機動戦士ガンダムOOR   作:ミスト12523

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第153話 対話

第153話 対話

西暦2314年――ELS本体・外縁部

巨大だった。

近づけば近づくほど、その大きさという概念さえ曖昧になる。

月をも超える銀色の天体。

その表面が波打つ。

無数のELS。

一つであり。

無数でもある存在。

ダブルオークアンタが、その目前へ到達した。

「……ここか」

刹那の瞳が金色に輝く。

感じる。

先ほどまでとは比較にならない。

声ではない。

言葉でもない。

感情とも違う。

無数の情報。

記憶。

感覚。

それらが巨大な濁流となって押し寄せてくる。

「くっ……!」

一瞬。

意識が持っていかれそうになる。

だが。

以前とは違う。

『刹那』

ティエリア。

ヴェーダを介した声が届く。

『流入情報を分散する。すべてを一度に理解しようとするな』

「分かっている」

クアンタ内部。

ヴェーダ端末が高速処理を開始する。

膨大な情報を分類。

圧縮。

刹那が受け取れる形へ変換していく。

それでも。

多い。

あまりにも。

『刹那さん』

もう一つ。

アーミア。

遠い。

それでも脳量子波を通して微かに届く。

『聞こえますか?』

「ああ」

『私の右手も……すごく反応してます』

刹那は目を閉じる。

「無理をするな」

『はい』

一拍。

『でも、たぶん』

アーミアは言葉を探している。

『向こうも……どうしたらいいのか分かってないんだと思います』

刹那が銀色の天体を見る。

「俺もそう感じる」

だから。

ここまで来た。

「始める」

     ◇

ダブルオークアンタ。

GNソードビットが展開する。

だが。

攻撃ではない。

六基のビットが機体の周囲へ配置される。

ツインドライヴ。

出力上昇。

GN粒子が広がる。

『量子システム、起動』

ティエリア。

刹那が操縦桿から手を離した。

戦うためではない。

理解するために。

「QUANTUM-BURST」

クアンタが赤に……そして緑に染まった。

膨大なGN粒子が放出される。

そして。

量子システム。

起動。

緑色の光が。

宇宙へ広がった。

     ◇

第一防衛線。

「何だ……?」

パトリックが振り返る。

遠方。

巨大ELS本体。

その手前から。

光が広がっている。

グラハムもブレイヴを止めた。

「刹那か」

サバーニャ。

ライルが息を吐く。

『始めたみたいだな』

ニールのデュナメス・ヴァリアントが隣へ並ぶ。

『だったら』

ライフルを構える。

『俺たちは俺たちの仕事を続けよう』

「だな」

ELSは止まっていない。

クアンタへ向かおうとする個体。

防衛線へ向かう個体。

艦隊へ接近する個体。

まだ無数。

ライルが再び照準を合わせる。

「対話が終わるまで――」

ニールが撃つ。

一体撃破。

「邪魔はさせねえ」

二機が再び戦闘へ戻った。

     ◇

アルティオールネクスト。

警告。

右肩。

腰部。

脚部。

推進系。

レイナスは計器を見る。

『……赤字だらけだな』

イアンの声が飛ぶ。

『だから戻れと言っとるだろ!』

『まだ動く』

『動くと使えるは違う!』

『現場じゃ大体同じだ』

『同じじゃない!』

レイナスが笑う。

オーバーライズは既に解除している。

《アニマ》による機体補強だけは維持。

これ以上、機体に無茶はさせない。

だが。

戦場を離れるつもりもない。

銀色の群れが近づく。

そして。

レイナスの存在に気づいたように進路を変えた。

『……便利だな』

無理に追わない。

その動きだけで。

周囲のELSの流れが変わる。

レイナスはアルティオールネクストをゆっくり移動させる。

ELSが避ける。

その先に。

損傷した連邦軍艦。

『そっちじゃない』

さらに移動。

ELSが進路を変える。

艦から離れる。

『よし』

『何してるんだ、お前?』

パトリック。

『交通整理』

『そんな使い方ありかよ!?』

『使えるものは使う主義なんでね』

グラハムが笑う。

『君らしい!』

『もう全開は無理だからな。省エネ勤務だ』

『だったら帰れ!』

『お前に言われたくない』

赤いGN-X IV。

装甲各所に傷。

パトリックも大概だった。

『俺はまだ元気だ!』

『機体の話してんだよ』

