機動戦士ガンダムOOR   作:ミスト12523

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第56話 無人の兵士

第56話 無人の兵士

西暦2310年初頭――旧中東地域・市街地

夜の市街地を、アステリオンが低速で進んでいた。

眼下には崩れかけた住宅と放置された車両。その間を、大勢の人間が逃げている。

レイナスはモニターへ視線を走らせた。

赤い反応が次々と表示される。

オートマトン。

十機以上。

その先にも複数。

『レイナス、東側にもいる』

フェルトの声が届く。

「見えてる」

一機を照準に捉える。

オートマトンが、逃げ遅れた住民へ銃口を向けていた。

レイナスはGNライフルを構え――すぐに下ろした。

『レイナス?』

「駄目だな」

『どうしたの?』

「火力がでかすぎる」

オートマトン程度なら一撃だ。

だが標的の先には住宅がある。

左右には逃げる住民。

別の一機は細い路地に入り込んでいた。

当てればいい、という話ではない。

「ハエを落とすのに大砲を持ち出してどうする。あいつらを片づける前に街まで更地になる」

『じゃあ――』

「降りる」

『え?』

返事を待たず、アステリオンを市街地外縁へ向ける。

人影のない広場へ着地。

自律警戒モードへ移行する。

『レイナス、本気?』

「適材適所だよ」

ハッチを開く。

「人間サイズを相手にするなら、こっちも人間サイズの方が都合がいい」

『でも――』

「待ってる間に撃たれる」

レイナスはコクピットから飛び降りた。

十数メートル。

身体を青白い《アニマ》が包む。

地面へ着地すると同時に走り出す。

『気をつけて』

「ああ」

レイナスは苦笑する。

「専用機を手に入れた最初の実戦で、本人だけ徒歩とはな」

『……』

「現実ってのは、大体最後に余計な一行を足してくる」

前方。

オートマトンが住民へ銃口を向けた。

レイナスの姿が消えた。

          ◇

発砲音は鳴らなかった。

次の瞬間には、レイナスが銃身を掴んでいる。

「悪いな」

指に力を込める。

金属が潰れた。

「その仕事、ここで契約終了だ」

オートマトンが腕を振る。

左手で受け止める。

機械の腕が完全に止まった。

右拳。

胸部装甲が陥没する。

内部機構まで一撃で砕け、センサーの光が消えた。

逃げていた住民たちが足を止める。

レイナスは振り返った。

「見物料は取らないから走れ。まだ来るぞ」

我に返った住民たちが逃げ始める。

直後。

三機のオートマトンが角を曲がった。

一斉にレイナスを認識する。

「今度は三件まとめてか」

銃口が上がる。

青白い光がレイナスの右手へ集まった。

伸びる。

凝縮。

一振りの刃となる。

《アニマソード》。

「効率がいいのは嫌いじゃない」

発砲。

横へ跳ぶ。

壁を蹴る。

一気に距離を詰めた。

青白い剣閃。

一機目の武器と腕がまとめて切断される。

着地しない。

空中で身体を捻る。

二機目。

腰部を横薙ぎ。

装甲も内部フレームも抵抗にならない。

上下に分かれた機体が地面へ落ちる。

三機目が振り向く。

遅い。

レイナスは既に懐へ入っていた。

「悪い」

縦一閃。

「今日は在庫処分だ」

頭部から胴体まで青白い刃が走る。

一拍遅れて機体が左右へ崩れた。

          ◇

『北東から追加!』

フェルトの声。

「何機?」

『五機!』

「景気がいいな」

路地へ入る。

住民たちが逃げてくる。

その後ろから五機のオートマトン。

レイナスは住民たちとすれ違った。

「そのまま走れ!」

オートマトンが射撃姿勢へ入る。

レイナスは《アニマソード》を消した。

『消すの?』

「狭い」

両腕を《アニマ》が包む。

一機目の懐へ。

武器を掴む。

引き寄せる。

その勢いのまま膝を胸部へ叩き込む。

装甲が潰れる。

二機目。

腕を掴み、身体ごと振り回した。

「借りるぞ!」

三機目へ叩きつける。

二機まとめて壁へ激突。

残る二機が左右から銃を向けた。

レイナスは両手を開く。

青白い光。

左右それぞれに短い《アニマソード》が形成された。

「このくらいならちょうどいい」

踏み込む。

交差する二本の剣閃。

二機の武器が落ちる。

