機動戦士ガンダムOOR   作:ミスト12523

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第5話 ガンダムマイスター

第5話 ガンダムマイスター

西暦2307年――ソレスタルビーイング地上施設・格納庫

白い巨体を前に、レイナスはしばらく動かなかった。

ガンダムエクシア。

ニュース映像では何度も見た。

だが、実物を目の前にすると印象がまるで違う。

装甲の構成。

関節部。

各部の可動域。

胸部中央から漏れる緑色の光。

そして、機体の周囲を静かに漂うGN粒子。

レイナスは腕を組み、下から上へゆっくりと視線を這わせていた。

少し離れた場所では、刹那・F・セイエイがその様子を見ている。

「……そんなに珍しいか」

「ああ」

返事は早かった。

視線はエクシアから動かない。

「映像で見るのと、実物を前にするのとじゃ話が違う。機械ってのはな、近くで見て初めて分かることがある」

胸部へ視線を移す。

「……もっとも」

少しだけ目を細めた。

「今回は近くで見ても、さっぱり分からんが」

「分からないのか?」

「初めて見る技術を、外から眺めただけで全部理解できるほど出来た人間じゃないさ」

そこで僅かに口元を緩める。

「分からないものが残ってるくらいで丁度いい。全部分かってたら、見る楽しみがなくなる」

視線が脚部へ落ちる。

もう少し近くで見たい。

できればしゃがんで、関節部まで覗き込みたい。

できることなら装甲にも触れてみたい。

だが――。

レイナスは一歩踏み出しかけて止まった。

刹那の視線が痛い。

「……安心しろ。触らない」

「まだ何も言っていない」

「人間、歳を取るとな。言葉にされなくても分かることが増えてくる」

「…………」

「今のはそういう目だった」

刹那は否定しなかった。

レイナスも無理に進もうとはせず、再びエクシアを見上げる。

しばらくして、刹那が口を開いた。

「お前もモビルスーツに乗るのか」

「乗ってた」

「ガンダムに?」

「何度かはな。最後に使ってたのは別の機体だったが」

「どんな機体だ」

そこで初めて、レイナスの視線がエクシアから外れた。

刹那を見る。

「……意外だな」

「何がだ」

「君の方からそういう話を聞いてくるとは思わなかった」

「聞いただけだ」

「そうか」

少しだけ笑って、またエクシアへ向き直る。

「話すと長い。こっちにはない技術まで説明し始めると、機体の話より前置きの方が長くなる」

「また長いのか」

レイナスの動きが止まった。

ゆっくり刹那を見る。

「……留美から何を聞いた?」

「お前が、この世界の人間ではないと言っていること」

数秒。

レイナスの視線が、少し離れた場所にいる王留美へ向かった。

「そこまで話したのか」

「必要な情報ですから」

「必要な情報、か」

軽く頭を掻く。

「まあ、組織に身元不明の男を放り込むんだ。それくらいは必要になるか」

刹那はレイナスを見たままだった。

「本当なのか?」

「俺に聞いても仕方ないだろう」

「なぜだ」

「俺は『本当だ』と答えるに決まってる。自分で言い出した話なんだからな」

「証拠は?」

「ない」

「なら、信じられない」

「ああ。それでいい」

あまりにもあっさりした返事だった。

刹那の眉が僅かに動く。

レイナスは再びエクシアへ視線を戻している。

「昨日今日で現れた身元不明の男が、『別の世界から来ました』なんて言ってるんだ。そこで素直に信じられる方が、俺としては心配になる」

一拍。

「信用ってのは積み立てるもんだ。一日目から満額引き出そうとするのは、少し虫が良すぎる」

「…………」

「もっとも、俺の信用口座は今のところ残高ゼロらしいが」

そのままエクシアへ一歩近づこうとして――。

刹那の目が鋭くなる。

足が止まる。

「……ほら。こういうところだ」

「勝手に触るな」

「触らないと言っただろう」

「近づいた」

「見るだけならいいだろう。減るもんじゃない」