『俺のもまだ動く!』

『さっきイアンに怒られた理屈そのままじゃねえか』

パトリックが黙った。

『……』

『お前も帰った方がいいぞ』

『嫌だ!』

即答。

『カティがまだいる!』

レイナスは少しだけ笑う。

『なら死ぬなよ』

『当たり前だ!』

     ◇

プトレマイオス2・ブリッジ

「クアンタ、量子システム展開!」

フェルト。

「ヴェーダとの接続安定!」

クリスが表示を追う。

「でも情報量が……何これ……!」

数字が跳ね続ける。

通常の通信量ではない。

比較すること自体が無意味。

ティエリアが処理。

ヴェーダが補助。

それでも。

流入量は増え続ける。

スメラギが問う。

「刹那は?」

アニューが答える。

「脳量子波、急上昇。でも生体反応は安定してる」

「前回みたいには?」

「なってない」

アニューは断言する。

「クアンタとヴェーダが効いてる」

スメラギが小さく息を吐く。

その横。

アーミアが突然、右腕を押さえた。

「っ……!」

留美が支える。

「アーミア?」

「大丈夫……です」

銀色の右手。

形は変わっていない。

だが。

震えている。

アーミアの瞳が金色に輝く。

「来る……」

スメラギが振り返る。

「何が?」

アーミアは答えない。

いや。

答えられない。

見えていた。

     ◇

暗い。

何もない。

違う。

何もないのではない。

遠い。

あまりにも遠い。

光。

星。

巨大な恒星。

その周囲。

銀色。

無数の生命。

言葉はない。

だが。

そこには確かに存在があった。

そして。

光が変わる。

恒星。

膨張。

崩壊。

白。

熱。

消えていく場所。

逃げる。

探す。

移動。

空間を越える。

長い。

長い旅。

何かを探して。

どこかを探して。

そして。

見つけた。

光。

木星。

地球。

人類。

声。

脳量子波。

近づく。

知りたい。

触れる。

触れれば分かる。

自分たちは。

ずっとそうしてきた。

触れる。

混ざる。

一つになる。

それが。

彼らにとって。

「……話すこと」

     ◇

アーミアが目を開いた。

涙が浮かんでいる。

留美が肩を支えていた。

「アーミア?」

「……違った」

「何が?」

アーミアが右手を見る。

「攻撃してたんじゃない」

スメラギの表情が変わる。

アーミアは首を振る。

「でも……」

言葉を続ける。

「だからって、私たちが死なないわけじゃない」

静寂。

その通りだった。

意図。

結果。

それは別のもの。

ELSに悪意がなくても。

接触された人間は死ぬ。

艦は取り込まれる。

都市も。

地球も。

このままでは同じ。

「刹那さん……」

アーミアは巨大ELS本体を見る。

「伝えて」

     ◇

量子空間。

刹那は立っていた。

肉体ではない。

意識。

周囲。

無数の光。

声にならない情報が押し寄せる。

――知りたい。

――触れる。

――同じになる。

――知る。

――違い。

――何故。

――何故拒む。

刹那は聞いていた。

逃げない。

拒絶しない。

だが。

飲み込まれもしない。

「俺たちは」

声。

ELSに届くかは分からない。

それでも話す。

「一つじゃない」

無数の像。

仲間。

スメラギ。

ロックオン。

アレルヤ。

ティエリア。

フェルト。

ラッセ。

クリス。

リヒティ。

イアン。

ミレイナ。

マリー。

アニュー。

王留美。

紅龍。

絹江。

沙慈。

ルイス。

グラハム。

セルゲイ。

カティ。

パトリック。

アーミア。

レイナス。

数え切れない人々。

「違う人間がいる」

考え方も。

生き方も。

願いも。

全部違う。

「だから」

刹那は前を見る。

「触れて一つになるだけじゃ、俺たちは分かり合えない」

ELSの情報が押し寄せる。

疑問。

混乱。

――違う。

――別。

――個。

刹那が答える。

「ああ」

一人。

一人。

別々。

「俺とお前も違う」

それでも。

「違うまま、知ることはできる」

光が揺れる。

刹那は手を伸ばした。

「俺は、お前になりたいんじゃない」

一歩。

「お前にも、俺になってほしいわけじゃない」

さらに一歩。

「ただ――」

金色の瞳。

「お前のことを知りたい」

     ◇

巨大ELS本体。

変化。

