機動戦士ガンダムOOR   作:ミスト12523

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第26話 理由のない一撃

第26話 理由のない一撃

西暦2307年――地上・民間施設

青い空の下に、白いテーブルが並んでいた。

花で飾られた会場には音楽と笑い声が満ちている。

ルイス・ハレヴィは料理を口に運びながら、少し離れたところにいる新郎新婦を眺めていた。

「いいなぁ……」

隣にいた沙慈・クロスロードが振り向く。

「何が?」

「結婚式」

「今日はそのために来たんだから、結婚式なのは当たり前だよ」

「そうじゃなくて!」

ルイスが沙慈を見る。

「こういうの、いいなって言ってるの!」

「ああ……そういう意味」

「反応遅い!」

沙慈は困ったように笑った。

ルイスはもう一度、新郎新婦を見る。

家族。

親戚。

友人。

誰もが笑っていた。

戦争のニュースは毎日のように流れている。

ソレスタルビーイング。

ガンダム。

世界各地で続く武力介入。

けれど、それらは今、この場所にはなかった。

ここにあるのは、ごく普通の祝いの時間だった。

「沙慈はさ」

「うん?」

「こういうの、どう思う?」

「どうって?」

ルイスが何か言いかける。

その時だった。

空の向こうに、赤い光が見えた。

「……何、あれ?」

沙慈も空を見る。

飛行機ではない。

赤い粒子を残しながら飛ぶ、人型の機体。

ニュースで何度も見た姿に似ている。

「ガンダム……?」

二人が見上げる中。

赤い機体は一度、上空を通り過ぎた。

          ◇

ガンダムスローネドライ・コックピット

ネーナ・トリニティは眼下を眺めた。

「ん?」

色とりどりの飾り。

大勢の人間。

その中心にいる、華やかな衣装を着た男女。

「結婚式?」

楽しそうだった。

笑っている。

自分たちがミッションを続けている間にも。

何も知らず。

何もせず。

ただ楽しそうに。

ネーナの口元から笑みが消える。

「……何かムカつく」

スローネドライが旋回する。

照準が地上へ向いた。

軍事施設ではない。

兵器もない。

敵兵もいない。

ミッションとは何の関係もない。

それでも。

ネーナの指は止まらなかった。

「死んじゃえばいいよ」

ビームが放たれた。

          ◇

地上・結婚式会場

光が落ちてきた。

沙慈には、それしか分からなかった。

直後。

轟音。

身体が宙へ浮く。

何かに叩きつけられた。

耳鳴りがする。

視界が揺れる。

「……っ」

沙慈は地面に手をついた。

何が起きた。

分からない。

煙。

炎。

倒れたテーブル。

さっきまで笑っていた人たちが、地面に倒れている。

「ルイス……?」

返事がない。

沙慈の顔色が変わる。

「ルイス!」

立ち上がる。

足がもつれた。

「ルイス!」

瓦礫を越える。

焦げた装飾を避ける。

そして。

見つけた。

「ルイス!」

駆け寄る。

ルイスは倒れていた。

意識がない。

「ルイス! ルイス!」

沙慈が身体を抱き起こす。

呼吸。

ある。

「誰か! 誰か来てください!」

声を張り上げる。

その頭上を。

赤い粒子だけが遠ざかっていった。

          ◇

同時刻――トリニティ移動中

『ネーナ、遅いぞ』

ヨハンの声が入る。

「ごめんごめん」

ネーナは何事もなかったように答えた。

『何をしていた?』

「ちょっと寄り道」

『寄り道だぁ?』

ミハエルが笑う。

『遊んでんじゃねえぞ、ネーナ』

「ミハ兄に言われたくないんだけど」

『んだと?』

「二人ともやめろ」

ヨハンの声が二人を止める。

『次の行動予定に遅れる。合流しろ』

「はーい」

ドライが加速する。

ネーナは一度だけ後方を見た。

もう結婚式場は見えない。

それ以上、気にすることもなかった。

          ◇

数時間後――プトレマイオス・共有スペース

「……これ、見て」

クリスの声に、何人かが振り向いた。

壁面モニターに民間ニュースが表示されている。

レイナスは飲み物を持ったまま足を止めた。

ロックオン。

アレルヤ。

刹那。

少し遅れてティエリアも画面を見る。

映っているのは、破壊された施設だった。

救急車両。

担架。

泣いている人々。

画面下部には速報の文字。

「ガンダムによる攻撃?」

ロックオンの声が低くなる。

クリスが頷いた。

「現地ではそう報道されてる。結婚式が行われてた施設が、突然攻撃されたって」

アレルヤの表情が曇る。

「僕たちじゃない」

「分かってる」

クリスが映像を切り替えた。

一般人が撮影したと思われる不鮮明な映像。

遠く。

赤い粒子。

そして一瞬だけ映る機影。

ティエリアが目を細める。

「スローネ……」

刹那が立ち上がる。

「トリニティ」

レイナスは黙って映像を見ていた。

映像だけでは三機のどれかまでは分からない。

だが、少なくとも自分たちの四機ではない。

「スメラギには?」

クリスが答える。

「今、ブリッジでも確認してる」

その直後。

艦内通信が入った。

『ロックオン、アレルヤ、ティエリア、刹那。それからレイナス。ブリッジへ来て』

「了解」

レイナスは持っていた飲み物をテーブルに置いた。

一口も飲まないまま。

          ◇

プトレマイオス・ブリッジ

情報はまだ断片的だった。

スメラギは集まった面々を見回す。