「触るな」

「分かったよ」

レイナスは小さく息を吐き、両手を軽く上げた。

「人の愛機に無断で触るほど無粋じゃない。そこは信用してくれ」

「信用はない」

即答だった。

レイナスは数秒、刹那を見る。

「……なるほど」

妙に真剣な顔で頷く。

「さっきの残高ゼロって話、比喩じゃなかったらしい」

少し離れた場所で留美が笑っている。

「留美」

「はい?」

「随分楽しそうだな」

「そう見えますか?」

「見えるとも。人が信用を失っていく様子を眺めて笑うのは、あまり上品な趣味じゃないぞ」

「最初からないものは失えませんよ」

「……そういう正論は人を傷つける」

それ以上は追及しなかった。

そのとき、留美の通信端末が鳴った。

確認した留美が顔を上げる。

「レイナスさん。スメラギさんがお話ししたいそうです」

「スメラギ?」

「ソレスタルビーイングの戦術予報士です」

「戦術予報士……」

聞き慣れない肩書だった。

レイナスはもう一度エクシアを見上げる。

視線が胸部から脚部へ。

そして、まだ見ていない背面へ。

「……世の中、別れってのはいつも唐突だな」

「後でご覧になれます」

「分かってる。少し格好つけただけだ」

名残惜しそうに踵を返した。

          ◇

同日――地上施設・通信室

大型モニターに、一人の女性が映っていた。

「スメラギ・李・ノリエガよ。ソレスタルビーイングで戦術予報を担当しているわ」

「レイナス・レノアーク」

椅子へ腰を下ろす。

「立場としては……外部協力者、だったか」

「だったか、って何よ」

「昨日決まったばかりなんだ。肩書ってのは、馴染むまで少し時間がかかる」

「随分やる気がなさそうね」

「そう見えるか?」

「見えるわ」

レイナスは僅かに考える。

「……否定すると嘘になるな」

背もたれへ身体を預けた。

「それで、何の話だ?」

スメラギの表情が変わる。

「あなたについて、留美から報告を受けてる」

「まあ、そうなるだろうな」

「工場で武装した人間を制圧。その後モビルスーツと交戦。青白い光を纏って、素手で機体を損傷。最終的に機能停止させた」

「…………」

レイナスは少し遠い目をした。

「文章にすると酷いな」

「あなたがやったことでしょう」

「それは分かってる」

「映像も確認したわ」

「なら言い逃れも難しそうだ」

「するつもりだったの?」

レイナスは少しだけ笑った。

「できるものなら人生には逃げ道が多い方がいい。今回は塞がってるらしいが」

「……あなたね」

「冗談だよ」

完全な冗談とも思えない顔だった。

スメラギが資料を表示する。

「あなたの身元も調べた」

「そっちか」

戸籍。

国籍。

軍歴。

教育記録。

入出国記録。

何もない。

「レイナス・レノアークという人物は、一週間ほど前まで存在した形跡がない」

「俺もその件には苦労してる。身分証ひとつないと、文明社会ってのは驚くほど生きづらい」

「本人は、別の世界から来たと話している」

「ああ」

「百年以上生きているとも?」

レイナスの目だけが留美へ向いた。

「……年齢まで?」

「重要な情報ですから」

しばし沈黙。

「そうか」

静かに息を吐く。

「歳ってのは、ある程度を越えると自分から触れ回るもんじゃないんだがな」

スメラギは流した。

「本当なの?」

「俺に聞くのか?」

「確認よ」

「なら本当だ」

「証明は?」

「ない」

「向こうの世界から持ってきた物は?」

「証明に使えそうなものはないな」

「百年以上生きている証拠も?」

「ない」

スメラギが黙る。

レイナスは椅子へ身体を預けたまま、特に焦った様子もない。

「……全部、あなたが言っているだけなのね」

「そういうことになる」

「随分平然としてるのね」

「ないものを出せと言われてもな」

片手で頬杖をつく。

「世の中、気合いでどうにかなることとならないことがある。証拠は後者だ」

「開き直ってない?」

「現実を受け入れてると言ってくれ。少し格好がつく」

