機動戦士ガンダムOOR   作:ミスト12523

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第63話 再会

第63話 再会

西暦2312年春――王留美管理・地上セーフハウス

「沙慈が拘束された」

通信越しにその言葉を聞いた瞬間、ニールの表情から笑みが消えた。

目の前のモニターには絹江がいる。その背後では、いくつもの資料が開かれていた。

「沙慈って……弟の?」

『ええ』

絹江は画面から目を離さない。

『宇宙で技術者として働いてたの』

四年前の戦いで、沙慈はルイスとの日常を失った。

それでも、二人で交わした約束は捨てなかった。

宇宙で働く。

いつか二人で宇宙へ行くために目指していた道を、沙慈は一人になってからも歩き続けた。

そして技術者となり、宇宙で働いていた。

『でも、勤務先の居住区で反政府勢力との接触を疑われて拘束された』

「沙慈が?」

『本人が反政府活動をしていた形跡はないわ』

絹江が別の資料を表示する。

『問題はその後』

拘束記録。

移送命令。

そこまでは残っている。

だが通常なら存在するはずの事情聴取や釈放、起訴に関する記録がない。

代わりに、沙慈は別の宇宙施設へ移送されていた。

「収容所か」

『たぶん』

絹江が軌道図を表示する。

地球から離れた位置にある資源採掘用コロニー。

表向きは労働者用の居住・管理施設だが、一部区画がアロウズの管理下に置かれている。

『沙慈だけじゃない』

画面に複数の名前が並んだ。

『同じように拘束されて、その施設へ送られた人がいる』

「何人だ?」

『正確には分からない。記録そのものが途中から消されてるから』

絹江はそこで初めて画面を見た。

『ニール。CBへ伝えて』

「ああ」

『お願い』

いつもの記者としての顔を保っている。

それでもニールには分かった。

今回は違う。

資料の中にいるのは、絹江の弟だ。

「絹江」

『何?』

「こっちは任せろ」

短い沈黙。

『……ええ』

通信が切れる。

ニールはすぐに別の回線を開いた。

端末にソレスタルビーイングの暗号通信を呼び出す。

「せっかく弟を見つけたと思ったら、今度は義理の弟探しか」

そこまで言ってから止まった。

「……いや、まだ義理じゃないな」

誰もいない部屋で一人訂正し、通信を送った。

          ◇

数時間後――ソレスタルビーイング再建拠点・作戦室

中央モニターに宇宙コロニーが表示されていた。

スメラギ、刹那、ティエリア、レイナス、フェルト、クリス。

ニールから送られてきた情報を全員で確認している。

「沙慈・クロスロード……」

刹那がその名前を見る。

四年前。

隣の部屋に住んでいた少年。

戦争とは無縁だったはずの人間。

「知ってるの?」

クリスが聞く。

「ああ。昔の隣人だ」

スメラギが資料を切り替えた。

「王留美にも調べてもらったわ。絹江の推測はほぼ正しい」

コロニーの断面図が表示される。

「資源採掘施設として使われているけど、現在は一部区画をアロウズが管理してる」

ティエリアが資料へ目を走らせる。

「拘束した民間人を強制労働に従事させている可能性が高い」

刹那の目が鋭くなる。

「沙慈はそこにいる」

「その可能性は高いわ」

スメラギは別の資料を表示した。

施設へ送られた複数の拘束者。

「ただし、沙慈君一人を助けて終わりじゃない。現地には同じような境遇の人が相当数いる可能性がある」

レイナスが椅子にもたれる。

「裁判もなし。記録もなし。その上、タダ働きか」

画面に並ぶ資料を見ながら鼻で息を吐く。

「人件費を削るにしたって、やり方ってもんがあるだろ」

「笑えない」

フェルトが言った。

「笑ってないよ」

実際、その顔には笑みがなかった。

スメラギが作戦図を開く。

「大規模な攻撃はしない。まだ私たちは再建途中よ」

00はまだ動かない。

新造艦も完成していない。

