機動戦士ガンダムOOR   作:ミスト12523

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第65話 変わった世界

第65話 変わった世界

西暦2312年春――ソレスタルビーイング宇宙再建拠点外周

00ガンダムが戦場を駆ける。

両肩のGNドライヴから放出される粒子が機体を包み、赤い光となって宇宙へ尾を引いていた。

正面から三機のGN-X III。

散開。

左右からビームが走る。

00は機体を沈めて一条目をかわし、そのまま加速した。二条目が背後を通過した時には、既に一機目の懐へ入り込んでいる。

ビームサーベルが振り下ろされた。

刹那はそれを受けず、さらに前へ出る。

交差。

GN-X IIIのライフルが宙を舞った。

反転。

二機目が照準を合わせるより早く、00がその横を抜ける。

敵機の右腕が切断された。

「これが……00」

エクシアとは違う。

単純な機動性だけではない。

二基のGNドライヴから供給される粒子が、機体の全動作を押し上げている。

そして今は、トランザムによってさらに出力が引き上げられていた。

刹那は操縦桿を倒す。

00が再び加速した。

          ◇

少し離れた宙域。

アステリオンがGN-X IIIの射撃をかわしながら、00の進路を横切ろうとする敵機へライフルを撃った。

一射。

敵が回避する。

その先へセラヴィーの砲撃。

GN-X IIIが急制動した。

レイナスはそこへ踏み込む。

ビームサーベルを一閃。

敵機のライフルが両断された。

「……大したもんだな」

レイナスは00を見る。

先ほどのように戦闘を忘れて見入ることはない。

それでも、センサーへ表示される粒子量には目が行った。

二基のGNドライヴ。

単純に二基分を足した数字ではない。

『気になるか』

ティエリア。

「そりゃな。あんなのを見せられて何も思わないほど、MSに興味がなくなった覚えはない」

アステリオンが旋回する。

「もっとも、見物は帰ってからでいい。今は仕事中だ」

『先ほどもそうしていればよかったんだがな』

「反省した人間に追い打ちをかけるもんじゃないよ」

『本当に反省しているのか?』

レイナスは少し考えた。

「次から気をつける程度には」

『それを反省と言うのか……?』

「少なくとも改善の意思はある。現場じゃそれなりに大事だぞ」

セラヴィーが砲撃する。

レイナスはその光を追ってアステリオンを加速させた。

敵部隊の動きが変わっている。

00の参戦。

アステリオン。

セラヴィー。

三機を相手にしながら再建拠点へ突入するのは難しいと判断したのだろう。

前衛が徐々に後退を始めていた。

『敵艦艇に動きがあります』

フェルトの声。

『MS部隊も後退を開始』

スメラギが戦況を確認する。

『追わなくていいわ。拠点防衛を優先して』

「了解」

レイナスは即座にアステリオンを減速させた。

刹那も追わない。

ティエリアもセラヴィーを反転させる。

敵部隊はやがて射程圏外へ離れていった。

戦闘は終わった。

再建拠点は守られた。

だが――

中央管制室のスメラギは、敵部隊が消えた宙域を見つめたままだった。

ここはもう、秘匿拠点ではない。

          ◇

再建拠点・第二格納区画

00ガンダムが固定アームへ収まる。

赤い輝きは既に消えていた。

左右のGNドライヴは正常に回転を続けている。

刹那がコックピットから降りるより先に、イアンが整備員へ指示を飛ばしていた。

「同調率の推移を全部保存しろ! トランザム前後の粒子生成量もだ!」

「了解!」

ミレイナも端末を抱えて走る。

「戦闘データも回収中です!」

「頼む!」

少し遅れてレイナスが格納区画へ入ってきた。

足を止め、00を見上げる。

「こうして見ると、やっぱり面白い機体だな」

隣へフェルトが来た。

「触らないの?」

「俺を何だと思ってるんだ?」

フェルトが答えない。

「……そこで黙られると少し傷つくな」

「触りたい?」

「触りたい」

「じゃあ駄目」

「判断が早いな」

フェルトの口元が少し緩んだ。

