第111話 譲れない相手
西暦2312年――月・裏側宙域
RE.NEW GUNDAMの爆発が消えていく。
その中心に。
もうリボンズ・アルマークの反応はなかった。
だが――。
『ヴェーダの掌握権が変わっていない!』
ティエリアの声が戦場へ響く。
『リボンズのアクセスも消えていない!』
アルティオールのコクピット。
レイナスは損傷表示から目を上げた。
「……なるほど」
左肩部装甲損傷。
右脚部推進器出力低下。
腰部フレームにも警告。
各部の冷却系にも負荷が蓄積している。
新造されたばかりのアルティオールは、初陣とは思えない姿になっていた。
「本体を壊しただけじゃ、元栓は閉まらないってわけか」
その時。
巨大構造物の一角から。
強烈なGN粒子反応。
「またか」
装甲が開く。
その奥から。
赤と白のモビルスーツが姿を現した。
刹那が息を呑む。
黄金に輝く瞳が、その中にいる存在を捉える。
「リボンズ……!」
『その通りだよ』
通信。
聞き覚えのある声。
つい先ほど。
確かに倒したはずの男。
『少々驚かされたよ、レイナス・レノアーク』
新たな機体が宇宙へ出る。
『まさかRE.NEW GUNDAMを失うとは思わなかった』
レイナスが機体を向けた。
「俺も驚いてるよ」
『何?』
「新しい機体で出直してくるとは思わなかった」
00ライザーがGNソードIIIを構える。
刹那の声が響いた。
「また新しいガンダムか!」
リボンズが笑う。
『そうとも』
赤と白の機体。
その瞳が輝く。
『この機体こそ――人類を導くガンダムだ!』
「違う!」
刹那の黄金の瞳が強く輝いた。
「人類は、お前に導かれなくても変わる!」
『純粋種になった程度で、人類を理解したつもりかい?』
「俺一人じゃない!」
00ライザーからGN粒子が広がる。
「俺たちは、自分たちで変わっていく!」
リボンズの表情が僅かに歪んだ。
だが。
その視線が。
先に向いたのは刹那ではなかった。
『その前に』
リボーンズガンダムが武器を構える。
照準。
アルティオール。
『計画外の存在を処理しておこう』
「俺か」
レイナスは損傷表示を見る。
「随分根に持つな」
『君は危険すぎる』
砲口へ光が集まる。
『ヴェーダにも予測できない存在を、このまま残しておく理由はない』
「本人の前でそこまで言われると、ちょっと傷つくな」
『レイナス!』
刹那が動こうとする。
だが。
それより先だった。
リボーンズガンダムとアルティオールの間へ。
一機のモビルスーツが割り込んだ。
「何?」
レイナスが目を細める。
見覚えのない機体。
だが。
通信から聞こえた声には。
嫌というほど覚えがあった。
『リボンズ!』
「……ああ」
レイナスが納得する。
『ここは僕にお任せください!』
ガディレウス。
リヴァイヴ・リバイバル。
『こいつだけは――僕が倒します!』
一瞬。
戦場に妙な間が生まれた。
「……」
レイナスはガディレウスを見る。
「ガデッサの人か」
『僕のガデッサだ!』
「覚えてるって」
『だったら名前も覚えろ!』
「リヴァイヴだろ」
『覚えてるじゃないか!』
「前に名乗ってただろ」
リヴァイヴが言葉を詰まらせる。
リボンズは。
そんな二人を無言で見ていた。
やがて。
『……いいだろう』
リボーンズガンダムが武器を下ろす。
『そこまで言うなら、君に任せるよ。リヴァイヴ』
『ありがとうございます!』
『ただし』
リボンズの声が冷える。
『今度は機体を奪われないことだ』
『……!』
レイナスが小さく息を吐いた。
「そこは上司にも突かれるのか」
『誰のせいだと思っている!』
「俺だろうな」
否定する材料がない。
『今度は違う!』
ガディレウスが武器を構える。
『あの時のガデッサとは違う!』
「そりゃ見れば分かる」
『このガディレウスは、君を倒すための戦闘データも反映されている!』
「なるほど」
レイナスの目が。
機体を追う。
「専用の対策品まで用意されたか」
口元が僅かに上がった。
「そこまでされたら、期待には応えないとな」
『その余裕を後悔させてやる!』
ガディレウスが加速した。
◇
リボンズの視線が。
00ライザーへ移る。
『さて』
「リボンズ」
刹那が正面へ出る。
『君には僕が相手をしよう』
00ライザー。
リボーンズガンダム。
二機が向き合う。
『見せてもらおうか』
リボンズが告げる。
『イオリアが望んだという、人類の変革を』
「俺はイオリアのために変わったんじゃない」
刹那の黄金の瞳が輝く。
「俺自身が――変わると決めた!」
二機が同時に加速した。
◇
その横。
ガディレウスがアルティオールへ迫る。
速い。
RE.NEW GUNDAMとは違う。
ファングによる包囲ではない。
機体そのものの加速と、遠距離砲撃を組み合わせた高速戦。
