機動戦士ガンダムOOR   作:ミスト12523

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第67話 奪還作戦

第67話 奪還作戦

西暦2312年春――プトレマイオス2・ブリッジ

地球を映すメインモニターの横に、一つの施設が表示されていた。

山岳地帯に建設された連邦軍の収容施設。

表向きは反政府勢力や重要犯罪者を収容する施設だが、実際にはアロウズが管理に関与し、通常の司法手続きを経ず拘束された人間も収容されている。

絹江が追っていた行方不明者たちと同じ流れだった。

そして現在、二人の所在が確認されている。

アレルヤ・ハプティズム。

マリナ・イスマイール。

「衛星画像と入手した内部資料を照合したわ」

スメラギが施設図を拡大する。

「アレルヤは地下収容区画。マリナ・イスマイールは別棟の政治犯収容区画にいる可能性が高い」

ティエリアがアレルヤの位置を見る。

「本人である確率は?」

「かなり高いわ」

「四年……」

フェルトが小さく呟いた。

最後の戦いから、それだけの時間が経っている。

生きている。

その可能性を捨てずに探してきた。

ようやく見つけた。

刹那が施設図を見る。

「救出する」

迷いはなかった。

「もちろんよ」

スメラギも即答した。

レイナスは別の情報を見ている。

「警備は?」

クリスが表示を切り替えた。

「通常の連邦軍部隊に加えて、アロウズ所属機も確認されてる」

「数は?」

「今確認できるだけで十二機。基地内部にも格納庫があるから、もう少しいると思う」

「対空火器は?」

「こっち」

情報が追加される。

レイナスは少し眺めてから頷いた。

「正面から入ったら歓迎会だな」

「だから作戦を立てるの」

スメラギが言う。

「プトレマイオス2は大気圏突入後、施設近郊へ移動。セラヴィーを中心に敵MS部隊を引きつける」

施設図に二本の侵入経路が表示された。

「その間に救出班が侵入する」

レイナスが自分を指差す。

「俺か」

「ええ」

「まあ、そうなるよな」

人間一人でMSと戦える。

狭い施設内でも火力を落とさず動ける。

人質がいる状況なら、これほど使いやすい戦力もない。

「相方は?」

「俺が行く」

刹那だった。

レイナスが横を見る。

「00は?」

「侵入地点まで使う。その後は待機させる」

スメラギが頷く。

「まず人質の確保を優先する。施設内部で大火力は使えないから、二人に任せるわ」

「了解」

レイナスはもう一度施設図を見る。

「アレルヤとマリナは別々か」

「そうよ」

「なら中で分かれた方が早いな」

ティエリアがレイナスを見る。

「単独行動をするつもりか?」

「施設に入ってから二人並んで走り回る方が時間を食うだろ」

「敵の配置が完全に判明しているわけではない」

「分かってる」

レイナスは落ち着いて答えた。

「面倒そうなら合流する。俺だって毎回壁を壊せば近道になると思ってるわけじゃないよ」

クリスが視線を逸らした。

フェルトも何も言わない。

レイナスが二人を見る。

「……何だ、その反応」

「別に」

フェルトが答える。

「信用してる」

「今の間で説得力が全部なくなったぞ」

スメラギが咳払いした。

「話を戻すわよ」

          ◇

プトレマイオス2・格納庫

出撃準備が進んでいた。

00ガンダム。

セラヴィー。

アステリオン。

そして少し離れた場所には、完成へ向けて調整が続く二機の新型機がある。

アリオス。

もう一機は、長距離射撃戦を想定した新型ガンダム。

その前にライルが立っていた。

昨日。

この機体に乗ると決めた。

二代目ロックオン・ストラトスとして戦うことも受け入れた。

だが、肝心の機体はまだ完成していない。

「今回は留守番か」

ニールが隣に立つ。

「こいつはまだ出せないからな」

「分かってるよ」

ライルは未完成の機体を見上げる。

「乗るって決めた翌日に出番なしってのも、締まらない話だな」