アリオスも建造途中。

現時点で即座に投入できる新世代機は、アステリオンとセラヴィーだけだ。

「潜入する」

刹那が言った。

「俺が行く」

「なら俺も行こう」

レイナスが続ける。

フェルトがそちらを見る。

「アステリオンは?」

「置いていく」

「また?」

「今回は最初から潜入だぞ」

レイナスはコロニーの断面図を指した。

「MSで正面玄関から入ったら、それはもう潜入じゃなくて営業停止命令だ」

フェルトが小さく息を吐く。

「それはそうだけど」

「刹那と二人なら中は十分だ」

ティエリアが口を開く。

「僕は?」

スメラギがコロニー外周を示した。

「セラヴィーで外部待機。二人が脱出する時の退路を確保して」

「了解した」

刹那も頷く。

「俺とレイナスが中へ入る」

「ああ」

レイナスが立ち上がった。

「四年ぶりの隣人なんだろ。迎えに行こうぜ」

          ◇

同日――再建拠点・第三格納区画

出発準備までの間、レイナスは装備を受け取るため格納庫を通った。

そこで足が止まる。

「お」

大型の整備架台。

その中央に、まだ装甲すら揃っていない細身のMSが固定されていた。

胴体から脚部にかけてフレームが露出し、各部には変形機構を前提とした可動構造が組み込まれている。

「進んでるじゃないか」

イアンが端末から顔を上げた。

「触るなよ」

「まだ何もしてないだろ」

「お前の場合は先に言っといた方がいい」

レイナスはフレームを見上げる。

「アリオスだったな」

「ああ」

アレルヤ・ハプティズムの次期機。

本人は四年前から行方が分からない。

それでも開発は続いていた。

「高速戦闘と可変機構。キュリオスの発展型だ」

レイナスの視線が脚部から背部へ移っていく。

「いいな」

「駄目だ」

「まだ何も言ってないぞ」

「顔で分かる」

「見るだけならタダだろ」

「見るだけならな」

レイナスは少し位置を変え、フレームを眺めた。

「本人より先に機体が帰りを待ってるってのも妙な話だな」

イアンの手が止まる。

「あいつが戻ってきた時に、乗るものがありませんじゃ話にならん」

「そうだな」

今度は茶化さなかった。

「だったら、乗り手も早いところ見つけないとな」

「ああ」

イアンが頷く。

「そのためにも、まず今日の仕事を終わらせてこい」

「分かってるよ」

「あと敵のMSを拾ってくるなよ」

レイナスが振り返る。

「何で今それを言う?」

「念のためだ」

「俺にはもうアステリオンがあるんだぞ」

「だから言ってる」

「信用ってのは貯めるのに時間がかかる割に、残高照会すると寂しいもんだな」

イアンは返事をしなかった。

          ◇

数日後――地球連邦・軌道資源採掘コロニー

沙慈・クロスロードは、作業用工具を握っていた。

周囲にも同じ作業服を着せられた人々がいる。

監視兵。

監視カメラ。

逃げ場のない宇宙。

「手を止めるな!」

怒声が飛ぶ。

沙慈は何も言わず、作業へ戻った。

宇宙で働くことは、ずっと目指していた。

ルイスとの約束だったからだ。

四年前の戦いで日常が壊れた後も、その約束だけは手放さなかった。

技術者となり、今は宇宙で働いている。

だが、こんな形で宇宙に閉じ込められるとは思っていなかった。

反政府勢力と関わった覚えなどない。

それでも拘束された。

何を言っても聞いてもらえず、気づけばこの施設へ送られていた。

「ルイス……」

小さく名前を呼ぶ。

彼女は今、どこにいるのだろう。

自分がこんな場所にいることなど、きっと知らない。

遠くで警報が鳴った。

沙慈が顔を上げる。

監視兵たちが慌ただしく動き始めた。

『第三区画でセンサー異常』

『警備班を向かわせろ』

何かが起きている。

それが自分に関係することだとは、まだ思っていなかった。

          ◇

同時刻――コロニー・保守通路

警備兵が床へ崩れた。