スメラギが留美を見る。

「あなたは信じてるの?」

「いいえ」

留美は迷わなかった。

「事実として認定できるだけの証拠はありません」

「だろうな」

レイナス自身が頷く。

留美は続ける。

「ただ、虚偽と断定できる材料もありません」

工場の映像が表示された。

銃撃への反応。

武装した人間を一瞬で制圧する身体能力。

そして青白い光を纏い、モビルスーツへ向かう姿。

「少なくとも、過去の経歴が確認できないこと。通常の人間とは考えにくい身体能力を持っていること。この二点は確認されています」

「だからって異世界から来た証拠にはならない」

「はい」

「百歳を超えている証拠にもならない」

「なりません」

スメラギが再びレイナスを見る。

「それでも、あなたの話とは矛盾しない」

「らしいな」

「自分のことなのに他人事ね」

「俺の中じゃ答えが出てる話だからな」

レイナスは口元へ手をやり、欠伸を噛み殺す。

「俺が知ってることと、君らが証明できることは別だ。そこを無理に一緒にする必要もない」

「信じてもらいたいとは思わないの?」

「別に」

返事に迷いはなかった。

「仕事するのに支障がない程度で十分だ。信用なんてものは、口で百年生きたと言ったところで増えない」

少し間を置く。

「……百年生きてても、そこは変わらなかったな」

「本当に百年以上生きてるなら、妙に説得力があるわね」

「そこを証明できないのが、この話の悲しいところだ」

「変なところで割り切ってるのね」

「この手の説明は、今まで何度もやってるんでな」

スメラギの眉が僅かに動いた。

「今まで?」

レイナスが止まる。

「…………」

視線だけが僅かに横へ逸れる。

「今のは聞かなかったことにしてくれると助かる」

「無理ね」

「だろうな。期待はしてなかった」

それ以上は説明しなかった。

スメラギは少し考えたあと、資料を閉じる。

「分かった。異世界の件も年齢の件も保留。少なくとも現時点では、あなたの証言以上のものとしては扱わない」

「それでいい」

「それと、しばらく行動は見させてもらうわ」

レイナスの眉が僅かに下がった。

「監視付きか」

「そうなるわね」

「自由ってのは、失って初めて価値が分かるものだな」

「嫌?」

「歓迎する趣味はない」

軽く頭を掻く。

「とはいえ、身元不明の男を野放しにするほど君らも不用心じゃないだろう。そこは理解する」

「理解が早くて助かるわ」

「納得と理解は別物だ。大人になると、その二つを使い分ける場面が増える」

「便利な言葉ね」

「便利だから使ってる」

スメラギは次の資料へ移る。

「それで、あの青い光」

「ああ」

「《アニマ》だったかしら」

「そうだ」

「何ができるの?」

レイナスは少し考えた。

「……色々だな」

「それじゃ分からないわ」

「だろうな」

「具体的には?」

「説明が難しい」

「なぜ?」

「長く使いすぎた」

スメラギが怪訝そうな顔をする。

「長く?」

「歩くときに、右足をどう動かして左足をどう出すかなんて考えないだろう。それと似たようなもんだ。できることを一つずつ分類して説明しろと言われると、案外困る」

「身体能力を強化するだけじゃないのね?」

「まあな」

「他には?」

レイナスは少し考える。

天井へ視線を向け――。

やがて戻した。

「必要になったら使う」

「答えになってない」

「実物を見た方が早い」

「今見せて」

「それは遠慮したい」

スメラギが一瞬止まった。

「……どうして?」

「能力紹介のためだけに使うってのも、妙に気恥ずかしいだろ」

「こっちはあなたの能力を把握する必要があるの」

「それは分かる」

頬杖をついたまま続ける。

「ただ、正体の分からない力を持った男を、能力が分からないまま作戦に出すのが不安なら、出さなければいい。俺から前線に出してくれと頼んだ覚えもないからな」

「あなた、協力する気ある?」

「あるさ」

「本当に?」

「必要なら働く。働く必要がないなら休む」

