第112話 因縁
西暦2312年――月・裏側宙域
ガディレウスが爆発した。
白い閃光が広がり、やがて宇宙の闇へ消えていく。
リヴァイヴ・リバイバル。
その反応も。
完全に途絶えた。
アルティオールのコクピット。
レイナスは、しばらくその光が消えた場所を見ていた。
「……」
トランザム解除。
赤いGN粒子が薄れていく。
続いて。
「《オーバーライズ》、解除」
青白い光も消えた。
途端。
コクピットを警告音が埋め尽くす。
右脚部推進器停止。
左肩部駆動不能。
腰部フレーム限界。
右腕出力低下。
粒子制御系異常。
「……まあ、そうなるか」
『レイナス!』
フェルトの声。
『アルティオールの出力が急激に落ちてる!』
「見えてる」
『帰艦できる!?』
レイナスは表示を確認する。
推進力。
最低限。
姿勢制御。
一部生存。
「帰るだけなら何とかなる」
『本当に?』
「今からもう一戦やれって言われたら断る程度にはボロボロだ」
『やらないで!』
「やらないよ」
アルティオールを反転させる。
そこで。
レイナスは00ライザーを見る。
その向こう。
新たに姿を現した赤と白のガンダム。
リボーンズガンダム。
リボンズ・アルマークは。
まだ生きている。
だが。
今度は刹那がいる。
黄金に輝く瞳。
以前とは違う。
明らかに何かを掴み始めている。
「……頼んだぞ、刹那」
アルティオールは。
戦場の中心から離れていった。
◇
ケルディム。
その正面から。
ヒリング・ケアのガラッゾが突っ込んでくる。
『逃げてばっかりじゃ勝てないよ!』
「狙撃機相手に接近戦を仕掛けて、そりゃ随分ご機嫌だな!」
ライルは後退しながらGNピストルIIを連射する。
ヒリングはかわす。
さらに距離を詰める。
GNビームクロー。
ケルディムが受ける。
押される。
『ほら!』
「っ……!」
『この距離じゃ狙撃なんてできないでしょ!』
「まあな」
『何?』
ライルが笑った。
「だから、最初から狙撃するつもりはねえよ」
ヒリングの周囲。
複数のGNライフルビット。
戦いながら。
少しずつ配置していた。
『いつの間に――』
「兄さんみたいに、一発で全部決めるのは性に合わなくてね」
照準。
「俺は俺のやり方で――」
全砲門。
発射。
「狙い撃つ!」
十字砲火。
ガラッゾが回避する。
一発。
二発。
かわす。
三発目。
脚部。
四発目。
右腕。
姿勢が崩れる。
『こんな……!』
正面。
ケルディム。
ライルの照準が。
ガラッゾを捉えた。
引き金。
GNビームが胸部を貫く。
ガラッゾが爆発した。
ライルは。
その光を見送ることなく。
次の戦況へ視線を移した。
「次!」
◇
アリオスとガラッゾ。
高速で交差する。
ブリング・スタビティ。
無駄な言葉はない。
ただ。
確実にアレルヤを仕留めようとする。
『排除する』
「君たちは……!」
アリオスが変形。
射撃をかわす。
「いつまで同じことを繰り返す!」
再変形。
ビームサーベル。
ガラッゾのGNビームクローと衝突する。
『人類には導く者が必要だ』
「だからって!」
押し返す。
「人の未来を勝手に決めていいわけじゃない!」
ガラッゾが後退。
そこへ。
GNアーチャー。
『アレルヤ!』
「マリー!」
射撃。
ブリングがかわす。
その回避先へ。
アリオス。
『なっ――』
「僕たちは!」
刃が右腕を切断。
「自分たちで未来を選ぶ!」
ブリングが左のクローを振るう。
アリオスはさらに踏み込んだ。
「マリーと一緒に!」
一閃。
ガラッゾの胴体を。
ビームサーベルが貫いた。
アリオスが離脱。
直後。
爆発。
GNアーチャーが並ぶ。
『アレルヤ』
「大丈夫」
アレルヤは息を整える。
「行こう、マリー」
