機動戦士ガンダムOOR   作:ミスト12523

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第148話 三機のエース

第148話 三機のエース

西暦2314年――地球連邦軍第一防衛線

宇宙が光に染まった。

地球連邦軍の艦砲射撃が一斉に始まり、GN-X IVの射撃がそれに重なる。

サバーニャの無数の砲門が開き、ラファエルの火線が銀色の群れを薙ぐ。

デュナメス・ヴァリアントの一撃が大型ELSを正確に撃ち抜き、その直後にはハルートが爆光の中を駆け抜けていた。

第一波。

第二波。

次々とELSが砕けていく。

それでも――。

「冗談だろ……」

アルティオールネクストのコックピットで、レイナスがレーダーを見る。

減っている。

確かに撃破している。

なのに、正面を埋める銀色は薄くならない。

撃ち落とされた個体の向こうから、それ以上の数が押し寄せてくる。

『全軍、防衛線を維持! 突出するな!』

カティの指示が飛ぶ。

その直後だった。

ELSの動きが変わる。

無数の銀色の個体が細長く変形し、一斉に加速した。

「来るぞ!」

銀色の槍が防衛線へ殺到する。

GN-X IVの一機が回避。

別の一機が射撃。

それでも抜けたELSが、後方の巡洋艦へ向かう。

『艦を守れ!』

MS隊が割って入る。

ビームと銀色の槍が交錯し、第一防衛線は一瞬で乱戦へ変わった。

そして、その最前線。

一機のブレイヴが銀色の海へ突っ込んだ。

     ◇

「ブレイヴ隊、私に続け!」

グラハム・エーカー少佐。

指揮官用ブレイヴが変形。

高速でELSの群れを抜ける。

一体。

二体。

ライフルで撃ち抜き、機体を翻す。

背後から迫るELS。

MS形態へ変形。

抜いたGNビームサーベルが銀色の身体を両断した。

『少佐、右舷!』

「見えている!」

右から三体。

グラハムは正面から突っ込む。

最初の一体を射撃。

二体目の突進を紙一重でかわし、すれ違いざまに斬る。

三体目が背後から食らいつこうとした瞬間。

青白い光が横切った。

ELSが砕け散る。

「む?」

『予約客にここで消えられたら困る』

アルティオールネクスト。

グラハムの口元が上がった。

「レイナス・レノアーク!」

『ずいぶん楽しそうだな』

「無論!」

『こっちは残業確定で気が重いんだが』

「ならば早く片付ければよかろう!」

『その発想で現場が何度死ぬと思ってる』

アルティオールネクストがグラハムの横へ並ぶ。

その瞬間。

周囲のELSが反応した。

アルティオールネクストへ接近していた数体が、明らかに軌道を変える。

一体だけではない。

次々と左右へ避け始めた。

グラハムが目を見張る。

「聞いてはいたが……ここまでとは!」

『俺だって好きで嫌われてるわけじゃない』

二機の正面。

銀色の群れが割れる。

道ができた。

グラハムが即座に加速する。

『おい!』

「せっかく開いた道だ! 使わぬ手はない!」

『人を除雪車みたいに使うな!』

「ならば共に行こう!」

『話聞けよ!』

アルティオールネクストも加速する。

ELSがレイナスを避ける。

避けた先へグラハムが飛び込む。

GNビームサーベルが閃き、銀色の身体を断つ。

逆方向から群れが来れば、レイナスが片手を向けた。

『《アニマスフィア》』

青白い光球が十数個形成される。

一斉に飛翔。

軌道を変えながらELSを追い、次々と直撃する。

爆光が連続した。

『左!』

「承知!」

グラハムが旋回。

レイナスの死角へ回ったELSを撃ち抜く。

「右だ!」

『見えてる!』

《アニマソード》が伸びる。

一閃。

三体まとめて両断。

敵だった。

何度も刃を交えた。

そして、まだ決着すらついていない。

だからこそ。

互いが何をするか分かる。

二機は一度も進路をぶつけることなく、銀色の群れを切り裂いていった。

