機動戦士ガンダムOOR   作:ミスト12523

27 / 62
第27話 決別

第27話 決別

西暦2307年――プトレマイオス・ブリッジ

トリニティの追跡は続いていた。

結婚式場への攻撃後、三機のスローネは複数の軍事関連施設へ武力介入を行っている。

止まる様子はない。

クリスが各地から集まる情報を時系列に並べていく。

「ドライが結婚式場付近で確認されたのが、この時間。その後、約二十分でアインとツヴァイに合流してる」

地図上の光点が動く。

「それから三機で次の目標へ移動。攻撃終了後はこの方向に離脱してる」

スメラギが表示を確認する。

「現在位置は?」

「正確には分からない。GN粒子の影響もあるし、ずっと追えるわけじゃないから」

レイナスは腕を組み、三機の移動経路を眺めていた。

「結婚式場へ寄ったのはドライだけ?」

「今確認できてる情報ではね」

「他の二機は先に進んでた?」

「たぶん。アインとツヴァイらしい機影は別方向で確認されてる」

レイナスが小さく頷く。

一つだけ、可能性が高くなった。

「あの攻撃、三人で決めたわけじゃなさそうだな」

ティエリアが反応する。

「まだ断定はできない」

「もちろん」

レイナスはあっさり認めた。

「でも、少なくとも三機揃って撃ちに来たわけじゃない。それだけでも分けて考える材料にはなる」

ロックオンが腕を組む。

「ネーナの独断かもしれねえってことか」

「可能性は高くなった」

刹那がモニターを見る。

「なら、ネーナ・トリニティに聞く」

「そのためにも、まず見つけないとな」

刹那は黙った。

レイナスが横目で見る。

「焦ってる?」

「……ああ」

「俺もだよ」

刹那が僅かに顔を向ける。

「だから間違えないようにしよう。急いだ結果、別の奴を殴りましたじゃ笑えない」

ロックオンが鼻を鳴らす。

「お前なら殴られた方が笑えねえよ」

「加減はするさ」

「信用ならねえ」

「最近俺の信用、安売りされてない?」

「元値が高かったみてえに言うな」

スメラギが二人を見る。

「そこ。真面目に」

「真面目だよ」

「半分くらいはね」

「半分か」

それでも。

張り詰めていた空気がほんの少しだけ緩んだ。

          ◇

地上――トリニティ活動拠点

「ネーナ」

ヨハン・トリニティの声に、ネーナが振り返った。

「何?」

「確認したいことがある」

端末に映像が表示される。

破壊された結婚式場。

ネーナの目が僅かに動く。

「ああ、そこ?」

ヨハンの眉が寄る。

「お前がやったのか」

「うん」

あまりにも簡単な返事だった。

ミハエルが横から画面を覗く。

「何だこれ。軍の施設じゃねえだろ」

「結婚式やってた」

「は?」

「楽しそうだったから」

ミハエルが一瞬、言葉を失う。

ネーナは続ける。

「こっちはミッションやってるのにさ。何かムカついちゃって」

ヨハンの表情が険しくなった。

「それで攻撃したのか?」

「そうだけど?」

「なぜそんなことをした!」

珍しく声を荒らげたヨハンに、ネーナが目を丸くする。

「何で怒るの?」

「我々の目的と何の関係もない民間人だ!」

「でも、別にいいじゃん」

「よくない!」

ネーナの顔から笑みが消える。

「……何よ」

「我々は戦争根絶のために武力介入を行っている。無関係な民間人を気分で攻撃することは、我々の任務ではない」

「分かったよ。もう」

明らかに納得していない。

ただ怒られたから話を終わらせたい。

そんな返事だった。

ヨハンにも分かっていた。

「二度とするな」

「はいはい」

「ネーナ」

「しないってば」

ネーナは背を向ける。

ミハエルがヨハンを見る。

「そんな怒ることか?」

「当然だ」

「けどよ、俺たちが今まで殺した奴だって――」

「同じではない」

ヨハンが遮った。

「少なくとも我々は、武力介入という目的の下で戦闘行為を行っている」

ミハエルは肩をすくめる。

「俺には大して変わらねえけどな」

ヨハンは答えなかった。

二人を見る。

これまでにも危うさはあった。

だが。

今回の行為は違う。

ヨハン自身、それを理解していた。

それでも。

三人でなければ、彼らのミッションは続けられない。

ヨハンは端末を閉じた。

「次のミッションを確認する」

結局。

それ以上の処分はなかった。

          ◇

地上――医療施設

ルイスは生きていた。

沙慈はベッドの横に座り、その寝顔を見つめている。

何度見ても。

そこにいる。

呼吸している。

それだけで安心する。

