機動戦士ガンダムOOR   作:ミスト12523

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第24話 ずいぶん打ち解けたようですね

第24話 ずいぶん打ち解けたようですね

西暦2307年――プトレマイオス・格納庫

「珍しい客が来る?」

レイナスは整備用の足場に腰を下ろしたまま、下にいるイアンを見た。

「ああ。スメラギから聞いてないのか?」

「初耳だな」

「もうすぐ着くらしいぞ」

「へえ」

それ以上は特に気にしなかった。

プトレマイオスへ誰かが来ること自体は珍しいが、自分に関係があるとは限らない。

レイナスは手元の端末へ視線を戻す。

表示されているのは、先日の《アニマ》による物質強化試験の結果だった。

解除後に発生する負荷。

強化率との相関。

フレームそのものを大型化した場合に、どこまで同じ現象が出るか。

考えることはいくらでもある。

「次は壊すなよ」

「一度の失敗で人間を決めつけるのは良くないぞ、イアン」

「お前の場合は一度じゃないだろうが」

「過去に囚われてちゃ新しい技術は生まれない」

「まず過去から学べ!」

レイナスは端末を見たまま頷いた。

「いいこと言うな」

「お前に言っとるんだ!」

格納庫の入口から笑い声がした。

「相変わらずですね」

聞き覚えのある声だった。

レイナスが顔を上げる。

黒髪。

整った服装。

その隣には、いつものように紅龍。

レイナスは数秒、目を瞬いた。

「……留美?」

王留美は微笑んだ。

「お久しぶりです、レイナス」

「本当に珍しい客だったな」

「もう少し歓迎してくださってもよろしいのでは?」

「宇宙まで来るとは思ってなかったんだよ」

レイナスは足場から降りる。

「久しぶり」

「ええ」

留美はレイナスを見て、それからイアンへ視線を移す。

「何か壊したのですか?」

「何で俺を見てから聞くんだ?」

「違うのですか?」

「……実験用フレームを少し」

イアンが鼻を鳴らす。

「少しじゃない」

留美の笑みが僅かに深くなった。

「お変わりないようで安心しました」

「その評価で安心されるのも複雑だな」

          ◇

プトレマイオス・通路

スメラギとの話があるという留美を案内しながら、レイナスは隣を歩いていた。

紅龍は少し後ろ。

「それで、わざわざ宇宙まで何しに来たんだ?」

「ソレスタルビーイングのエージェントとして必要な用件がございます。それと――」

留美が横目でレイナスを見る。

「あなたの様子も少々気になっていました」

「俺?」

「地上へ戻る機会も減ったでしょう?」

「ああ。顔も随分売れたみたいだからな」

「あなた自身が売ったようなものですが」

「そんな商売を始めた覚えはないんだけどな」

「モビルスーツを素手で破壊しておいて、今さら目立ちたくなかったとは言わせませんよ」

「目立ちたかったわけじゃない。必要だったからやっただけだ」

「分かっています」

留美はそれ以上追及しなかった。

やがて共有スペースの近くまで来る。

そこから声が聞こえてきた。

「違う、刹那! 今のはまだ合図じゃない!」

ティエリアだった。

続いてアレルヤ。

「でも昨日のレイナスなんて、合図の前に取ってたよ」

「俺を基準にするのはやめてくれ」

「お前が始めたんだろう」

刹那の声まで聞こえる。

レイナスが立ち止まった。

留美も立ち止まる。

「……何をなさっているのです?」

「ちょっとした訓練だ」

「昨日までは遊びと呼んでいたはずだが」

中からティエリアの声が飛んできた。

レイナスは目を閉じる。

「ティエリア。客の前では建前を守ってくれ」

「事実を述べただけだ」

留美が口元へ手を添えた。

「見ても?」

「大したものじゃないぞ」

「だからこそ興味があります」

「嫌な言い方するなあ」

共有スペースへ入る。

テーブルの中央には一本のマーカー。

その両側に刹那とティエリア。

アレルヤが合図役。

少し離れた場所では、ラッセとリヒティまで見物している。

レイナスが入ってくると、リヒティが手を上げた。

「レイナス! 次あんたっすよ!」

「まだ続いてたのか?」

「ティエリアがハンデ考えてきたんすよ」

「本当に?」

ティエリアが真顔で答える。

「君だけ開始位置を一メートル後方にする」

「昨日一晩使って出した答えがそれか?」

「合理的だ」

「否定はしないけど、もう少しこう……百歳のベテランを敬う気持ちがあってもいいんじゃないか?」

「昨日は若手だと言っていただろう!」

留美が止まった。

レイナスも止まった。

しまった。

そんな顔をした。

留美がゆっくりレイナスを見る。

「……若手?」

「長い話になる」

「百歳のベテラン?」

「それも同じ話だ」

「非常に興味があります」

「興味を持たなくていい」

アレルヤが留美へ事情を説明しようとする。

「この前、ロックオンがレイナスのことを年寄りって――」

「アレルヤ」

「何?」

「世話になった人間にも、話さなくていいことはある」

「そうなの?」

「ある。人生ってのは、全部を共有すれば豊かになるわけじゃない」

留美が微笑む。

「ずいぶん格好よく仰っていますが、内容はご自身の恥を隠したいというだけでは?」

「留美」

「はい?」

「しばらく会わないうちに厳しくなったな」

「以前からです」

「そうだったか……」

          ◇

留美はしばらく、その場に立っていた。

刹那がマーカーを取る。

ティエリアが納得できず再戦を要求する。

アレルヤが苦笑しながら合図をやり直す。

