機動戦士ガンダムOOR   作:ミスト12523

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第62話 見に来ただけ

第62話 見に来ただけ

西暦2312年春――ソレスタルビーイング再建拠点・輸送艇発着区画

小型輸送艇が誘導灯に沿って進み、格納区画へ静かに着艦した。

固定アームが機体を保持する。

短い振動が収まると、ライル・ディランディは窓の外へ目を向けた。

外からでは、ここがどこなのか分からない。

当然だった。

途中で何度か輸送手段を変え、航路も知らされていない。

ソレスタルビーイングの再建拠点。

四年前まで世界中で武力介入を続けていた組織の中枢へ、これから足を踏み入れる。

「今になって怖くなったか?」

隣に座るニールが聞いた。

「まさか」

ライルは座席から立ち上がる。

「ただ、兄さんがこんなところに何年もいたってのが、まだしっくりこないだけだ」

「入ればもっとしなくなるかもな」

「安心させる気ないだろ」

「今日は勧誘じゃないからな」

向かいでは絹江が端末を閉じていた。

「ライル」

「ん?」

「一応確認だけど、ここで見たものは外では話さないでくれ」

「ああ」

「カタロンにも」

ライルは一瞬だけ黙った。

「そこまで信用していいのか?」

答えたのはニールだった。

「信用してるから連れてきたんだよ」

「……そうか」

それ以上は言わなかった。

やがてハッチのロックが解除される。

ニールが先に歩き出した。

ライルも続く。

今日は何かを決めに来たわけではない。

兄がいた場所。

兄が命を懸けた組織。

それを自分の目で見る。

まずは、それだけだ。

          ◇

ハッチが開く。

ニールが降りた後、ライルが格納区画へ足を踏み出す。

待っていたのはスメラギ、刹那、ティエリア、フェルト、クリス、そしてレイナスだった。

最初に反応したのはクリスだった。

「わ……」

ニールが眉を寄せる。

「その反応、もう予想してたよ」

「だって、本当にそっくりなんだもん」

クリスの視線が右へ動く。

ニール。

左へ動く。

ライル。

もう一度右。

「写真で見るより似てる」

「双子だからな」

ライルが答える。

「でも――」

クリスは少し首を傾げた。

「雰囲気は全然違うね」

ライルが僅かに笑った。

「そりゃよかった」

刹那もライルを見ていた。

「刹那」

ニールが先に釘を刺す。

「無言で見比べるな」

「見比べてはいない」

「今やってただろ」

「確認しただけだ」

「何を?」

「違いを」

ライルが興味を持つ。

「分かったのか?」

「ああ」

刹那は即答した。

「立ち方も、視線も違う」

「……よく見てるな」

ティエリアが腕を組む。

「外見が酷似しているだけだ。行動パターンまで同一ではない」

ニールが横を見る。

「お前も結構見てるじゃないか」

「観察と興味は別だ」

「誰も興味あるなんて言ってないぞ」

ティエリアが黙った。

クリスが笑う。

「やっぱり気になってるじゃん」

「違う!」

その様子を見ながら、ライルの表情が少し緩んだ。

もっと張り詰めた空気を想像していた。

少なくとも、入口から想像とは違う。

「ライル・ディランディね」

スメラギが前へ出る。

「スメラギ・李・ノリエガよ」

「話は兄さんから聞いてる」

「私もあなたのことは聞いてるわ」

「どこまで?」

「今日ここへ来た理由まで。それ以上を聞くつもりはないわ」

ライルの表情を見て、スメラギが続ける。

「ニールから聞いているでしょうけど、今日は見てもらうだけ。答えを求めるつもりはない」

「ああ。それなら助かる」

少し離れていたレイナスが歩いてきた。

「レイナス・レノアーク」

差し出された手をライルが握る。

「ライル・ディランディ」

「よろしく」

ライルは目の前の男を見る。

この男については、カタロンでも妙な噂を聞いている。

ソレスタルビーイングのパイロット。

