機動戦士ガンダムOOR   作:ミスト12523

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第155話 エピローグ

第155話 エピローグ

西暦2314年――ELS来訪から三週間後

世界は、滅びなかった。

人類史上初めて確認された地球外生命体。

《ELS》。

その出現によって始まった戦いは、人類側にも決して小さくない被害を残した。

失われた艦。

失われたモビルスーツ。

帰らなかった人々。

同化された者たち。

戦いが終わったからといって、それらが元に戻るわけではない。

それでも。

地球は残った。

人類も。

ELSも。

そして何より。

互いを滅ぼす以外の結末が残った。

     ◇

地球連邦政府はELSとの戦闘終結を正式に発表した。

地球近傍に存在する巨大な花状構造体についても、それがELSによるものだと公表。

一方で、ELSとの接触には依然として未知の危険があるとして、無許可での接近は禁止された。

人類はまだ。

ELSをほとんど知らない。

何を考えているのか。

どのように世界を認識しているのか。

そもそも人類のいう「考える」という概念が、そのまま当てはまるのか。

分からない。

だが。

分からないから撃つ。

その段階から。

分からないから知ろうとする。

そこまでは進んだ。

歴史書が、この出来事をどのように記すのか。

それは。

まだ誰にも分からなかった。

     ◇

プトレマイオス2・格納庫

「…………」

レイナスは無言で立っていた。

目の前。

ガンダムアルティオールネクスト。

帰還した機体は。

一応。

五体満足だった。

一応。

である。

「右肩駆動系、総交換」

イアンが端末を読む。

「右脚メインスラスター、交換」

次。

「腰部フレーム、歪みあり」

次。

「粒子制御系、再調整」

次。

「各部関節、許容値超過」

まだある。

「冷却系統――」

「もういい」

レイナスが止めた。

「聞きたくない」

「聞け!」

「聞いたところで直るわけじゃないだろ」

「壊した本人が言うな!」

イアンが端末を突きつける。

「新品同然だったんだぞ!」

「知ってるよ」

レイナスはアルティオールネクストを見上げる。

「だから凹んでる」

「お前が?」

「ああ」

「機体じゃなく?」

「俺が」

イアンが少し黙った。

レイナスは本気だった。

「まだ全然乗ってないんだぞ……」

「そこかよ」

「新型だぞ」

「知っとるわ!」

少し離れた場所。

アーミアが笑いを堪えていた。

レイナスが振り返る。

「何だよ」

「いえ」

「笑っただろ」

「笑ってません」

「顔に出てる」

アーミアがアルティオールネクストを見上げる。

「でも、直るんですよね?」

イアンが答える。

「ああ。時間はかかるがな」

レイナスがすぐに反応した。

「どれくらい?」

「早くても一月」

「長い」

「誰のせいだ!」

「ELS」

「お前だ!」

「半分くらいはELSだろ」

「八割お前だ!」

「見積根拠を出してくれ」

「出すぞ!」

「やっぱりいい」

アーミアがとうとう吹き出した。

「先生、本当にこういう時だけ細かいですよね」

「こういう時だからだよ。修理ってのは放っとくと追加工事が増えるんだ」

「はいはい」

「返事が軽いな」

「先生に慣れました」

レイナスが嫌そうな顔をする。

「それ、褒めてないだろ」

アーミアは笑った。

     ◇

医務室。

「問題なし」

アニューが端末を閉じた。

刹那が診察台から降りる。

「そうか」

「今回は本当にね」

アニューが念を押す。

「脳組織にも異常なし。脳量子波は……まあ、あなたの場合どこからを正常って呼べばいいのか分からないけど」

「俺は正常だ」

「そういう意味じゃない」

隣。

ティエリアが腕を組んでいる。

「クアンタとヴェーダ端末の設計は正しかったということだ」

「ええ」

アニューが頷く。

「前回みたいに情報を直接全部受けてたら、どうなってたか分からない」

刹那は自分の手を見る。

ELS。

完全に理解したわけではない。

今も。

時折。

遠くに感じる。

向こうも。

こちらを感じているのだろう。

「ティエリア」

「何だ」

「まだ始まっただけだ」

ティエリアは一瞬だけ刹那を見る。

「ああ」

その表情が僅かに和らぐ。

「君にしては、よく分かっている」

「俺にしては?」

「褒めている」

「そうか」

アニューが二人を見比べた。

「……仲いいわね」

「そうか?」

「そうか?」

二人同時。

アニューが笑った。

     ◇

プトレマイオス2・食堂

久しぶりに。

全員が揃っていた。

スメラギ。

フェルト。

