機動戦士ガンダムOOR   作:ミスト12523

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第54話 動き出す世界

第54話 動き出す世界

西暦2309年――ソレスタルビーイング再建拠点

時間だけは、こちらの都合を待ってくれない。

地球連邦の成立から数か月。

ソレスタルビーイングの再建は、ようやく「生き残った者が集まった」段階を抜けつつあった。

人員。

補給網。

情報網。

秘匿施設。

失われたものを一つずつ繋ぎ直していく。

そして格納庫では――。

「……おお」

レイナスが珍しく、それしか言わなかった。

目の前には一機のモビルスーツが立っている。

まだ未完成。

装甲の一部は取り付けられておらず、配線も露出している。

それでも、もう骨組みではない。

明確に一機のモビルスーツだった。

細身。

高い運動性を意識した四肢。

近接戦闘での追従性を優先しながら、射撃戦にも対応する。

そして何より――レイナスが《オーバーライズ》を使用することを前提に、最初から構造そのものが設計されている。

イアンが横から言う。

「まだ乗るなよ」

「何も言ってないだろ」

「顔に書いてある」

「長い付き合いになってきたな」

「お前が分かりやすすぎるだけだ」

レイナスは機体を見上げる。

「あとどれくらいだ?」

「数か月」

「長いな」

「百年待ったんだろ。数か月くらい待て」

「百年待ったからこそ、最後の数か月が長いんだよ」

「知らん」

レイナスは笑った。

急かして完成度を落とす気はない。

待つしかないなら待つ。

その程度の分別はある。

ただし毎日見には来る。

それを止める分別はなかった。

          ◇

数か月後――旧中東地域

連邦軍部隊が通過した後の集落を、グラハム・エーカーは無言で見ていた。

焼けた建物。

破壊された車両。

路上に残る砲撃痕。

先日の一件だけではない。

アロウズの活動地域では、似た報告が増え始めていた。

反連邦勢力の鎮圧。

テロリストの排除。

治安回復。

報告書に並ぶ言葉は整っている。

だが、現場に残されたものは整っていない。

「少佐」

部下が端末を差し出す。

「アロウズからの正式報告です」

グラハムは内容を確認した。

反政府武装組織の拠点を制圧。

敵戦力を排除。

民間人への被害――軽微。

グラハムの視線が、半壊した住宅へ向く。

「軽微、か」

先日の作戦では判断を保留した。

一度の出来事だけで組織全体を断じる気はなかったからだ。

二度目も同じだった。

だが三度、四度と続けば話は変わる。

偶然という言葉にも限度がある。

「少佐?」

「記録を残せ」

「しかし、アロウズの作戦記録は――」

「彼らの記録ではない」

グラハムは端末を返した。

「我々が見たものをだ」

部下が姿勢を正す。

「了解しました」

グラハムはもう一度、集落を見る。

地球を一つにする。

その理念そのものを否定するつもりはない。

だが。

「平和のため、か」

小さく呟く。

「便利な言葉になったものだな」

その声に、以前の納得はなかった。

          ◇

同時期――地上・セーフハウス

「また消えた」

絹江が端末を操作する。

隣でニールが覗き込んだ。

「何が?」

「昨日まで掲載されてた記事」

「アロウズ?」

「うん」

画面には記事の保存データが残っている。

アロウズによる武装勢力掃討作戦。

現地住民の証言。

攻撃開始時点で集落内に民間人が残っていた可能性。

その記事が、今はない。

「消された?」

「分からない」

絹江は即座に答える。

「出版社側が自主的に取り下げた可能性もある。でも――」

別のデータを表示する。

「これで七件目」

ニールの表情が変わった。

「偶然って数じゃねえな」

「私もそう思う」

絹江は端末を閉じなかった。

むしろ新しいファイルを開く。

「もう少し掘ってみる」

「絹江」

「危ないことはしない」

「まだ何も言ってねえよ」

「言う顔してた」

ニールが黙る。

絹江が横を見る。

「一年以上一緒にいるんだから、それくらい分かるわよ」

「……勝てねえな」

「今頃?」

ニールは苦笑した。

          ◇

西暦2310年初頭――ソレスタルビーイング再建拠点

時間はさらに進んだ。

アロウズは拡大していた。

人員。

艦隊。

権限。

活動地域。

反連邦勢力の鎮圧を名目に、その影響力は急速に広がっている。

そして同時に、ソレスタルビーイングへ届く情報も変わっていた。

スメラギがブリーフィングルームのモニターを切り替える。

「これで十二件」

民間人被害。

不自然な報道規制。

拘束者の所在不明。

過剰な武力行使。

まだ全容は見えない。

だが、以前のように単なる疑惑として片づけられる段階でもなくなっていた。

ティエリアが腕を組む。

「アロウズが連邦政府から独立した強大な権限を利用し、各地で強硬な作戦を実施していること自体は確定している」

「問題は、どこまで組織的か」

スメラギが言う。

レイナスは資料を眺めていた。

「少なくとも、一人二人の暴走で説明するには数が増えすぎたな」

「ええ」

「じゃあ次は?」

スメラギがレイナスを見る。

「調査を一段階進める」

「了解」

返事は早い。

「必要なら俺が地上へ出る」

フェルトが顔を上げた。

「レイナスが?」

「ああ」

「機体は?」

「ない」

「……」

「その顔やめてくれ」

「だって」

「俺だって好きで生身で出ようとしてるわけじゃない」

イアンが鼻を鳴らした。

「なら待て」

レイナスが振り返る。

「何を?」

「来い」

「どこへ?」

「格納庫だ」

その瞬間。

レイナスの表情が変わった。

「……イアン」

「何だ」

「期待していい話か?」

「自分で見ろ」

「そういう言い方は期待値が上がるぞ」

「うるさい。来い」

レイナスは立ち上がる。

さっきまでアロウズの資料を見ていた男とは思えない速さだった。

フェルトも立つ。

「私も行く」

「私も!」

クリスまで続く。

イアンが呆れる。

「見世物じゃないぞ」

「一年以上待ったんだ。今日くらい客が増えても経費は変わらないだろ」

「そういう問題じゃない」

          ◇

同時刻――宇宙

地球から遠く離れた宙域。

航路から外れた暗い空間を、一機のモビルスーツが漂っていた。

いや。

完全に漂流しているわけではない。

わずかに残った推進力を使い、進路を修正している。

損傷した装甲。

応急処置された各部。

右腕は失われている。

かつて世界へ武力介入を行ったガンダム。

その残骸を繋ぎ合わせるようにして生き延びた機体。

――ガンダムエクシア。

そのコクピットで、一人の青年が地球を見ていた。

刹那・F・セイエイ。

生きていた。

モニターには断片的に受信したニュースが流れている。

地球連邦。

独立治安維持部隊アロウズ。

反連邦勢力への武力行使。

刹那は無言で映像を見つめる。

あの戦いから、およそ二年。

ソレスタルビーイングが世界へ武力介入し、その果てに生まれた統一世界。

だが、画面に映る光景は、かつて彼らが望んだものとは違っていた。

「……違う」

静かな声がコクピットに響いた。

エクシアのカメラアイが灯る。

「これは、俺たちが求めた世界じゃない」

傷だらけのガンダムが、ゆっくりと地球へ機首を向けた。

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