機動戦士ガンダムOOR   作:ミスト12523

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第16話 終わらない戦場

第16話 終わらない戦場

西暦2307年――タクラマカン砂漠

戦闘開始から、三時間。

砂漠の各地で爆発が続いていた。

エクシア。

デュナメス。

キュリオス。

ヴァーチェ。

四機のガンダム。

そして、その戦列にはもう一機。

レイナスの乗る量産型MSがいる。

性能だけなら、ガンダムとは比較にならない。

だからこそレイナスは、機体にできないことをさせようとはしなかった。

敵の射線を読む。

最小限の機動で外す。

追撃できても深追いしない。

一機を完全に撃破するより、武装や脚部を破壊して次へ移る。

長く使う。

それを最優先にしていた。

「右に三機。その後ろにもいるな」

機体を滑らせる。

直後、砲弾が砂を巻き上げた。

照準。

射撃。

一機の武装を破壊。

もう一機の脚部を撃ち抜く。

だが。

その後ろから、新しい部隊が出てくる。

レイナスは小さく息を吐いた。

「分かってはいたが……徹底してるな」

倒した数に意味がない。

向こうには交代要員がいる。

補給拠点もある。

整備もできる。

こちらには。

そのどれもない。

          ◇

タクラマカン――中央戦域

『予定通り、母艦との通信は駄目だな』

ロックオンの声。

通信妨害。

それ自体は、作戦開始前から想定されていた。

これほどの戦力を集めておいて、ソレスタルビーイングに外部との自由な通信を許す理由がない。

スメラギも。

現地へ出る五人も。

最初から分かっていた。

『以降は事前の作戦プランに従う』

ティエリア。

『状況変化については、現地判断だ』

アレルヤが周囲を見る。

『分かっていたことだけど……こうして実際に切り離されると、随分広く感じるね』

砂漠。

そして。

無数の敵。

ロックオンが短く笑う。

『スメラギさんに聞けない以上、自分たちで何とかするしかないってことさ』

『問題ない』

刹那。

エクシアが前へ出る。

『戦闘を継続する』

          ◇

プトレマイオス・ブリッジ

「現地との通信、予定通り遮断」

クリスが報告する。

スメラギは頷いた。

「了解」

驚きはない。

作戦前の予測通り。

三大国家群が通信妨害を行うことも。

その後、現地組だけで戦況判断を迫られることも。

織り込み済みだった。

フェルトが時間を確認する。

「作戦開始から三時間経過」

「まだ序盤ね」

スメラギが呟く。

今回の敵が狙っているのは。

短期決戦ではない。

圧倒的な物量を用いた。

長時間の消耗戦。

それも。

予測している。

だからこそ。

問題は。

その予測をした上でなお、介入せざるを得なかったことだった。

ラッセが腕を組む。

「後はあいつら次第か」

「ええ」

スメラギは。

通信の途絶した画面を見る。

「現地で何か起きても、こちらから指示は出せない。そこまで含めて任せてあるわ」

それでも。

表情は硬い。

想定していることと。

心配しないことは。

別だった。

          ◇

タクラマカン砂漠

六時間。

戦闘は。

まだ続いている。

敵は一定時間ごとに交代する。

消耗した部隊が下がる。

新しい部隊が前へ出る。

補給を終えた部隊が。

再び戻ってくる。

対する五人には。

交代がない。

『……まだ来るのか』

アレルヤの呼吸が。

少しずつ荒くなっていた。

『最初からそういう作戦だ。付き合わされてるんだよ、俺たちは』

ロックオンも。

普段ほど余裕がない。

ヴァーチェが。

GNバズーカを放つ。

複数の敵機が散開。

ティエリアが舌打ちする。

『敵も対応してきている』

ガンダムの攻撃方法。

間合い。

得意な戦い方。

戦えば戦うほど。

相手も学習する。

刹那は。

何も言わない。

ただ。

エクシアを動かし続ける。

          ◇

タクラマカン――西部戦域

警告音。

レイナスが。

計器へ目を落とす。

