機動戦士ガンダムOOR   作:ミスト12523

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第81話 追撃

第81話 追撃

西暦2312年春――地球連邦領上空

『アリー・アル・サーシェス……!』

刹那の声に、明確な敵意が混じる。

夜空を背に浮かぶ赤いMS。

ガンダムに似た頭部。

異様に長い四肢。

背部から伸びる巨大なGNバスターソード。

だが、その姿はこれまでソレスタルビーイングが運用してきたどのガンダムとも違う。

アルケーガンダム。

そのコクピットから、聞き覚えのある笑い声が響いた。

『覚えててくれたかよ、クルジスのガキ!』

「忘れるものか」

00ガンダムがGNソードIIを構える。

『ハハッ! そいつが新しいガンダムか! いいねえ、面白そうじゃねえか!』

アルケーが加速した。

真正面。

あまりにも単純な突撃。

刹那が迎え撃つ。

GNソードIIとGNバスターソードが激突した。

粒子が弾ける。

「くっ……!」

00が押し込まれた。

アルケーが長い脚を振り上げる。

刹那が機体を捻った。

蹴りが00の胸部すれすれを通過する。

その足先から――ビーム。

「何!?」

刹那が咄嗟にシールドを差し込む。

ビームが表面を焼いた。

『足からビームだと!?』

ティエリアの声。

セラヴィーがGNバズーカIIを構える。

砲撃。

だが。

アルケーは機体を大きく傾けると、手足を投げ出すような奇妙な姿勢で射線から外れた。

人型兵器としての常識から外れた動き。

そのまま身体を回転。

刹那の00を飛び越える。

『後ろだ!』

ティエリアの警告。

00が振り返るより早く、アルケーのバスターソードが振り下ろされた。

刹那がGNソードIIで受け止める。

再び激突。

「サーシェス!」

『いい動きするようになったじゃねえか!』

サーシェスの声は楽しげだった。

戦闘そのものを楽しんでいる。

それは五年前と何も変わらない。

『刹那、離れろ!』

セラヴィーの砲口に粒子が集まる。

00が急降下。

その直後。

二門のGNバズーカIIが火を噴いた。

太いビームが夜空を走る。

アルケーは横へ逃げる。

ティエリアが追う。

二射。

三射。

逃げ道を塞ぐようにビームが走る。

だが。

「何だ、あの動きは……!」

アルケーは減速した。

直後。

機体を反転。

推進方向を強引に変える。

ビームの隙間を縫うように抜けると、一気にセラヴィーへ肉薄した。

『遅え!』

「っ!」

巨大な剣が横薙ぎに振るわれる。

セラヴィーが両腕を上げて防御。

衝撃。

重い機体が横へ弾き飛ばされた。

「ティエリア!」

刹那が追う。

アルケーはセラヴィーを追撃しない。

標的を00へ変更。

まるで戦場そのものを遊び場にしている。

その動きに。

三機目が割り込んだ。

「サーシェス!」

アステリオン。

ビームライフルを連射。

アルケーが左右へ振れる。

レイナスは照準を追わせる。

一発。

二発。

三発。

サーシェスが回避。

四発目。

アルケーが急上昇。

「そっちか!」

アステリオンも上昇する。

追撃。

だが。

『甘えな!』

アルケーが突然落下した。

「なに――」

上昇から急降下。

そして。

アステリオンの下を潜り抜ける。

脚部のビームサーベルが伸びた。

「ちっ!」

レイナスが操縦桿を倒す。

本来なら。

もっと強引に踏み込める。

機体を捻り。

間合いへ飛び込み。

サーシェスの攻撃ごと叩き潰す。

あるいは《アニマ》を機体へ回し、一気に出力を上げる。

だが。

今日はできない。

「レイナスさん!」

「分かってる!」

コクピットには王留美がいる。

一人用のシートへ無理やり二人。

留美にはパイロット用の耐G装備すらない。

普段通りの機動をすれば。

敵より先に、同乗者を潰しかねない。

レイナスは加速を抑えた。

