機動戦士ガンダムOOR   作:ミスト12523

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第14話 聖者の帰還

第14話 聖者の帰還

西暦2307年――アザディスタン王国

乾いた風が吹いていた。

太陽光発電紛争によって疲弊した国。

改革派と保守派。

新たなエネルギー政策。

宗教。

貧困。

積み重なった問題は、外から来た人間が少し眺めた程度で理解できるほど単純ではない。

街を歩きながら、レイナスは小さく息を吐いた。

「……やっぱり、こういうのは苦手だな」

隣を歩く刹那が見る。

「何がだ」

「敵が分からん」

「敵?」

「戦場なら撃ってくる奴を見れば、とりあえず誰と戦ってるかは分かる。でも、ここは違うだろ」

改革派。

保守派。

それぞれに事情がある。

誰か一人を倒せば終わる問題でもない。

「こういう場所じゃ、俺の得意分野はあまり役に立ちそうにない」

「そうでもない」

「ん?」

「戦闘になれば役に立つ」

レイナスは少し黙った。

「……褒められたと思っていいのか?」

「事実だ」

「刹那らしいな」

二人は歩き続ける。

今回、レイナスは地上任務の補助として同行していた。

当然。

専用のMSなどない。

その事実については出発前に一度だけ文句を言った。

一度だけで済んだ辺り、本人としてはかなり我慢した方だった。

          ◇

アザディスタン国内の情勢は急速に悪化していた。

改革派政府と対立する保守派。

その精神的指導者であるマスード・ラフマディーが姿を消したことで、緊張は一気に高まる。

暴動。

武力衝突。

各地で炎が上がる。

そして、その背後には意図的に争いを拡大させようとする者がいた。

アリー・アル・サーシェス。

刹那にとって、忘れることのできない男。

ソレスタルビーイングはラフマディーの所在を追った。

だが、その途中。

別の出会いが待っていた。

          ◇

アザディスタン――市街地

刹那が足を止めた。

レイナスも、その視線の先を見る。

前方。

長身。

金髪。

ユニオンの軍服。

その顔を見た瞬間、レイナスの眉が僅かに上がった。

向こうも。

ほぼ同時に気づいた。

「これは――」

グラハム・エーカー。

その口元に、楽しそうな笑みが浮かぶ。

「奇遇だな」

レイナスは数秒黙った。

「……そう来たか」

「不満かね?」

「いや。世間は狭いと思ってな」

グラハムが歩み寄る。

視線はまずレイナス。

そして隣にいる刹那へ。

再びレイナスへ戻った。

「確か君は――」

一拍。

「非政府組織の支援団体員だったかな?」

レイナスの顔が、ほんの少しだけ引きつった。

「……律儀に覚えてたか」

「印象的な自己紹介だったのでね」

「できれば、その辺は忘れてくれてもよかったんだがな」

「残念ながら、私は記憶力には自信がある」

「そいつは何よりだ」

刹那は黙ったままグラハムを見ている。

以前。

レイナスが街でグラハムと接触した件は、すでに報告を受けている。

墜落したフラッグへ勝手に乗り込み、その場をグラハムに目撃されたことも。

全部知っている。

だから今さら、二人が顔見知りであることに驚きはしなかった。

むしろ問題は。

こんな場所で再び遭遇したことだった。

グラハムの視線が僅かに鋭くなる。

「もっとも、その後は君について興味深い話を随分と聞いた」

レイナスは嫌そうな顔をする。

「……俺、そんなに有名になったのか?」

「少なくとも私の周囲では」

「嬉しくない売れ方だな」

地上。

ガンダムと共に現れ。

青白い光を使い。

生身でMSを無力化した男。

そして以前。

墜落したユニオンフラッグへ乗り込み、短時間で操縦へ適応した正体不明の男。

同一人物。

偶然で済ませるには、材料が増えすぎている。

「君の所属についても、以前より興味が増した」

「前にも言っただろ。支援団体だよ」

「非政府組織の?」

「ああ」

「なるほど」

グラハムが笑う。

まったく信じていない顔だった。

レイナスも分かっている。

「……便利な言葉だったんだけどな」

「過度に便利な言葉は、かえって疑念を招くものだ」