一拍。

「長く生きるには大事なことだぞ」

「……それ、百年以上生きた人間の教訓?」

「今のところ証明できないらしいがな」

スメラギは額を押さえた。

「留美」

「はい」

「この人、ずっとこんな感じ?」

留美が微笑む。

「おそらく」

「留美。本人を前に随分あっさり肯定するな」

「違いますか?」

レイナスは少し考えた。

「……いや」

小さく息を吐く。

「そこを否定すると、今日だけで二度目の嘘になる」

「一度目は?」

「さっき『冗談だ』って言ったところだ」

スメラギが深く息を吐いた。

          ◇

同日午後――地上施設・ブリーフィングルーム

刹那のほかに三人のガンダムマイスターが集まっていた。

最初に長身の男が片手を上げる。

「ロックオン・ストラトス。よろしくな」

「レイナス・レノアーク。よろしく」

握手を交わす。

ロックオンはその手を一度見る。

「……この手でMS殴ったんだって?」

レイナスの眉が僅かに動いた。

「やっぱりそこから入るのか」

「やっぱり?」

「今日会った人間の大半が、最初にそれを聞く」

「そりゃ聞くだろ」

「まあ、俺でも聞くな」

納得したように頷く。

「人間、他人の無茶には興味を持つもんだ」

「自分で無茶って言うのかよ」

「後から振り返れば、大抵の無茶はそう見える」

隣の青年が軽く頭を下げる。

「アレルヤ・ハプティズムです。よろしくお願いします」

「よろしく」

「僕も映像を見ました」

レイナスが一瞬だけ目を閉じた。

「……今日はあの映像から逃げられない日らしい」

「す、すみません」

「いや、君が謝ることじゃない」

軽く手を振る。

「やったのは俺だ。因果応報ってほど立派な話でもないが、しばらく付き合うさ」

ロックオンが笑う。

「有名人だな」

「できればもう少し格好のいい理由で有名になりたかったな」

「MSを素手で止める以上に?」

「……そう言われると、贅沢な悩みに聞こえるな」

最後。

眼鏡を掛けた少年が名乗る。

「ティエリア・アーデ」

「レイナスだ」

「僕は反対だ」

少し間が空いた。

レイナスはティエリアを見る。

「俺を計画に関わらせることに?」

「そうだ」

「ああ」

特に驚いた様子もなく頷く。

「妥当な判断だな」

「自覚はあるのか」

「あるとも」

壁へ背を預ける。

「身元不明。経歴なし。本人は別世界から来たと主張。おまけに説明のつかない力まで使う」

少し考える。

「……俺なら警備を一人増やす」

ロックオンが吹き出した。

ティエリアの表情は変わらない。

「ならば、ここから去れ」

「それとこれとは別の話だ」

声は穏やかなままだった。

「留美とは話がついてる。必要なら力を貸す。それ以上でも、それ以下でもない」

「君を信用できない」

「今はそれでいい」

「何?」

「会ったばかりだろう」

レイナスはティエリアをまっすぐ見る。

怒気も挑発もない。

「信用なんてのは、要求するものじゃない。時間と実績で後からついてくる」

一拍。

「俺だって、君らをまだ信用してないしな」

ロックオンが僅かに眉を上げる。

「ドライだな」

「無理に仲良くする方が不自然だろう。仕事に必要な話が通じるなら、最初はそれで十分だ」

そして少しだけ口元を緩める。

「百年以上生きてると、人付き合いにも適正距離ってものを覚える」

ロックオンの表情が変わった。

「……その話、本当に自分で言うんだな」

「…………」

レイナスが止まった。

「聞いてるのか?」

「聞いた」

視線が留美へ向かう。

「留美」

「私だけではありません」

「そうか……」

額を軽く押さえる。

「年齢ってのはもっと慎重に扱うもんだと思ってたが、俺の常識が古かったらしい」

ロックオンが笑う。

「で、本当に百年以上?」

「俺はそう言ってる」

「見た目はどう見ても二十歳そこそこだぞ」

「そこは気に入ってる」

即答だった。

ロックオンが目を瞬く。

「気に入ってるのか」