連邦のGN-Xを戦場で奪った。

青白い光を纏い、生身でモビルスーツを破壊した。

あまりにも現実味がない。

「……あんたがレイナスか」

「そうだけど」

「色々聞いてる」

レイナスの眉が僅かに上がる。

「内容によるな。いい話なら俺で合ってる」

「悪い話だったら?」

「人違いだ」

間髪入れずに返された。

ライルが吹き出す。

フェルトが横から言う。

「そうやって誤魔化すから話が増えるんでしょ」

「俺が広めたわけじゃないだろ」

「でも、大体本当なんでしょ?」

「……内容を聞いてから答えさせてくれ」

フェルトは小さく笑った。

「やっぱり」

レイナスがライルを見る。

「見ただろ。ここじゃ俺の弁明はあんまり通らない」

「自業自得じゃないのか?」

「初対面から厳しいな」

「今のやり取り見た後じゃな」

「なるほど。反論できん」

その軽いやり取りを見ながら、ライルは兄を見る。

ニールが小さく肩をすくめた。

いつものことらしい。

          ◇

同日――主格納庫

格納庫へ入ったライルは、自然と歩みを止めた。

巨大な人型が並んでいる。

最も完成度が高いのは、大型の白いガンダム。

セラヴィー。

その隣には、まだ整備用ケーブルを繋がれたままの新型機。

00。

そして少し離れた専用区画。

そこにアステリオンが立っていた。

「……これか」

ライルの視線が止まる。

レイナスが横に並ぶ。

「何か知ってる?」

「中東で目撃された機体だろ」

「ああ」

「カタロンにも映像が回ってきた。青白い光を纏ってたって」

「そっちまで行ってたのか」

レイナスは少し嫌そうな顔をした。

「有名人だな」

「勘弁してくれ。名前だけ売れても一銭にもならない」

フェルトが後ろから歩いてくる。

「気にするところ、そこ?」

「他に何を気にしろってんだ」

「普通は正体が知られる方」

「それはそうだな」

あっさり認める。

ライルがアステリオンを見上げた。

「これはあんた専用なのか?」

「ああ」

返事が早かった。

レイナスも機体を見上げる。

「正真正銘、俺の機体だ」

その声だけは、さっきまでと少し違った。

隠す気もない。

明らかに嬉しそうだった。

ライルが横目を向ける。

「そんなに違うものか?」

「違うね」

レイナスは即答する。

「百年以上、借り物だの拾い物だので何とかしてきたんだ。初めて自分用に造ってもらった機体となりゃ、そりゃ扱いも変わる」

ライルの顔が止まる。

「……今、何年って言った?」

「あ」

ニールが後ろで声を漏らした。

ライルが兄を見る。

「兄さん?」

「その話、まだしてなかったな」

「百年以上?」

「そこは本人から聞いてくれ」

「投げるなよ」

レイナスが苦笑する。

「まあ、色々あってな」

「色々で百年は片付かないだろ」

「俺もそう思う。でも真面目に説明すると、今日の予定が全部飛ぶ」

「本当なのか?」

「残念ながら」

レイナスは自分の身体を見る。

「長生きした割に貫禄がついてこないのが悩みでね」

フェルトが言う。

「中身もそんなに変わってないんじゃない?」

レイナスが振り返る。

「フェルト、最近遠慮なくなったよな」

「何年も一緒にいるから」

「昔はもう少し俺を立ててくれた気がするんだけど」

「気のせい」

「即答かよ」

「レイナスが変なこと言うからでしょ」

レイナスは何か返そうとして――やめた。

「……まあいい。成長ってことにしとこう」

「何、その言い方」

「褒めてるんだよ」

フェルトは少し呆れた顔をしたあと、笑った。

そのやり取りを見ていたライルがニールへ小声で聞く。

「いつもあんな感じか?」

「大体な」

「なるほど」

何がなるほどなのか。

ニールは聞かなかった。

その時、整備デッキから少女が降りてきた。

「レノアークさん!」

ミレイナだった。

「昨日のアステリオンのデータなんですけど――」

階段を降りきったところで止まる。

ニールを見る。

続いてライル。

またニール。