けれど、視線を少し下へ向ければ現実がある。

左手がない。

医師から説明は受けた。

再生治療。

通常ならば適用できる。

だが傷口から検出された特殊な粒子が、細胞の再生を阻害している。

治療は成功しなかった。

ガンダムが放出していた粒子。

その可能性が高いという。

ルイスが目を開けた。

「……沙慈」

「起きた?」

「うん」

まだ声に力がない。

沙慈は無理に笑おうとした。

「何か欲しいものある? 水とか――」

「ママは?」

言葉が止まる。

ルイスが沙慈を見る。

「パパは?」

沙慈は答えられなかった。

それだけで十分だった。

ルイスの視線が落ちる。

しばらく何も言わない。

「……みんな?」

沙慈は唇を噛んだ。

「……うん」

ルイスは目を閉じる。

右手だけが、シーツを強く掴んだ。

「私……」

声が震える。

「何かしたのかな」

「してないよ」

沙慈はすぐに答えた。

「ルイスは何もしてない」

「じゃあ……」

涙が頬を伝う。

「なんで?」

答えられなかった。

沙慈にも分からない。

どうしてガンダムが、あの場所を撃ったのか。

どうして自分たちだったのか。

理由など。

どこにもなかった。

          ◇

プトレマイオス・ブリッジ

翌日。

クリスが声を上げた。

「スメラギさん。トリニティから通信」

全員が振り向く。

「繋いで」

メインモニターが切り替わる。

映ったのはヨハンだった。

『ソレスタルビーイングからの通信を確認した』

スメラギが正面を見る。

「確認したいことがあります」

『先日の民間施設への攻撃についてだろう』

空気が変わる。

刹那が一歩前へ出た。

スメラギが先に尋ねる。

「スローネドライによる攻撃ですか?」

短い沈黙。

『……そうだ』

アレルヤの表情が曇る。

スメラギは続けた。

「ミッションだったの?」

『違う』

今度は即答だった。

「では、なぜ?」

ヨハンの表情が僅かに硬くなる。

『ネーナの独断だ』

ロックオンの拳が握られる。

刹那が低い声で問う。

「理由は」

ヨハンが刹那を見る。

『本人から確認した』

「何だ」

ヨハンは一瞬だけ躊躇した。

だが。

隠さなかった。

『結婚式を楽しんでいる人々を見て、不快に感じた。それが理由だそうだ』

誰も喋らなかった。

レイナスも。

ただヨハンを見ていた。

やがてロックオンが口を開く。

「……それだけか?」

『ああ』

「それだけで撃ったのか?」

『そうだ』

ロックオンの声が低くなる。

「ふざけんなよ」

ヨハンは反論しなかった。

刹那が言う。

「ネーナをどうした」

『厳重に注意した。二度と同様の行為を行わないよう命じている』

「それだけか」

『我々には任務がある』

刹那の表情が変わる。

「人を殺した」

『理解している』

「理解していない」

『刹那・F・セイエイ』

「戦争と関係のない人間を、自分の気分で殺した」

ヨハンは黙る。

刹那の拳が握られる。

「そんな者にガンダムを使わせるのか」

『ネーナは我々に必要なガンダムマイスターだ』

「違う」

即答だった。

「ネーナ・トリニティはガンダムマイスターではない」

ヨハンの目が僅かに細くなる。

『それを決めるのは君ではない』

刹那は退かなかった。

「俺は認めない」

通信越しに二人の視線がぶつかる。

そこでレイナスが初めて口を開いた。

「ヨハン」

ヨハンの視線が動く。

『レイナス・レノアーク』

「一つだけ確認させてくれ」

『何だ』

「ネーナ本人は、自分がやったことをどう思ってる?」

ヨハンが黙った。

その間で。

十分だった。

レイナスは僅かに息を吐く。

「反省してないんだな」

『……二度と行わないよう、私から命令した』

「聞いてるのはそこじゃないよ」

声は穏やかなままだった。

「自分が悪いことをしたと思ってるのかって聞いてる」

ヨハンは答えなかった。

レイナスはそれ以上追及しない。

「分かった」

『何がだ』

「こっちの話だ」

スメラギがレイナスを見る。

表情は変わっていない。

怒鳴ってもいない。

ただ。

何かを決めた顔だった。

ヨハンが言う。

『我々には今後も武力介入を継続する使命がある』

「それも分かった」

『なら――』

「ただし」

レイナスが遮った。

「もし次に、ネーナが戦争と関係ない人間を狙ったら」

ヨハンが黙る。

「俺が止める」

『それは我々への敵対宣言か?』

「違う」

レイナスは即答した。

「今のはネーナ個人への話だ」

ロックオンが横目で見る。