「当たり前だろう。百年以上生きて見た目まで百歳だったら、さすがに色々諦めてる」

アレルヤが口元を押さえた。

ロックオンは完全に笑っている。

「異世界から来たってのも?」

「それも俺の証言だけだ」

「証拠は?」

「ない」

「……怪しいなあ」

「安心した」

「何がだよ」

「君の警戒心が正常で」

ロックオンが苦笑した。

「本人が言うことか?」

「本人だから言えることもある」

その横で刹那が口を開く。

「一つ聞く」

「今日は質問の多い日だな」

「昨日の青い光」

「《アニマ》か」

「あれでモビルスーツを倒した」

「まあな」

「ガンダムにも通用するのか?」

レイナスは刹那を見る。

「それは分からない」

「なぜだ」

「試したことがない」

「なら、試す」

「……何を?」

「俺がエクシアに乗る」

数秒。

レイナスは黙って刹那を見た。

ロックオンが嫌な予感を察したように顔をしかめる。

「刹那?」

レイナスはゆっくり息を吐く。

「若いってのはいいな」

「何?」

「確認したいと思ったら、いきなりガンダムを持ち出せる」

腕を組む。

「俺も昔はそうだった……と言いたいところだが、たぶんそこまではやってない」

「戦えば分かる」

「分かるだろうな。機体が無事なら」

「問題ない」

「その自信は嫌いじゃないが――」

一拍。

「初対面の相手とガンダムで殴り合うのは、交流としては少し刺激が強すぎる」

『却下よ』

通信機からスメラギの声が飛んだ。

『エクシアを使った模擬戦は認めません』

「戦闘能力の確認は必要だ」

『だから別の方法を考えるの』

刹那が黙る。

レイナスは横からその顔を見る。

「残念だったな」

「なぜ笑う」

「いや。若者の無茶が大人に止められる光景ってのは、妙に安心する」

そう言いながら、エクシアのいる方向を見る。

「……俺としては、少しくらい乗せてもらえないかと期待してたんだが」

「お前は乗る側じゃない」

「分かってるとも」

少し間を置く。

「夢を見るくらいは無料だろう」

ロックオンが笑った。

          ◇

同日夕刻――地上施設・格納庫

四機のガンダムが並んでいる。

ガンダムエクシア。

ガンダムデュナメス。

ガンダムキュリオス。

ガンダムヴァーチェ。

レイナスは四機を眺めていた。

通信室にいたときの気怠さは、どこかへ消えている。

「……いいな」

ロックオンが横から見る。

「お前、ガンダム見てるときだけ妙に元気だな」

「人には誰にでも、心が若返る瞬間ってものがある」

「ガンダムで?」

「悪いか?」

「いや」

「ならいい」

視線はすでにデュナメスへ向いている。

「こいつが狙撃担当か」

「ああ。俺のガンダムだ」

レイナスが少しだけロックオンを見る。

「刹那も似たようなことを言ってたな」

「何が?」

「『俺のガンダム』ってところ」

「そりゃ俺の相棒だからな」

「相棒、か」

もう一度デュナメスを見る。

「いい言葉だな」

「気に入った?」

「機械にそこまで言えるくらい乗り込むのは、嫌いじゃない」

ロックオンが少し笑う。

次はキュリオス。

レイナスの目が僅かに輝いた。

「可変機か」

「はい」

アレルヤが答える。

「変形するところを見たいな」

「出撃時なら見られると思います」

「そうか」

少し考える。

「……乗ってみたいな」

「駄目だ」

ティエリアだった。

レイナスはゆっくり振り返る。

「まだ誰にも頼んでないんだが」

「どうせ頼むつもりだっただろう」

数秒。

「……先回りされると弱いな」

「駄目だ」

「分かったよ。勝手に乗るほど若くはない」

一拍。

「頼めば可能性があるかとは思ってたが」

「ない」

「夢のない男だな」

最後はヴァーチェ。

レイナスは少し離れ、機体全体を見上げる。

「……また随分と思い切ったな」

ティエリアが反応する。

「何が言いたい」

「見るからに火力と防御へ振ってる。こういう設計思想は分かりやすくていい」

