機動戦士ガンダムOOR   作:ミスト12523

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第41話 因縁と昇華

第41話 因縁と昇華

西暦2307年――宇宙・プトレマイオス周辺宙域

休息は、長く続かなかった。

国連軍が再び動いた。

損傷機を後方へ送り、残存するGN-Xを再編成。艦隊の配置を改めた上で、ソレスタルビーイングへの攻撃を再開した。

プトレマイオスのブリッジに警報が響く。

「敵艦隊、進路変更! こちらへ向かってきます!」

クリスの報告と同時に、フェルトがMS反応を数える。

「GN-X、多数。前回より数は減っています」

「それでも十分多いわね」

スメラギは表示を睨んだ。

TRANS-AMという切り札を得た。

だが、無制限には使えない。

前回の戦闘で分かった通り、使用後には粒子量が大きく低下する。

最初から頼るわけにはいかなかった。

「各ガンダム、発進準備」

スメラギは指示を飛ばす。

そしてもう一機。

格納庫の表示を見る。

「GN-Xは?」

『いつでも出せるぞ』

イアンから返答。

『解析は一通り終わった。擬似GNドライヴにも今のところ異常なしだ』

「レイナス」

『こっちも問題ない』

スメラギは少しだけ間を置いた。

「あなた、何か試すつもりでしょう」

通信の向こうが静かになる。

『……顔も見えてないのによく分かるな』

「付き合いも長くなったもの」

『それは喜んでいいのか微妙だな』

「無茶はしないで」

『そこは努力するよ。新しい機体を手に入れたばかりで、修理代を増やす趣味はない』

スメラギは苦笑した。

「それ、あなたの機体じゃないから」

『なら余計に壊せないな。借り物を壊すと話が面倒になる』

「……もういいわ。出て」

『了解』

格納庫のカタパルトへGN-Xが移動する。

レイナスは操縦桿を握った。

正面のハッチが開く。

宇宙。

そして、その先に待つ戦場。

「さて」

GN-Xの擬似GNドライヴが唸る。

「試運転にしちゃ、客が多いな」

機体が射出された。

          ◇

戦闘宙域

四機のガンダムと一機のGN-Xが展開する。

国連軍から見れば奇妙な光景だった。

つい先日まで自分たちの側にいた機体が、ガンダムと並んでいる。

『鹵獲された機体だ!』

『識別を確認! 撃て!』

ビームが集中する。

「人気者だな」

レイナスはGN-Xをロールさせ、射線から抜けた。

『敵からすりゃ、そりゃ腹立つだろ』

ロックオンの声。

「気持ちは分かるよ。財布を落として、拾った奴が目の前でその金使ってたら俺でも嫌だ」

『例えが妙に庶民的だな』

「庶民だからな」

言いながらライフルを撃つ。

GN-Xの肩部へ命中。

敵機が姿勢を崩した。

その横をキュリオスが抜けていく。

『レイナス、右から二機!』

「見えてる」

一機目を回避。

二機目へ接近する。

ビームサーベルを抜き、ライフルを持つ腕だけを斬り落とした。

機体の扱いにもかなり慣れてきた。

悪くない。

これなら試せる。

レイナスは一度戦線から距離を取った。

呼吸を整える。

頭に浮かぶのは、何度も見返したTRANS-AMの映像。

これまで自分がやってきたこと。

MSへアニマを流す。

装甲を強くする。

フレームを補強する。

駆動系を押し上げる。

それではない。

「ただ足したんじゃ、前と同じだ」

右手を操縦桿から一度離す。

青白い光が指先に灯る。

アニマ。

それをコクピットから機体へ流していく。

だが――抑える。

タクラマカンの時のように、ただ大量に流し込まない。

機体の構造。

フレーム。

駆動。

推進。

擬似GNドライヴ。

自分が操作しているGN-Xという一つの機械。

その全体を意識する。

「……」

何も起こらない。

「まあ、一発で当たりを引けるほど世の中甘くないか」

警報。

レイナスはすぐに試行を中断した。

GN-Xを動かし、飛んできたビームを回避する。

「外れなら次だ。試す元手はまだある」

再び戦闘へ戻った。

          ◇

その頃。

別方向でデュナメスがGN-Xを狙撃していた。

一発。

敵機のライフルを破壊。

二発目。

別のGN-Xの推進器を撃ち抜く。

『ロックオン、敵機が左から接近!』

フェルトの声。

