機動戦士ガンダムOOR   作:ミスト12523

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第33話 スローネツヴァイ

第33話 スローネツヴァイ

西暦2307年――トリニティ拠点・格納区画

「ミハエル!」

ヨハンの叫びが格納区画に響いた。

だが、床に倒れた弟は動かない。

ネーナはその場に立ち尽くしていた。ほんの数秒前まで、いつものように苛立ちをぶつけていた兄が、今は血を流して倒れている。

理解が追いつかない。

「ミハ兄……?」

呼びかけても返事はなかった。

その横を、サーシェスは何事もなかったように通り過ぎようとする。

向かう先はスローネツヴァイ。

ヨハンが銃を抜いた。

「止まれ!」

サーシェスは足を止めた。

「ラグナを殺したのも貴様か!」

「ああ?」

肩越しに振り返る。

ヨハンの銃口は揺れていない。だが、その顔には普段の冷静さが消えていた。

「ラグナ・ハーヴェイは殺された。そして直後に貴様がここへ来た」

「察しがいいじゃねえか」

その一言で十分だった。

ヨハンが引き金を引く。

サーシェスは射線から身体を外し、格納区画の設備を遮蔽物にして走った。続けて放たれた銃弾が金属壁を叩き、甲高い音を撒き散らす。

「ネーナ! ドライへ行け!」

ヨハンの声で、ようやくネーナが我に返った。

「でも、ミハ兄が――」

「行け!」

ネーナの肩が震える。

倒れたミハエルから目を離せない。

それでもヨハンの声に押されるように、スローネドライへ走り出した。

その間にも銃撃は続いていた。

ヨハンが距離を詰めようとする。しかしサーシェスは撃ち合う気など最初からなかった。

目的は一つしかない。

ツヴァイ。

「邪魔なんだよ!」

サーシェスが応射する。

ヨハンが身を伏せた一瞬に、男はツヴァイの昇降機へ飛び乗った。

「待て!」

昇降機が上昇する。

ヨハンの放った弾丸がその下部に火花を散らしたが、止めるには至らない。

サーシェスは上昇しながら、眼下のヨハンへ笑みを向けた。

「悪いな。こいつは俺がもらうぜ!」

「動かせると思うな!」

ヨハンには確信があった。

ガンダムスローネは、そこに座れば誰でも使える兵器ではない。

だが――。

          ◇

スローネツヴァイ・コクピット

サーシェスがシートへ身体を滑り込ませる。

起動操作。

一瞬の沈黙。

直後、モニターが次々と点灯した。

機体各部へエネルギーが巡り、疑似GNドライヴが唸りを上げる。

「ほう……」

サーシェスの顔に歓喜が浮かんだ。

初めて触れる機体。

初めて見る操作系。

それでも、モビルスーツである以上は理解できる。

機体が何を要求し、自分の操作にどう応えるのか。

サーシェスは短時間で感覚を掴んでいく。

「こいつはいい」

ツヴァイのアイカメラが光る。

「いいじゃねえか、ガンダム!」

          ◇

トリニティ拠点・格納区画

「そんな……!」

ヨハンが見上げる。

ツヴァイが動いていた。

間違いなくサーシェスの操作で。

「なぜだ……!」

考えている時間はなかった。

巨大な脚が格納区画の床を踏み抜く。

ヨハンは転がるように退避し、そのままスローネアインへ走った。

『ヨハン兄!』

通信にネーナの声が入る。

ドライはすでに起動していた。

「ネーナ、離れろ!」

『でも!』

「奴はツヴァイを奪った! ここにいればお前も狙われる!」

『ミハ兄は!?』

ヨハンの足が、一瞬だけ止まった。

床に倒れた弟を見る。

助けたい。

だが――もう分かっていた。

「……ミハエルは死んだ」

『――っ』

通信の向こうで、ネーナが息を呑む。

「ネーナ、聞け!」

ヨハンはアインへ乗り込む。

「今は生き残れ!」

その言葉と同時に、ツヴァイが格納区画を突き破った。

赤いGN粒子が噴き出し、建造物の一部が吹き飛ぶ。