その時だった。

『うおおおおおおおおおっ!!』

通信に絶叫が割り込んだ。

レイナスが眉を寄せる。

『……何だ?』

「友軍だ!」

グラハムがレーダーを見る。

一機のGN-X IV。

銀色の群れに追われながら、こちらへ突っ込んでくる。

『しつこいんだよ、お前らぁぁぁ!!』

GNビームライフル連射。

一体。

二体。

三体。

背後から迫ったELSを急旋回でかわし、すれ違いざまにビームサーベルで斬り裂く。

『俺はこんなところで死ぬわけにはいかねえんだよ!』

さらに一体を蹴り飛ばす。

至近距離。

ライフル。

撃破。

『何たって俺は――幸せのコーラサワーなんだからなぁ!!』

レイナスが一瞬止まる。

『……コーラサワー?』

その声を拾ったGN-X IVが、アルティオールネクストを見る。

『ん?』

パイロットも止まる。

数秒。

『…………お前』

レイナスが首を傾げる。

『誰だ?』

『忘れてんじゃねええええええ!!』

GN-X IVがELSを撃ち落としながら接近してくる。

『俺だ! パトリック!』

『パトリック……』

『そうだ!』

『……ああ』

ようやく記憶が繋がる。

『イナクトの人』

『そうだよ!!』

パトリック・マネキン准尉。

かつてAEUのエースを自称し。

今では地球連邦軍の軍人。

そして。

カティ・マネキンの夫である。

『やっと思い出したか、このイナクト泥棒!』

『まだ言ってるのか』

『まだじゃねえ!』

ELSが一体突っ込んでくる。

パトリックが振り向きもせず撃ち抜いた。

『イナクトだけじゃねえぞ! ジンクスまで持ってっただろうが!』

レイナスが黙る。

記憶を辿る。

『……あれもお前のだったのか』

『忘れてたのかよ!?』

『現地調達が多すぎて、仕入れ先までは覚えてない』

『仕入れじゃねえ! 窃盗だ!!』

グラハムが割り込む。

「二度も機体を奪われたのか!」

『笑うなグラハム!』

「いや、笑ってはいない!」

明らかに声が弾んでいる。

『笑ってんじゃねえか!』

レイナスがELSを斬りながら言う。

『しかし名字変わったんだな』

『おう!』

パトリックの声色が一変する。

『カティと結婚したからな! 今の俺はパトリック・マネキン准尉!』

一拍。

『そして幸せのコーラサワーだ!!』

レイナスが真顔になる。

『どっちなんだよ』

『名前はマネキン! コーラサワーは魂だ!』

『面倒くせえな』

「実に君らしい!」

グラハムが笑う。

『だろ!?』

『褒められてるのか、それ』

『うるせえ!』

銀色の槍が三方向から迫る。

グラハムの声が変わった。

「マネキン准尉、上だ!」

『了解!』

パトリックが即座に上昇。

グラハムが一体を撃ち抜く。

残り二体。

レイナスの《アニマソード》が一体を斬る。

最後の一体がアルティオールネクストへ迫る。

だが直前で急激に軌道を曲げた。

『うおっ!?』

その先にはパトリック。

『何でこっち来んだよ!』

GN-X IVが身体を捻る。

ELSが横を抜ける。

パトリックはすぐさま反転し、背後から撃ち抜いた。

『おい、レイナス!』

『何だ』

『こいつらお前避けてねえか!?』

『らしい』

『らしいって何だよ!?』

『説明すると長い』

『お前、宇宙人にまで嫌われてんのか!?』

『撃つぞ』

『俺じゃなくてELS撃て!』

グラハムが高らかに笑う。

「面白い!」

『何がだよ!』

「この三機ならば、相当に面白い戦いができそうだ!」

パトリックが一瞬黙る。

『……あんた、昔からそういう奴だったな』

『同感だ』

「褒め言葉として受け取っておこう!」

『褒めてねえ!』

レイナスとパトリックの声が重なった。

     ◇

地球連邦軍・外宇宙航行艦《ソレスタルビーイング》

カティは戦況表示を見ていた。

「第一防衛線中央、ELS密度上昇!」

「ブレイヴ隊が交戦中!」