「右肩の応答低下……冷却もそろそろ厳しいか」

想定より。

少し早い。

とはいえ。

機体が悪いわけではない。

既に何時間も。

高負荷の戦闘を続けている。

普通のMSなら。

当然だった。

「よく付き合ってくれてる方だな」

レイナスは。

機体を後退させる。

ガンダムと同じ動きはしない。

できない。

自分なら避けられる攻撃でも。

この機体には避けられない。

その境界を。

間違えない。

それでも。

完全には防げない。

砲撃。

回避。

続けて。

二射目。

機体を捻る。

装甲を掠める。

警告。

「……参ったな」

さらに。

敵影。

休ませてくれない。

そこが。

この作戦の本質だった。

          ◇

戦闘開始から、さらに数時間後

コックピット内。

警告表示が。

明らかに増えていた。

左腕。

応答低下。

右脚部。

駆動負荷。

推進系。

出力低下。

残弾。

僅か。

レイナス自身にも。

疲労はある。

だが。

まだ戦える。

問題は。

その身体を包んでいる機械の方だった。

「俺より先に音を上げるか」

責めるような口調ではない。

むしろ。

ここまで保ったことへの感心が混じる。

「まあ……普通はこっちが先にへばるんだろうけどな」

敵機。

接近。

残弾を確認。

射撃。

一機。

武装破壊。

二機目。

外す。

もう一度。

弾切れ。

「終わりか」

武装を捨てる。

接近してきた敵へ。

機体そのものを動かす。

踏み込み。

打撃。

敵機を押し退ける。

だが。

その瞬間。

側面から砲撃。

「――っ!」

直撃。

左後方。

推進器。

爆発。

機体が大きく傾く。

制御。

戻らない。

レイナスは。

転倒だけを避けようとする。

間に合わない。

量産型MSが。

砂漠へ叩きつけられた。

衝撃。

一瞬。

視界が揺れる。

「……痛っ」

状態確認。

左脚。

停止。

推進器。

使用不能。

火器。

なし。

補助系。

複数停止。

レイナスは。

しばらく表示を見ていた。

それから。

操縦桿から手を離す。

「ここまでだな」

機体に。

不満はなかった。

最初から。

ガンダムのような性能など求めていない。

むしろ。

よく働いた。

「ありがとな」

ハッチを開く。

熱風。

砂塵。

遠くで続く砲撃。

レイナスは。

外へ出た。

          ◇

タクラマカン――戦場

《アニマ》を纏う。

敵からすれば。

MSを一機潰した。

それだけのはずだった。

だが。

中から出てきた男が。

そのまま戦場に立っている。

レイナスは。

周囲を見る。

生身でも。

戦える。

MSを破壊することもできる。

だが。

この規模の戦場を。

残り何時間続くかも分からない状態で。

生身だけで戦い続ける。

それは。

能力の問題ではない。

効率が悪すぎる。

「さて……」

視線を上げる。

MS。

いくらでもいる。

敵側に。

「こういう時だけは、品揃えが豊富で助かるな」

どれを選ぶか。

そんな余裕があるわけではない。

一番近く。

使える機体。

それでいい。

レイナスが。

《アニマ》で地面を蹴った。

青白い光。

一気に。

戦場を駆ける。

          ◇

タクラマカン――AEU戦域

パトリック・コーラサワーは。

イナクトを旋回させる。

「よし、次だ!」

ガンダムとの距離を保つ。

攻撃。

離脱。

また別方向から。

繰り返す。

一対一で決着をつける戦いではない。

今回は。

それでいい。

最後に立っていれば。

勝ちだ。

「ガンダムだろうが何だろうが、いつまでも動けるわけじゃ――」

警告。

「ん?」

機体表面。

接触。

パトリックが。

外部カメラを切り替える。

「…………は?」

人。

イナクトの上に。

人間がいる。

「はああああ!?」

青白い光を纏った男が。

飛行中のイナクトへ。

取り付いていた。

「なんで人間が飛んでんだよ!?」

          ◇

イナクト・機体外部

急旋回。

レイナスの身体へ。