その中心から、奪われたガンダムが空へ舞い上がった。

          ◇

地上・王留美の拠点

「レイナス!」

王留美からの通信が入った時、レイナスは移動中だった。

車両の後部座席で端末を開く。

「何か分かった?」

『ラグナ・ハーヴェイ邸への出入りを確認しました』

表示された映像は粗い。

だが、そこに映った男の顔は見間違えようがなかった。

レイナスの表情から、それまでの軽さが消える。

「……サーシェス」

絹江を殺そうとした男。

王留美から送られてきた時刻を見る。

ラグナの推定死亡時刻と近い。

『これだけで殺害そのものを証明することはできません』

「ああ。でも、追う理由としては十分だ」

映像の続きを確認する。

サーシェスが邸宅を離れている。

その後の足取りは途中で途切れていた。

「移動先は?」

『現在追跡しています』

「トリニティの場所と重ならないか確認してくれ」

短い沈黙。

『……なぜトリニティを?』

「ラグナと繋がってた可能性がある。ラグナを殺した奴が次に何を取りに行くか考えたら、そっちも候補になる」

レイナスは端末を閉じかけて、手を止めた。

嫌な感覚がある。

根拠のない予感ではない。

ラグナが死んだ。

サーシェスがその邸宅にいた。

トリニティは連絡を絶っている。

そして彼らは、三機のガンダムを持っている。

『確認します』

「頼みます」

今度こそ通信を切る。

運転席へ声をかけた。

「すみません。行き先を変えるかもしれません」

          ◇

トリニティ拠点・上空

スローネアインとドライが空へ上がる。

その正面に、ツヴァイがいた。

同じ系列の三機。

つい先ほどまで味方だった機体が、今は明確な敵意を向けている。

『貴様……!』

ヨハンの声が通信へ響く。

『ツヴァイから降りろ!』

『嫌だね』

サーシェスは機体を旋回させた。

操作に慣れるための動き。

それだけでツヴァイが鋭く空を切る。

『こんないい機体、返せって方が無理な話だろ』

『それはミハエルのガンダムだ!』

『もう使わねえだろ?』

「っ……!」

ネーナが息を呑む。

ヨハンの中で何かが切れた。

アインがGNランチャーを構える。

『サーシェス!』

砲撃。

サーシェスはツヴァイを急上昇させた。

赤い光条がその下を通過する。

『そうだ! そっちの方が殺しがいがある!』

サーシェスの笑い声が通信に混じる。

『ガンダムってのは、こうやって使うんだろうが!』

GNファングが射出された。

ヨハンの目が見開かれる。

ツヴァイの武装。

本来ミハエルが操っていたそれが、今は自分たちへ向かってくる。

複数のファングが軌道を変えながらアインを包囲した。

「ヨハン兄!」

ドライが援護射撃を行う。

一基が撃ち落とされる。

だが残るファングが散開し、今度はドライへ向かった。

『ネーナ、下がれ!』

ヨハンが割り込む。

アインの射撃でファングを牽制し、そのままツヴァイへ突進した。

サーシェスは笑う。

『兄貴らしいじゃねえか!』

二機が交錯する。

GN粒子が空中で入り混じった。

          ◇

プトレマイオス・ブリッジ

「戦闘反応を確認!」

クリスの声でブリッジの空気が変わった。

「場所は?」

スメラギが席を立つ。

「トリニティの最終確認地点付近! GN粒子反応――三機!」

ロックオンが振り返る。

「三機?」

「全部スローネと一致!」

一瞬、誰も意味を理解できなかった。

三機が揃っているなら、なぜ戦闘反応が出る。

答えを出したのはティエリアだった。

「同士討ちか?」

「分からない!」

クリスが観測データを拡大する。

「でもツヴァイがアインとドライを攻撃してる!」

刹那の目が鋭くなる。

「ツヴァイが?」

スメラギが即座に指示を出す。

「通信を繋いで!」

「呼びかけます!」

フェルトが回線を開く。

『こちらソレスタルビーイング、プトレマイオス。チームトリニティ、応答して』