『はい』
二機が。
巨大構造物へ向き直った。
◇
セラヴィー。
エンプラス。
ディヴァイン・ノヴァが放った攻撃が、セラヴィーのGNフィールドを削る。
『ヴェーダへは行かせない』
「僕は行く」
ティエリアは。
真正面から答えた。
『ヴェーダは我々イノベイドのものだ』
「違う」
四門のGNキャノンが展開する。
「ヴェーダは誰か一人が世界を支配するための道具じゃない」
『君もヴェーダから生まれた存在だろう!』
「だからこそだ!」
砲撃。
エンプラスが回避。
ティエリアは追う。
「僕はヴェーダとのリンクを失った!」
あの時。
自分の存在意義さえ見失いかけた。
それでも。
仲間がいた。
自分で考え。
自分で選んだ。
「僕はヴェーダがなくても、僕だった!」
『人間に染まったか!』
「そうかもしれない」
ティエリアの目に。
迷いはない。
「だが、それを間違いだとは思わない!」
セラヴィー。
最大出力。
エンプラスも砲撃。
二つの光が衝突する。
押し合う。
やがて。
セラヴィーの光が。
前へ。
『な――』
「僕は!」
さらに出力。
「僕自身の意思でヴェーダへ行く!」
光が。
エンプラスを呑み込んだ。
爆発。
ティエリアは止まらない。
セラヴィーを。
巨大構造物へ向けた。
「ヴェーダ……」
その場所を。
感じる。
「待っていろ」
◇
スサノオ。
アルケーガンダム。
二機の刃が激突した。
『ハハハハッ!』
サーシェスが笑う。
『いいねぇ! てめえ、相当やるじゃねえか!』
「貴様に評価される筋合いはない!」
グラハムが《シラヌイ》を振るう。
アルケーが受ける。
《ウンリュウ》。
回避。
アルケーのGNバスターソード。
スサノオが弾く。
『何だよ! 楽しめよ!』
「断る!」
グラハムの目が鋭くなる。
「私は戦いに魅せられたことはある!」
一撃。
『だったら同類じゃねえか!』
「違う!」
二撃。
「貴様は戦いを愛しているのではない!」
三撃。
「殺すことを楽しんでいるだけだ!」
サーシェスの笑みが。
僅かに消えた。
『言ってくれるじゃねえか!』
アルケーからファング。
包囲。
グラハムは。
迷わない。
「トランザム!」
スサノオが赤く染まる。
ファング。
一基。
《シラヌイ》。
二基。
《ウンリュウ》。
三基。
蹴り飛ばす。
そのまま。
アルケーへ。
『速――』
一閃。
右腕。
切断。
返す刃。
左脚。
『てめぇぇぇ!』
アルケーが残った腕でGNバスターソードを振るう。
スサノオが潜る。
胸部。
照準。
「《トライパニッシャー》!」
至近距離。
発射。
光がアルケーの胸部を直撃した。
『ぐおおおっ!』
アルケーが吹き飛ぶ。
巨大構造物の外壁へ激突。
機体各部が爆発する。
「勝負ありだ」
だが。
グラハムのレーダー。
小さな反応。
「何?」
アルケーから。
サーシェスが脱出していた。
『こんなところで死んでたまるかよ!』
外壁に開いた。
人間用の保守区画。
その中へ。
サーシェスが消える。
「待て!」
スサノオが接近する。
だが。
入口が小さすぎる。
モビルスーツでは入れない。
さらに。
後方からガガ。
グラハムは舌打ちした。
「逃したか……!」
◇
プトレマイオス2・格納庫。
損傷したGN-X IIIから。
ニールが降りる。
「いやぁ……」
自分が乗っていた機体を見上げる。
右脚。
左肩。
推進器。
散々だった。
「これは怒られるな」
『今さらです』
ミレイナの声が艦内通信から聞こえる。
「まだ何も言ってないだろ」
『顔を見なくても分かります』
「そりゃ便利だ」
ヘルメットを外す。
その時。
格納庫内へ。
戦況報告。
『アルケーガンダム撃破』
ニールの動きが止まった。
