機動戦士ガンダムOOR   作:ミスト12523

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第114話 声

第114話 声

西暦2312年――外宇宙航行艦《ソレスタルビーイング》・ヴェーダ中枢区画

ヴェーダ。

その巨大な演算領域を前に。

ティエリアは目を閉じた。

意識を接続する。

瞬間。

膨大な情報が流れ込んできた。

「っ……!」

遮断。

拒絶。

幾重にも重ねられたアクセス権限。

その中心に。

リボンズ・アルマークがいる。

『無駄だよ、ティエリア』

声が響いた。

ティエリアが目を開く。

姿はない。

だが。

ヴェーダを通じて。

確かにそこにいる。

『君のアクセス権限は僕より下だ』

「……」

『君がどれだけ人間の真似事を覚えようと、ここでは何の意味もない』

「人間の真似事、か」

ティエリアは。

静かにヴェーダを見上げた。

「以前の僕なら、そう言われて動揺したかもしれない」

『以前?』

「ヴェーダから切り離された時、僕は自分の存在意義を失ったと思った」

仲間たち。

失敗。

後悔。

そして。

それでも自分を受け入れた人々。

「だが違った」

ティエリアは。

再び接続を試みる。

「僕はヴェーダの端末じゃない」

拒絶。

それでも。

手を伸ばす。

「僕は僕だ」

『精神論でアクセス権限は変わらないよ』

「その通りだ」

ティエリアの横。

リジェネが端末へ手を置いた。

「だから僕がいる」

『……リジェネ』

リボンズの声が。

僅かに低くなる。

「君は僕を自由に動かせているつもりだった」

リジェネは笑う。

「けれど」

端末を操作する。

「僕にも考える頭くらいはある」

『僕を裏切るのかい?』

「違うよ、リボンズ」

リジェネの表情から。

笑みが消えた。

「最初から君の所有物だった覚えはない」

複数の認証経路が開く。

ティエリアの前に。

新たな接続経路。

「ティエリア!」

「分かっている!」

二人の意識が。

ヴェーダへ。

深く。

潜っていった。

          ◇

外宇宙航行艦《ソレスタルビーイング》周辺宙域。

00ライザー。

リボーンズガンダム。

激突。

GNソードIIIとビームサーベル。

火花の代わりに。

GN粒子が飛び散る。

『何度言えば分かる!』

リボンズが叫ぶ。

『人間は自分たちだけでは変われない!』

「それを決めるのはお前じゃない!」

刹那が押し返す。

リボーンズガンダムが離脱。

変形。

砲撃。

00ライザーが急旋回。

一発。

二発。

三発。

かわす。

だが。

四発目。

左肩。

装甲が弾ける。

「くっ!」

『刹那!』

ラッセの声。

「まだだ!」

00ライザーが再加速。

距離を詰める。

リボーンズガンダムが再変形。

二機。

再び接近戦。

刃。

刃。

刃。

互いに譲らない。

だが。

刹那には。

聞こえていた。

リボンズの声だけではない。

周囲で戦う兵士たち。

恐怖。

怒り。

迷い。

死にたくない。

帰りたい。

敵が憎い。

撃たなければ撃たれる。

無数の思考が。

流れ込んでくる。

「……っ」

多すぎる。

それでも。

刹那は拒まない。

聞く。

聞き続ける。

その中に。

知っている声。

『パトリック! 突出するな!』

『分かってますよ大佐!』

カティ。

パトリック。

『各機、ガガを艦へ近づけるな!』

セルゲイ。

別の場所。

『スメラギさん、右舷から敵機!』

フェルト。

『迎撃します!』

クリスティナ。

さらに。

アレルヤ。

マリー。

ライル。

グラハム。

そして。

プトレマイオス2へ戻ろうとしている。

レイナス。

皆。

違う。

考えていることも。

生き方も。

望んでいる未来も。

同じではない。

それでも。

今。

同じ場所で戦っている。

「これが……」

刹那の瞳。

黄金の光が。

強くなる。

          ◇

プトレマイオス2・格納庫。

アルティオールが。

ようやく着艦した。

固定アームが機体を掴む。

「固定確認!」

「粒子供給停止!」

「右脚には近づくな! フレームが死んでるぞ!」

整備員の声。

コクピットが開く。

レイナスは。

シートに身体を預けたまま。

一度だけ息を吐いた。

「……派手にやったな」

外へ出る。

イアンが待っていた。

アルティオールを見る。

レイナスを見る。

もう一度。

アルティオールを見る。

「……」

「先に言っとく」

レイナスはヘルメットを外した。

「ちゃんと帰ってきた」

「機体の話をしてる」

「俺も含めて機体だろ」

「含めるな」

イアンが端末を見る。

眉間に皺。

「右脚推進器全損。左肩駆動系全損。腰部フレーム限界超過。粒子制御系も焼けかけてる」

「動いたから問題ない」

「それを問題ありと言うんだ」

「現場じゃよくある話だ」

「宇宙でやるな」

レイナスは。

苦笑した。

その時。

表情が変わる。

「……?」

胸の奥。

何かが触れた。

《アニマ》ではない。

脳量子波でもない。

だが。

どこか。

似ている。

「刹那……?」

          ◇

ヴェーダ中枢。

『やめろ』

リボンズの声。

先ほどまでの余裕が。

消え始めている。

『リジェネ!』

「嫌だね」

『誰のおかげで――』

「そういうところだよ」

リジェネは。

冷たく返した。

「君はいつも、自分が与える側だと思っている」

認証領域。

一つ。

突破。

『僕がいなければ君たちは――』

「リボンズ!」

ティエリアの声が。

ヴェーダ全域へ響く。

「僕たちは君のために存在しているんじゃない!」