強烈な力が掛かる。

だが。

離れない。

装甲を掴み。

《アニマ》で身体を支える。

「随分と元気な機体だな」

さらに振られる。

「その方が都合はいいけど」

機体表面を移動。

コックピットへ。

ハッチ。

当然。

ロックされている。

レイナスは。

縁へ指を掛けた。

「悪いな」

《アニマ》が。

腕を包む。

力を込める。

金属が。

軋んだ。

          ◇

イナクト・コックピット

「おい」

異音。

「おいおいおい……」

警告。

ハッチロック異常。

気密異常。

パトリックの顔が。

引きつる。

「待て待て待て! 何してやがる!」

金属が歪む。

そして。

本来なら。

外から開くはずのないハッチが。

強引に。

こじ開けられた。

風が吹き込む。

その向こうから。

レイナスが顔を覗かせる。

二人の視線が。

合った。

「……誰だテメェ!?」

レイナスは。

少し困ったように笑った。

「悪いな。こっちは機体が先に音を上げちまった」

「はぁ!?」

「まだ戦いは終わってないんでね。少しばかり、そいつを貸してもらう」

「ふざけんな! 俺のイナクトだぞ!」

「だろうな」

レイナスは。

一度。

周囲を見る。

砲撃。

爆発。

時間を掛けて交渉できる場所ではない。

「できればもう少し穏便に話をしたかったところなんだが……」

小さく息を吐く。

「生憎、今は値段の相談をしてる暇もなさそうだ」

「誰が売るって言ったぁ!」

「それもそうだ」

パトリックが。

拳を振るう。

レイナスは。

片手で受け止める。

「なっ――」

動かない。

「悪いが、急いでる」

「離しやがれ!」

「俺だって、自分の機体なら渡したくはないさ」

「だったら分かんだろ!」

「分かるから困ってるんだよ」

レイナスの手が。

シートベルトへ。

解除。

パトリックの顔色が変わる。

「お前……まさか」

「怪我はさせない」

「そういう問題じゃねえ!」

身体を。

一気に引き上げる。

「うおおおおおお!?」

パトリックが。

コックピットから引きずり出された。

レイナスは。

そのまま落とさない。

片腕で支え。

地上を見る。

AEUの部隊。

高度も。

それほど高くない。

「この辺なら仲間に拾ってもらえる」

「勝手に話進めんな!」

「そこは本当に悪いと思ってるよ」

「思ってる奴は人の機体を盗らねえんだよ!」

レイナスが。

僅かに笑う。

「耳が痛いな」

《アニマ》。

青白い足場。

パトリックの身体を。

安全に地上へ送り出す。

「待てコラァァァァ!!」

声が。

遠ざかる。

レイナスは。

イナクトのコックピットへ滑り込んだ。

          ◇

AEUイナクト・コックピット

「さて……」

見慣れない操作系。

だが。

完全な未知ではない。

フラッグに乗った経験がある。

レイナスは。

表示を追う。

推進。

姿勢制御。

武装。

出力。

機体状態。

「なるほど」

手を動かす。

イナクトが。

一度。

不自然に傾く。

修正。

次。

旋回。

もう一度。

今度は。

滑らかに動く。

「悪くない」

レイナスの口元が。

少しだけ上がった。

こんな状況でも。

初めて触るMSは。

やはり面白い。

だが。

機体状態を見て。

すぐに表情を戻した。

残弾。

推進剤。

各部負荷。

このイナクトも。

既に長時間戦っている。

「……まあ、そう都合よく新品が飛んでるわけもないか」

それでも。

先ほどの機体より。

遥かに動ける。

十分だった。

敵味方識別。

当然。

表示は逆。

AEUが味方。

ガンダムが敵。

「これは自分で見るしかないな」

レイナスは。

機体を反転させる。

          ◇

タクラマカン――地上

「俺の……」

パトリックが。

砂まみれで立ち上がる。

上空。

自分のイナクトが。

遠ざかっていく。

数秒。

現実を。

理解する。

「俺のイナクトォォォォォ!!」

近くのAEU兵が。

振り返る。

「少尉!?」

「あいつだ!」