レイナスがその身体を支え、静かに寝かせる。

「一人」

反対側では刹那がもう一人を無力化していた。

「二人」

レイナスが端末を拾う。

「息ぴったりじゃないか」

「喋ってる暇があるなら調べろ」

「四年経っても愛想がないな」

端末を操作する。

収容者名簿。

作業区画。

指を止めた。

「いた」

沙慈・クロスロード。

第七作業区画。

刹那が覗き込む。

「行くぞ」

「ああ」

二人が走り出した。

          ◇

コロニー外周宙域――セラヴィー

ティエリアはコックピットで周辺状況を監視していた。

『アーデさん、周辺宙域に大きな変化はないです』

ミレイナの声。

「了解」

続いてフェルト。

『刹那とレイナス、第七作業区画へ移動中』

「予定より早いな」

『警備員との接触はあったけど、警報には繋がってない』

クリスが通信へ割り込む。

『問題はこの後ね』

「何だ」

『レイナスが大人しく帰ってくるかどうか』

「……」

『あれ? 否定しないの?』

「任務に集中しろ」

『はーい』

ティエリアはコロニーへ視線を戻した。

          ◇

第七作業区画

沙慈は銃声を聞いた。

監視兵が振り返る。

「何だ!?」

通路の扉が開いた。

一人の男が飛び込んでくる。

監視兵の銃を蹴り上げ、そのまま身体を捻って床へ倒した。

もう一人が銃を構える。

横から伸びた手がその銃身を掴んだ。

青白い光。

金属がひしゃげる。

「な――」

腹部へ一撃。

警備兵が崩れ落ちた。

沙慈は目を見開く。

最初の男がこちらを向いた。

「沙慈」

聞き覚えのある声。

けれど、記憶の中より成長している。

「……刹那?」

「ああ」

「刹那……なの?」

「そうだ」

沙慈は混乱したまま周囲を見る。

「どうして君がここに……」

「話は後だ」

刹那が近づく。

「ここから出る」

「ちょ、ちょっと待ってよ」

沙慈は一歩下がった。

「何が起きてるんだよ。どうして刹那がここにいるの?」

刹那は答えず、通路の奥へ視線を向けた。

別の男が近づいてくる。

沙慈には見覚えがない。

「あなたは……?」

「レイナス・レノアーク」

「レイナス……?」

「ああ。説明は後でまとめてする。今はここを出るぞ」

「でも……」

沙慈は刹那を見る。

突然現れた昔の隣人。

見知らぬ男。

倒された警備兵。

何が起きているのか、まるで分からない。

問いかけようとした瞬間、施設全体に警報が鳴り響いた。

レイナスが天井を見る。

「時間切れだな」

通路の奥から金属音が近づいてくる。

刹那が振り返った。

「オートマトン」

角から無人兵器が現れる。

銃口が作業員たちへ向けられた。

「え……?」

沙慈の顔から血の気が引く。

「待ってよ……僕たちは何もしてないだろ!?」

答えはない。

無人兵器に弁明など通じない。

レイナスの右手に青白い光が集まり、《アニマソード》を形作った。

「刹那」

「ああ」

「沙慈たちを連れて先へ行け」

「お前は?」

「こいつらを止める」

一機目が発砲する。

青白い障壁が展開され、銃弾が弾けた。

次の瞬間、レイナスが踏み込む。

《アニマソード》が一機目の胴体を切り裂き、返す刃で二機目の武装を断つ。

沙慈はその光景を呆然と見つめた。

「……何なんだ、あの人……」

「レイナスだ」

刹那が答える。

「いや、名前じゃなくて……!」

「今は行くぞ」

「ちょっと、刹那!」

腕を引かれながら、沙慈は何度も後ろを振り返った。

          ◇

コロニー・MS格納区画

収容者たちを脱出用の小型輸送艇へ乗せ終え、刹那とレイナスは最後に格納区画へ入った。

レイナスが周囲を見る。

そこで足が止まる。

赤いMS。

GN-X III。

複数機が出撃準備に入っていた。

レイナスの視線が一機へ吸い寄せられる。

刹那がすぐに気づいた。

「レイナス」

「何だ?」