クリス。

リヒティ。

ラッセ。

イアン。

ミレイナ。

アニュー。

ライル。

ニール。

絹江。

アレルヤ。

マリー。

ティエリア。

刹那。

留美。

紅龍。

アーミア。

そして。

遅れてレイナス。

「悪い。イアンに捕まってた」

「捕まってたじゃない!」

イアンが後ろから入ってくる。

「説教の途中で逃げただろ!」

「長いんだよ」

「お前の修理項目より短いわ!」

クリスが笑う。

「まだやってたの?」

「三週間だぞ」

レイナスが席へ座る。

「三週間ずっと言われてる」

「三週間で済んでるだけありがたいと思え」

ライルが飲み物を置く。

「まあまあ」

レイナスがライルを見る。

「何だよ、その顔」

「いや」

ライルが笑う。

「宇宙人にまで避けられる男って珍しいなと思って」

「お前まで言うのか」

ニールも笑っている。

「実際珍しいと思うぜ」

「二人とも撃つぞ」

絹江がニールを見る。

「煽らないの」

「はい」

即答。

ライルが眉を上げた。

「兄さん、素直になったな」

「お前も相手ができれば分かるよ」

「いるけど?」

アニューが隣からライルを見る。

ニールが一瞬黙る。

「……そうだった」

「忘れるなよ」

「悪い」

その向こう。

アレルヤとマリー。

ミレイナがアーミアの銀色の右手を興味深そうに見ている。

「その後、右手さんはどうですぅ?」

「右手さん?」

アーミアが苦笑する。

「普通ですよ」

レイナスが手を伸ばした。

アーミアの右手が。

すっ。

引っ込んだ。

全員が黙る。

レイナスも黙る。

クリスが噴き出した。

「まだ駄目なんだ!」

「……らしい」

アーミアが慌てる。

「先生、待ってください」

左手に《アニマ》。

銀色の右手を包む。

もう一度。

レイナスが手を伸ばす。

今度は。

逃げない。

指先が触れる。

「ほら」

アーミアが嬉しそうに言う。

「大丈夫です」

レイナスは少し考える。

「それ、大丈夫って言うのか?」

「条件付きで」

「面倒な契約だな」

留美が笑う。

「あら。あなた、そういう契約には慣れているでしょう?」

「俺の仕事を何だと思ってるんだ」

「私の護衛」

「……そうだったな」

「忘れたの?」

「最近、業務範囲が広すぎるんだよ」

スメラギがグラスを持ち上げる。

「その話は後にして」

全員が彼女を見る。

スメラギは少しだけ考えた。

乾杯。

勝利。

そう呼んでいいのか。

迷って。

結局。

簡単な言葉を選んだ。

「みんな」

一人ずつを見る。

「おかえりなさい」

一瞬。

静かになる。

ニールが笑った。

「ただいま」

ライル。

「ただいま」

アレルヤ。

マリー。

フェルト。

クリス。

リヒティ。

ラッセ。

アニュー。

ミレイナ。

声が重なる。

刹那も。

「ただいま」

レイナスはグラスを持ち上げた。

「全員帰還。これなら収支は黒字だな」

スメラギが笑った。

「あなたは修理費で赤字でしょう?」

「それを今言うか?」

笑い声が食堂に広がった。

     ◇

地球連邦軍・外宇宙航行艦《ソレスタルビーイング》

「准将!」

声。

カティは振り返らない。

「何だ」

「マネキン准尉が――」

廊下の向こう。

聞こえてくる。

「カティィィィィ!!」

カティが目を閉じた。

「……聞こえている」

扉が開く。

パトリックが飛び込んできた。

「カティ!」

「静かにしろ」

「生きて帰りました!」

「見れば分かる」

「TRANS-AMも使いました!」

「報告書で読んだ」

「レイナスとグラハムとも戦いました!」

「それも読んだ」

「俺、すげえ活躍したんですよ!」

「それも――」

カティが止まる。

パトリックを見る。

「知っている」

パトリックが満面の笑みになる。

「でしょう!」

カティは溜息をつく。

そして。

ほんの僅かに。

笑った。

「よく帰ったな、パトリック」

パトリックが固まった。

「……カティ」

「何だ」

「もう一回言ってください!」

「断る」

「カティィィ!」

「うるさい!」

少し離れた場所。

セルゲイが苦笑していた。

その隣。

グラハム。

「実に幸福そうだ」

セルゲイが頷く。

「あれでいいのだろう」

グラハムは窓の向こうを見る。

遠く。

プトレマイオス2。

「さて」

セルゲイが横を見る。

「何だ」

「私にも、まだ果たしていない約束がある」

セルゲイは少し考え。

「あの男か」

「ああ」

グラハムが笑う。

「次に相見える時こそ」

拳を握る。

「決着をつける!」

セルゲイは一言。

「周囲に迷惑をかけるなよ」

グラハムが黙った。

     ◇

地球――アザディスタン王国