「分かってる!」

デュナメスが位置を変える。

その時だった。

新たな反応。

GN-Xではない。

高速で戦場へ侵入してくる一機。

赤を基調とした異形のガンダム。

ロックオンの表情が変わった。

「……あれは」

ガンダムスローネツヴァイ。

本来の所有者はもういない。

それを奪った男を、ロックオンは知っている。

通信が開いた。

『見つけたぜ、ソレスタルビーイング!』

聞き覚えのある声。

刹那が反応する。

『サーシェス!』

ロックオンの手が操縦桿を強く握った。

アリー・アル・サーシェス。

KPSA。

家族。

失ったもの。

長い間、胸の奥に沈めていたものが一気に浮かび上がる。

『ロックオン』

フェルトの声。

返事をするまで、一瞬かかった。

「……ああ」

『一人で追わないで』

絹江との約束。

ロックオンは目を閉じた。

そして開く。

「分かってる」

サーシェスを見失うつもりはない。

だが。

復讐だけで飛び込むつもりもなかった。

「刹那」

『何だ』

「あいつは俺がやる」

『……』

「一人で追いかけるって意味じゃない。ここで仕留める」

刹那は数秒黙った。

『了解した』

デュナメスがツヴァイへ向きを変えた。

          ◇

スローネツヴァイ・コクピット

「狙撃型か!」

サーシェスが笑う。

デュナメスから放たれたビームを回避。

すぐにファングを射出する。

複数の端末兵器がデュナメスを包囲した。

「そらよ!」

四方からビーム。

ロックオンは機体を動かしながら射撃する。

一基。

二基。

ファングを撃ち落とす。

残った一基が死角へ回る。

『後ろ!』

フェルトの警告。

デュナメスが身体を捻る。

ビームが肩を掠めた。

「助かった!」

『無茶しないで』

「ああ!」

ツヴァイが接近する。

GNバスターソード。

デュナメスはライフルを捨て、GNビームピストルを抜いた。

射撃。

ツヴァイが回避。

さらに接近。

二機が交差する。

『いい腕じゃねえか、ガンダムマイスター!』

「そりゃどうも!」

ロックオンは距離を取りながら再び射撃する。

『てめえ、俺に何か恨みでもあんのか?』

その言葉に。

ロックオンの目が鋭くなった。

「……あるさ」

『あ?』

「KPSA」

サーシェスの笑みが僅かに消える。

「テロで家族を殺された」

一瞬。

通信が静かになる。

そして。

サーシェスが笑った。

『ハッ! そりゃまた――』

「笑うな」

デュナメスの銃口がツヴァイを捉えた。

射撃。

サーシェスが機体を振る。

ビームが装甲を掠める。

「俺はお前を殺したい」

ロックオンの声は低かった。

「ずっとな」

ツヴァイがファングを展開する。

『だったら殺してみろよ!』

「言われなくても!」

二機が再び激突した。

          ◇

戦闘宙域・別方面

レイナスにも、その通信は届いていた。

サーシェス。

そちらへ視線を向ける。

ツヴァイとデュナメスが交戦している。

向かうべきか。

一瞬だけ考える。

ロックオンは一人ではない。

フェルトが戦況を見ている。

刹那も近い。

そして何より。

ロックオン自身が戦うと決めている。

なら。

今、自分が割り込む場面ではない。

「……あっちは任せるか」

正面。

三機のGN-X。

こちらも仕事が残っている。

「人の因縁に首を突っ込んで、こっちの勘定まで赤字じゃ割に合わないしな」

GN-Xを加速。

一機目の攻撃を回避。

二機目の射線へ一機目を重ねる。

敵が撃てなくなった一瞬に、距離を詰める。

サーベル。

腕を落とす。

三機目からビーム。

回避。

だが遅れた。

左肩へ被弾。

警告表示が出る。

「……早速修理代か。イアンに小言を言われるな」

まだ動く。

問題ない。

レイナスは再び距離を取る。

TRANS-AM。

あれを見て感じたこと。

ただ力を流すだけではない。

機体を構成する一つ一つを補強するだけでもない。

機体全体を――。

「……一段上へ」

呟いた。

今度はアニマを流し込まない。

いや。

流してはいる。

だが目的が違う。

装甲を硬くするためではない。

推力を増すためでもない。

GN-Xという機体全体。

その存在を、一つ上の状態へ押し上げる。

言葉にすれば曖昧だった。

理屈もまだ完全には整理できていない。

