機動戦士ガンダムOOR   作:ミスト12523

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第47話 思わぬ寸志

第47話 思わぬ寸志

西暦2308年――宇宙・国連軍最終決戦宙域

片腕のGN-Xが、傷ついたプトレマイオスの前を横切る。

右腕は失われ、左肩にも損傷。脚部の推力まで落ち始めていた。

それでもレイナスは残ったビームサーベルを握らせ、接近してきたGN-Xへ踏み込んだ。

敵の斬撃を紙一重でかわす。

すれ違いざまに一閃。

GN-Xの胴体が裂け、背後で爆発した。

「……さすがに厳しくなってきたな」

警告表示が増えている。

OVER RISEを使えばまだ動く。だが、使うほど機体の寿命が縮むのも分かっていた。

そんなレイナスの前に、新たな反応が現れた。

一機のGN-X。

戦域の外側から高速で接近してくる。

「増援か」

左手のサーベルを構える。

ところが、そのGN-Xはプトレマイオスにも他のガンダムにも目を向けなかった。

一直線にレイナスへ向かってくる。

そして通信が開いた。

『見つけたぞぉぉぉっ!!』

「……?」

『やっと見つけたぞ、イナクト泥棒!!』

レイナスの眉が動いた。

イナクト。

そこまで言われれば思い出す。

タクラマカンで長時間戦闘を続けていた時、途中から使わせてもらった機体。

正確には、飛行中の機体からパイロットを降ろして、そのまま借りた。

返してはいない。

「ああ……」

『思い出したか!』

「タクラマカンの」

『そうだ! この俺、パトリック・コーラサワーだ!』

名前まで聞いて、ようやく記憶が完全に繋がった。

「そうそう。そんな名前だったな」

『忘れてたのかよぉっ!?』

「悪い。あの時は十八時間くらい働いてたんだ。細かいところまでは覚えてない」

『俺からイナクトを奪ったことが細かいところで済むかぁっ!』

パトリック機がライフルを連射する。

レイナスは機体を左右へ振った。

一発、二発。

回避。

三発目をかわしたところで左脚の推力が一瞬落ち、機体が大きく傾いた。

「っと……」

姿勢を戻す。

警告。

左脚部推進系。

背部スラスター。

フレーム各部。

どこを見ても黄色か赤だった。

対して目の前のGN-Xは、両腕健在。推進器にも目立った損傷なし。ライフルもサーベルも残っている。

レイナスはしばらく相手を見た。

『何だ! 今さら怖気づいたか!』

「いや」

もう一度、自分の機体を見る。

それからパトリック機。

「こいつは思わぬ寸志が貰えそうだ!」

『はぁ!?』

レイナスのGN-Xからビームサーベルの光が消えた。

『お、おい! 何で武器をしまう!』

「その方が都合がいい」

『何の都合だ!?』

レイナスが加速した。

真正面。

パトリックもサーベルを抜く。

『舐めるなよ! 同じ手を二度も食うかぁっ!』

「覚えてるじゃないか」

『忘れるか!!』

振り下ろされるサーベル。

レイナスは直前で機体を横へ逃がした。

だが、損傷した脚部がついてこない。

刃がGN-Xの腰部を掠め、装甲が弾ける。

「……本当に限界だな」

『もらったぁっ!』

パトリックが追う。

レイナスは逃げなかった。

むしろスラスターを吹かし、相手へ突っ込む。

『なっ!?』

二機が激突した。

レイナス機の左腕が、パトリック機の右腕を掴む。

『離せ!』

「それは困る」

『何がだ!』

レイナスは一瞬だけ目を閉じた。

青白い光。

《アニマ》が機体へ流れ込む。

損傷したGN-Xの左腕が、無理やり出力を引き上げた。

パトリック機を引き寄せる。

コクピット同士が近づく。

そこでパトリックも気づいた。

『待て』

「ん?」

『お前……まさか』

レイナスは笑った。

「二度目は話が早くて助かる」

『やっぱりかぁぁぁっ!!』

次の瞬間。

レイナスは自分のGN-Xから離れた。

宇宙空間へ直接。

身体の周囲を青白い《アニマ》が包み、薄い空気の層を保持する。

『出たぁぁぁっ!?』

パトリックが叫ぶ。

『何で宇宙にそのまま出てくるんだよお前は!!』

レイナスは答えず、パトリック機のコクピットへ取りついた。

ハッチへ手を掛ける。

『やめろ!』

金属が軋んだ。

『おい! 待て! それ俺のだぞ!』

「知ってる」

『知っててやるな!』

《アニマ》で強化された指が装甲へ食い込む。

ハッチが歪む。

『また壊すのかよぉっ!』

「普通に開けてくれれば壊さずに済むぞ」

『誰が開けるか!!』

「だよな」

さらに力を込める。

ハッチが外側へひしゃげた。