返す刃。

脚部を切断。

オートマトンが同時に倒れた。

レイナスは二本の刃を消す。

『……終わった?』

「この辺はな」

『怪我は?』

「なし」

『本当に?』

「服がちょっと汚れた」

『それは怪我じゃない』

「なら問題なしだ」

『最初からそう言って』

「報告書の書式が厳しいな」

『レイナス』

「はいはい。次から気をつける」

通信の向こうでフェルトが小さく息を吐いた。

その直後。

地下から銃声が響いた。

レイナスの表情が変わる。

「……まだ残業か」

地下への入口を見る。

「行ってくる」

『レイナス――』

「今度は本当にすぐ戻る」

階段へ飛び込んだ。

          ◇

市街地地下・避難区画

「下がれ!」

銃声。

弾丸がオートマトンの装甲へ弾かれる。

五機。

狭い通路を塞ぐように進んでいた。

その先には数十人の住民。

武装した男たちが前へ立っているが、火力が足りない。

オートマトンが銃口を向ける。

「伏せろ!」

突然響いた声。

住民たちが反射的に身を低くした。

青白い光が通路を走る。

一機。

二機。

三機。

《アニマソード》が、すれ違いざまに機体を切断する。

レイナスが残る二機の間へ着地した。

「ったく」

右手の《アニマソード》を振る。

一機の武器を切断。

左手でその頭部を掴む。

「無人だからって働かせすぎだろ」

壁へ叩きつける。

装甲が潰れた。

最後の一機。

レイナスへ銃口を向ける。

青白い刃が伸びた。

銃身。

腕。

胸部。

三つがほぼ同時に切断される。

オートマトンが崩れ落ちた。

静寂。

住民たちが呆然とレイナスを見る。

レイナスは《アニマソード》を消した。

「怪我人は?」

誰も答えない。

「おい?」

ようやく一人の男が口を開いた。

「あんた……人間なのか?」

「最近その質問、よくされるんだよな」

「……」

「人間だよ。一応」

負傷した男へ近づく。

肩から出血している。

レイナスはしゃがみ、傷口へ手を当てた。

「少し触るぞ」

青白い光。

《アニマ》が傷口を包む。

出血を抑え、損傷した組織の回復を促す。

完全に治す必要はない。

今は動ける状態にすればいい。

「これでしばらく保つ」

「これは……」

「応急処置だ。ちゃんと後で医者に診てもらえ」

立ち上がる。

「他の避難区画は?」

「奥に二つ。ただ、そっちは――」

『レイナス!』

フェルトの声が割り込んだ。

緊張している。

「どうした?」

『MS反応! アロウズ、六機!』

レイナスが天井を見る。

「……今度はそっちか」

『アステリオンへ向かってる!』

レイナスは少し考える。

そして住民へ向き直った。

「南側は俺が片づけた。そこから地上へ出ろ」

「だが奥の人間が――」

「そっちも行く」

『レイナス!?』

「六機だろ?」

『そうだけど!』

レイナスは再び《アニマソード》を形成する。

「わざわざ戻るほどでもない」

『……え?』

「地上なら問題ない」

『何が!?』

「足場もある。空も広い。十分だ」

フェルトが数秒黙った。

『MSだよ?』

「知ってる」

『モビルスーツ六機』

「だから?」

『だからって……』

レイナスは笑った。

「新車を市街地で傷物にするより、こっちの方が経済的だろ」

『そういう問題じゃない!』

「大丈夫だって」

奥を見る。

「こっちを片づけたら、そのまま行く」

通信を切らずに走り出す。

          ◇

数分後――市街地上空

アロウズ所属MS六機が市街地へ進入した。

その一機が地上のアステリオンを捉える。

『所属不明機を確認』

『パイロット反応なし』

『新型か?』

『鹵獲する。二機は機体を確保。残りは市街地を――』

警告。

隊長機のモニターに、小さな反応が表示された。

『なんだ?』

地上。

一人の人間が道路を歩いている。

『民間人か?』

『いや、識別不能――』

レイナスが空を見上げた。

「六機」

右手。

《アニマソード》。

青白い刃が伸びる。

「本当に六機で来たか」

『何者だ!』

外部スピーカー。

レイナスは首を鳴らした。

「名乗るほどのもんじゃないよ」

一歩。

「ただ――」

地面が砕ける。

レイナスが跳んだ。

『なっ!?』