「……ディランディさん?」

二人が同時に反応した。

「ん?」

「あ?」

ミレイナの目が丸くなる。

クリスが笑い出した。

「ほら、こうなると思った!」

「笑ってる場合じゃないです!」

ミレイナは困った顔で二人を見比べる。

「ディランディさんが二人になったです!」

ライルが笑う。

「ライルだ」

「ライル……」

ミレイナが少し考える。

「じゃあ、ライルさんです!」

「好きに呼んでくれ」

「はいです!」

ニールが指を差す。

「俺は?」

「ディランディさんです!」

「俺だけそのままか」

「先に知ってたですから!」

レイナスが笑う。

「先着順らしいぞ。よかったな、ニール」

「何がよかったんだよ」

「小さな既得権は大事にしろ。人生、いつ失うか分からない」

「そんな大げさな話じゃないだろ」

「俺は百年以上生きてるんだぞ。呼び方一つでも油断はできない」

「絶対関係ない」

フェルトが言った。

「お前まで乗るの?」

「事実だから」

「……四年って長いな」

レイナスがしみじみ呟いた。

          ◇

同日――建造ドック

巨大な艦体を前に、ライルはしばらく言葉を失っていた。

外装の大部分は完成している。

各部ではまだ作業が続いていたが、既に宇宙船としての形は完全に出来上がっていた。

「これが次の母艦」

ニールが説明する。

「前のプトレマイオスとは設計から違う」

「戦うための船か」

「ああ」

ライルは建造ドックを見渡す。

ここまでのものを造るには、金も人間も時間も必要だ。

一時的に集まった武装集団ではない。

二年前に壊滅寸前まで追い込まれながら、それでもここまで戻している。

「本当にまたやるんだな」

ライルが言った。

「武力介入を」

ニールはすぐには答えなかった。

「同じことをするつもりはない」

「何が違う?」

「俺たちは二年前に一度負けた」

ニールは建造中の艦を見る。

「失敗もした。見えてなかったこともあった。だから全部そのままやり直すわけじゃない」

「でも戦う」

「ああ」

「アロウズと?」

「必要なら」

ライルの表情が変わる。

カタロンにいる以上、アロウズが何をしているかは嫌でも知っている。

反連邦勢力の摘発。

協力者の拘束。

民間人を巻き込んだ掃討。

消える人間。

「兄さんは?」

「俺?」

「またガンダムに乗るのか」

ニールは少し考えた。

「必要なら乗る」

「身体は?」

「前よりずっといいよ」

「それは答えになってない」

「昔と同じ無茶をする気はないさ」

ニールは弟を見る。

「俺にできることをやる。それだけだ」

ライルは黙る。

以前の兄なら、もっと勢いで答えたかもしれない。

少なくとも、ライルの記憶にあるニールはそうだった。

今は違う。

迷わなくなったのではない。

迷った上で決めるようになった。

そんな印象だった。

          ◇

同日――設計区画

ライルが一枚の設計表示に気づいた。

足が止まる。

まだ機体の外形すら確定していない。

基本構想だけ。

だが表示されている文字には目を引かれた。

長距離射撃。

高精度センサー。

狙撃支援。

「これ……」

作業をしていたイアンが振り返る。

「ああ。まだ初期案だ」

ニールも画面を見る。

「狙撃機?」

「そうだ」

イアンが表示を拡大する。

「セラヴィーは完成した。00もツインドライヴさえ何とかなれば先へ進める」

別の項目が表示される。

「だが今のCBには、長距離戦を専門に担当できる機体がない」

ライルがニールを見る。

「兄さん用じゃないのか?」

「まだ誰用とも決めてない」

イアンが答える。

「それにニールが戦線へ戻れるとしても、以前と全く同じ役割をそのままやらせる気はない」

「俺はまだやれるぞ」

「やれるのと、やらせていいのは別の話だ」

イアンの返答は即座だった。

ニールが黙る。

ライルは設計案へ視線を戻した。

狙撃。

射撃支援。

その言葉を少しだけ長く見る。