「勉強になったよ。次からもう少しマシなのを考える」

「次もあるのかね?」

「ないことを祈ってる」

そこでグラハムの視線が刹那へ向いた。

「そちらの少年は?」

刹那は答えない。

グラハムの目を真っ直ぐ見返すだけ。

沈黙。

レイナスも代わりに紹介することはしなかった。

グラハムは数秒待った後、僅かに笑う。

「なるほど。こちらは秘密主義らしい」

刹那は反応しない。

「愛想がなくて悪いな」

レイナスが代わりに言った。

「いや。むしろ興味深い」

「アンタ、その興味深いって言葉をもう少し安売りしない方がいいぞ」

「君に言われるとは思わなかったな」

「俺は別に興味深いを売った覚えはないんだが」

グラハムの視線が。

再び二人を捉える。

正体不明の少年。

レイナス・レノアーク。

ガンダムとの関連を疑われている男と行動を共にしている。

それだけで。

十分な情報だった。

遠くで爆発音が響く。

三人が同時にそちらを見る。

黒煙。

アザディスタンの混乱は、今も続いている。

グラハムの表情から笑みが消えた。

「どうやら、立ち話をしている場合ではないようだ」

「ああ」

「また会えることを期待しているよ、レイナス・レノアーク」

レイナスが少し眉を上げる。

「俺としては、次はもう少し平和な場所がいいんだがな」

「それには同意しよう」

グラハムが去る。

その背中を。

刹那とレイナスが見送った。

          ◇

しばらく歩いてから。

刹那が口を開いた。

「警戒されている」

「だろうな」

「前よりも強い」

「だろうな」

「原因はお前だ」

レイナスが刹那を見る。

「そこまで言い切るか?」

「フラッグを勝手に使った」

「返した」

「ガンダムと一緒に戦った」

「成り行きだ」

「今は俺と一緒にいる」

「……それについては悪かった」

「謝るところが違う」

「じゃあ、どこで謝れば正解なんだ?」

刹那は答えない。

レイナスは小さく笑った。

「まあ、今さら誤魔化し切れるとも思ってないよ」

「なら何故、同じ言い訳をした」

「他に思いつかなかった」

「…………」

「そういう顔するな。俺も言ってから苦しいと思った」

再び歩き出す。

少しして。

レイナスが言う。

「それにしても、相変わらず妙な男だな」

「グラハム・エーカー。ユニオンのエースだ」

「ああ、それも前に聞いたな」

「覚えていたか」

「そこまで記憶力は悪くないさ」

レイナスは、先ほどグラハムが去った方向を見る。

「実際に戦ってるところも一度見たが、腕は確かだった」

一拍。

口元が少し上がる。

「いずれ、ちゃんと相手してみたいな」

「敵だ」

「分かってるよ」

刹那がレイナスを見る。

「楽しそうだな」

「そう見えるか?」

「ああ」

レイナスは少しだけ笑った。

「……否定はしない」

          ◇

アザディスタン王宮

マリナ・イスマイール。

アザディスタン第一皇女。

彼女もまた、国を救う方法を探していた。

刹那は彼女と接触する。

クルジス。

戦争。

神。

故郷。

二人の間で交わされる言葉。

そこへ。

レイナスは入らなかった。

少し離れた場所で、壁へ背を預けて待つ。

話を終えた刹那が戻ってくる。

「終わったか?」

「ああ」

「なら行こう」

それだけ。

歩き始める。

刹那が横へ並ぶ。

「聞かないのか」

「俺に必要な話なら、お前から言うだろ」

刹那は黙る。

「違うか?」

「……いや」

「ならいい」

レイナスは前を見る。

「人の事情に首突っ込んでたら、百年あっても時間が足りない」

「百年はあるんだろ」

「……最近、そこを普通に拾われるようになったな」

          ◇

その後。

事態は急速に動いた。

ソレスタルビーイングは、拉致されたマスード・ラフマディーの所在を特定。

刹那は、その背後にいる人物と接触する。

アリー・アル・サーシェス。

過去。

刹那を戦場へ導いた男。

戦闘。

追跡。

救出。

レイナスも別方向から周辺の武装勢力を制圧した。

《アニマ》による身体強化。

銃口を向けられれば射線から外れ。

武器を破壊し。

必要な相手だけを倒す。

だが。