「そうでもないぞ」

ニールが視線を動かした。

「乗れる機体なら一機ある」

「ん?」

ライルがその先を見る。

格納庫の端。

そこに一機のMSが立っていた。

赤い装甲。

連邦軍、そしてアロウズで運用されている量産型GNドライヴ搭載機。

GN-X III。

ライルの眉が寄る。

「……あれ、アロウズの機体じゃないのか?」

「そうだな」

「何でここにある?」

「レイナスが拾ってきた」

「拾った?」

「本人は現地調達って言ってる」

少し離れたところでアステリオンの出撃準備をしていたレイナスが振り返った。

「人聞きの悪い言い方するなよ。必要に迫られて借りただけだ」

ライルがGN-X IIIを指差す。

「返してねえだろ」

「……結果として長期貸与になってるだけだ」

「誰の許可取ったんだよ」

「そこを掘り下げると、お互い気まずくなるだけだぞ」

「気まずいのはあんただけだろ」

レイナスは少し黙った。

「まあ、世の中には曖昧なままにしておいた方が丸く収まる話もある」

「ただの盗品じゃねえか」

「言い方って大事だぞ、ライル」

「事実も大事だろ」

ニールが笑いを堪えている。

レイナスがそちらを見る。

「ニール、お前も何か言ってやれ」

「俺に振るなよ」

「兄として弟の言葉遣いをだな」

「内容は間違ってないだろ」

「味方がいないな……」

そこへイアンがやって来た。

「遊んでないで準備しろ」

「遊んでるように見えるか?」

「見える」

即答だった。

イアンはGN-X IIIを見る。

「鹵獲してから一通り解析してある。機体そのものに問題はない」

ライルが機体を見上げる。

「俺でも乗れるのか?」

「GN-X IIIは扱いやすい量産機だ。基本操作を頭に入れれば、お前なら動かせる」

「ぶっつけ本番か」

「嫌なら艦に残れ」

ライルは少し考えた。

「いや」

GN-X IIIを見る。

「乗る」

ニールが弟を見る。

「大丈夫か?」

「こっちはカタロンでもMSに乗ってたんだ。兄さんに心配されるほど初心者じゃない」

「そうか」

ライルは赤い機体へ歩き出した。

その背中へレイナスが声をかける。

「壊すなよ」

ライルが振り返る。

「盗んできた本人が言うな」

「人の物だからこそ丁寧に扱うんだよ」

「返す気ねえだろ」

「……準備しようか」

「逃げたな」

レイナスは聞こえなかったことにしてアステリオンへ向かった。

ニールが笑う。

          ◇

プトレマイオス2・第一格納庫

レイナスがアステリオンのコックピットへ上がろうとしたところで声がかかった。

「レイナス」

振り返る。

フェルトがいた。

「何だ?」

「今回は中に入るんだよね」

「ああ」

「アステリオンは?」

「施設近くまで乗っていく。そこからは徒歩だな」

フェルトは少し黙った。

レイナスには、その意味が分かる。

四年前なら気づかなかったかもしれない。

今は違う。

「大丈夫だよ」

「まだ何も言ってない」

「四年も一緒にいれば、それくらい分かる」

以前、自分が言われた言葉をそのまま返す。

フェルトが少しだけ眉を寄せた。

「絶対?」

「絶対なんて安売りする歳でもないんでね」

レイナスは一拍置いた。

「だから、ちゃんと帰る。それで勘弁してくれ」

フェルトはしばらく彼を見る。

「分かった」

「それじゃ、行ってくる」

「うん」

レイナスがコックピットへ入る。

ハッチが閉じる直前。

「レイナス」

「ん?」

「敵のMS、持って帰ってこないでね」

沈黙。

レイナスは格納庫の反対側を見る。

そこには、自分が前回持って帰ったGN-X IIIがいる。

今はライルが乗り込もうとしていた。

「……今回は自分の機体があるんだぞ?」

「前回も帰るために必要だったって言ってた」

「それは事実だ」

「持って帰ってきたのも事実」

「……否定材料がないな」

フェルトが少し笑う。

「行ってらっしゃい」

「はいよ」

