機動戦士ガンダムOOR   作:ミスト12523

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第25話 異なる介入

第25話 異なる介入

西暦2307年――プトレマイオス・ブリッジ

「全員、見て」

スメラギの声で、ブリッジの空気が変わった。

つい数時間前までプトレマイオスに滞在していた王留美は、すでに地上へ戻っている。

彼女が持ち込んだ情報。

それに各地のエージェントから集められた報告を加え、クリスがメインモニターへ表示していた。

映像に映っているのは三機のガンダムスローネ。

レイナスは壁際に立ち、腕を組んで画面を見ている。

隣にはロックオン。

刹那、アレルヤ、ティエリアも揃っていた。

「チームトリニティは、私たちとは独立して武力介入を続けているわ」

スメラギが言う。

「ここまでは知っている通り。でも、問題はその内容よ」

映像が切り替わった。

軍事施設。

赤いGN粒子を撒き散らしながら、スローネアインが砲撃を加える。

爆発。

続いてスローネツヴァイ。

GNファングが複数の目標を次々に破壊していく。

レイナスの目が僅かに細くなる。

以前ならファングそのものへ視線が向いていた。

今は違った。

「……随分派手にやるな」

「ええ」

スメラギが次の資料を出す。

「攻撃対象そのものは軍事関連施設。ただし、私たちがこれまで重視してきた周辺被害への配慮がほとんど見られない」

アレルヤの表情が曇る。

「近くに人はいなかったの?」

「いたわ。幸い、この件では大規模な民間被害は確認されていない。でも――」

スメラギが映像を止めた。

画面の端。

攻撃地点からそれほど離れていない場所に、一般車両が映っている。

「巻き込まれていても、おかしくなかった」

ロックオンの声が低くなる。

「こいつら……」

ティエリアがモニターを睨む。

「武力介入の精度が低すぎる」

「精度だけの問題か?」

レイナスが言った。

ティエリアが振り返る。

「何?」

レイナスは画面を見たままだった。

「外したようには見えない。狙ったものには当ててる」

「なら、何が言いたい?」

「周りを気にしてないんじゃないかって話だよ」

ブリッジが静かになる。

クリスが別の映像を呼び出した。

「他にもあるよ」

今度は軍需関連企業の施設だった。

生産設備が炎に包まれている。

「この施設は軍需産業に関係してる。でも、ここで働いてる人が全員軍人ってわけじゃない」

「当然だね」

アレルヤが答える。

「それでも攻撃した……」

「施設そのものを紛争を支える要素と判断したのでしょう」

ティエリアの声は硬い。

「武力介入という目的だけを見れば、論理は理解できる」

ロックオンがティエリアを見る。

「納得してんのか?」

「そうは言っていない」

ティエリアは即座に返す。

「ソレスタルビーイングの武力介入には、ヴェーダから提示される情報と戦術予報がある。攻撃対象の選定も含めてだ。彼らが何を基準に対象を決定しているのか、それが分からないこと自体が問題だと言っている」