サーシェス本人を追うことはしなかった。

そこへ踏み込むのは、今は刹那だった。

やがて。

ラフマディーの身柄が確保される。

しかし。

問題は終わらない。

既に国内の対立は、一人を救出しただけで止められる段階ではなかった。

          ◇

アザディスタン――郊外

レイナスは遠くの炎を見ていた。

通信にはロックオン。

『どうだ、現地は』

「最悪だな」

『珍しく簡潔だな』

「何をどう殴れば終わるのか、さっぱり分からん」

『殴る前提かよ』

「俺の得意分野だからな」

レイナスは街を見る。

「でも、これは違う」

改革派を倒せばいい。

保守派を倒せばいい。

そんな話ではない。

「誰か一人をぶっ飛ばして全部解決なら、俺みたいなのでも何とかなるんだが」

『……そう簡単じゃねえな』

「ああ」

少しだけ間を置く。

「こういうのは結局、ここにいる人間が自分で決めないと終わらないんだろうな」

『俺たちが武力介入してるのにか?』

レイナスは苦笑する。

「だから難しいんだよ」

通信の向こう。

ロックオンも黙った。

レイナスは空を見る。

そこへ。

一機のガンダム。

エクシア。

          ◇

アザディスタン――市街地

エクシアが進む。

その機体に武器はない。

マスード・ラフマディーを連れ。

武装を解除し。

敵意がないことを示しながら。

街へ戻っていく。

攻撃されれば終わる。

それでも。

刹那は進む。

レイナスは離れた場所から、その姿を見ていた。

「……なるほど」

通信越しにロックオンが聞く。

『何がだ?』

「武器を捨てて前に出る、か」

自分ならどうした。

襲ってくる相手を倒す。

危険な武器を壊す。

必要なら、自分が盾になる。

だが。

最初から武器を捨てる。

それ自体を意思表示にする。

「俺には、なかなか思いつかないやり方だ」

エクシアが歩いていく。

銃口を向ける者たち。

それでも撃たない。

やがて。

ラフマディーの姿が人々の前へ戻る。

空気が変わり始めた。

すべてが解決したわけではない。

対立が消えたわけでもない。

それでも。

戦争へ向かっていた流れが僅かに変わる。

レイナスはエクシアを見る。

「……やるじゃないか、刹那」

          ◇

数日後――プトレマイオス・食堂

アザディスタンでの介入を終え。

レイナスは再び宇宙へ戻っていた。

向かいには刹那。

「刹那」

「何だ」

「アザディスタンの最後のやつ」

「何だ」

「よかったと思う」

刹那が顔を上げる。

レイナスは食事を続けたまま言う。

「俺なら、多分ああはしなかった」

「そうか」

「ああ」

それだけ。

刹那も、それ以上聞かなかった。

しばらく二人で食べる。

やがて。

レイナスが思い出したように言う。

「しかし、グラハムにはますます疑われただろうな」

「当然だ」

「即答か」

「街で接触した時点で警戒されていた。フラッグの件もある」

「そこへ今回か」

「ああ」

レイナスは箸を止めた。

「俺、あの男に会うたび状況悪化してないか?」

「している」

「……少しくらい考えてから答えてくれてもいいだろ」

「事実だ」

レイナスは少し考え。

再び食事へ戻った。

「まあいいか。どうせスメラギには全部報告することになる」

「当然だ」

「分かってるよ。今度は先に言う」

「そうしろ」

「信用を返済中だからな」

刹那が僅かに眉を動かす。

「まだ借金扱いなのか」

「本人がそう言ってる」

「そうか」

「そこは否定してくれてもいいんだぞ?」

刹那は食事を続ける。

「事実だ」

レイナスは。

しばらく黙った。

「……最近、ティエリアより厳しくないか?」

刹那は答えなかった。

ほんの僅かに。

口元だけが緩んでいた。

その頃。

世界の各地では。

ソレスタルビーイングへの対抗策が着実に積み上げられていた。

ユニオン。

人類革新連盟。

AEU。

三大国家群。

ガンダムを。

そして。

ソレスタルビーイングを倒すため。

世界が。

少しずつ動き始めていた。

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