ハッチが閉じた。

          ◇

地球――アロウズ管理収容施設

警報が鳴った。

『敵性MS接近!』

『ガンダムタイプを確認!』

『迎撃部隊、発進!』

格納庫からGN-X IIIが次々と飛び出す。

その上空。

セラヴィーガンダムが降下してきた。

『こちらに引きつける』

ティエリアが砲門を展開する。

GN粒子が集束した。

『施設への射線は避ける。収容者を巻き込むな』

その側面。

赤いGN-X IIIが一機、セラヴィーと並ぶ。

『了解』

ライルだった。

ティエリアが一瞬だけそちらを見る。

『無理をする必要はない。君の役目は敵を施設から離すことだ』

『分かってるよ』

ライルは照準を合わせる。

『初陣でいきなりガンダムと同じ仕事をしろって言われても困るんでね』

『ならば確実に役割を果たせ』

『堅いな、あんた』

『ティエリア・アーデだ』

『名前の話じゃないんだけどな』

敵GN-X IIIが散開する。

ライルはその動きを見る。

同型機。

性能差はない。

なら、後は乗り手次第。

ライフルを構える。

「さて――」

照準。

引き金。

ビームが敵機のライフルを撃ち抜いた。

「こいつなら、狙える」

セラヴィーが前へ出る。

ライルのGN-X IIIがその死角を補う。

          ◇

収容施設・別方向

00ガンダムとアステリオンが地表すれすれを飛ぶ。

『侵入地点まで残り二十秒』

刹那の声。

「了解」

レイナスは施設を見る。

防壁。

監視塔。

対空砲。

そしてMS。

「随分しっかりした刑務所だな」

『来るぞ』

「分かってる」

GN-X IIIが二機、進路を塞いだ。

00が前へ出る。

GNソードII。

一機のライフルを斬り飛ばし、そのまま腕を切断する。

もう一機がアステリオンへ射撃。

レイナスは機体を滑らせた。

ビームが横を抜ける。

「悪いが今日は遊んでる暇がない」

アステリオンが一気に距離を詰める。

武器を弾き飛ばし、胸部へ蹴りを叩き込む。

GN-X IIIが地面を転がった。

撃破確認を待たず、アステリオンは加速する。

『レイナス』

「ああ」

侵入地点。

二機が着地した。

レイナスはアステリオンを停止させる。

「ここからは俺の方が早い」

コックピットが開く。

地上へ飛び降りる。

刹那も00を停止させ、後を追った。

二人が施設へ向かって走る。

          ◇

収容施設・内部

銃声。

レイナスは角から突き出された銃口を掴んだ。

引く。

兵士の体勢が崩れたところへ掌底。

一人目が倒れる。

もう一人が銃を向けるより早く間合いへ入り、腹部へ一撃。

二人目も床へ沈んだ。

《アニマ》を使う必要すらない。

レイナスは倒れた兵士の端末を拾った。

「刹那」

「何だ」

「ここから分かれる」

端末に表示された区画を示す。

「俺が地下。アレルヤを取る」

「マリナは俺が行く」

「ああ」

刹那が走り出す。

レイナスも反対方向へ向かった。

          ◇

地下収容区画

重い隔壁。

電子ロック。

レイナスが操作盤を見る。

数秒。

「……分からん」

解除を諦めた。

扉へ手を掛ける。

力を込める。

金属が軋む。

ロック機構が悲鳴を上げ、そのまま扉が開いた。

「こういう時は力仕事の方が話が早いな」

通路の奥で兵士たちが振り返る。

「侵入者!」

銃口が向いた。

レイナスが床を蹴る。

銃声が響いた時には、もうそこにいない。

一人。

二人。

三人。

数秒で通路が沈黙した。

レイナスは牢を確認しながら進む。

そして。

一つの独房の前で足を止めた。

薄暗い室内。

痩せた男が壁にもたれて座っている。

長い髪。

四年前より明らかに衰弱していた。

それでも見間違えるはずがない。

「……見つけた」

男がゆっくりと顔を上げる。

焦点が合うまで、少し時間がかかった。

「……レイ……ナス?」

「久しぶりだな、アレルヤ」