「興味あるのか?」

ニールが聞いた。

「見てただけだ」

「そうか」

それ以上、ニールは聞かなかった。

後ろを通りかかったレイナスが設計画面を覗く。

「まだ骨組みどころか、骨の名前を考えてる段階だな」

イアンが眉を寄せる。

「何だその例えは」

「形にもなってないってことだよ」

ライルがレイナスを見る。

「俺に乗れって言わないのか?」

「なんで俺が?」

「こういうのを見せるってことは、そういう意味かと思った」

レイナスは少し考える。

「乗りたいなら話は別だけどな」

「まだそんなこと言ってない」

「なら今決める必要もないだろ」

レイナスは画面へ視線を戻す。

「MS一機背負うってのは、思ってるより重いぞ。俺みたいに百年待てとは言わないが、半日見学した程度で決めるには高すぎる買い物だ」

「金の話か?」

「命の話」

軽かった声が、一瞬だけ低くなった。

ライルは黙る。

「乗るなら自分で決めろ。乗らないならそれでもいい」

レイナスはそこで笑った。

「他人に決めてもらった人生なんて、後から請求書だけ回ってきても納得できないだろ」

ライルの口元が僅かに動いた。

「変な言い方するな、あんた」

「よく言われる」

少し離れたところからフェルトが言った。

「本当によく言われてる」

レイナスが振り返る。

「聞こえてるぞ」

「聞こえるように言ったから」

「……強くなったな、フェルト」

「レイナスが慣れただけでしょ」

「それもあるか」

レイナスは苦笑した。

          ◇

同日――休憩区画

見学も終盤に入っていた。

ライルは飲み物を片手に椅子へ座っている。

向かいではクリスが興味津々でこちらを見ていた。

「なあ」

「何?」

「さっきから何か聞きたそうだろ」

「分かる?」

「分かる」

クリスが笑う。

「ニールって昔どんな子だった?」

「クリス」

ニールが止める。

「何よ。いいじゃない」

「今日それ関係ないだろ」

「ある。大事」

「何が?」

「私の好奇心に」

「完全に私用じゃないか」

ライルが笑う。

「今より面倒だったよ」

「ライル」

「へえ!」

クリスが身を乗り出す。

「例えば?」

「話すなよ」

「兄さんが嫌がるなら話したくなるだろ」

「お前な……」

少し離れた席にいた刹那が、ライルを見ていた。

ライルが気づく。

「何だ?」

「お前は射撃が得意なのか?」

空気が少し変わる。

ニールが刹那を見る。

ライルはすぐには答えなかった。

「どうしてそう思う?」

「設計画面を見ていた」

「それだけ?」

「それと、立ち方」

「またそれか」

「銃を扱う人間の立ち方だ」

ライルの表情から笑みが薄れる。

カタロンで銃を握っている。

MSにも乗る。

そのことはまだ話していない。

「兄さんから聞いた?」

「聞いていない」

「……そうか」

刹那はそれ以上追及しなかった。

ライルも答えない。

ただ、その沈黙だけで十分だった。

ニールも何も言わなかった。

          ◇

同日――輸送艇発着区画

見学を終えたライルは、輸送艇の前で振り返った。

最初に来た時よりも、この場所の見え方が変わっている。

ニールが隣へ来る。

「どうだった?」

「すぐ答えを聞く気はないんじゃなかったのか?」

「感想だよ」

「そういうことにしとく」

ライルは少し考える。

「思ってたのとは違った」

「そうか」

「もっと……何て言うか」

言葉を探す。

「危ない連中の集まりだと思ってた」

後ろからレイナスの声がする。

「そこは否定しづらいな」

ライルが振り返る。

「聞いてたのか?」

「聞こえたんだよ」

レイナスは自分を指す。

「少なくとも俺がいる時点で、安全な職場ですとは言い切れない」

「自覚あるのか」

「自覚くらいあるさ。改善する予定がないだけで」

フェルトが隣から言う。

「そこは改善して」

「努力目標でいい?」

「駄目」

「厳しいな」

フェルトは真顔だった。

だが、すぐに小さく笑った。

