機動戦士ガンダムOOR   作:ミスト12523

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第151話 真価

第151話 真価

西暦2314年――地球連邦軍第一防衛線・中央宙域

青白い刃と銀色の刃が激突した。

衝撃が周囲のELSを吹き飛ばす。

銀色のアルティオール。

人類側の戦闘を観察し、学習し、レイナスの機体を模倣した巨大ELS。

その動きは速い。

アルティオールネクストが右から《アニマソード》を振るう。

銀色の巨体が同じ軌道で刃を振るった。

激突。

レイナスが機体を沈める。

下段から斬り上げる。

銀色のアルティオールも追従。

再び刃がぶつかる。

『うわ……』

少し離れた場所でパトリックが見ていた。

『マジで真似してやがる』

「動作だけではない!」

グラハムが叫ぶ。

「反応速度まで上がっている!」

銀色のアルティオールが踏み込む。

突き。

レイナスが首を振るような最小動作で回避。

《アニマソード》を振り下ろす。

銀色の刃が受け止めた。

レイナスが舌打ちする。

『器用なもんだ』

銀色の巨体が離れる。

両腕を前へ。

再び光が集まり始めた。

パトリックが叫ぶ。

『またさっきの撃つぞ!』

『分かってる』

レイナスは動かなかった。

アルティオールネクストが宇宙空間に静止する。

グラハムが違和感に気づく。

「レイナス?」

銀色の光が膨れ上がる。

レイナスはそれを見ながら、小さく息を吐いた。

『……なるほどな』

『何がだよ!?』

『こいつらがやってることだ』

銀色のアルティオール。

その向こうの無数のELS。

さらに遥か彼方の本体。

『見たものを覚える』

刃。

砲撃。

機動。

MSの形。

人類の戦い方。

『覚えたものを組み直す』

銀色の砲口が完成する。

『便利な能力だ』

レイナスの口元が僅かに上がった。

『だが――』

アルティオールネクストの《アニマソード》が消えた。

パトリックが目を剥く。

『おい!?』

レイナスは操縦桿から片手を離す。

『一つ問題がある』

銀色の巨体が砲撃を放った。

その瞬間。

アルティオールネクストが消えた。

「何!?」

グラハムでさえ見失った。

銀色の奔流が空を切る。

直後。

巨大ELSの眼前にアルティオールネクストが現れた。

拳。

ただの拳だった。

『俺自身を――』

青白い光。

『まだ見せてない』

殴った。

銀色の巨体の頭部が消滅した。

     ◇

プトレマイオス2・ブリッジ

「…………え?」

クリスの手が止まった。

フェルトもモニターを見たまま動かない。

リヒティが呟く。

「今……何した?」

ラッセが眉を寄せる。

「見えなかったぞ」

アーミアだけが。

目を見開いていた。

「先生……」

スメラギが振り返る。

「分かる?」

アーミアは首を横に振った。

「分かりません」

即答だった。

「私が教わってる《アニマ》と……全然違う」

ティエリアから通信が入る。

『ヴェーダでも完全には追えていない』

「速度は?」

『機体の推進だけでは説明できない』

ティエリアの声にも僅かな緊張が混じる。

『アルティオールネクストの性能ではない』

アーミアがモニターを見る。

知っている。

先生は強い。

自分が教わっている《アニマ》を、遥か昔から使っている。

それでも。

今まで見ていたものは。

「……手加減してたんですか?」

スメラギが答えた。

「たぶん違うわ」

「え?」

「必要がなかったのよ」

モニターの中。

頭部を失った銀色の巨体が再生を始める。

その正面に。

アルティオールネクストが浮かんでいる。

スメラギはその姿を見つめた。

「今までは、そこまでやる必要がなかった」

     ◇

第一防衛線・中央宙域

銀色のアルティオールの頭部が再形成される。

レイナスは待っていた。

『再生もする、と』

銀色の巨体が腕を振るう。

レイナスは避けない。

拳を出す。

巨大な銀色の拳。

アルティオールネクストの拳。

大きさが違う。

質量が違う。

正面衝突。

結果。

砕けたのは銀色の腕だった。

『はぁ!?』

パトリックの声が裏返る。

グラハムが息を呑む。

「機体出力の差ではない……!」

『当たり前だ』

レイナスが答える。

『機体だけで殴り合ったら負けるよ』

『じゃあ何で勝ってんだよ!?』

『俺が乗ってるからだ』

『説明になってねえ!!』

銀色のアルティオールが後退。

崩れた腕を再生する。

レイナスは追わない。

『お前ら、俺の機体を真似した』

銀色の巨体を見る。

『動きも見た』