アレルヤ・ハプティズム。

生きていた。

アレルヤは信じられないものを見るように目を見開いた。

「どうして……」

「迎えに来た」

レイナスは牢のロックを見る。

「四年も待たせた。悪かったな」

「みんなは……?」

「生きてるよ」

アレルヤの表情が止まる。

「刹那も、ティエリアも、フェルトも。スメラギもイアンもいる」

一拍。

「ロックオンもな」

「ロックオン……?」

「その辺は帰ってから説明する。少しややこしい」

レイナスは扉を掴んだ。

アレルヤが何か言う前に、ロックごと引き剥がす。

金属音が地下区画へ響いた。

「……相変わらずだね」

「四年くらいじゃ、人間そう変わらないもんだ」

牢へ入る。

レイナスはアレルヤへ手を差し出した。

「立てるか?」

アレルヤがその手を取る。

立ち上がろうとして、膝が崩れた。

レイナスが支える。

「無理するな」

「ごめん……」

「謝るところじゃない」

アレルヤの腕を肩へ回す。

「帰るぞ」

その時だった。

施設全体に新たな警報が響く。

『アロウズ増援部隊、到着』

レイナスが天井を見る。

「……仕事熱心なことで」

          ◇

収容施設・政治犯収容区画

刹那は最後の兵士を退けた。

扉を開く。

その向こう。

一人の女性が立っていた。

「……刹那?」

マリナ・イスマイール。

刹那が彼女を見る。

「マリナ」

驚き。

安堵。

戸惑い。

マリナの表情が揺れる。

「どうして、ここに……」

「助けに来た」

刹那は短く答えた。

遠くで爆発音。

増援が来た。

刹那が通信を開く。

「レイナス」

『こっちは確保した』

「こちらもマリナを確保した」

『了解。合流する』

通信が切れる。

マリナが刹那を見る。

「ソレスタルビーイングが……また戦っているのですか?」

刹那は少しだけ黙った。

「ああ」

「なぜ……」

今ここで話すことではない。

それでも刹那は答えた。

「変えるためだ」

          ◇

収容施設上空

GN-X IIIがセラヴィーの砲撃を避ける。

その進路へ、もう一機のGN-X IIIが回り込んだ。

ライル。

照準を合わせる。

一射。

敵機の武器だけを撃ち抜く。

『二機目』

ティエリアが通信を入れる。

『腕は悪くないようだな』

「褒め言葉として受け取っとくよ」

その時。

警報。

新たな機影がレーダーへ入る。

『増援を確認』

ティエリアの表情が引き締まる。

数が増えている。

その中から、一機が前へ出た。

コックピット。

ソーマ・ピーリスは、戦場を見ていた。

「ガンダム……」

頭の奥に微かな痛みが走る。

ノイズ。

声。

遠い記憶。

そして――

何かが触れた。

「……っ」

ピーリスが額を押さえる。

聞こえた気がした。

懐かしい。

ずっと昔から知っているような。

一つの声。

――マリー。

ピーリスの目が見開かれる。

          ◇

地下収容区画

アレルヤの足が止まった。

「……っ」

レイナスが振り返る。

「アレルヤ?」

アレルヤは頭を押さえていた。

「どうした?」

返事がない。

呼吸が変わる。

そして。

「……マリー」

小さな声だった。

レイナスの表情が変わる。

「誰だ?」

アレルヤは顔を上げた。

四年間。

閉じ込められていた男の目に、初めて明確な光が戻っていた。

「マリーが……いる」

レイナスは何も聞き返さなかった。

事情は分からない。

だが、アレルヤがそう確信している。

それなら話は単純だった。

「どっちだ?」

アレルヤが僅かに目を見開く。

「え?」

「いるんだろ」

レイナスは通信端末を開いた。

「なら確認する」

迷う理由はなかった。

その頃。

施設上空では、ソーマ・ピーリスの機体がセラヴィーへ向けて加速を始めていた。

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