『ぎゃあああっ! 俺のジンクスがぁぁぁっ!』

「機体より自分の心配した方がいいぞ」

レイナスがコクピットへ手を伸ばす。

『待て待て待て待て!』

「悪いな」

パトリックの身体を掴む。

『俺はこれをやり返すためにここまで来たんだぞ!?』

「そうだったのか」

『そうだよ!』

「じゃあ次は機体を取られない方法を考えてから来てくれ」

『次がある前提で話すなぁぁぁっ!!』

パトリックが宇宙へ放り出される。

もちろんノーマルスーツは着ている。

レイナスはそのままコクピットへ身体を滑り込ませた。

操作系。

同じGN-X。

迷う必要はない。

ハッチはまた壊してしまったが、戦闘には支障がない。

両腕。

正常。

両脚。

正常。

推進器。

正常。

武装。

ライフル、ビームサーベルともに使用可能。

表示された機体状態を確認して、レイナスは満足そうに頷いた。

「よし。これなら働ける」

外ではパトリックが漂いながら両腕を振っている。

『返せぇぇぇっ!!』

レイナスは先ほどまで自分が乗っていた大破寸前のGN-Xを見る。

最低限、姿勢制御は残っている。

「代わりならそこにある」

『いらねえよ!!』

「同じ機種だぞ?」

『腕がねえだろうが!!』

「細かいこと気にするな」

『細かくねえ!!』

レイナスは通信をプトレマイオスへ戻した。

『……レイナス』

フェルトだった。

妙な間がある。

「何だ?」

『また取ったの?』

「向こうから来た」

『……そう』

「しかも知り合いだった」

『知り合い?』

レイナスは宇宙で怒鳴り続けているパトリックを見た。

「前にも一機くれた奴」

『それ、知り合いって言わないと思う』

「そうか?」

別回線からクリスの声が割り込んだ。

『レイナス、今それどころじゃないから!』

「分かってる」

軽口はそこで終わった。

レイナスの目が戦場へ戻る。

プトレマイオスは傷ついている。

残存するGN-Xもまだいる。

遠方では、エクシアがアルヴァトーレへ食らいついていた。

「さて」

新品同然のGN-Xがライフルを構える。

「寸志も貰ったことだし、残業に戻るか」

          ◇

赤いエクシアが黄金の巨体を駆け上がる。

GNフィールドはすでに破られていた。

刹那はアルヴァトーレの砲撃をかわしながら懐へ潜り込み、GNソードを装甲へ叩き込む。

『私が! 私こそが世界を――!』

「違う!」

刹那の叫びとともに刃が走る。

「世界を変えるのは――!」

エクシアが加速した。

巨大な黄金の装甲を斬り裂く。

爆発。

アルヴァトーレの巨体が内部から次々と光を噴き出した。

刹那は爆炎の中からエクシアを離脱させる。

だが。

その直後。

黄金の残骸の中から、新たな反応が現れた。

「……まだいる」

アルヴァアロン。

戦いは終わっていなかった。

          ◇

プトレマイオス周辺へ戻ったレイナスは、先ほどまでとはまるで違う機体の反応に小さく息を吐いた。

「やっぱり両腕あると楽だな」

ライフルを撃つ。

一機のGN-Xが回避する。

その先へ回り込み、今度はサーベルを抜いた。

一閃。

敵機を斬り抜ける。

機体を失ったパトリックのことは、もう頭から消えていた。

優先するのはプトレマイオス。

その向こうで、また一機のGN-Xが母艦へ向かう。

「行かせるか!」

レイナスが追う。

その時。

通信へスメラギの声が入った。

『全機へ。プトレマイオスはこれ以上の戦闘継続が困難よ』

レイナスの表情が変わる。

『右舷推進系に重大な損傷。強襲用コンテナも限界が近い』

「離脱できるのか?」

短い沈黙。

『……その準備を始める』

明確な答えではなかった。

それだけで十分だった。

レイナスはプトレマイオスを見る。

傷だらけの船体。

ところどころから粒子と破片を流しながら、それでもまだ宇宙に浮かんでいる。

その中にはフェルトがいる。

スメラギも。

クリスも。

イアンも。

負傷したニールと、その傍にいる絹江も。

「了解」

レイナスは操縦桿を握り直した。

「なら、時間はこっちで稼ぐ」

『レイナス――』

フェルトの声。

「大丈夫だ」

今回は冗談を続けなかった。

新しく手に入れたGN-Xを反転させる。

敵部隊へ正面を向ける。

「せっかくボーナスが出たんだ」

そこで少しだけ笑う。

「使わずに帰ったら、もったいないだろ」

GN-Xが加速する。

その背後で。

プトレマイオスは、戦場から離脱するための最後の準備を始めていた。

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