マリナは窓辺にいた。

ニュースでは。

今もELSについて報じられている。

専門家。

政治家。

軍人。

学者。

誰もが。

これから世界がどう変わるのかを語っている。

マリナには分からない。

けれど。

一つだけ。

信じられることがある。

刹那は帰ってくる。

以前なら。

そう思えなかった。

彼はいつも。

どこか遠くへ行ってしまうように見えた。

けれど。

今は違う。

帰る場所を。

彼自身が知っている。

マリナは空を見る。

「また会いましょう」

今度は。

戦争の話ではなく。

彼が宇宙で出会った者たちの話を。

聞いてみたいと思った。

     ◇

地球――某映画館

暗転。

巨大スクリーン。

静寂。

そして。

銀色の木星。

観客席がざわついた。

画面中央。

文字。

《人類は――まだ知らなかった。》

重低音。

木星の大赤斑。

その中心に。

巨大なワームホール。

銀色の何かが現れる。

観客。

「おお……」

画面切り替え。

地球連邦軍艦隊。

無数のモビルスーツ。

爆発。

そして。

巨大な銀色の影。

ナレーション。

『宇宙から訪れた――未知なる生命体』

画面。

一人の男が振り返る。

レイヴン。

観客席から歓声。

『またこいつか』

劇中のレイヴンが言った。

『宇宙人だろうが何だろうが、俺の仕事を増やす奴は敵だ』

観客が沸く。

次。

マイケル・チャン演じるソレスタルビーイングの少年。

『戦うだけでは……何も分からない』

次。

レイヴン。

銀色の群れへ単機突撃。

『なら、お前は話してこい』

巨大な爆発。

『こっちは俺が全部片付ける!』

観客席。

「うおおおおお!」

さらに。

レイヴンが銀色の巨大MSと対峙する。

銀色のレイヴン。

両者の拳が激突。

画面いっぱいの爆発。

『俺を真似るだと?』

レイヴンの目が光る。

『百年早いんだよぉぉぉぉ!!』

必殺技。

両腕を広げる。

『超絶究極――』

観客が察する。

ざわめき。

そして。

『レイヴン・バーストォォォォッ!!』

極太の光。

銀色のELSが数万単位で消し飛ぶ。

劇場が揺れた。

「出たぁぁぁぁ!!」

「レイヴン・バースト!!」

「待ってた!!」

画面暗転。

静寂。

以前。

発表されていたタイトルが浮かぶ。

《劇場版レイヴン2》

数秒。

その文字へ。

銀色の亀裂が走った。

砕ける。

新しいタイトル。

――劇場版――

【ソレスタルビーイング2

-Visitor from Jupiter-】

歓声。

そして。

最後のカット。

宇宙に咲く。

巨大な銀色の花。

ナレーション。

『人類は、宇宙からの来訪者と出会う。』

暗転。

《COMING SOON》

     ◇

プトレマイオス2・食堂

「…………」

レイナスは端末を見ていた。

誰も喋らない。

アーミアが隣で目を輝かせている。

「先生!」

「言うな」

「レイヴン・バーストが!」

「言うな」

「パワーアップしてました!」

「見れば分かる」

「今度は銀色の先生と戦うんですね!」

「俺じゃない」

「百年早いんだよぉぉぉぉ!!」

「やめろ」

クリスが肩を震わせている。

ライルはもう隠す気もなく笑っていた。

ニールが端末を見る。

「でも今回、タイトル変わったんだな」

「当然じゃない?」

絹江が予告映像を見る。

「実際に地球外生命体が来ちゃったんだから」

アーミアが言う。

「絶対見に行きます」

レイナスが振り返る。

「懲りてないのか、お前」

「何でですか?」

「前回、映画見に行って帰ったらELSに襲われただろ」

「映画は悪くありません」

即答。

レイナスが言葉を失う。

アーミアは端末に表示されたタイトルを見る。

【ソレスタルビーイング2 -Visitor from Jupiter-】

「先生も行きましょう」

「嫌だ」

「どうしてですか?」

「俺が一番被害受けるからだよ」

フェルトが小さく笑った。

留美も扇子で口元を隠す。

スメラギが端末を操作した。

「公開日は?」

レイナスが振り返る。

「お前も行くのか?」

「あら、前作も見たでしょう?」

「……そうだった」

アーミアが笑う。

「決まりですね」

「決まってない」

「みんなで行きましょう!」

「俺は行かないぞ」

「先生」

「行かない」

「レイヴン・バースト」

「絶対行かない」

笑い声。

プトレマイオス2は。

静かに地球を回っていた。

その遥か彼方。

銀色の花が。

宇宙に咲いている。

人類とELS。

その物語は。

まだ。

始まったばかりだった。

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