右手を上げる。

青白い《アニマ》が灯る。

『技も見た』

光が強くなる。

『だったら次は――』

レイナスの瞳が鋭くなる。

『俺を真似してみろ』

青白い光が爆発した。

     ◇

《オーバーライズ》。

アルティオールネクストを中心に、青白い光が広がる。

GN粒子ではない。

TRANS-AMでもない。

機体の全身が《アニマ》に包まれる。

装甲。

フレーム。

駆動系。

推進器。

そのすべてを、レイナス自身の力が外側から強引に引き上げる。

機械の限界を。

搭乗者が押し広げる。

銀色のアルティオールが動いた。

ELSが学習を始める。

形状。

動作。

出力。

エネルギー。

観測した情報を共有する。

そして。

銀色の巨体の表面が青白く輝こうとした。

一瞬。

光。

消える。

もう一度。

発光。

消失。

パトリックが気づいた。

『……できてねえ?』

グラハムも理解する。

「模倣できないのか!」

銀色のアルティオールが形を変える。

推進器を大型化。

出力を増大。

周囲のELSを取り込み、巨体そのものを強化する。

それでも。

違う。

外形を似せても。

出力を上げても。

《オーバーライズ》にはならない。

レイナスが笑った。

『そういうことだ』

銀色の巨体が突進する。

レイナスも前へ。

『機械じゃない』

正面衝突。

アルティオールネクストが銀色の胸部を貫通した。

『GN粒子でもない』

機体を反転。

背後から《アニマソード》を振るう。

巨大な銀色の身体が上下に分断される。

『見ただけじゃ分からない』

分断されたELSが再結合しようとする。

レイナスが片手を向ける。

『まして――』

無数の《アニマスフィア》が出現した。

十。

二十。

五十。

百。

パトリックが固まる。

『おい』

さらに増える。

アルティオールネクストの周囲。

青白い星々。

『ちょっと待て』

グラハムが笑った。

「素晴らしい!」

『グラハム、お前は少し黙ってろ!』

レイナスが右手を振る。

百を超える《アニマスフィア》が一斉に飛んだ。

直線ではない。

一つ一つが別のELSを追う。

曲がる。

交差する。

味方を避ける。

銀色の群れへ突入。

そして。

連鎖爆発。

宇宙が青白い光で埋まった。

     ◇

地球連邦軍・外宇宙航行艦《ソレスタルビーイング》

「中央宙域――ELS反応、急減!」

オペレーターが叫ぶ。

カティがモニターを見る。

戦域図の一角。

赤く埋め尽くされていた領域に、巨大な穴が開いている。

ビリーが言葉を失っていた。

「……何なんだ、あれは」

ミーナも解析端末を見ている。

「エネルギー源が分からない」

「GN粒子じゃない」

「分かってる。でも、それ以外が何も分からないのよ」

セルゲイが映像を見る。

青白い光。

その中央にアルティオールネクスト。

「報告書以上だな」

カティは短く答える。

「ああ」

パトリックから聞いた話。

グラハムの報告。

CBから共有された情報。

どれも。

実際に見るものとは違った。

「これが――」

カティの目が細くなる。

「レイナス・レノアークか」

     ◇

第一防衛線・中央宙域

青白い爆発が収まる。

そこに。

銀色のアルティオールはまだいた。

身体の半分以上を失いながら。

周囲のELSを取り込んで再生する。

『しぶといな』

レイナスが言う。

巨大ELSの形が変わる。

もうアルティオールを真似ていない。

刃。

砲身。

装甲。

推進器。

これまでELSが学習した人類兵器の要素を無数に組み合わせる。

巨大な異形。

レイナスを理解できない。

だから。

理解できるものだけを集める。

火力。

速度。

質量。

数。

パトリックが後退する。

『何かヤバそうなのになったぞ』

グラハムは逆に前へ出ようとする。

『お前は待て』

レイナスが止めた。

「何故だ!」

『今からちょっと危ない』

『今まで危なくなかったみたいに言うなよ!』

パトリックが叫ぶ。

レイナスは二機を見る。

『下がってろ』

「断る!」

『俺は下がる!』

グラハムとパトリックの声が同時に響いた。

一瞬。

沈黙。

『お前ら本当に正反対だな』

『死ぬよりマシだろ!』

「この機会を見逃せるものか!」

『グラハム』

「何だ!」

『予約キャンセルするぞ』

「下がろう!」

即答。

パトリックが笑う。

『効くじゃねえか!』

二機が距離を取る。

レイナスは前を向いた。

巨大ELS。

その周囲。

さらに数千のELSが集まり始めている。

銀色の塊が。

一つの巨大な壁になる。