「現時点で確認できていることを整理するわ」

メインモニターに事件現場が表示される。

「攻撃されたのは民間施設。結婚式が行われていた。周辺に軍事施設はなく、当時この地域で戦闘も発生していない」

ロックオンが腕を組む。

「誤射って線は?」

「まだ否定はできない」

スメラギは即答した。

「ただし、その可能性は高くないと見てる」

別の映像。

遠距離から撮影されたスローネドライ。

今度は機影が比較的鮮明だった。

クリスが説明する。

「複数の映像を時系列で照合した結果、現場付近を飛行していたのはスローネドライの可能性が高い」

「ネーナ・トリニティ……」

アレルヤが呟く。

刹那の目が鋭くなる。

レイナスはスメラギを見る。

「射撃の瞬間は?」

「直接捉えた映像はない」

「なら、まだ確定じゃないか」

ロックオンがレイナスを見る。

「庇うのか?」

「逆だよ」

レイナスは画面から目を離さない。

「こういう時こそ、確定してないものまで事実に混ぜない方がいい」

声は落ち着いている。

「ドライが現場にいた可能性が高い。直後に攻撃が起きた。そこまでは分かる。でも、何を狙って撃ったのかは分からない」

スメラギが頷く。

「ええ。だからトリニティへ確認を取る」

ティエリアが言う。

「ヴェーダに記録は?」

「こちらからアクセスできる範囲には、この場所を武力介入対象とした記録はないわ」

「ならば独断か」

「それもまだ断定しない」

スメラギの返答に、ティエリアは口を閉じる。

レイナスは少しだけスメラギを見る。

「慎重だな」

「あなたもでしょう?」

「俺は慎重っていうより、後から前提がひっくり返るのが嫌いなんだよ」

「似たようなものよ」

「仕事でそれやられると、それまで作ったものが全部無駄になるからな」

ロックオンが呆れたように見る。

「こんな時まで仕事の話かよ」

「嫌な経験ほど身につくんだよ」

それきり、レイナスも軽口を止めた。

モニターには被害者数が更新され続けている。

数字が増える。

ただの数字ではない。

さっきまで結婚式に参加していた人間だ。

刹那が口を開く。

「理由を聞く」

スメラギが見る。

「トリニティに?」

「ああ」

「私もそのつもりよ」

「俺が行く」

「場所も分からないのに?」

刹那が黙る。

レイナスが横から言う。

「見つかってからでいいだろ」

刹那が振り向く。

「また撃ったらどうする」

「その可能性はある」

「なら――」

「だから急ぐ。でも、急ぐのと闇雲に飛び出すのは違う」

レイナスは刹那の目を見る。

「居場所を掴む。理由を確認する。そこまでは必要だ」

刹那は数秒黙り、やがて頷いた。

「分かった」

レイナスもそれ以上は言わない。

今はまだ。

何が起きたのかを確定させる段階だった。

だが。

もし映像から推測される通り。

ネーナが戦争とは無関係な人間を、自分の意思で狙ったのなら。

その時どうするかについて、レイナスの中に迷いはなかった。

          ◇

地上・医療施設

夜になっていた。

沙慈は廊下の椅子に座っていた。

何時間ここにいるのか、もう分からない。

人が行き交う。

医師。

看護師。

家族を探す人。

泣いている人。

その中で名前を呼ばれた。

「クロスロードさん」

沙慈が立ち上がる。

「ルイスは……?」

医師は少し間を置いて答えた。

「命に別状はありません」

力が抜ける。

壁に手をついた。

「よかった……」

生きている。

その言葉だけで胸がいっぱいになる。

しかし。

医師の表情は変わらなかった。

「ただ――」

沙慈が顔を上げる。

「負傷は軽くありません」

          ◇

プトレマイオス・ブリッジ

「応答なし」

クリスが振り返る。

スメラギが眉を寄せる。

トリニティへの通信は繰り返している。

返事はない。

レイナスは壁に寄りかかったまま、腕を組んでいた。

「意図的に無視してるかどうかも、今は分からないか」

「そうね。通信状況そのものが不明だもの」

「じゃあ、待つしかないな」

刹那がレイナスを見る。

「待つのか」

「何もしないって意味じゃない」

レイナスはモニターに映る三機のスローネの資料を見る。

「探す。見つける。聞く」

「その後は?」

刹那の問いに、レイナスは少しだけ目を細めた。

「答え次第だ」

短い返事だった。

その時。

クリスの端末に新しい情報が入る。

「スメラギさん」

「何?」

クリスの表情が変わる。

「トリニティの新しい活動情報」

全員の視線が集まった。

「また武力介入を始めたみたい」

スメラギが立ち上がる。

「場所は?」

クリスが座標を表示する。

今回の標的は軍事関連施設だった。

結婚式場を攻撃した直後。

何事もなかったように。

トリニティは次の武力介入へ移っていた。

刹那が画面を睨む。

レイナスもその座標を見る。

「……なるほど」

ロックオンが横を見る。

「何がだ?」

「少なくとも」

レイナスは壁から背を離した。

「向こうは、立ち止まるつもりはないらしい」

スメラギが次々と指示を出し始める。

トリニティの位置。

進路。

次の目標。

接触可能な地点。

必要な情報が集められていく。

レイナスはその横で、スローネドライの機体情報を開いた。

まだ理由は分からない。

だから、まだ決めない。

だが答えが出た時には。

次に取る行動を迷うつもりもなかった。

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