パトリックが。

空を指差す。

「あの青く光ってた奴! 俺を引きずり出してイナクト盗みやがった!」

兵士が。

困惑する。

「……人間が、ですか?」

「人間だったよ! 多分な!」

自分で言って。

一瞬。

自信がなくなる。

だが。

そんなことは。

どうでもいい。

「絶対捕まえろ! 俺のイナクト返させろ!」

遠く。

そのイナクトが。

AEU部隊へ攻撃を始めた。

パトリックの顔が。

引きつった。

「俺の機体で何してやがるぅぅぅ!!」

          ◇

タクラマカン――中央戦域

デュナメス。

照準。

ロックオンが。

一機のイナクトを捉える。

『新手――』

トリガーへ。

指を掛ける。

だが。

撃たなかった。

そのイナクトが。

こちらではなく。

三大国家群のMSへ攻撃した。

『……おいおい』

見覚えのある。

妙に無駄の少ない動き。

さらに。

短距離通信。

ノイズ混じりの声。

『ロックオン、撃つなよ』

ロックオンが。

固まる。

『……レイナス?』

『ああ』

『お前、最初に乗ってた機体は?』

『壊れた』

そこまでは。

分かる。

問題は。

その次だ。

『で、そのイナクトは?』

僅かな間。

『借りた』

ロックオンは。

イナクトのコックピット周辺を見る。

ハッチが。

明らかに歪んでいる。

『……誰から』

『乗ってた奴から』

『それ借りたって言わねえだろ!』

『俺も今、帰った後の説明を考えてるところだ』

『そこ心配する余裕あんのかよ!』

レイナスが。

敵機の射撃を回避。

イナクトを。

急旋回させる。

『ないな』

声が。

変わる。

ロックオンも。

すぐに察する。

冗談は。

ここまで。

『前から来る』

「ああ」

デュナメスが。

銃口を上げる。

イナクトが。

加速する。

『まだ終わってない。話は生きて帰ってからだ』

『……了解』

二機が。

別方向へ分かれる。

次の敵部隊へ。

          ◇

プトレマイオス・ブリッジ

作戦開始から。

長い時間が経過していた。

現地との通信は。

依然としてない。

だが。

それは想定通り。

クリスが。

時刻を確認する。

「予定戦闘時間を超過」

スメラギは。

短く頷いた。

ここから先。

現地で何が起きているのか。

知る方法はない。

ただ。

敵の狙いなら分かっている。

消耗。

疲労。

判断力の低下。

そして。

限界を迎えたところで。

ガンダムを鹵獲する。

フェルトが。

通信画面を見る。

「まだ、回復しません」

「ええ」

スメラギは。

静かに答えた。

「最初から、そのつもりでしょうね」

想定済み。

だからといって。

打てる手が増えるわけではない。

ここからは。

現地の五人が。

自分たちで生き残るしかない。

スメラギは。

時計から目を離す。

「……耐えて」

          ◇

タクラマカン砂漠

レイナスのイナクトが。

砂漠を駆ける。

一機。

回避。

射撃。

二機。

接近。

すれ違いざまに武装を破壊。

だが。

警告。

推進剤。

残量低下。

関節部。

負荷上昇。

レイナスは。

表示を見る。

「……やっぱり、こいつも長くは保たないか」

当然だった。

この機体も。

戦闘開始から休みなく働いていた。

乗り手が変わったところで。

消耗が消えるわけではない。

それでも。

レイナスは。

操縦桿を握る。

まだ動く。

まだ戦える。

なら。

今は。

それでいい。

遠く。

エクシア。

デュナメス。

キュリオス。

ヴァーチェ。

四機のガンダムも。

戦い続けている。

誰も。

無傷ではない。

誰も。

休めていない。

そして。

敵は。

まだ尽きない。

レイナスが。

正面を見る。

「長い一日になりそうだ」

イナクトが。

再び加速する。

三大国家群が用意した。

終わらない戦場。

その本当の苦しさは。

まだ。

始まったばかりだった。

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