「CBのアルティオールネクスト、同宙域へ進入!」

別のオペレーターが続ける。

「パトリック・マネキン准尉も同宙域です!」

カティの視線が止まった。

モニター。

ブレイヴ。

アルティオールネクスト。

GN-X IV。

三機が、突出しすぎないギリギリの位置で銀色の群れを迎撃している。

ビリーが思わず言った。

「すごい組み合わせだね……」

ミーナがデータを見る。

「というか、あのGN-X IVのパイロット何者?」

「パトリックだよ」

「強いじゃない」

「……うん」

カティは黙っている。

GN-X IVが大型ELSの攻撃を紙一重でかわした。

「准尉機、囲まれます!」

カティの眉が僅かに動く。

だが。

次の瞬間。

パトリックは包囲の僅かな隙間へGN-X IVを滑り込ませた。

二体を同士討ちさせ、そのまま反転。

一体を撃破。

残りをグラハムとレイナスが処理する。

カティの表情が僅かに緩んだ。

「……あの男は、そう簡単には死なん」

誰に聞かせるでもない、小さな声だった。

すぐに指揮官の表情へ戻る。

「中央部隊へ通達。三機が作った空隙を利用して戦線を押し戻せ」

「了解!」

     ◇

地球連邦軍第一防衛線・中央宙域

「前方、大型反応!」

警告。

小型ELSが一点へ集まり始める。

融合。

変形。

膨張。

レイナスたちの正面で、巨大な人型が形成された。

通常のMSを遥かに超える巨体。

両腕には複数の砲口。

背部には人類側のMSを参考にしたとしか思えない大型推進器。

パトリックが叫ぶ。

『何だありゃ!?』

グラハムが機体を構える。

「我々の兵器を学習している!」

『感心してる場合か!』

巨大ELSの全身が変形する。

無数の砲口。

光。

『散れ!』

レイナスの声。

三機が別方向へ飛ぶ。

直後。

銀色の光が宇宙を薙いだ。

後方のELSすら巻き込み、遥か彼方へ消えていく。

パトリックが絶叫する。

『威力おかしいだろ!?』

『請求先が分からないのが一番困るな』

『今そこ気にすんのか!?』

「再射撃が来るぞ!」

巨大ELSが再び砲口を開く。

グラハムが真っ先に加速した。

『グラハム!』

「撃たれる前に懐へ入る!」

ブレイヴが変形。

一気に距離を詰める。

巨大ELSから無数の槍が伸びた。

右。

左。

上下。

グラハムが回避する。

だが一本が死角から迫る。

『上だ!』

パトリックの射撃が槍を弾く。

「助かった、マネキン准尉!」

『借り一つな!』

『俺には二機分あるからな!』

レイナスが言う。

『今関係ねえだろ!』

アルティオールネクストが二機を追い越す。

巨大ELSが反応した。

巨体そのものが後退する。

レイナスが目を細める。

『やっぱりお前もか』

アルティオールネクストがさらに踏み込む。

巨大ELSが距離を取ろうとする。

その動きに合わせて周囲の小型ELSまで左右へ流れた。

一瞬。

巨大ELSの周囲に空間が生まれる。

グラハムが即座に理解した。

「レイナス! そのまま前へ!」

『注文が雑だな!』

「マネキン准尉、右へ回れ!」

『俺に命令すんな!』

言いながら、パトリックは右へ飛ぶ。

「私は左から行く!」

ブレイヴが左へ。

巨大ELSがレイナスから後退する。

右。

パトリック。

左。

グラハム。

正面。

レイナス。

逃げ道が消える。

パトリックが笑った。

『へっ! 分かりやすくなったじゃねえか!』

グラハムの声が弾む。

「三方向同時攻撃!」

『仕切るの好きだな、お前』

「行くぞ!」

『聞いてねえし』

巨大ELSが全砲門を展開する。

パトリックが叫んだ。

『先に潰す!』

GN-X IVが右側面へ突撃。

射撃。

射撃。

射撃。

砲口の一つが破裂する。

『まだだぁぁぁ!!』

ビームサーベルを抜く。

銀色の腕を駆け上がるように飛び、巨大砲身を根元から斬り落とした。

「見事!」