その表面が大きく波打った。

第一防衛線。

戦っていたELSの動きが一瞬止まる。

ライルがトリガーを止めた。

「……何だ?」

ニールも撃たない。

ハルートが減速。

アレルヤが息を呑む。

「止まった?」

『油断すんな』

ハレルヤ。

マリーが目を閉じる。

「……何かが」

脳量子波。

届く。

「変わってる」

グラハムも周囲を見る。

銀色の群れ。

攻撃しない。

ただ。

止まっている。

パトリックが呟く。

『終わった……のか?』

『まだだ』

レイナス。

アルティオールネクスト。

彼だけは巨大ELS本体を見ていた。

『刹那はまだ仕事中だ』

     ◇

量子空間。

ELSから。

新たなものが届く。

像。

星。

崩壊。

旅。

孤独。

探す。

それを。

刹那は見る。

「帰る場所を失ったのか」

反応。

強い。

無数の情報。

彼らの恒星。

滅び。

脱出。

生存。

探索。

居場所。

刹那の表情が変わる。

理解する。

すべてではない。

それでも。

一つ。

確かに分かった。

「お前たちは――」

侵略者ではない。

征服者でもない。

「助けを求めていたのか」

光。

反応。

大きい。

刹那は目を閉じる。

その時。

別の感覚。

アーミア。

遠く。

銀色の右手。

人間とELS。

既に一つの身体に存在している。

それでも。

アーミアはアーミアのまま。

刹那がその存在をELSへ見せる。

「見ろ」

少女。

右腕。

銀。

左手。

《アニマ》。

笑う。

怒る。

困る。

レイナスを先生と呼ぶ。

映画を好きになる。

自分を先輩と呼ぶ。

一人の人間。

「お前たちと共にあっても」

刹那は言う。

「彼女は彼女だ」

ELSの情報が大きく揺れる。

「一つにならなくても」

刹那は手を伸ばす。

「共に生きられる」

     ◇

プトレマイオス2。

アーミアの銀色の右手が。

止まった。

震えが消える。

「……え?」

初めてだった。

完全な静止。

怯えるでもなく。

逃げるでもなく。

ただ。

静かに。

そこにある。

アーミアが右手を見つめる。

「聞いてる……?」

誰への問いなのか。

自分でも分からない。

だが。

微かに。

暖かい。

     ◇

量子空間。

刹那の前。

無数の光が集まる。

形を作る。

花。

違う。

まだ定まらない。

何かを。

伝えようとしている。

刹那が見つめる。

「そうだ」

待つ。

「急がなくていい」

ELSが形を探す。

人類が理解できるもの。

攻撃ではないもの。

同化でもないもの。

彼らが。

今まで知らなかった伝え方。

刹那が小さく言った。

「俺たちも――」

金色の光。

「まだ学んでいる」

その瞬間。

巨大ELS本体から。

すべての戦場へ。

強烈な脳量子波が広がった。

     ◇

第一防衛線。

全員が。

感じた。

言葉ではない。

意味でもない。

それでも。

敵意ではない何か。

グラハムが空を見る。

パトリックが黙る。

ニールとライルが武器を下げる。

アレルヤとマリーが目を閉じる。

ティエリアがヴェーダの膨大な情報を見る。

セルゲイ。

カティ。

ビリー。

ミーナ。

プトレマイオス2。

スメラギ。

フェルト。

クリス。

リヒティ。

ラッセ。

イアン。

ミレイナ。

アニュー。

絹江。

留美。

紅龍。

アーミア。

そして。

レイナス。

アルティオールネクストのコックピット。

レイナスが巨大ELS本体を見上げる。

『……ようやく話が通じたか』

警告音。

右肩。

脚部。

腰。

まだ鳴っている。

レイナスは計器を見る。

『こっちは修理代が怖いんだけどな』

誰も返さない。

『……聞こえてる?』

パトリックの声。

『今それ言うのかよ!?』

『大事だろ』

グラハムが笑った。

「実に君らしい!」

『褒めてないだろ、それ』

その時。

巨大ELS本体が。

変形を始めた。

銀色の表面が動く。

大きく。

ゆっくりと。

戦場にいる全員が見る。

刹那も。

アーミアも。

レイナスも。

人類も。

ELSも。

銀色の天体が。

一つの巨大な形へ変わっていく。

花弁。

一枚。

また一枚。

宇宙に。

巨大な花が。

開き始めた。

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