レイナスは続ける。

「ヨハン。あんたが止められるなら、それでいい。ミハエルが止めてもいい。本人がやらないなら一番いい」

一拍置く。

「でも、またやろうとした時に誰も止めないなら、俺が止める」

『どのような手段を使ってでも、か』

「必要なら」

そこに迷いはなかった。

ヨハンはしばらくレイナスを見る。

『……忠告として受け取っておこう』

「そうしてくれ」

通信が切れた。

メインモニターが暗くなる。

しばらく誰も口を開かなかった。

やがてアレルヤがレイナスを見る。

「殺すことになっても?」

レイナスは振り向く。

「止めるために必要ならな」

「迷わないの?」

「何を優先するかは決まってる」

レイナスは椅子の背に手を置いた。

「撃とうとしてる側を無傷で済ませるために、撃たれる側を見捨てる気はないよ」

アレルヤは黙った。

「もちろん、殺さずに止められるならそうする。それで済むならわざわざ殺す理由もない」

レイナスは暗くなったモニターを見る。

「でも、選べない状況なら選ぶ。それだけだ」

スメラギが静かに息を吐いた。

「トリニティへの対応を変更するわ」

全員の視線が集まる。

「これまでのような同一組織の別働隊としては扱わない。行動を監視し、必要なら私たち自身が介入する」

ティエリアが僅かに顔を伏せる。

「ヴェーダの判断を待たずに、ですか」

「民間人への意図的な攻撃が確認された以上、放置はできない」

ティエリアはすぐには答えなかった。

やがて。

「……了解しました」

刹那は暗いモニターを見たまま言う。

「俺も止める」

レイナスが隣を見る。

「そうだな」

「ガンダムで、あんなことをさせない」

その言葉には、刹那にしか分からない重さがあった。

レイナスは茶化さなかった。

          ◇

数日後――プトレマイオス・ブリッジ

トリニティとの関係が変わっても、世界は待ってくれなかった。

むしろ状況は、それまで以上の速さで動き始めていた。

「ユニオン、人類革新連盟、AEUが軍事協力……?」

ロックオンが表示された情報を見る。

スメラギが頷く。

「三大国家群がソレスタルビーイングへの対抗で足並みを揃え始めている」

アレルヤが驚く。

「あれだけ対立していたのに?」

「共通の敵がいれば、昨日まで争っていた相手とも手を組めるわ」

レイナスは腕を組む。

「皮肉なもんだな。戦争をなくそうと殴り続けたら、殴られた側が仲良くなった」

「笑えないけどね」

スメラギが画面を切り替える。

「もっと笑えない情報があるわ」

表示された機体を見て。

レイナスの目が変わった。

「……何だ、これ」

見覚えのないモビルスーツ。

だが。

その背後に放出されているものには、見覚えがある。

GN粒子。

イアンが低く言う。

「GNドライヴ搭載機じゃ」

ティエリアが立ち上がる。

「あり得ない!」

「でも、ある」

レイナスは画面へ近づく。

「太陽炉は?」

イアンがデータを見る。

「ワシらのものとは違う。疑似太陽炉……GNドライヴ[T]と見るべきじゃな」

「量産できるのか?」

「少なくとも、複数存在しとる」

レイナスは新型機を食い入るように見る。

ロックオンが隣から睨む。

「お前」

「何?」

「ちょっと楽しそうだろ」

「敵が強くなったんだぞ。楽しんでる場合じゃない」

「顔がそう言ってねえ」

「未知の新型MSを見せられて興味を持つのは、人として正常な反応だよ」

「お前基準で人類を語るな」

「失礼だな」

だが、すぐにレイナスの表情も戻った。

「……出所は?」

スメラギを見る。

「分からない」

「トリニティが出てきた直後に、三大国家群へGNドライヴ搭載機か」

「ええ」

「偶然?」

スメラギは答えない。

レイナスも答えを求めてはいなかった。

ティエリアは別のところを見ていた。

ヴェーダ。

自分たちだけが持っているはずだった技術。

知らないガンダム。

知らないガンダムマイスター。

そして今度は。

世界へばら撒かれた、GNドライヴ搭載型モビルスーツ。

クリスが新しい情報を開く。

「機体の名称が判明したよ」

メインモニターに文字が表示された。

GNX-603T GN-X

レイナスがその名を読む。

「ジンクス……」

三大国家群へ渡った、新たな力。

今度はトリニティだけの問題ではない。

ソレスタルビーイングだけが持っていたはずの優位性そのものが、失われようとしていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。