レイナスもそれ以上は近づかない。

イアンがデータ確認に夢中になっている。

「まあ、専門家が忙しい時に横から手を出すほど野暮じゃないさ」

「珍しいね」

「フェルトまでクリスみたいなこと言うようになったな」

「誰の影響かな」

「……それは聞かない方が平和に終わりそうだ」

レイナスは00へ視線を戻す。

刹那が降りてきた。

「どうだった?」

「動いた」

「見れば分かる」

「まだ完全じゃない」

刹那の返答に、レイナスの表情から軽さが消える。

「ああ。そこは俺もそう思う」

一度成功した。

それだけだ。

今回はトランザムを利用して二基のGNドライヴを同調領域へ押し込んだ。

次も同じ方法が必要なのか。

通常状態で安定するのか。

機体側への負荷は。

確認すべきことはいくらでもある。

「機械ってのは、一回動いた時が一番危ないんだ」

イアンが振り返る。

「分かってるじゃないか」

「昔、嫌ってほど見たからな。昨日動いたから今日も大丈夫だろ、で現場が止まる」

レイナスは00を見上げる。

「まずはデータ取りだ。喜ぶのはその後でいい」

イアンが頷いた。

「珍しく話が早い」

「俺だっていつも余計なことしてるわけじゃないよ」

フェルトが小さく首を傾げる。

レイナスはその視線に気づいた。

「……そこも黙るところじゃないだろ」

          ◇

再建拠点・医療区画前

沙慈は一人、椅子に座っていた。

身体検査は終わっている。

大きな異常はなかった。

だが、頭の中はまとまらない。

足音。

顔を上げる。

刹那だった。

「刹那」

刹那が止まる。

沙慈は少し迷ってから口を開いた。

「さっきのガンダム……君が乗ってたんだよね」

「ああ」

「五年前も?」

「ああ」

短い答えだった。

沙慈は俯く。

五年前。

日本で隣に住んでいた少年。

無口で、何を考えているのか分からなかった。

その少年が、世界中で武力介入を行ったソレスタルビーイングのガンダムマイスターだった。

「どうして……」

刹那は何も言わず待った。

「どうして、また戦ってるんだよ」

「戦いが終わっていないからだ」

「でも……世界は変わっただろ」

沙慈の声に感情が混じる。

「ソレスタルビーイングが戦って……そのせいで世界中が巻き込まれて……」

ルイスの顔が浮かぶ。

二人で宇宙へ行こうと約束した。

それまで続くはずだった日常。

「僕たちは、普通に暮らしてただけだった」

「ああ」

「ルイスだって……」

言葉が止まった。

刹那は視線を逸らさない。

「俺たちの戦いが、多くの人間の生活を変えた」

沙慈が顔を上げる。

「分かっている」

「だったら……」

「だから戦う」

沙慈の表情が歪む。

理解できない。

「同じことを繰り返すためじゃない」

刹那は静かに続けた。

「変えるためだ」

「……」

「今すぐ理解しなくていい」

刹那は歩き出す。

「自分で見ろ」

沙慈は何も答えられなかった。

助けてもらった。

その事実は消えない。

だが五年前のことも消えない。

今の沙慈には、どちらか一方だけを選ぶことはできなかった。

          ◇

再建拠点・通信室

数時間後。

モニターへ通信が繋がった。

画面に絹江・クロスロードが映る。

「姉さん」

『沙慈』

顔を見た瞬間、沙慈の肩から少しだけ力が抜けた。

絹江が生きていることは知っている。

五年前。

突然姿を消した後、絹江自身から連絡があった。

仕事の都合でしばらく帰れない。

詳しいことは話せない。

けれど無事だから心配しないで。

それからも頻繁ではないが、連絡はあった。

だから、生きていることを疑ったことはない。

問題は――

「姉さん」

『何?』

「説明して」

絹江が少しだけ身構えた。

「仕事の都合で帰れないって言ってたよね」

『……言ったわね』

「詳しいことは話せないって」

『それも言った』

沙慈は周囲を示す。

「なんでその話が、ソレスタルビーイングに繋がるの?」

『……』

「姉さん?」

『説明すると長いの』

沙慈が額を押さえた。

「今日、それ何回目だろ……」

『ごめん』

「いや……」