一射。
レイナスがかわす。
二射目。
右へ。
だが。
「っ」
右脚部の推進器が遅れた。
ビームが脚部装甲を掠める。
警告表示。
『どうした!』
ガディレウスがさらに接近。
『さっきまでの動きができていないぞ!』
「見ての通りだ」
アルティオールが刃を受ける。
衝撃。
「こっちは一仕事終えたばっかりなんでね!」
押し返す。
だが。
右腕の出力が落ちる。
ガディレウスが回転。
蹴り。
アルティオールが吹き飛ばされた。
『RE.NEW GUNDAMとの戦闘で消耗している!』
「そりゃそうだ」
姿勢制御。
遅い。
『その状態で僕に勝てると思うな!』
連続砲撃。
一発。
二発。
三発。
アルティオールがかわす。
四発目。
左肩へ直撃。
装甲が吹き飛ぶ。
「っ……!」
『レイナス!』
フェルト。
「聞こえてる」
『機体の損傷が――』
「こっちでも見えてる」
表示は。
随分と賑やかになっている。
「新品だったんだけどな……」
『今それ言う!?』
「初日でここまで壊したら、さすがに言いたくもなるさ」
だが。
声とは裏腹に。
レイナスの目はガディレウスから離れていない。
リヴァイヴは強い。
前のガデッサより。
明確に。
機体も。
パイロットも。
こちらを研究している。
『今度こそ!』
ガディレウスが急接近。
『僕の勝ちだ!』
刃。
アルティオールが受ける。
フレームから警告。
右腕。
限界。
レイナスは。
操縦桿を握ったまま。
一瞬だけ目を閉じた。
「……参ったな」
『諦めたか!』
「逆だよ」
目を開く。
「まだ使ってない機能が残ってるのを思い出した」
『何?』
アルティオールのシステムを呼び出す。
そこに。
一つの項目。
イアン。
リンダ。
グラハム。
スサノオ。
マスラオから積み重ねられたトランザム運用データ。
その制御技術は。
《オーバーライズ》だけのために使われたわけではない。
アルティオール自身にも。
太陽炉の限界出力を引き出すシステムが組み込まれている。
「できれば新品のうちは、もう少し慣らしてから使いたかったんだが」
『何を言っている?』
「現場じゃ予定通りにいかないのが普通だ」
レイナスの指が。
スイッチへ触れる。
「イアン」
『……聞こえてる』
「使うぞ」
沈黙。
数秒。
『機体はもうボロボロだ!』
「だから使う」
『保証できんぞ!』
「元から保証書の範囲外みたいな乗り方してるだろ」
『自覚あるなら直せ!』
「帰ったらな」
イアンが息を呑む。
そして。
『……絶対帰ってこい!』
レイナスの表情から。
笑みが消えた。
「ああ」
スイッチ。
「TRANS-AM」
アルティオールが。
赤く染まった。
◇
『なっ――!?』
リヴァイヴが目を見開く。
赤いGN粒子。
だが。
それだけではない。
レイナスの身体から。
青白い《アニマ》が溢れる。
赤。
青白。
二つの光。
「《オーバーライズ》」
青白い光が。
赤いトランザムの輝きへ重なった。
アルティオールが震える。
損傷したフレーム。
破損した装甲。
出力の落ちた推進器。
そのすべてを。
《アニマ》が強引に補強する。
トランザムによって引き上げられた機体出力を。
《オーバーライズ》が受け止め。
必要な場所へ流す。
イアンが設計し。
リンダが組み上げ。
スサノオの制御技術を取り込み。
レイナスの力を前提として完成した機体。
その真価。
赤い粒子の中を。
青白い光が脈打つ。
リヴァイヴが息を呑む。
『トランザムと……あの力を同時に!?』
「俺も初めてだ」
『何!?』
「だから」
レイナスが操縦桿を握る。
「動作確認に付き合ってくれ」
『ふざけるなぁぁぁ!』
ガディレウスが最大出力。
アルティオールも。
消えた。
二機が激突する。
先ほどまでとは。
速度が違う。
『くっ!?』
ガディレウスの斬撃。
アルティオールがかわす。
右脚部は壊れている。
だが。
《アニマ》が補強。
トランザムの推力が押し切る。
「一つ」
レイナスが斬る。
ガディレウスの左肩装甲が飛ぶ。
『まだだ!』
砲撃。
アルティオールが反転。
「二つ」
砲身。
切断。
『僕は――!』
ガディレウスが突っ込む。
『君に負けるわけにはいかない!』
レイナスは。
その声を聞いた。
今度は笑わなかった。
「そうだな」
真正面。
「俺も負けられない」
互いに。
帰る場所がある。
譲れない理由がある。
なら。
後は。
戦って決めるだけだ。
ガディレウス。
アルティオール。
二機が。
最後の加速へ入った。
赤と。
青白。
二つの光を纏ったガンダムが。
一直線に。
リヴァイヴへ向かう。
「これで――」
《アニマソード》。
青白い刃が。
トランザムの赤い残光を引く。
『レイナス・レノアーク!!』
「終わらせる!」
二機が。
交差した。