『パイロットは脱出』
続く情報。
『巨大構造物内部へ侵入した可能性があります』
「アルケー……?」
端末を取る。
パイロット情報。
名前。
ニールの目が。
止まった。
アリー・アル・サーシェス。
笑みが消える。
遠い記憶。
家。
家族。
突然。
すべてを奪った爆発。
KPSA。
その裏にいた男。
そして。
別の記憶。
絹江。
銃声。
血。
自分自身も。
死の一歩手前まで追い込まれた。
「……サーシェス」
ニールの声が低くなる。
家族を奪ったテロへ繋がる男。
絹江を襲った男。
そして。
自分を殺しかけた男。
ずっと。
因縁は終わっていなかった。
「まだ生きてやがったか」
「ニール?」
振り返る。
絹江がいた。
彼女も。
名前を見た。
表情が変わる。
「……あの男なの?」
「ああ」
短い返事。
絹江は。
何も言わなかった。
ニールも。
すぐには動かなかった。
昔なら。
もう走り出していた。
家族の仇。
それだけで。
十分だった。
だが。
今は。
目の前に。
絹江がいる。
生きている。
自分を待っている人間がいる。
ニールは。
彼女を見る。
「行ってくる」
絹江の眉が僅かに動いた。
「……止めても?」
「悪い」
ニールは苦笑する。
「これだけは、終わらせてくる」
「復讐するため?」
ニールは。
すぐには答えなかった。
家族の顔が浮かぶ。
憎しみが消えたわけではない。
許したわけでもない。
だが。
「昔だったら、そう答えてたかもな」
絹江を見る。
「今は違う」
「……」
「生きて帰る」
その言葉に。
絹江の表情が僅かに緩む。
ニールは彼女の肩へ手を置いた。
「悪いな」
「何が?」
「待たせる」
絹江は。
その手へ自分の手を重ねた。
「だったら」
ニールを見る。
「ちゃんと帰ってきて」
「ああ」
ニールが笑った。
「今の俺には、帰る場所があるんでね」
手を離す。
武器庫へ。
拳銃。
予備弾倉。
最低限の装備。
ニールは確認する。
もう一度。
絹江を見る。
「行ってくる」
「行ってらっしゃい」
ニールは。
今度こそ歩き出した。
◇
巨大構造物・内部。
薄暗い通路。
サーシェスが。
壁に手をつきながら進んでいた。
「クソッ……」
スサノオの攻撃。
脱出時の衝撃。
身体のあちこちが痛む。
それでも。
口元には笑み。
「とんでもねえ奴ばっかりだな……!」
腰から拳銃を抜く。
弾倉。
確認。
「まあいい」
まだ。
生きている。
なら。
殺せる。
どこかで銃声。
警報。
この巨大構造物そのものが。
戦場になり始めている。
サーシェスは歩く。
その時。
足音。
止まった。
一つ。
ゆっくり。
近づいてくる。
サーシェスが銃を上げる。
「誰だ?」
返事はない。
足音。
近づく。
やがて。
通路の向こう。
一人の男が現れた。
銃。
黒い髪。
眼帯。
サーシェスが。
目を細める。
「……ああ?」
記憶を探る。
そして。
笑った。
「てめえか」
ニールは。
何も言わない。
「まだ生きてたとはなぁ、ロックオン・ストラトス」
「そっちこそ」
銃口を上げる。
「随分しぶといじゃないか」
『ハッ!』
サーシェスも構える。
「家族の仇討ちか?」
ニールの指が。
引き金へ掛かる。
「……それもある」
「なら結局、昔と同じじゃねえか!」
「違うな」
ニールの目は。
静かだった。
「昔の俺は、お前を殺すことしか見えてなかった」
サーシェスの笑みが。
僅かに薄れる。
「今は違う」
ニールは。
絹江の顔を思い出す。
「お前との因縁を終わらせて――」
照準。
「俺は帰る」
二人の銃口が。
真正面から向き合う。
サーシェスが笑った。
「やってみろよ!」
銃声。
二つ。
巨大構造物の通路に。
同時に響いた。