「行くぞ」

「ああ」

返事だけで動かない。

「レイナス」

「……いや、待て」

刹那もGN-X IIIを見る。

「またやるのか」

「人聞きが悪いな」

「イナクトを奪った」

「必要だった」

「GN-Xも奪った」

「あれも必要だった」

「今度はGN-X IIIか」

レイナスは一度黙った。

それから赤い機体を見上げる。

「こう並べられると、俺もちょっと自信なくなってきたな」

一機のGN-X IIIへパイロットが走っている。

レイナスの目がそちらへ向く。

「まあ、それはそれとして」

「奪うんだな」

「帰りの足は必要だろ」

「アステリオンがある」

「ここにはない」

「帰ればある」

「その帰りの話をしてるんだよ」

刹那が黙る。

「宇宙だぞ」

「だから徒歩じゃ帰れないだろ」

数秒。

「好きにしろ」

「話が分かるようになったな!」

レイナスが床を蹴った。

GN-X IIIへ乗り込もうとしていたパイロットが振り返る。

「何者だ!」

「悪い、借りる!」

次の瞬間には懐へ入っていた。

パイロットをコックピットから引き離し、そのまま床へ降ろす。

レイナスが代わりに滑り込んだ。

ハッチが閉じる。

システム起動。

赤いGN-X IIIのカメラアイが点灯する。

レイナスは操縦系へ素早く目を走らせた。

「さて」

口元が上がる。

「久しぶりの現地調達だ」

          ◇

コロニー外周宙域

セラヴィーが動いた。

接近するアロウズ部隊をティエリアが捕捉する。

「来たか」

GNバズーカが展開され、粒子が収束する。

「ここから先へは行かせない!」

閃光が宇宙を走った。

敵部隊が散開する。

その直後、コロニーのハッチが開いた。

小型輸送艇。

続いて――赤いGN-X III。

ティエリアが反射的に照準を向ける。

『撃つな! 俺だ!』

「……レイナス?」

GN-X IIIがセラヴィーの横へ並ぶ。

『無事脱出。沙慈たちも輸送艇に乗ってる』

フェルトが確認する。

『輸送艇の収容者を確認。刹那もいる』

「了解した」

ティエリアは改めて赤い機体を見る。

「それは?」

『帰りの足』

「……」

『何だよ』

「いや」

ティエリアはため息をついた。

その瞬間、通信回線からクリスの声が響いた。

『うわ、久しぶりに出た!』

「何が?」

『妖怪、機体置いてけ!』

「誰が妖怪だ!」

『だってまた敵の機体持って帰ってきてるじゃん!』

「今回は帰りの足が必要だったんだ!」

『前も似たようなこと言ってなかった?』

「今回は本当に必要経費だ!」

フェルトの声が続いた。

『レイナス』

「何だ?」

『それ、持って帰るの?』

レイナスはGN-X IIIの状態表示を見る。

ほぼ無傷。

最新型。

各種データも残っている。

「……ここまで乗ってきて捨てる方が勿体ないだろ?」

『やっぱり』

「その納得の仕方、ちょっと傷つくぞ」

『何年も一緒にいるから』

「信用の方向がおかしくないか?」

『気のせい』

レイナスが小さく笑った。

「まあいい。ちゃんと帰るさ」

『うん』

その時、警報が鳴った。

追加のアロウズMS。

GN-X III数機がこちらへ接近している。

レイナスの目つきが変わる。

「……帰る前に一仕事増えたか」

セラヴィーが隣へ並ぶ。

『鹵獲したばかりの機体で無茶をするな』

「心配するな! 他人の機体で無茶するのは昔から慣れてる!」

『それは安心材料にならない』

「言うようになったな、ティエリア!」

赤いGN-X IIIのスラスターが輝く。

借り物。

拾い物。

そして現地調達。

専用機アステリオンを手に入れても、その男に長年染みついた癖までは消えていなかった。

赤いGN-X IIIがセラヴィーと並び、迫る敵部隊へ加速した。

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