アルティオールネクストの進路を塞ぐ。

『数で押すか』

レイナスが肩を回す。

『正しい判断だ』

《オーバーライズ》の光がさらに強くなる。

『普通ならな』

     ◇

プトレマイオス2・ブリッジ

警報。

「中央宙域にELS集中!」

フェルトが叫ぶ。

「推定三千――まだ増えます!」

クリスが声を上げる。

「レイナス一人に!?」

アーミアの銀色の右手が大きく震えた。

「嫌がってる……」

留美が振り返る。

「ELSが?」

「はい」

アーミアは息を呑む。

今までとは違う。

避けたい。

近づきたくない。

触れたくない。

それでも。

あそこを放置できない。

だから数を集める。

「怖がってる」

アーミアが呟く。

「先生を」

スメラギはモニターを見る。

「レイナス、戻って!」

返事。

『悪い』

スメラギの眉が動く。

『今戻ると、こいつら全部ついてくる』

「だからって!」

『せっかく俺一人に請求書まとめてくれてるんだ』

レイナスの声は妙に落ち着いていた。

『ここで精算する』

「レイナス!」

通信が切れる。

スメラギが舌打ちする。

留美は何も言わない。

ただ。

握った扇子に力が入っていた。

     ◇

第一防衛線・中央宙域

銀色。

前も。

上も。

下も。

左右も。

すべて。

数千のELS。

アルティオールネクスト一機を包囲する。

パトリックが遠方から叫ぶ。

『おい! マジで大丈夫なのか!?』

『大丈夫じゃなかったら逃げるよ』

『逃げられるのか!?』

『俺を誰だと思ってる』

パトリックが言葉に詰まる。

グラハムが答えた。

「レイナス・レノアークだ!」

『お前に聞いてない』

銀色の群れが一斉に動いた。

上下左右。

全方向。

逃げ場なし。

レイナスは目を閉じる。

百年以上。

数え切れないほど戦った。

宇宙でも。

地上でも。

機体でも。

生身でも。

技は増えた。

力も増した。

それでも。

根本は変わらない。

自分の身体。

自分の力。

自分で積み上げてきたもの。

目を開く。

「――来い」

ELSが殺到した。

その瞬間。

アルティオールネクストから。

青白い光が消えた。

『え?』

パトリック。

グラハムも息を呑む。

「オーバーライズを解除した?」

違う。

アーミアだけが気づいた。

プトレマイオス2で立ち上がる。

「違う……!」

光が消えたのではない。

全部。

内側へ収束した。

     ◇

レイナスが操縦桿を握る。

「《オーバーライズ》――」

一拍。

「全開」

世界が青く染まった。

爆発ではなかった。

閃光でもない。

ただ。

次の瞬間には。

包囲していたELSの中心から、一本の青白い線が伸びていた。

遅れて。

数百体が崩壊する。

アルティオールネクストは、その先にいた。

『…………は?』

パトリックの声。

さらに消える。

右。

ELSが砕ける。

左。

別の群れが消滅。

上。

下。

前。

後ろ。

アルティオールネクストが見えない。

青白い線だけが増えていく。

一本。

二本。

十。

百。

まるで宇宙に巨大な紋様を描くように。

ELSの包囲網そのものが、内側から切り刻まれていく。

グラハムが機体を止めた。

「……見えん」

初めて。

その声から昂揚が消えた。

「私にも……追えん」

パトリックが叫ぶ。

『じゃあどうやって戦うんだよ、あいつ!?』

誰も答えない。

ELSも答えられない。

観測。

共有。

模倣。

そのすべてが追いつかない。

動きを見てから共有した時には。

もう次の場所にいる。

次を予測しようとした時には。

別の攻撃が終わっている。

銀色の群れがアルティオールを模倣しようとする。

高速形態。

推進器を増やす。

質量を減らす。

加速。

遅い。

あまりにも遅い。

『違う』

レイナスの声だけが通信へ響く。

次の瞬間。

模倣体が十数体まとめて消滅した。

『速さだけじゃない』

巨大ELSが砲撃。

撃った瞬間。

砲身が消える。

『出力でもない』

別のELSが刃を作る。

完成する前に両断。

『技の形でもない』

青白い線。

また百体。

『積み上げた時間まで――』

レイナスが。

初めて視認できる位置で止まった。

アルティオールネクスト。

損傷なし。

青白い光が、静かに機体を包んでいる。

その周囲。

先ほどまで数千いたELSが。

半分以上消えていた。

『真似できると思うな』

     ◇

静寂。

ほんの一瞬。

戦場そのものが止まったように見えた。

そして。

ELSが動く。

攻撃ではない。