二つ目。

突破。

リボンズの管理権限。

その奥。

さらに深い領域。

イオリア・シュヘンベルグが構築した。

ヴェーダ本来のシステム。

ティエリアは。

そこへ手を伸ばす。

『触るな!』

「ヴェーダは!」

三つ目。

「君のものじゃない!」

接続。

その瞬間。

リボンズの支配下にあった情報領域が。

一斉に揺らいだ。

          ◇

『何!?』

リボーンズガンダムの動きが。

一瞬。

止まった。

「!」

刹那は見逃さない。

GNソードIII。

振り抜く。

リボーンズガンダムの左腕が飛ぶ。

『ティエリア……!』

リボンズには分かった。

ヴェーダへの接続。

何かが。

崩されている。

『余計なことを!』

「リボンズ!」

刹那が迫る。

『邪魔をするな!』

リボーンズガンダム。

砲撃。

00ライザーが弾かれる。

「ぐっ!」

距離。

開く。

リボンズの怒り。

刹那には。

それすら聞こえる。

焦り。

苛立ち。

そして。

その奥。

「……恐れているのか」

『何?』

「お前は」

刹那の瞳が。

リボーンズガンダムを見据える。

「人が自分で変わることを恐れている」

『僕が?』

「自分が必要なくなるから」

『黙れ!』

砲撃。

刹那が回避。

『僕は人類を導く存在だ!』

「違う!」

『僕はイオリアの計画を――』

「お前は!」

00ライザーが加速する。

「自分が上に立ちたいだけだ!」

激突。

リボーンズガンダムが。

押される。

『人間に何ができる!』

「分かり合おうとすることができる!」

『そんなものは――』

「お前はやっていない!」

刹那の声。

戦場へ。

「最初から!」

リボンズが。

言葉を失う。

ほんの一瞬。

それだけだった。

          ◇

刹那には。

聞こえている。

戦場の声。

敵。

味方。

区別なく。

誰もが。

何かを抱えている。

その声が。

自分には届く。

なら。

逆は。

刹那は。

気づく。

自分が聞くだけでは。

足りない。

「……そうか」

『刹那?』

ラッセ。

「俺だけが聞いても」

意味がない。

分かり合うとは。

一方的に理解することではない。

互いに。

知ること。

伝えること。

声を。

届かせること。

「俺が聞けるなら……」

00ライザー。

ツインドライヴ。

二つのGNドライヴが。

強く輝き始める。

『刹那!?』

ラッセが計器を見る。

『粒子生成量が上がってる!』

「ラッセ」

『何だ!』

「トランザムを使う」

『ここで!?』

「ああ」

リボーンズガンダムが。

距離を取る。

『何をするつもりだ、刹那・F・セイエイ』

刹那自身にも。

完全には分かっていない。

だが。

感じる。

00ガンダム。

オーライザー。

ツインドライヴ。

そして。

自分。

すべてが。

一つの方向へ向いている。

「俺は」

黄金の瞳。

「戦うためだけに変わったんじゃない」

手を。

操作系へ。

「聞こえるなら」

ツインドライヴ。

同期率上昇。

「今度は――」

刹那が。

トランザムを起動する。

「届ける!」

TRANS-AM

00ライザーが。

赤い光に包まれた。

だが。

いつものトランザムとは違う。

粒子量が。

止まらない。

機体を包み。

周囲へ。

さらに。

さらに。

広がっていく。

『何だ……これは!?』

リボンズ。

戦場。

カティが。

セルゲイが。

パトリックが。

グラハムが。

アレルヤが。

マリーが。

ライルが。

動きを止める。

プトレマイオス2。

スメラギ。

フェルト。

クリスティナ。

イアン。

レイナス。

そして。

外宇宙航行艦内部。

ティエリア。

リジェネ。

ニール。

絹江。

沙慈。

ルイス。

アニュー。

全員の周囲を。

淡いGN粒子が満たしていく。

声が。

聞こえる。

通信ではない。

耳からでもない。

心へ。

直接。

「……これ」

ルイスが。

胸へ手を当てる。

隣にいた沙慈も。

目を見開く。

「聞こえる……」

ルイスを見る。

言葉にしなかった。

恐怖。

後悔。

沙慈への想い。

そして。

沙慈から。

彼女へ。

届くもの。

ルイスの目から。

涙が落ちた。

「沙慈……」

「ルイス」

二人は。

ただ。

互いを見る。

          ◇

格納庫。

レイナスは。

目を閉じていた。

「……なるほどな」

イアンが。

不思議そうに見る。

「何がだ?」

レイナスは。

少しだけ笑う。

「刹那の奴」

戦場から。

無数の声。

それが。

互いへ届いている。

「ようやく使い道を見つけたらしい」

          ◇

00ライザー。

赤い光は。

やがて。

別の輝きへ変わっていく。

膨大なGN粒子。

戦場全体を。

包み込む。

刹那の黄金の瞳。

その向こう。

リボンズが。

初めて。

言葉を失っていた。

自分にも。

聞こえる。

人間たちの声。

恐怖。

怒り。

悲しみ。

希望。

愛情。

後悔。

矛盾。

無数の。

人間の声。

『やめろ……』

リボンズが呟く。

「聞け、リボンズ」

『やめろ!』

「これが」

刹那は。

リボンズへ。

そして。

戦場にいるすべての者へ。

声を届ける。

「俺たちの声だ」

純粋種として目覚めた人間。

刹那・F・セイエイ。

その力が。

ツインドライヴと共鳴し。

戦場を包み込む。

TRANS-AM BURST

光が。

月の裏側を染めた。

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