沙慈は息を吐く。

「無事なのは分かってたよ。でも、こんなことになってるなんて思わないだろ」

絹江の表情が少し曇る。

『五年前、私が取材していたことは覚えてる?』

「ソレスタルビーイングのこと?」

『ええ』

絹江は頷く。

『追いかけすぎたの』

「……どういう意味?」

『知ってはいけないところまで辿り着いた』

沙慈の表情が変わる。

絹江は淡々と話そうとした。

だが当時のことを思い出したのか、一度だけ息を整える。

『殺されかけた』

「……え?」

沙慈が固まる。

「誰に?」

『それはまだ詳しく話せない』

「じゃあ、どうやって……」

『助けてもらったの』

「誰に?」

絹江が答える。

『レイナスさん』

沙慈の頭に、収容施設で見た男が浮かぶ。

素手で兵士の武器を壊し、《アニマ》と呼ばれる力でオートマトンを破壊した男。

「……あの人?」

『会ったのね』

「会ったっていうか……」

沙慈は何と説明すればいいのか迷う。

「生身でモビルスーツと戦う人だよね?」

絹江が僅かに苦笑した。

『そういう認識で大体合ってるわ』

「合ってるんだ……」

ますます分からなくなる。

「姉さん、五年前に何に巻き込まれたの?」

『だから長いのよ』

「本当に長そうだね……」

画面の奥を人影が横切った。

沙慈が気づく。

「あれ?」

人影が止まる。

ニールだった。

「悪い。通信中だったか」

『ニール』

「後にする」

「待って」

今度は沙慈が止めた。

ニールが画面を見る。

沙慈と目が合った。

「……初めまして、かな」

「沙慈・クロスロードです」

「ニール・ディランディだ」

沙慈は会釈する。

そして絹江を見る。

「姉さん、この人は?」

『ニール』

「それは今聞いた」

絹江が少し困る。

『一緒にいる人』

「それは見れば分かるよ」

ニールが苦笑した。

「まあ……そうなるよな」

絹江が振り返る。

『笑ってないで助けてよ』

「俺に振るなよ」

そのやり取りを見た沙慈の眉が僅かに動いた。

姉が他人とこんなふうに話しているところを、ほとんど見たことがない。

「……姉さん」

『何?』

「その人と、ずっと一緒にいるの?」

絹江が止まった。

ニールも止まった。

数秒。

沙慈は画面を見つめる。

「今の間、何?」

『……それも説明すると長いの』

「また?」

ニールが堪えきれず笑った。

          ◇

地上――王留美の拠点

通信を終えた絹江は、椅子へ深く腰を下ろした。

「……疲れた」

「お疲れさん」

ニールが飲み物を置く。

絹江は受け取った。

「絶対変に思われた」

「五年近く事情を伏せてたんだ。そりゃ質問くらいされるさ」

「連絡はしてたわよ」

「知ってる」

「無事だってちゃんと伝えてた」

「ああ」

ニールは向かいに座る。

「でも、居場所も理由も俺のことも言ってない」

絹江が睨む。

「あなたのことをどう説明するのよ」

「俺に聞くなよ」

「そこは何か考えて」

「無茶言うなって」

絹江はため息をついた。

少しして端末を開く。

表情が変わる。

記者の顔。

「それより」

ニールも姿勢を直した。

「沙慈の収容経路を追っていて、別の記録を見つけた」

画面へ地上施設の情報が表示される。

表向きは、連邦政府の治安維持活動に伴う収容施設。

だが実際にはアロウズが拘束した人間の移送先として使用されている。

「まだ完全には裏が取れてない」

「名前は?」

絹江が一つ目を開く。

ニールの表情が変わった。

アレルヤ・ハプティズム。

「……アレルヤ」

四年前の最終決戦以降、行方が分からなかったガンダムマイスター。

「生きてたのか」

「この記録が本物なら」

「いつの情報だ?」

「最近更新されてる」

ニールの目つきが変わる。

絹江がさらに別の記録を表示する。

「それと、もう一人」

マリナ・イスマイール。

「アザディスタンの第一皇女……」

「ええ」

絹江は端末を閉じない。

「先に裏を取る。間違った情報で動かしたくない」

「頼む」

ニールはもう一度、アレルヤの名前を見る。

四年間。

死んだと決まったわけではなかった。