「それがどうした」

「褒めてるんだよ」

しばらく眺める。

「何でも出来る機体より、何をさせたいのか一目で分かる機体の方が、見てて面白い」

ティエリアは返事をしなかった。

レイナスも気にしない。

四機。

それぞれ役割がはっきり違う。

近接。

狙撃。

高速戦闘。

重火力。

「これで世界中を相手にしてるのか」

ロックオンが隣へ来る。

「ああ」

「随分と大きな仕事を背負ったもんだ」

「他人事だな」

「今のところはな」

「そのうち巻き込まれるぞ」

「……もう片足くらいは入ってる気がする」

レイナスは静かに息を吐く。

「昨日まで日雇いで荷物を運んでた人間が、今日は世界規模の武装組織の格納庫でガンダムを眺めてる」

少し遠い目になる。

「人生ってのは、先の読めない方が面白いとは言うが……限度はあるな」

「落差すげえな」

「俺が一番そう思ってる」

ロックオンが少し笑った。

やがて、その表情が僅かに真面目になる。

「怖くないのか?」

「何が?」

「世界中を敵に回すこと」

レイナスは四機を見たまま、少し黙った。

「怖いさ」

ロックオンが意外そうに見る。

「そうは見えないけどな」

「怖くないように見せるくらいは覚えた」

静かな声だった。

「長く生きてても、怖いものがなくなるわけじゃない。慣れるのは、怖いまま動くことの方だ」

ロックオンは黙って聞いている。

「それに――」

レイナスはエクシアを見る。

「俺はまだ、君らが正しいとも間違ってるとも思ってない」

「はっきり言うな」

「今さら調子を合わせても仕方ないだろう」

四機のガンダム。

その向こうにある、ソレスタルビーイングという組織。

彼らの掲げる目的。

そのために選んだ手段。

レイナスはまだ、その答えを出していない。

「正義なんて言葉は便利だ。自分が正しいと思ってる間は、いくらでも前へ進める」

僅かに目を細める。

「だからこそ、俺は急いで決めない」

ロックオンは何も言わない。

「しばらく見せてもらうよ」

レイナスはそう言って、再び四機へ視線を戻した。

「判断するのは、それからで十分だ」

          ◇

現時点で、ソレスタルビーイングが確認できている事実は少ない。

レイナス・レノアークという人物には、確認可能な過去の経歴が存在しない。

常人を大きく超える身体能力を持つ。

青白い光を纏い、生身でモビルスーツを停止させた。

本人は、その力を《アニマ》と呼んでいる。

確認できるのは、そこまでだった。

別の世界から来た。

百年以上生きている。

どちらも本人の証言でしかない。

証明するものは何もない。

誰も、それを事実として受け入れてはいなかった。

ただし。

突然現れたようにしか見えない経歴。

映像に残る異常な身体能力。

既存技術では説明できない《アニマ》。

本人の話を完全な虚言として切り捨てるにも、不可解な事実が残る。

だから、保留。

レイナスにしてみれば、それで十分だった。

信用は言葉で要求するものではない。

必要なら、時間をかければいい。

信じてもらうためだけに過去を並べ立てる趣味もなかった。

《アニマ》についても同じだ。

何ができる。

どこまでできる。

何をしてきた。

それを一つ一つ披露して回る気はない。

必要になれば使う。

そのとき見ればいい。

百年以上という時間を生きてなお、レイナス・レノアークは自分を大人物だとは思っていない。

悟りを開いたつもりもない。

面倒なものは面倒だ。

休めるなら休みたい。

知らないモビルスーツを見れば触りたいし、できるなら乗ってみたい。

そのくせ、ときどき妙に年長者らしいことを言う。

そして本人は、それなりに格好がついているつもりだった。

そんな男を、ソレスタルビーイングはまだ知らない。

ましてや。

報告にはなかった《アニマ》の使い方を、彼らが目の当たりにするのは――

そう遠くない。

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