だがアニマは、理屈だけで扱ってきた力ではない。

レイナスは感覚を研ぎ澄ませる。

機体と自分。

操縦。

反応。

駆動。

すべてを一つにまとめる。

青白い光がコクピット内部へ広がった。

「――これならどうだ」

アニマが機体全体へ走る。

その瞬間。

GN-Xの挙動が変わった。

「……!」

レイナス自身が最初に驚いた。

加速。

これまでとは違う。

タクラマカンの時とも違う。

無理やり推力を増した感覚ではない。

操縦桿を動かす。

機体が応える。

速い。

いや。

それだけではない。

「そうか」

レイナスの口元が上がる。

ようやく繋がった。

「ただ流し込むんじゃない」

敵GN-Xがライフルを構える。

レイナスは操縦桿を倒した。

青白い光が走る。

敵の照準から、鹵獲GN-Xが消えた。

次の瞬間。

その背後にいた。

「機体ごと、一段上へ持っていけばいいのか」

サーベルを振るう。

敵機のライフルと右腕が同時に切断された。

別のGN-Xが反応する。

遅い。

レイナスはすでに動いている。

一気に距離を詰める。

蹴り。

GN-Xが弾き飛ばされる。

「なるほどな……」

青白い光に包まれたコクピットで、レイナスは機体の状態を確認する。

出力。

反応速度。

推力。

フレーム。

すべてが上がっている。

それでいて、以前のようにアニマで各部を無理やり支えている感覚が薄い。

別物だ。

「こいつはいい」

敵機が迫る。

レイナスは笑みを消した。

「ただし――」

機体各部の数値を見る。

完全ではない。

初めて使う。

どこまで保つかも分からない。

何より。

借り物のGN-Xで限界試験をやるほど無責任ではない。

「調子に乗ると、高くつきそうだな」

出力を抑える。

だが、青白い光は消えない。

敵GN-Xへ向かう。

その姿を、プトレマイオスのセンサーが捉えていた。

          ◇

プトレマイオス・ブリッジ

「レイナス機、出力上昇!」

クリスが声を上げる。

スメラギが表示を見る。

「TRANS-AM?」

「違います!」

フェルトがデータを確認する。

GN粒子の急激な消費ではない。

GN-Xそのものを包む、別のエネルギー反応。

見覚えがある。

「アニマ……」

フェルトが呟いた。

だが。

以前とは違う。

タクラマカンで記録された機体強化より、変化が大きい。

スメラギは青白く輝くGN-Xを見る。

「レイナス」

通信を開く。

「何をしたの?」

少し遅れて返事。

『まだ説明するほど整理できてない』

その声には珍しく、抑えきれない高揚が混じっていた。

『ただ――』

青白いGN-Xが敵機を抜き去る。

『上手くいった』

「名前は?」

今度は少し間があった。

レイナス自身、そこで初めて考えたらしい。

『……そうだな』

赤いTRANS-AM。

それを見たことで辿り着いた。

だが同じものではない。

GN粒子でもない。

アニマを使った、まったく別の強化。

機体をただ強くするのではなく。

今ある段階から、さらに上へ。

『オーバーライズ』

レイナスはそう呼んだ。

『OVER RISE。それでいこう』

          ◇

デュナメス対スローネツヴァイ

青白い光が戦場の一角を駆け抜けた。

だがロックオンは見ていなかった。

目の前には。

家族を奪った男がいる。

ファングが飛来する。

撃ち落とす。

ツヴァイが接近。

GNバスターソード。

デュナメスがかわす。

装甲が削れる。

警告音。

「まだだ!」

ロックオンは機体を反転。

至近距離から撃つ。

ツヴァイの肩が弾けた。

『やるじゃねえか!』

サーシェスは笑っている。

その声が。

ロックオンの中に残る怒りを、さらに掻き立てる。

だが。

操縦は乱れない。

絹江との約束が頭をよぎる。

一人で追わない。

死なない。

ニール・ディランディ。

あの名前を、自分から教えた。

帰る場所を。

自分から一つ増やした。

「悪いな」

ロックオンは照準を合わせる。

「今日は、死んでやる気はない」

『何だぁ?』

「お前を倒して――」

トリガーへ指を掛ける。

「俺は帰る」

デュナメスが撃った。

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