機動戦士ガンダムOOR   作:ミスト12523

115 / 130
第115話 始まりのガンダム

第115話 始まりのガンダム

西暦2312年――外宇宙航行艦《ソレスタルビーイング》・ヴェーダ中枢区画

ヴェーダの情報領域を、光が駆け抜けた。

幾重にも張り巡らされていたリボンズの管理権限。その一つ一つが切り離されていく。

『ティエリア!』

リボンズの声が響く。

先ほどまでの余裕は、もうない。

『やめろ!』

「やめない」

ティエリアはヴェーダの深層へ意識を伸ばす。

「君は長い間、ヴェーダを自分のものとして扱ってきた」

『僕にはその資格がある!』

「誰が決めた?」

『僕はイオリアの計画を――』

「違う」

ティエリアは遮った。

「君は計画を利用して、自分が人類の上に立とうとした」

『黙れ!』

最後の領域。

リボンズの管理権限が強固に残っている。

ティエリア一人では届かない。

その横。

リジェネが同じ領域へ接続する。

「ティエリア」

「分かっている」

二人の意識。

二つのアクセス経路。

リジェネが僅かに笑った。

「随分長い間、好き勝手に使ったね」

『リジェネ……!』

「返してもらうよ、リボンズ」

『僕を裏切るのか!』

「何度も言わせないでくれ」

リジェネの表情から笑みが消える。

「僕は君の所有物じゃない」

認証。

突破。

ティエリアの前から最後の障壁が消える。

「これで――」

ティエリアがヴェーダへ手を伸ばした。

「終わりだ!」

接続。

遮断。

リボンズ・アルマーク。

ヴェーダ最高管理領域より完全排除。

          ◇

月・裏側宙域。

その瞬間。

変化は戦場全域で起きた。

ガガ。

一機。

また一機。

リボンズの命令によって、自らを兵器として使い潰していた機体が動きを止める。

突撃中だった機体も。

照準を定めていた機体も。

攻撃行動を停止し、その場に静止していく。

『ガガが……』

アレルヤ。

『止まった?』

マリーも周囲を見る。

カティ艦隊。

セルゲイ率いる連邦軍。

プトレマイオス2。

誰もが突然訪れた変化を見ていた。

ヴェーダ中枢。

ティエリアは静かに答える。

「ヴェーダの制御を取り戻した」

ガガ。

その内部。

戦うことだけを命じられていたイノベイドたち。

「もう、彼らを使い潰させはしない」

          ◇

プトレマイオス2・格納庫。

大破したアルティオール。

その足元で、レイナスも戦況表示を見ていた。

赤く表示されていたガガの反応。

それが次々と非戦闘状態へ変わっていく。

「……止まったか」

イアンが端末を確認する。

「ああ」

「なら、今度こそ出番なしだな」

「最初から出す気はない」

「さっきアルティオール見ながら考えてただろ」

「見るくらいは自由だろ」

レイナスは大破した愛機を見上げる。

右脚。

左肩。

腰部。

どこを見ても、整備班が頭を抱えそうな有様だった。

「……しばらく入院だな」

「しばらくで済むと思うなよ」

「そこを何とかするのが整備班だろ」

「壊した奴が言うな」

「壊したのは向こうだ」

「最後に無茶させたのはお前だ!」

レイナスは肩を竦めた。

それ以上は言わない。

視線。

モニター。

そこでは二機のガンダムが向かい合っている。

00ライザー。

リボーンズガンダム。

レイナスの表情から軽さが消えた。

「……あとは」

イアンも同じ画面を見る。

「刹那か」

「ああ」

レイナスは静かに答えた。

「ここからは、あいつの戦いだ」

          ◇

リボーンズガンダム・コクピット。

リボンズの目が大きく見開かれていた。

ヴェーダ。

常に存在していた。

自分のもう一つの身体。

自分が失われても、再び戻ることのできる場所。

そこへ繋がらない。

『……僕を』

何度試しても拒絶される。

『僕をヴェーダから切り離した……?』

「リボンズ」

正面。

00ライザー。

GNソードIIIを構える。

刹那の瞳は黄金に輝いたまま。

「もう、お前の後ろには何もない」

『……』

「今ここにいるお前が」

刹那はリボンズを見据える。

「最後だ」

沈黙。

やがて。

リボンズが笑った。

『最後?』

その声には怒りが滲んでいた。

『ならば好都合だ』

リボーンズガンダム。

推進器、全開。

『君を倒せば!』

加速。

『僕が正しかったと証明できる!』

「違う!」

00ライザーも正面から加速する。

二機。

激突。

GNソードIII。

ビームサーベル。

刃がぶつかる。

『人間は変わらない!』

「変わる!」

『争いを繰り返す!』

「それでも!」

00ライザーが押し返す。

「俺たちは自分で選ぶ!」

リボーンズガンダムが離脱。

変形。

砲撃。

00ライザー。

回避。

一発。

二発。

三発。

四発目。

左肩。

装甲が弾ける。

