第18話 三機のガンダム
西暦2307年――タクラマカン砂漠・夜
赤いGN粒子が降る。
一機。
二機。
三機。
見慣れないガンダム。
その姿を。
レイナスは青白く輝くイナクトのコックピットから見上げていた。
「……三機とも違うな」
スローネアイン。
スローネツヴァイ。
スローネドライ。
同型ではない。
基本構造に共通点はある。
だが。
武装も。
役割も。
明らかに違う。
『レイナス』
刹那。
『あれは何だ』
「俺に聞くなよ。そっちの身内じゃないのか?」
『知らない』
「なら俺はもっと知らん」
直後。
赤い粒子が。
一気に広がった。
敵部隊のセンサー。
通信。
電子機器。
戦場全体へ。
影響が広がる。
そして。
スローネが動く。
◇
スローネアイン。
長大な砲身。
閃光。
巨大なビームが。
三大国家群の部隊を薙ぐ。
スローネツヴァイが。
高速で突入。
GNファング。
複数の小型兵器が。
独立して飛び回る。
敵機を。
次々に襲う。
「……あれ、いいな」
『何がだ』
ティエリア。
「小さいのが勝手に飛んでる奴」
『GNファングのことか?』
「名前まで分かるのか?」
『武装特性から便宜的にそう呼称しただけだ』
「なるほど」
レイナスは。
飛び回るファングを目で追う。
「俺のスフィアでも似たことはできるが……機械でやるのも面白いな」
『今は観察している場合ではない!』
「分かってるよ」
イナクトを旋回。
接近していた敵機を避ける。
青白い残光。
そのまま。
スローネの攻撃で崩れた包囲網へ。
切り込む。
◇
タクラマカン――三大国家群戦線
状況が。
一変していた。
十八時間。
追い詰め続けた。
あと少し。
あと僅かで。
ガンダムを鹵獲できる。
そのはずだった。
そこへ。
三機。
未知のガンダム。
『部隊を立て直せ!』
『敵増援三機!』
『赤色粒子による妨害が――』
『後退しろ! 一度距離を――』
疲弊したガンダム四機とは。
違う。
スローネは。
万全。
その三機が。
長時間戦闘で消耗している三大国家群へ。
逆に襲いかかった。
◇
タクラマカン――中央戦域
『今のうちに離脱する』
ティエリア。
誰も。
異論はない。
戦えるかどうかではない。
ここで。
戦い続ける理由がない。
アレルヤ。
ロックオン。
ティエリア。
そして。
刹那。
四機が。
戦場から離れ始める。
レイナスも。
その後へ続く。
その途中。
スローネツヴァイが。
近くを通過した。
レイナスの視線が。
自然とそちらへ向く。
「……近くで見ると結構いいな」
『レイナス』
ロックオン。
「分かってる。帰るよ」
『今、絶対ついて行こうとしただろ』
「してない」
『間があったぞ』
「十八時間も働いた男を疑うなよ」
『お前だけ全然疲れてねえだろ!』
「腹は減ってる」
『それは疲労じゃねえ!』
アレルヤの。
小さな笑い声。
『でも……助かったね』
その一言で。
会話が止まる。
全員。
分かっている。
あの三機が。
来なければ。
どうなっていたか。
少なくとも。
楽に帰れる状況ではなかった。
レイナスも。
スローネを見る。
「そうだな」
軽口は。
入れなかった。
◇
AEUイナクト・コックピット
戦場から。
距離が開いていく。
そこで。
レイナスは。
別の問題に気づく。
「……さて」
《アニマ》。
機体全体へ。
まだ流している。
青白い光も。
消えていない。
ロックオンが。
イナクトを見る。
『お前、いつまで光ってんだ?』
「俺も今それを考えてた」
『切ればいいだろ』
「それがな」
『……何だよ』
「切ると多分、こいつが死ぬ」
沈黙。
『……は?』
「正確には、今まで無理させた分がまとめて返ってくる」
『お前さっき言ってたな、それ』
「ああ」
レイナスが。
機体状態を見る。
推進剤。
僅か。
各部。
既に限界。
《アニマ》が。
出力と剛性を。
無理やり底上げしている。
「戦闘中は後払いでいいと思ってたんだが……」
『支払期限が来たか』
「世知辛い話だろ?」
『お前が勝手に借りたんだろうが』
「金も機体も、借りる時より返す時の方が面倒なのは同じらしい」
『機体は借りてねえって』
「そこ、まだ続けるのか?」
『続ける』
◇
タクラマカン外縁部
敵影。
減少。
離脱経路。
確保。
レイナスは。
周囲を確認する。
「ここならいいか」
『何が?』
「支払い」
ロックオンが。
嫌な予感を覚える。
『待て。お前――』
レイナスが。
《アニマ》を止めた。
青白い光が。
消える。
直後。
――警告。
一つ。
二つ。
ではない。
コックピットの表示が。
一斉に赤へ変わった。
「おお」
右脚部。
異常。
左腕。
停止。
フレーム。
複数箇所。
許容値超過。
推進器。
急激な出力低下。
関節。
異常。
電力系。
不安定。
機体全体から。
軋む音。
「……思ったより来たな」
『おい!』
イナクトが。
傾く。
レイナスは。
すぐに姿勢を修正。
だが。
反応しない。
「右脚、駄目。左腕も終わり。推進器は……」
出力。
低下。
さらに。
低下。
「これも駄目か」
『随分冷静だな!』
「慌てたら直るなら、いくらでも慌てるさ」
