込む。
「機械に俺の人生全部説明するほど暇じゃなかったんだろ」
刃。
リ・ニューガンダムのサーベルを弾く。
「俺だって昔のこと全部覚えてるわけじゃない」
『ふざけるな!』
「ふざけてないさ」
レイナスの目が鋭くなる。
「そろそろ終わらせる」
アルティオールの全身へ。
《アニマ》が流れる。
以前のアステリオンなら。
ここから機体全体へ一気に力を流した。
今は違う。
脚部。
推進。
フレーム。
右腕。
刃。
順番に。
必要な場所へ。
必要な瞬間だけ。
スサノオから得た制御技術。
イアンとリンダが作り上げた新しい器。
そして。
レイナス自身の《アニマ》。
三つが噛み合う。
「行くぞ、アルティオール」
機体が。
応えるように加速した。
リボンズが迎撃。
サーベル。
レイナスがかわす。
懐。
『レイナス・レノアーク!』
「リボンズ!」
《アニマソード》。
一閃。
リ・ニューガンダムの右腕が飛ぶ。
反転。
左脚。
二撃目。
切断。
それでもリボンズが残った腕を振るう。
アルティオールが掴む。
「終わりだ」
『僕が――』
青白い光が。
アルティオールの右腕へ集中する。
『僕が、人類を導く存在だ!』
「そういう役職は」
レイナスの瞳が。
リボンズを真っ直ぐ捉えた。
「誰かに頼まれてから名乗れ」
《アニマブラスト》。
零距離。
青白い光が。
リ・ニューガンダムの胸部を貫いた。
白い機体が。
内側から爆発する。
アルティオールが離脱。
直後。
RE.NEW GUNDAMが。
巨大な光へ変わった。
◇
戦場の一角で。
爆発が広がる。
00ライザーの刹那が。
振り返った。
「リボンズ……」
ティエリアも。
その反応を捉える。
「撃破した……?」
アルティオール。
装甲の各所に損傷。
左肩。
右脚。
腰部。
《オーバーライズ》を解除。
青白い光が薄れていく。
レイナスは。
消えていく爆発を見ていた。
「……」
反応。
ない。
機体は完全に消えた。
「終わった――」
言いかけて。
止まる。
何か。
引っ掛かる。
そして。
ティエリアが叫んだ。
『違う!』
「ティエリア?」
『ヴェーダだ!』
セラヴィーの中。
ティエリアの顔から血の気が引いている。
『ヴェーダの掌握権が変わっていない!』
「……何?」
『リボンズのアクセスが――』
ティエリアが息を呑む。
『消えていない!』
◇
巨大構造物・深部
暗闇。
一つの端末が起動する。
続いて。
二つ。
三つ。
ヴェーダの巨大な演算領域を。
情報が走る。
肉体。
記憶。
人格。
リボンズ・アルマーク。
その情報が。
別の器へ流れ込んでいく。
閉じられていた瞼が。
開いた。
「……まったく」
リボンズは。
新しい身体で。
ゆっくりと起き上がる。
「本当に厄介な男だ」
正面。
格納庫の隔壁が開く。
その奥。
一機のモビルスーツが。
静かに立っていた。
赤と白。
二つの顔を持つ異形のガンダム。
リボンズが見上げる。
「だが」
その口元に。
再び笑みが戻る。
「ヴェーダが僕のものである限り――」
赤い瞳が。
灯った。
「僕は終わらない」
CB-0000G/C
REBORN GUNDAM
リボーンズガンダム。
第二の戦いが。
始まろうとしていた。