それでも、何の手掛かりもなかった。

その名前がようやく記録の上へ戻ってきた。

          ◇

翌日――宇宙再建拠点・中央管制室

絹江から追加情報が届いた。

複数の記録を照合。

アレルヤ・ハプティズム。

マリナ・イスマイール。

二人が同じ地上収容施設にいる可能性は高い。

スメラギは資料を閉じた。

「アレルヤは生きてる」

ティエリアが僅かに目を伏せる。

「四年間……」

「ああ」

刹那の視線は、マリナの名前で止まっていた。

レイナスは施設の情報を確認している。

「警備配置は?」

「まだ完全には掴めてないわ」

「増援経路」

「調査中」

「周辺の民間区画は?」

「それもこれから」

レイナスが端末を置いた。

「なら、動くのは揃ってからだな」

スメラギが見る。

「意外ね。すぐ行くって言うかと思った」

「助けるのは決定事項だろ」

レイナスは椅子の背へ軽く身体を預ける。

「だったら急いで失敗する理由がない。四年待たせたんだ。最後の数日くらい、こっちがちゃんと準備して迎えに行った方がいい」

ティエリアが頷く。

「同感だ」

「珍しく意見が合ったな」

「君がまともなことを言えば、僕も反対はしない」

「それじゃ普段の俺がまともじゃないみたいじゃないか」

ティエリアは答えなかった。

レイナスは少し待つ。

「……そこは否定してくれてもいいんだぞ」

スメラギが小さく笑った。

その時、通信端末が鳴る。

クリスが確認した。

「王留美からです」

「何かあった?」

「えっと……」

クリスが表示された内容を見る。

「あ」

「何?」

「ライル・ディランディから、ニール経由で連絡」

ティエリアが顔を上げる。

レイナスも視線を向けた。

「何て?」

クリスが読み上げる。

「『もう一度そちらへ行きたい』」

その後に、もう一文。

「『今度は見学じゃない』」

レイナスが僅かに笑った。

「……そうか」

前回。

答えを急ぐ必要はないと言った。

一度見ただけで命を預ける場所を決めるな、と。

どうやら自分なりに考えたらしい。

「だったら、後は本人から聞けばいい」

          ◇

地上――カタロン連絡拠点

ライル・ディランディは一人、荷物をまとめていた。

大した量ではない。

必要最低限。

端末には、先ほどニールへ送った通信が残っている。

前回は見学だった。

兄が何をしていたのか。

ソレスタルビーイングとは何なのか。

自分の目で確かめるために行った。

そこで見たものが正しいのかどうか。

今も答えは出ていない。

ソレスタルビーイングの過去を肯定する気もない。

カタロンの仲間を捨てるつもりもなかった。

それでも。

アロウズのやり方を見続けてきた。

拘束。

弾圧。

反政府勢力という名目で広がっていく暴力。

今のままでいいとは思えない。

そして、あの格納庫で見た一機。

まだ設計段階だった長距離射撃型のガンダム。

パイロットは決まっていない。

兄は何も言わなかった。

無理に誘いもしなかった。

だからこそ、考えた。

端末が鳴る。

ニール。

ライルは通信を開いた。

『ライル』

「兄さん」

『連絡見た』

「ああ」

『この前とは違うんだな?』

ライルは少し黙った。

「まだ全部納得したわけじゃない」

『それでいい』

「カタロンを捨てるつもりもない」

『分かってる』

「それでもいいのか?」

画面の向こうで、ニールが笑った。

『決めるのは俺じゃない』

ライルも僅かに笑う。

「そうだったな」

前回も似たようなことを言われた。

ニールが少しだけ真面目な顔になる。

『じゃあ、何しに来る?』

ライルは荷物を見る。

もう一度見学するためではない。

兄の過去を見るためでもない。

今度は、自分のこれからを決めるために行く。

「答えを出しに行く」

ニールは数秒黙った。

それから頷いた。

『分かった』

通信が切れる。

ライルは荷物を肩へ掛けた。

扉へ向かう。

その足取りに、前回のような迷いはなかった。

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