高度。
低下。
レイナスは。
残っている推進力を使う。
落下ではなく。
滑空へ。
砂漠。
接近。
「せめて着地くらいは頼むぞ」
接地。
機体が。
砂を巻き上げる。
滑る。
止まらない。
「もう少し――」
左脚。
完全停止。
イナクトが。
前へ傾く。
「……あ」
転倒。
砂煙。
数秒後。
静かになった。
◇
『レイナス!』
ロックオン。
倒れたイナクト。
返事。
なし。
『おい!』
数秒。
ハッチ。
動く。
いや。
元から。
まともに閉まっていない。
壊れたハッチを押し退け。
レイナスが。
普通に顔を出した。
「無事だ」
『先に返事しろ!』
「着地に忙しかったんだよ」
『それを着地って言うのか!?』
レイナスは。
倒れたイナクトを見る。
「乗ってる本人が無事なら成功でいいだろ」
『機体は?』
「…………」
警告音。
煙。
動かない右脚。
停止した左腕。
推進器。
完全沈黙。
レイナスは。
数秒。
考えた。
「……要整備だな」
『廃車だろ、それ』
「MSに廃車って言うのか?」
『そこじゃねえよ!』
◇
エクシアが。
近くへ降りる。
刹那が。
イナクトを見る。
『動かないのか』
「見ての通りだ」
『なら置いていく』
「待て」
刹那が。
止まる。
「持って帰れないか?」
『なぜだ』
「せっかく手に入れたんだぞ」
『盗んだ機体だ』
「お前まで言うのか……」
『事実だ』
レイナスは。
イナクトを見る。
かなり。
気に入っていた。
短い付き合いだったが。
《アニマ》によるMS強化まで。
初めて試した機体。
「できればイアンにも見せたいんだがな」
ロックオン。
『諦めろ。そんな余裕ねえよ』
「……だよな」
そこは。
素直に引く。
「残念だ」
イナクトから。
地上へ降りる。
刹那が。
レイナスを見る。
『乗れ』
「エクシアに?」
『ああ』
一瞬。
レイナスの目が。
変わった。
ロックオンが。
すぐに気づく。
『おい、レイナス』
「何だ?」
『今、嬉しそうにしただろ』
「してない」
『した』
「疲れてるんじゃないか?」
『疲れてんのは認めるが、それくらいは分かる!』
レイナスが。
エクシアへ近づく。
「まあ、せっかくの機会だ」
『乗せるだけだ』
刹那が。
念を押す。
『操縦はさせない』
レイナスの足が。
止まった。
「……まだ何も言ってないぞ」
『顔に出ている』
「そんなにか?」
『出ている』
ロックオンが。
通信越しに笑った。
◇
タクラマカン――離脱経路
四機のガンダムが。
戦場を離れていく。
エクシアには。
レイナス。
後方。
遠く。
動かなくなったイナクトが。
砂漠に残されている。
レイナスは。
その姿を見た。
「……結局、返せなかったな」
刹那。
「誰にだ」
「元の持ち主」
「知らないのか」
「名前を聞く暇がなかった」
「そうか」
「向こうは随分怒ってたけどな」
「当然だ」
「お前、さっきからあっちの味方だな」
刹那は。
答えない。
少しして。
レイナスが。
エクシアの内部を見回す。
「……なあ、刹那」
「何だ」
「帰り道だけでも――」
「駄目だ」
「まだ最後まで言ってない」
「操縦はさせない」
「……信用ないな、俺」
「ある」
予想外の返事。
レイナスが。
僅かに目を瞬く。
刹那は。
前を向いたまま続ける。
「だが、これは俺のガンダムだ」
数秒。
レイナスは黙った。
それから。
小さく笑う。
「それを言われちゃ仕方ないな」
少し間を置き。
「じゃあ、見るだけにしとくよ」
「触るな」
「……見るだけだって」
少しして。
後方から。
赤い光が追いついてきた。
三機。
先ほどのガンダム。
戦闘を終えたスローネが。
離脱するエクシアたちとの距離を縮めている。
レイナスは。
エクシアの中から。
その姿を追った。
近い。
戦場で見た時より。
機体の形が。
はっきり分かる。
「……やっぱり、こっちの四機とは設計が違うな」
刹那も。
スローネを見ていた。
表情は。
レイナスとは違う。
「俺たちは知らない」
「ああ」
「ヴェーダにも情報がない」
そこで。
レイナスの視線が。
スローネへ戻る。
「それは妙だな」
ソレスタルビーイングを救った。
三機のガンダム。
だが。
ソレスタルビーイング自身が。
その存在を知らない。
レイナスが。
少しだけ考える。
「味方……でいいのかね」
刹那は。
答えなかった。
代わりに。
前方のスローネドライから。
通信が入る。
『ガンダムマイスターのみんなー! 聞こえてる?』
若い女の声。
妙に明るい。
十八時間の死闘の直後とは。
思えないほど。
軽い声だった。
『あたしたち、チームトリニティ!』
レイナスが。
眉を上げる。
刹那は。
黙ったまま。
通信を聞いている。
『そっちと同じ、ソレスタルビーイングのガンダムマイスターだよ!』
今度は。
レイナスが。
刹那を見る。
刹那も。
僅かに視線を動かした。
「……知らないんだよな?」
「ああ」
「向こうは同僚だって言ってるぞ」
「ああ」
「なるほど」
レイナスは。
三機のスローネへ。
もう一度目を向ける。
「帰ってすぐ飯、ってわけにはいかなそうだな」