ノイズ。

返事はない。

再び呼びかける。

『ヨハン・トリニティ、応答して』

今度は途切れ途切れに声が入った。

『――ツヴァイが――奪われ――』

ロックオンの表情が変わる。

「奪われた?」

『――アリー・アル――サーシェス――』

刹那が立ち上がった。

「サーシェス!」

絹江を襲った男。

自分をKPSAへ引き入れた男。

両親を殺させた男。

その名だけで、刹那には十分だった。

「スメラギ・李・ノリエガ」

「待ちなさい、刹那」

スメラギはすでに状況を確認している。

距離。

現在位置。

到達時間。

「今からエクシアを出してもすぐには届かない」

刹那の拳が強く握られる。

ロックオンもモニターを睨んでいた。

サーシェス。

KPSA。

家族を奪った存在へ繋がる男。

「……あの野郎」

フェルトの端末に別回線から通信が入る。

「スメラギさん。王留美から緊急通信です」

「繋いで」

王留美の映像が開く。

『ラグナ・ハーヴェイ殺害に関して、アリー・アル・サーシェスの関与が強く疑われます』

「こっちでも確認したわ。サーシェスがツヴァイを奪った」

王留美の表情が変わる。

その直後、別の声が通信へ割り込んだ。

『ツヴァイ?』

レイナスだった。

移動中らしく、映像の背景が揺れている。

『スローネツヴァイを、サーシェスが?』

「そうみたい」

スメラギが答える。

「今、アインとドライと交戦してる」

レイナスが数秒黙る。

『場所を送ってくれ』

「レイナス?」

『俺の方が近いなら行く』

スメラギが位置情報を確認する。

だが、すぐに表情を曇らせた。

「駄目。あなたの現在地からでも距離がある。それに移動手段が足りない」

レイナスは黙って数字を見る。

地上を普通に移動して間に合う距離ではない。

アニマで身体能力を強化して走るような話でもなかった。

まして、今の彼にはモビルスーツがない。

『……そうか』

それだけ言う。

無理に行くとは言わなかった。

行けるなら行く。

行けないなら、行けるふりをして時間を浪費しない。

『戦闘データをこっちにも回してください』

「分かった」

通信が切れる。

刹那はまだ戦闘地点を見ていた。

「サーシェス……」

          ◇

トリニティ拠点・上空

アインの装甲をGNファングが抉った。

警報がコクピットに鳴り響く。

ヨハンは機体を立て直しながら、ツヴァイを睨む。

サーシェスは、すでにツヴァイを自分の手足のように動かし始めていた。

異常な適応の速さだった。

『ヨハン兄、逃げよう!』

ネーナの声が震えている。

『このままじゃ――』

「ネーナ」

ヨハンは静かに妹の名を呼んだ。

視線の先にはツヴァイ。

その向こうに、弟を殺した男がいる。

だが怒りだけで勝てる相手ではないことも理解していた。

「お前は逃げろ」

『何言ってるの!?』

「ドライで離脱しろ」

『嫌!』

「ネーナ!」

強い声に、通信が静まる。

ヨハンは一度だけ目を閉じた。

これまで三人で行動してきた。

それが当然だった。

自分が判断し、ミハエルが前へ出て、ネーナが好き勝手に騒ぐ。

その形はもう戻らない。

「生きろ」

『ヨハン兄……』

「行け!」

アインが反転する。

ドライから離れ、単機でツヴァイへ向かう。

サーシェスがその動きを見て笑った。

『妹を逃がすために残るか』

「貴様だけは――!」

GNランチャーが光る。

『殺す!』

「いいねえ!」

ツヴァイが正面から加速した。

二機の赤いガンダムが、互いを目掛けて突っ込んでいく。

ネーナは動けなかった。

「ヨハン兄……」

逃げろと言われた。

それでも、スローネドライの操縦桿から手が離れない。

その視界の先で――

アインとツヴァイが激突した。

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