アルティオールネクストの周囲から。

一斉に離れ始めた。

数千のELSが。

逃げる。

パトリックが呆然とする。

『……逃げた』

グラハムも見ている。

「ELSが……」

銀色の海に。

巨大な穴が開いていく。

レイナスを中心に。

誰も近づかない。

巨大ELSすら形を崩し、複数の個体へ分裂して離脱する。

アルティオールネクストの前方。

ELS本体へ続く。

一本の空白。

レイナスはそれを見る。

そして。

ふと。

笑った。

『なるほど』

通信を開く。

『スメラギ』

     ◇

プトレマイオス2・ブリッジ

誰もすぐには返事をしなかった。

クリス。

リヒティ。

ラッセ。

フェルト。

留美。

紅龍。

全員がモニターを見ている。

アーミアに至っては口を開けたまま固まっていた。

『スメラギ?』

「あ……」

スメラギが我に返る。

「聞こえてるわ」

『道ができた』

戦域図。

本当に。

アルティオールネクストを中心にELSが退避し、銀色の海へ一本の空白が生まれている。

完全ではない。

遠方では既に埋まり始めている。

長くは持たない。

レイナスが続ける。

『こいつら、俺から逃げる』

スメラギの目が見開かれる。

意図を理解した。

「まさか……」

『刹那を出せ』

ブリッジの空気が変わる。

『俺が道を作る』

アーミアが立ち上がる。

「先生……」

『クアンタなら、この穴を使えるだろ』

スメラギが戦域図を見る。

距離。

ELS密度。

連邦軍の配置。

そして。

巨大ELS本体。

届く。

今なら。

スメラギが通信を切り替える。

「刹那!」

     ◇

ダブルオークアンタ・コックピット

「聞いている」

刹那は既に準備を終えていた。

ツインドライヴ。

正常。

量子システム。

正常。

ヴェーダ端末。

接続。

ティエリアから通信。

『僕も行く』

「ティエリア」

『量子システムとヴェーダを接続する。ELSから流れ込む情報は僕が処理する』

「頼む」

『そのためのラファエルだ』

スメラギの声。

『刹那・F・セイエイ』

「了解」

格納庫ハッチが開く。

宇宙。

銀色の戦場。

その遥か先。

青白い光。

レイナス。

刹那は操縦桿を握った。

『あなたにしかできないことをしてきて』

刹那が答える。

「俺一人じゃない」

スメラギが僅かに笑う。

『ええ』

刹那の瞳が金色に輝く。

ダブルオークアンタのカメラアイが点灯した。

「刹那・F・セイエイ」

ツインドライヴが唸る。

膨大なGN粒子。

「ダブルオークアンタ――」

カタパルトが作動する。

「出る!」

光。

クアンタが宇宙へ飛び出した。

     ◇

第一防衛線・中央宙域

グラハムがその光を見る。

「来たか!」

パトリックも振り返る。

『あれが新しいガンダムか!?』

レイナスがクアンタを見る。

その姿に。

少しだけ口元が上がる。

『いい機体じゃないか』

『先生!』

アーミアの声が入る。

『絶対、乗りたいとか言わないでくださいよ!』

『……』

『先生?』

『今は仕事中だ』

『間がありましたよね!?』

パトリックが叫ぶ。

『お前、こんな時まで他人の機体狙ってんのか!?』

『狙ってない』

『信用できるか! 俺は二回やられてんだぞ!』

グラハムが笑う。

「ならば私が証人になろう!」

『何の証人だよ!』

その向こう。

ダブルオークアンタが加速する。

レイナスの表情から笑みが消えた。

仕事は変わった。

ここから先。

自分が主役ではない。

アルティオールネクストがクアンタの前へ出る。

銀色の群れが逃げる。

道が開く。

刹那が言った。

『レイナス』

『何だ』

『俺は行く』

レイナスは前を見る。

ELS本体。

まだ遠い。

だが。

道はある。

『分かり合えるかは、まだ分からない』

『そんなもん――』

アルティオールネクストの全身に。

再び青白い光が灯る。

『行って聞いてこい』

ELSが迫る。

レイナスが《アニマソード》を構える。

『こっちは俺たちで持たせる』

グラハムのブレイヴが左へ。

パトリックのGN-X IVが右へ。

さらに。

遠方から。

サバーニャ。

デュナメス・ヴァリアント。

ハルート。

ラファエル。

ガンダムたちが集まってくる。

人類の防衛線が。

一機のガンダムのために道を作る。

レイナスが叫んだ。

『お前はお前の仕事をしてこい――刹那!』

「ああ!」

ダブルオークアンタが。

銀色の海へ突入した。

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