ライルも笑う。

「……まあ、そういうところも含めてだ」

ニールが聞く。

「また来るか?」

ライルは兄を見る。

しばらく答えなかった。

「まだ分からない」

「ああ」

「カタロンを辞めるとも言ってない」

「分かってる」

「でも」

ライルは輸送艇へ目を向ける。

「今日来たことを後悔はしてない」

ニールが笑った。

「それで十分だよ」

「じゃあな、兄さん」

「ああ。またな」

ライルが輸送艇へ乗る。

ハッチが閉じる。

機体はゆっくりと発着区画を離れていった。

ニールは最後まで見送った。

レイナスが隣へ来る。

「悪くない一日だったな」

「そうだな」

「少なくとも、二度と来ないって感じじゃなかった」

ニールが少し笑う。

「俺もそう思う」

「なら待っとけよ」

レイナスは踵を返す。

「追いかけたって答えが早く出るわけじゃない。こういう時は下手に動く方が損だ」

「珍しく経験者みたいなこと言うな」

レイナスが振り返る。

「百年以上生きてる男に何言ってんだ」

「その割には人間関係で苦労してそうだけどな」

「だから経験者なんだよ」

ニールが笑った。

「なるほど」

「納得されると腹立つな」

二人は並んで発着区画を後にした。

          ◇

同日夜――王留美管理・地上セーフハウス

室内には端末の光だけが残っていた。

絹江は一人、調査を続けている。

連邦軍に拘束された後、通常の記録から消えた人間たち。

これまでに確認できたのは二十七人。

拘束された地域は違う。

容疑も違う。

だが移送記録を追うと、いくつかの共通する中継地点がある。

偶然ではない。

絹江は対象をさらに広げた。

正式な拘束記録だけではなく、一時拘束、職務質問、身柄確認。

そこから通常記録へ戻らなかった者。

検索結果が更新される。

何気なく次の名前へ目を移した。

指が止まった。

「……え?」

画面を拡大する。

見間違えるはずがない。

沙慈・クロスロード。

絹江の表情が消えた。

「沙慈……?」

拘束理由。

反政府勢力との接触容疑。

連邦治安部隊による一時拘束。

そして移送。

その先がない。

釈放記録もない。

正式な収容記録もない。

これまで調べてきた二十七人と同じだった。

絹江はすぐに別の資料を開く。

移送時刻。

輸送管理番号。

経由地点。

一つずつ照合する。

「嘘……」

一致した。

沙慈も同じ流れに入っている。

絹江は通信端末へ手を伸ばした。

迷いはなかった。

呼び出し。

数秒後、回線が繋がる。

『絹江?』

ニールの声。

「ニール」

自分でも分かるほど、声が硬い。

『どうした?』

「沙慈が拘束された」

短い沈黙。

『沙慈って……弟の?』

「ええ」

絹江は画面から目を離さない。

「反政府勢力との接触容疑。そこまでは普通の記録に残ってる」

『その先は?』

「ない」

ニールの声が変わった。

『……まさか』

「今まで調べてた二十七人と同じ」

絹江は移送記録を表示する。

「同じ中継地点を通ってる」

『アロウズか?』

「まだ断定できない。でも――」

絹江は一度だけ目を閉じた。

弟だからではない。

ここで感情だけで決めてはいけない。

今まで追ってきた二十七人。

そして沙慈。

同じ仕組みの中で、人が消えている。

目を開く。

「これで二十八人」

声はもう震えていなかった。

「沙慈だけじゃない」

『ああ』

「この先に何があるのか、突き止める」

ニールもすぐに答えた。

『分かった。こっちにも回す』

「お願い」

通信が切れる。

絹江は再び画面を見る。

弟の名前。

その上に並ぶ、二十七人の名前。

今まで数字だったものが、急に別の重さを持った。

だが、やることは変わらない。

調べる。

繋げる。

そして見つける。

沙慈が消えた先を。

その向こうにいる、二十七人の行方も。

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