ラッセが横から茶々を入れ、リヒティが笑う。

そして、その真ん中にレイナスがいる。

「今のは刹那の勝ちだな」

「合図の間隔が一定ではない!」

「実戦じゃ敵が合わせてくれないぞ」

「これは実戦ではない!」

「日常の中にも戦場はある」

「その台詞で遊びを正当化するな!」

「俺はただ、若者たちに人生の厳しさを――」

「次は君の番だ!」

「話を最後まで聞けよ」

留美は黙ってその様子を眺めていた。

やがてスメラギがやってくる。

「あら。もう始まってたの?」

「スメラギさん」

「久しぶりね、留美」

二人が挨拶を交わす。

その間にも、レイナスはティエリアに指定された一メートル後方へ移動させられていた。

「これは露骨に不利じゃないか?」

「君が昨日、身体能力を理由に競技から排除するのは公平ではないと言ったんだ」

「言ったな」

「だからハンデを設定した」

「……自分で蒔いた種ってのは、忘れた頃に芽を出すな」

「昨日だ!」

ラッセが吹き出す。

留美はその光景を見てから、隣のスメラギへ小さく尋ねた。

「いつも、このような感じなのですか?」

「最近はね」

「そうですか」

留美の視線がレイナスへ戻る。

初めて会った頃。

彼は何者かも分からず、経歴もなく、この世界に居場所らしい居場所もなかった。

ソレスタルビーイングに協力することになってからも、あくまで外部協力者。

一定の距離を保つ。

必要以上に踏み込まない。

それは今も変わっていないはずだった。

それでも。

「レイナス」

「ん?」

留美に呼ばれ、レイナスが振り返る。

「ずいぶん打ち解けたようですね」

レイナスは一度、周囲を見た。

マーカーを持った刹那。

勝負に妙に本気なティエリア。

苦笑しているアレルヤ。

見物しているラッセとリヒティ。

少し離れたところにはスメラギ。

そして自分。

「……そう見える?」

「ええ」

レイナスは少し考えた。

「まあ、同じ船で飯食って、仕事して、何度か死にかけてりゃな。いつまでも客の顔してる方が難しいだろ」

「あなたは正式なメンバーではありませんけれど」

「そこは変わってないよ」

「それでも?」

「肩書きと居心地は別勘定だ」

留美が僅かに目を細めた。

レイナスは肩をすくめる。

「住み込みの職場みたいなもんだ。人間関係まで悪かったら逃げ場がない」

数秒の沈黙。

スメラギが笑った。

留美も口元を緩める。

「せっかく少し良いことを仰ったのに」

「今のも十分いい話だったと思うけどな」

「最後の一言がなければね」

スメラギが言う。

「現実ってのは、大体最後に余計な一行がついてくるもんだよ」

「それ、格好つけて言うこと?」

「言い方くらいは自由だろ?」

留美は小さく笑った。

「ええ。そこは以前と変わっていないようで安心しました」

「それ褒めてる?」

「どうでしょう」

「留美もこっち側に馴染んできたな」

「一緒にしないでください」

即答だった。

          ◇

「レイナス」

ティエリアに呼ばれる。

「今度こそ君の番だ」

「はいはい」

「ハンデは一メートル」

「分かってるよ」

レイナスは指定された位置へ立った。

対戦相手は刹那。

テーブルまでの距離は明らかにレイナスの方が遠い。

留美はスメラギの隣で見物することにした。

「勝てるのですか?」

「普通にやれば厳しいな」

「では、どうするのです?」

レイナスが笑う。

「長く生きてるとな、正面から勝てない時に別の道を探す知恵くらいはつく」

ティエリアが即座に反応する。

「不正をするつもりなら失格だ!」

「人聞きが悪いな。工夫と言ってくれ」

「同じだ!」

アレルヤが合図役につく。

「二人とも、いい?」

「ああ」

刹那が構える。

レイナスも構え――。

ふと、刹那を見る。

「刹那」

「何だ」

「エクシアの右肩、さっきイアンが――」

刹那の視線が僅かに動いた。

「今!」

レイナスが飛び出す。

だが。

刹那もほぼ同時に反応した。

マーカーを掴んだのは刹那だった。

「…………」

レイナスが止まる。

刹那はマーカーを持ったまま言う。

「エクシアに異常はない」

「知ってる」

「なら、なぜ言った」

「勝つためだ」

「負けている」

「結果だけ見ればな」

ティエリアが立ち上がる。

「卑怯だぞ!」

レイナスはゆっくり身体を起こした。

そして留美の前だというのに、妙に格好をつけて髪をかき上げる。

「勝負ってのは、綺麗に負けるより泥臭く勝つ方が――」

「負けてるぞ」

ラッセが言った。

「…………」

リヒティも頷く。

「負けてますね」

「……そこは今から格好よく締めるところだったんだよ」

スメラギが笑い出した。

留美もとうとう口元を隠す。

レイナスはそんな二人を見る。

「何だよ」

「いえ」

留美は笑みを残したまま答えた。

「本当に、ずいぶん打ち解けたようですね」

今度はレイナスも否定しなかった。

ただ肩をすくめ、刹那からマーカーを受け取る。

「次はハンデ五十センチで交渉しよう」

「一メートルだ」

「ティエリア。交渉ってのは双方が歩み寄って――」

「一メートルだ」

「……世の中、話し合いだけじゃ解決しないこともあるか」

「また格好つけてるっすけど、ハンデ減らしてほしいだけですよね?」

リヒティの指摘に、レイナスはしばらく黙った。

「リヒティ」

「はい?」

「人間、分かってても言わない方がいいことがある」

「昨日からそればっかりじゃねえか」

ラッセの声に、また笑いが起きた。

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