一気に数十メートル。

空中。

足元に青白い《アニマ》の足場が形成される。

蹴る。

さらに加速。

「その機体」

隊長機の眼前。

「市街地で振り回すにはデカすぎる!」

《アニマソード》を振り抜く。

GNライフルが真っ二つになった。

『馬鹿な!?』

MSの腕がレイナスを払おうとする。

青白い足場。

方向転換。

回避。

そのまま肩へ着地する。

「人間一人に大げさな装備だな」

《アニマソード》を突き立てる。

肩関節を切断。

巨大な腕が落下する。

ただし直下に人はいない。

レイナスは落下位置まで確認していた。

二機目がライフルを向ける。

「おっと」

肩から跳ぶ。

射撃。

ビームが隊長機の横を抜ける。

空中に足場。

踏む。

一気に二機目へ。

「同士討ちは労災扱いになるのか?」

青白い剣閃。

ライフルを切断。

そのまま脚部スラスターを斬る。

姿勢を失ったMSが市街地外側へ落ちていく。

残る四機が距離を取った。

『人間だと!?』

『何なんだ、こいつは!』

レイナスは空中に立っていた。

足元には青白い《アニマ》の足場。

右手には《アニマソード》。

「さて」

四機を見る。

「ここから追加料金だ」

          ◇

旧中東地域・市街地外周

刹那・F・セイエイは、その光景を見ていた。

エクシアのコクピット。

モニターには、アロウズのMS。

そして――その間を飛び回る一人の人間。

青白い光。

刹那の目が見開かれる。

見間違えようがない。

「……レイナス」

生きている。

二年前と変わらず。

いや。

相変わらず、と言うべきかもしれない。

生身でモビルスーツを相手にしている。

刹那は地上へ視線を移した。

見慣れないモビルスーツ。

機体表面に微かな青白い残光。

《アニマ》。

「新しい機体……」

その間にも戦闘は続く。

アロウズ機がレイナスを包囲する。

四方向。

ライフルが向く。

刹那が操縦桿を握った。

エクシアが動く。

          ◇

四機から同時に警告。

レイナスは周囲を見る。

「囲んだつもりか」

射撃。

青白い足場を蹴る。

上へ。

ビームが交差する。

レイナスは身体を捻り、さらに足場を生成。

横へ。

背後へ。

一機の頭部へ着地。

「悪いな」

《アニマソード》を逆手に持つ。

「こっちは足場代も無料なんだ」

頭部センサーを切断。

跳ぶ。

その瞬間。

別のMSがレイナスへ照準を合わせた。

だが発砲より早く。

横からGNビーム。

ライフルが吹き飛んだ。

レイナスが振り向く。

傷だらけの機体。

失われた右腕。

応急修理を重ねた装甲。

それでも。

その姿は忘れようがない。

ガンダムエクシア。

「……」

一瞬。

レイナスが止まる。

通信。

聞き覚えのある声。

『レイナス』

レイナスの口元が上がった。

「よう」

二年ぶり。

それでも最初に出た言葉は、驚くほど普通だった。

「随分長い休暇だったじゃないか、刹那」

『……ああ』

「そこは否定しろよ」

刹那のエクシアがレイナスの横へ出る。

『その機体は?』

刹那が地上のアステリオンを見る。

レイナスも一瞬そちらを見る。

「あれか?」

少しだけ胸を張る。

「俺のだ」

『……そうか』

「反応薄いな」

『よかったな』

「お前にそう言われると妙に効くな……」

敵機が再び動く。

レイナスは《アニマソード》を構え直した。

「まあ、積もる話は後払いだ」

『ああ』

エクシアがGNソードを構える。

生身のレイナス。

片腕のエクシア。

その二つが並ぶ。

レイナスは敵機を見る。

「三機ずつ――」

数える。

既に数機は戦闘不能。

「……いや、残り三機か」

『俺が二機やる』

「復帰早々働くねえ」

『問題ない』

「なら一機だけ貰う。こっちは朝からサービス残業なんだ」

『了解した』

「行くぞ!」

『ああ!』

レイナスが足場を蹴る。

エクシアが同時に加速した。

          ◇

戦闘は長く続かなかった。

エクシアが一機を斬る。

二機目の攻撃をかわし、GNソードを叩き込む。

レイナスは最後の一機へ真正面から接近した。

ライフル。

かわす。

足場。

加速。

《アニマソード》。

武器を切断。