「ぐっ!」

『刹那!』

ラッセ。

「まだ動く!」

00ライザーが反転。

再接近。

GNソードIII。

横薙ぎ。

リボーンズガンダムの左腕を切断する。

『っ!』

リボンズ。

即座に反撃。

ビームサーベル。

00ライザーの脇腹へ直撃。

爆発。

二機が離れる。

『どうして分からない!』

リボンズが叫ぶ。

『僕は人類より優れている!』

「……」

『僕が導くことの何が間違っている!』

刹那には聞こえていた。

声。

言葉ではない。

その奥。

焦り。

怒り。

そして。

自分が必要とされなくなることへの恐怖。

「リボンズ」

『何だ!』

「お前も」

刹那は一瞬だけ目を閉じた。

トランザムバースト。

あの時。

無数の声が互いへ届いた。

敵も。

味方も。

人間も。

イノベイドも。

そして。

リボンズにも。

「変われる」

『……』

リボンズの表情が固まる。

『僕が?』

「ああ」

『ふざけるな!』

怒声。

『僕は完成された存在だ!』

「だからだ!」

刹那の声が強くなる。

「完成したと思っているから!」

00ライザー。

残存粒子。

集中。

「お前は先へ進めない!」

『黙れぇぇぇ!』

リボーンズガンダム。

全出力。

00ライザー。

全出力。

二機が同時に加速する。

          ◇

光。

二つ。

交差。

刹那の刃がリボーンズガンダムの胸部を貫く。

同時。

リボーンズガンダムの攻撃が00ライザーを直撃。

爆発。

「ぐあっ!」

『うおおおおっ!』

二機が互いに弾かれる。

00ライザー。

制御不能。

GNソードIII、喪失。

オーライザー接続部、大破。

主制御系、停止。

リボーンズガンダム。

胸部大破。

左腕、喪失。

右脚推進器、損傷。

主兵装、停止。

戦闘継続能力は失われていた。

それでも。

右腕。

一基の推進器。

最低限の姿勢制御。

まだ死んではいない。

二機のガンダムが、ゆっくりと宇宙を漂う。

          ◇

「刹那!」

ラッセ。

「無事か!」

「……ああ」

刹那は荒い息を整える。

モニター。

警告表示。

無数。

00ライザーは、もう戦えない。

正面。

リボーンズガンダムも動かない。

「終わった……のか?」

ラッセ。

刹那は答えなかった。

黄金の瞳を閉じる。

感じる。

声。

弱い。

それでも確かに。

「……違う」

「何?」

刹那が目を開く。

「まだいる」

リボンズ。

          ◇

大破したリボーンズガンダム。

リボンズは額から流れる血を拭った。

モニターの大半は死んでいる。

ヴェーダ。

繋がらない。

兵装。

使えない。

推進系。

ほとんど死んでいる。

『僕が……』

握った拳が震える。

『この僕が……』

敗北。

その言葉を認められない。

その時。

生き残ったセンサーが、一つの反応を捉えた。

00ガンダム。

ツインドライヴ。

二基のオリジナルGNドライヴ。

リボンズの目が細くなる。

「……まだだ」

右腕。

動く。

推進器。

一基。

生きている。

「まだ、僕は終わっていない」

リボーンズガンダムが動いた。

          ◇

00ライザー。

警告。

刹那が表示を見る。

「何だ?」

『刹那!』

ラッセ。

『後ろだ!』

「!」

大破したリボーンズガンダム。

動かないはずだった機体が。

残った推進器を噴かし、00ガンダムへ迫っている。

「リボンズ!」

『返してもらうよ』

リボーンズガンダムの右腕が伸びる。

00ライザーを動かそうとする。

反応しない。

『刹那!』

ラッセがオーライザー側から制御を試みる。

だが。

間に合わない。

リボーンズガンダムの右手が、00ガンダム背部へ食い込む。

装甲。

固定機構。

力任せに破壊。

「やめろ!」

『君には』

右腕が引く。

一基。

オリジナルGNドライヴ。

『もう一基ある』

00ガンダムから。

引き抜かれた。

「リボンズ!」

リボーンズガンダムは、奪ったGNドライヴを右腕で抱え込む。

残った推進器。

噴射。

ゆっくりと。

00ライザーから離れていく。

『遂に手に入れた』

リボンズが正面を見る。

外宇宙航行艦《ソレスタルビーイング》。

『オリジナルのGNドライブを!』

大破したリボーンズガンダムが。

最後の力で。

母艦へ向かった。

          ◇

外宇宙航行艦《ソレスタルビーイング》・保管区画。

鈍い衝撃。

大破したリボーンズガンダムが、区画内へ滑り込む。

推進器。

停止。

今度こそ。

完全に沈黙した。

コクピットが開く。

リボンズが外へ出る。

その視線の先。

暗闇。

一機のモビルスーツが眠っている。

白。

簡素な機体。

ソレスタルビーイング。

その始まり。

リボンズは。

機体の前へ降りる。