スメラギが頷いた。

「私も同意見よ」

レイナスは腕を組んだまま、しばらく何も言わなかった。

画面には、炎上する施設を背に飛び去っていく三機のスローネが映っている。

「同じ看板を掲げてても、仕事のやり方まで同じとは限らない、か」

ロックオンが横を見る。

「随分身も蓋もねえな」

「会社でもあるだろ。看板は同じでも支店が違えば話が通じないとか」

「こっちは武力介入だぞ」

「だから余計に笑えないんだよ」

レイナスの声から、いつもの軽さが少し消えた。

          ◇

同日――プトレマイオス・共有スペース

映像確認が終わった後も、マイスターたちはそのまま残っていた。

昨日までテーブルの上にあったマーカーは、もうない。

代わりに表示されているのは、トリニティによる介入地点の一覧だった。

アレルヤが椅子に座ったまま言う。

「助けてもらったんだよね。僕たちは」

「ああ」

ロックオンが答える。

「タクラマカンじゃ、あいつらが来なきゃ厳しかった」

「だから余計に難しい」

アレルヤはそう言って画面を見る。

「僕たちを助けた人たちが、間違ってるかもしれないって考えるのは」

「恩と評価は分けた方がいい」

レイナスが壁に寄りかかったまま言った。

「助けてもらったことには感謝する。それは変わらない。でも、一回助けられたからって、その後に何をやっても肯定しなきゃならない義理まではないだろ」

アレルヤがレイナスを見る。

「割り切れる?」

「割り切るしかない時もある」

少し間を置いてから、レイナスは続ける。

「借りは借りだ。返すなら相手の悪事に目を瞑るんじゃなくて、別の形で返せばいい」

ロックオンが小さく笑う。

「そこでも借金の話になるのかよ」

「人間関係の貸し借りは金より面倒なんだぞ。利率も返済期限も書いてないからな」

アレルヤが苦笑する。

「今ちょっと格好いい話だったのに」

「十分格好いいだろ?」

「後半がね」

「現実ってのは大体後半が面倒なんだよ」

刹那は黙ったまま介入地点を見ていた。

やがて口を開く。

「奴らのガンダムは、戦争を根絶するために使われているのか」

誰もすぐには答えなかった。

ティエリアが言う。

「少なくとも、彼らはそう主張するだろう」

「主張ではない」

刹那の目は画面から動かない。

「何のためにガンダムを使っているかだ」

レイナスが刹那を見る。

その言葉に含まれるものを、少なくとも今は茶化す気になれなかった。

「……そこは本人たちに聞かなきゃ分からないな」

「以前、直接聞く機会はあった」

ティエリアが言う。

「だが彼らは情報を開示しなかった」

「なら、今ある材料で判断するしかない」

レイナスは端末を指す。

「俺たちはあいつらの頭の中までは見えない。見えるのは、何をやったかだけだ」

ロックオンが頷く。

「行動を見るしかねえってことか」

「少なくとも、勝手に善意を補ってやるよりはマシだろ」

その言葉に、アレルヤは少しだけ目を伏せた。

          ◇

数日後――プトレマイオス・ブリッジ

「またトリニティです!」

クリスの声が響く。

レイナスがブリッジへ入った時には、すでに映像が表示されていた。

「今度は?」

スメラギの表情が険しい。

「MS生産施設よ」

「軍事施設なら、対象としてはおかしくないんじゃ?」

リヒティが言う。

「問題はタイミング」

クリスが映像を拡大する。

「施設側は操業停止に入ってる。従業員の退避がまだ終わってない」

ラッセが眉を寄せた。

「それで攻撃したのか?」

「みたい」

レイナスは黙って画面を見る。

スローネアインのGNランチャーが施設を撃ち抜く。

建物が崩れる。

逃げる人々。

その上空を三機のガンダムが通過していく。

「……あいつら」

ロックオンの声が低い。

アレルヤが映像から目を逸らさない。

「人が残ってるって知らなかった可能性は?」

「あるわ」

スメラギは否定しなかった。

「私たちには彼らがどんな情報を持っていたか分からない。だから意図までは断定できない」

レイナスが口を開く。

「でも、これで二度目だ」

「ええ」

「一度なら見落とし。二度なら?」

スメラギは答えなかった。

レイナスも、それ以上は言わなかった。

まだ断定するには早い。

だが、少なくとも最初に会った時より警戒する理由は増えている。

刹那が画面を見据える。

「これは、ガンダムのすることなのか」

ティエリアが刹那を見る。

「感情で判断するな、刹那・F・セイエイ」

「感情ではない」

刹那は振り返らなかった。

「俺たちの武力介入と違う」

「……そうだな」

珍しくレイナスがすぐ同意した。

「同じじゃない」

ティエリアがレイナスを見る。

「君まで断定するのか?」

「方法の話だよ。正しいか間違ってるかじゃない」

レイナスは画面を指した。

「俺たちは攻撃する前に、スメラギが頭抱えるくらい条件を詰めるだろ。民間人がいる、撤退路がある、増援が来る、予定がずれる。その度に面倒なくらい考える」

スメラギが横目を向ける。

「面倒で悪かったわね」

「褒めてるんだよ」

「そう聞こえないけど」

「言葉ってのは難しいな」

一瞬だけ空気が緩む。

だが、レイナスはすぐ画面へ戻った。

「でも、あいつらの戦い方からはそれが見えない」

スメラギも再び映像を見る。

「ええ」

そして、静かに告げた。

「監視を強化するわ」

          ◇

同日夜――プトレマイオス・展望区画

地球が見える。

レイナスは一人、窓の前に立っていた。

背後から足音。

「ここにいたのか」

刹那だった。

「どうした?」

「別に」

刹那はレイナスの隣まで来ると、地球を見る。

しばらく二人とも黙っていた。

先に口を開いたのは刹那だった。

「お前は、トリニティをどう思う」

「難しい質問だな」

「答えろ」

「急かすなよ。百歳超えると考えるのにも時間が――」

刹那がレイナスを見る。

「ボケたか?」

「ひでぇなおい!」

反射的に声が出た。

刹那は真顔だった。

冗談なのか、本気なのか。

判断がつかない。

レイナスは少しだけ目を細める。

「……誰に教わった、それ」

「ロックオンとクリスが言っていた」

「犯人が二人とも簡単に割れたな」

「違うのか?」

「違う。まだそこまで行ってない」

「そうか」

「納得が早いのも腹立つな……」

刹那は再び地球へ視線を戻した。

レイナスも小さく息を吐く。

「まったく。変なところだけ馴染んできたな、お前」

「お前が言うな」

レイナスが横を見る。

「……最近、強くなったな。そういう方面でも」

刹那は答えなかった。

レイナスは苦笑して、地球へ視線を戻す。

「まあいい。トリニティの話だったな」

今度は声から軽さを消した。

「正直に言えば、分からない」

「分からない?」

「ああ。俺はあいつらをほとんど知らない。直接話した時間だって短いし、何を考えてるのかも分からない」

「だが、行動は見た」

「見た」

レイナスは地球へ目を向ける。

「だから、今のやり方は好きじゃない。それだけなら言える」

「……そうか」

「刹那は?」

「俺は――」

言葉が止まる。

レイナスは待った。

今度は急かさない。

しばらくして、刹那が言う。

「ガンダムは、あんなことをするためのものじゃない」

レイナスは少しだけ刹那を見る。

「お前にとっては、そうなんだろうな」

「お前は違うのか」

「俺はガンダムって名前に、そこまで神聖な意味は持ってないよ」

刹那の目が僅かに鋭くなる。

「でも」

レイナスは続けた。

「力を持ってる奴が、持ってない奴をどこまで巻き込んでいいかって話なら別だ」

地球の青い光が二人を照らす。

「強い力を持ってるから好きにしていい、なんて話になったら――」

レイナスは自分の手を見る。

その手には、モビルスーツを破壊できる力がある。

「俺が一番、笑えないからな」

刹那はその手を見る。

何も言わなかった。

その時。

二人の端末が同時に鳴った。

スメラギからの呼び出し。

『レイナス、刹那。ブリッジへ来て』

声が硬い。

レイナスが端末を取る。

「何かあった?」

短い沈黙。

そしてスメラギが答えた。

『トリニティが、また動いたわ』

レイナスと刹那が顔を見合わせる。

今度は、いつもの軽口は出なかった。

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