敵機が腕を振る。

その腕へ着地。

走る。

肩。

頭部。

一瞬だけ敵機のメインカメラと目が合う。

「今日は相手が悪かったな」

跳ぶ。

振り下ろす。

《アニマソード》が頭部から胸部装甲まで走った。

機体が機能を停止する。

レイナスは落下。

地面へ着地した。

少し遅れてエクシアも降りる。

静かになった。

レイナスはエクシアを見上げた。

「……で」

『何だ』

「二年分の報告書は用意してあるんだろうな?」

沈黙。

『ない』

「だろうな」

ため息。

「過去の実績ってのは、こういう時だけ利息つけて返ってくるんだよな」

『すまない』

「俺に謝るな。スメラギに言え」

刹那が反応する。

『スメラギ・李・ノリエガは……』

「ああ」

レイナスは普通に答えた。

「生きてる」

沈黙。

『フェルトは』

「いる」

『ティエリアは』

「戻ってきた」

刹那の表情が変わる。

『ロックオンは』

レイナスは一拍置いた。

「あいつもしぶといよ。まだ前線復帰はしてないけどな」

『……そうか』

短い言葉。

だが、その声は明らかに違った。

肩から力が抜ける。

レイナスは少し笑う。

「残念だったな」

『何がだ』

「うちはまだ倒産してない」

『……』

「絶賛再建中だ。俺なんか専用機まで支給された」

地上のアステリオンを指す。

「福利厚生だけは二年前より改善してるぞ」

『それは福利厚生なのか?』

レイナスが目を瞬いた。

「……刹那」

『何だ』

「お前、二年でちょっと冗談が分かるようになった?」

『違う』

「安心した。いつもの刹那だ」

レイナスは歩き出す。

『どこへ行く』

「決まってるだろ」

振り返る。

「帰るぞ」

『……どこへだ』

「ソレスタルビーイング」

刹那が黙る。

レイナスは急かさない。

だが答えを疑っているわけでもない。

「行方不明者を一人見つけた。持ち帰るまでが仕事だ」

『俺は荷物じゃない』

「だったら自分で飛んでこい」

『……』

「それに、そのエクシア」

傷だらけの機体を見上げる。

「よく二年も保たせたな」

『俺が修理した』

「……それ、イアンには言わない方がいいぞ」

『なぜだ』

「見た瞬間に倒れるか怒鳴るか、その両方だ」

少しの沈黙。

『分かった』

「そこは素直なんだな」

レイナスが笑う。

その時。

通信へフェルトの声が飛び込んだ。

『レイナス!』

「はいはい、生きてるよ」

『刹那は!?』

レイナスはエクシアを見る。

「本人に聞け」

回線を共有する。

一瞬の雑音。

そして。

『……フェルト』

通信の向こうが静かになった。

『刹那……?』

『ああ』

『本当に……刹那なの?』

『俺だ』

数秒。

『……よかった』

刹那は答えなかった。

だが、目を閉じる。

レイナスはその様子を見て、余計な口を挟まなかった。

やがてフェルトが言う。

『帰ってきて』

刹那が目を開く。

『ああ』

短い。

それで十分だった。

レイナスはアステリオンへ向かう。

「よし」

『レイナス?』

「これで今日の仕事は一件追加だ」

『何が?』

「行方不明者回収」

『人を物みたいに言わないで』

「二年も行方不明だった奴に言ってくれ」

『聞こえている』

「聞かせてるんだよ」

エクシアが立ち上がる。

アステリオンも起動する。

二機が並ぶ。

新品同然の専用機。

二年間を戦い抜いた傷だらけのガンダム。

対照的な二機だった。

レイナスは操縦桿を握る。

「刹那」

『何だ』

「帰るまでに言い訳考えとけよ」

『何のだ』

「二年分全部」

『……無理だ』

「だろうな」

アステリオンが浮上する。

「じゃあ諦めろ。スメラギに絞られるのも給料のうちだ」

『俺たちは給料を貰っていない』

レイナスが止まった。

「……」

『どうした』

「お前、本当に二年でちょっと面白くなってないか?」

『違う』

「そうかい」

レイナスは笑った。

「なら帰ろうぜ、刹那」

『ああ』

アステリオンとエクシア。

二つの光が、夜の旧中東を離れていった。

二年前。

散り散りになったソレスタルビーイング。

その一人が――ようやく帰る。

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