見上げる。

「久しぶりだね」

Oガンダム。

かつて。

自分が操縦した機体。

クルジス。

戦場。

眼下。

炎の中から。

自分を見上げていた一人の少年。

「あの時」

リボンズは薄く笑う。

「君を生かしたのは僕だった」

大破したリボーンズガンダムの右腕。

そこに抱え込まれていたオリジナルGNドライヴ。

保管区画の作業アームが動く。

GNドライヴを保持。

Oガンダム背部へ。

移送。

接続。

固定。

システム起動。

暗かったコクピットへ光が灯る。

一つ。

また一つ。

機体各部。

正常。

GN粒子。

生成開始。

リボンズはコクピットへ乗り込む。

操縦桿を握る。

「そして今度は」

Oガンダムの瞳が光った。

「僕が君を終わらせる」

Oガンダム。

再起動。

          ◇

宇宙。

戦闘不能となった00ライザー。

刹那は遠ざかったリボンズの存在を感じていた。

追う。

そう思っても。

機体が動かない。

その時。

通信。

『刹那!』

「イアン?」

『聞こえるか!』

「ああ」

『00は?』

「戦闘不能だ」

『ドライヴは?』

「一基、リボンズに奪われた」

通信の向こう。

イアンが息を呑む。

だが。

すぐに声が戻る。

『もう一基は?』

「残っている」

数秒。

沈黙。

『……なら使える』

「何?」

『刹那』

イアンの声。

『00を捨てろ』

「イアン?」

『代わりを送る』

刹那の目が僅かに見開かれた。

「代わり?」

          ◇

プトレマイオス2・格納庫。

「急げ!」

イアンの声が響く。

整備員たちが格納庫の奥へ走る。

そこに。

一機。

長く第一線から退いていた機体がある。

00ガンダムのようなツインドライヴはない。

アルティオールのような《アニマ》対応機でもない。

新型でもない。

だが。

捨てられてはいなかった。

イアンが、その機体を見上げる。

「まさか」

小さく笑う。

「最後にお前の出番が来るとはな」

白。

青。

赤。

見慣れた一機のガンダム。

ガンダムエクシア。

整備員が叫ぶ。

「GNドライヴは!?」

「00に残ってる!」

イアンが答える。

「機体を先に出す!」

「ドライヴなしで!?」

「刹那なら向こうで換装できる!」

格納庫。

カタパルトへ。

エクシアが運ばれる。

レイナスも、その姿を見る。

「……エクシアか」

イアンが振り返る。

「何だ?」

「いや」

レイナスは少しだけ口元を緩めた。

「最後に戻るのが、あいつってのは悪くない」

イアンはエクシアへ視線を戻した。

「戻るんじゃない」

「ん?」

「刹那はもう、あの頃の刹那じゃない」

レイナスは一拍置いて。

「ああ」

今度は、それ以上何も言わなかった。

          ◇

『刹那!』

イアン。

『今から機体を送る!』

「機体?」

『受け取れ!』

プトレマイオス2。

カタパルト。

射出。

GNドライヴを持たない機体が、慣性で宇宙へ送り出される。

刹那の視界。

接近してくる。

白と青。

その姿。

見間違えるはずがない。

黄金の瞳が見開かれた。

「……エクシア」

ガンダムエクシア。

かつて。

自分と共に世界へ戦いを挑んだ機体。

ガンダムになろうとしていた、あの頃の自分。

何度も共に戦った。

傷ついた。

それでも立ち上がった。

『刹那!』

イアン。

『00に残ったドライヴをエクシアへ移せ!』

「了解」

刹那は00ガンダムのコクピットを開く。

宇宙へ。

機体を離れる。

黄金の瞳。

エクシアを見る。

「……また」

手を伸ばす。

「力を貸してくれ」

          ◇

外宇宙航行艦《ソレスタルビーイング》。

開放された区画から。

一機のガンダムが宇宙へ出る。

Oガンダム。

オリジナルGNドライヴ。

稼働。

GN粒子が白い機体の後方へ流れる。

リボンズは正面を見る。

遠く。

もう一機。

ガンダム。

「……エクシア」

リボンズはその機体を知っている。

そして。

そのパイロットも。

          ◇

二つの機体。

Oガンダム。

ガンダムエクシア。

始まりのガンダム。

そして。

刹那が最初に乗ったガンダム。

かつて。

クルジスの空。

少年だった刹那は。

Oガンダムを見上げていた。

あの機体を。

神のように。

だが。

今は違う。

刹那はもう見上げていない。

同じ宇宙で。

真正面から。

Oガンダムを見る。

黄金の瞳で。

リボンズを。

一人の存在として。

見ている。

始まりへ戻ったのではない。

ここまで歩いてきた二人が。

始まりの機体を使い。

最後に。

互いの答えをぶつける。

その時が。

近づいていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。