グラハムが左側から突入する。

ブレイヴがMS形態へ変形。

二本のGNビームサーベル。

交差。

巨大ELSの左腕が切断される。

それでも再生が始まる。

周囲の小型ELSが傷口へ吸い寄せられていく。

『再生してるぞ!』

パトリックが叫ぶ。

「ならば再生を上回る!」

グラハムが再び斬る。

『力押しかよ!』

『嫌いじゃないだろ』

レイナスが言った。

『まあな!』

巨大ELSが中央のレイナスへ砲口を向ける。

だが。

撃たない。

撃てない。

近づきたくない。

逃げたい。

それでも左右から二機が追い込んでいる。

レイナスが息を吐く。

『ったく……』

アルティオールネクストの両腕へ青白い《アニマ》が集まる。

『宇宙人相手に三人がかりか。割に合わない仕事だ』

グラハムが巨大ELSから離脱する。

「レイナス!」

パトリックも察した。

『デカいの行くなら先に言え!』

GN-X IVが全速で退避。

レイナスが両手を前へ突き出す。

青白い光が一点へ収束した。

『《アニマブラスト》!!』

閃光。

巨大ELSの中央を、青白い奔流が貫いた。

表面ではない。

内部から銀色の巨体が崩れていく。

一瞬遅れて。

爆発。

巨大な銀色の塊が粉々に砕け散った。

三機が爆光の中から飛び出す。

『っしゃああああ!!』

パトリックが叫ぶ。

「見事だ!」

グラハムも笑う。

『喜ぶのはまだ早い』

レイナスだけが前を見ていた。

二人も気づく。

爆光の向こう。

さらに巨大な銀色の波。

終わりなど見えない。

パトリックが黙る。

『……これ、マジで全部相手すんのか?』

『全部倒す必要はない』

レイナスが《アニマソード》を形成する。

『後ろに通さなきゃいい』

グラハムのブレイヴが横へ並ぶ。

「そして、刹那・F・セイエイが対話へ辿り着くまで持ち堪える!」

『そういう契約だ』

パトリックのGN-X IVも並んだ。

『なるほどな』

一拍。

『だったら簡単だ!』

レイナスが横を見る。

『どこが?』

『死ななきゃいいんだろ?』

パトリックが笑っていた。

『俺を誰だと思ってる!』

GN-X IVがビームサーベルを構える。

『パトリック・マネキン准尉!』

そして。

胸を張る。

『幸せのコーラサワー様だ!!』

グラハムが笑う。

「その意気や良し!」

『お前、本当に死ぬなよ』

レイナスが言った。

パトリックが一瞬だけ黙る。

『当たり前だ』

先ほどまでとは少し違う声。

『カティを一人にできるかよ』

グラハムも静かに答える。

「私にも果たしていない約束がある」

レイナスが二人を見る。

『じゃあ話は早い』

アルティオールネクストが前へ出る。

『全員、生還。報酬はその後だ』

『俺のイナクトとジンクス代もな!』

『まだ請求するのかよ!』

『二機分だからな!!』

「ならば!」

グラハムのブレイヴが加速する。

「生きて帰って存分に精算するとしよう!」

『おう!』

『勝手に話まとめるな!』

三機が加速する。

中央。

青白い《アニマ》を纏うアルティオールネクスト。

左。

翼を広げるブレイヴ指揮官用試験機。

右。

二度も機体を持っていかれ、それでも生き残り続けてきたパトリック・マネキンのGN-X IV。

かつてユニオン。

かつてAEU。

そしてソレスタルビーイング。

所属も違った。

立場も違った。

敵として刃を交えたことさえある。

それでも今。

背負っているものは同じだった。

地球。

そこに生きる人々。

そして――帰る場所。

「グラハム・エーカー、行くぞ!」

『幸せのコーラサワー、行っくぜぇぇぇぇ!!』

『レイナス・レノアーク――残業開始だ!』

三機が同時に飛び込む。

銀色の海が迫る。

その真正面へ。

三本の光が突き刺さった。

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