その分。

アルケーの蹴りが近づく。

「――っ!」

シールド。

衝撃。

アステリオンが大きく弾かれる。

留美の身体がレイナスへ押し付けられた。

「くっ……!」

「留美!」

「大丈夫……です!」

「無茶するな。舌噛むぞ!」

「それはこちらの台詞です!」

「違いない!」

機体を立て直す。

アルケーが追ってくる。

『どうしたよ、レイナス・レノアーク!』

サーシェスの声。

『前より随分おとなしいじゃねえか!』

「今日は客を乗せてるんでね!」

『客ぅ!?』

「悪いが、安全運転中だ!」

『ハハハハハッ! 戦場でか!』

「俺も好きでやってるわけじゃない!」

アルケーのバスターソード。

アステリオンが受ける。

レイナスは正面から押し返さず、受け流した。

機体への負荷。

留美への負荷。

両方を考えなければならない。

「……やりづらいな」

「申し訳ありません」

「留美が謝ることじゃないよ」

アステリオンが距離を取る。

「こっちが勝手に連れてきたんだ。帰るところまでが仕事だ」

アルケーが再び迫る。

だが。

横から00が割り込んだ。

「俺が相手をする!」

『そうこなくっちゃなあ!』

刹那とサーシェス。

二機のガンダムが激突する。

          ◇

00のGNソードII。

アルケーのGNバスターソード。

斬撃。

斬撃。

さらに斬撃。

刹那が踏み込む。

サーシェスが受ける。

一瞬。

00が優位に立つ。

だが。

アルケーの脚が異様な角度で跳ね上がった。

脚部ビームサーベル。

刹那が上体を逸らす。

「くっ!」

さらに。

アルケーの腰部からGNファングが射出された。

「ファング!」

複数の小型兵器が散開する。

一基が00の背後へ。

二基がセラヴィーへ。

残りがアステリオンを囲む。

ティエリアが叫ぶ。

『散開しろ!』

ビーム。

夜空に無数の光線が走った。

アステリオンが旋回。

一発を回避。

二発目をシールド。

三発目。

「留美、掴まれ!」

「はい!」

レイナスが機体を横滑りさせる。

本来ならもっと鋭く回避できる。

だが。

限界まで抑える。

それでも留美の身体に強烈なGがかかる。

「っ……!」

「大丈夫か!」

「まだ……大丈夫です!」

「その『まだ』が怖いんだよ!」

ビームライフル。

一基。

撃墜。

もう一基。

ファングが逃げる。

追わない。

「今日は欲張る日じゃないな」

アステリオンは00とセラヴィーの援護へ回る。

一方。

セラヴィーはGNフィールドを展開。

複数のファングによる攻撃を受け止めていた。

「この程度で!」

GNフィールドを解除。

砲撃。

ファング一基を消し飛ばす。

だが。

その死角からアルケーが飛び込む。

「ティエリア!」

『もらったぁ!』

バスターソードが振り下ろされる。

00が割り込む。

GNソードIIで受ける。

「させるか!」

『甘いぜ!』

アルケーが脚を振り抜く。

00が蹴り飛ばされた。

セラヴィーが射撃。

アルケーは回避。

アステリオンが追撃。

それも避ける。

三機。

数では圧倒している。

それなのに。

アルケー一機を捕まえられない。

「……厄介だな」

レイナスが呟く。

機体性能だけではない。

サーシェス本人。

戦場で相手の意識を読む。

攻撃の癖を読む。

そして。

普通なら選ばない軌道を平然と選ぶ。

合理性よりも。

殺しやすい場所へ身体をねじ込んでくる。

「相変わらず、喧嘩のやり方だけは一級品か」

『褒めても何も出ねえぞ!』

「聞こえてたか」

『お前のことも覚えてるぜ!』

アルケーがアステリオンへ向きを変える。

『あの女を俺から掻っ攫っていった野郎だからな!』

レイナスの目が細くなる。

「……絹江のことか」

『そうだよ!』

笑う。

『あの時は邪魔しやがって!』

「だったら」

レイナスの声が低くなる。

「助けて正解だったな」

アルケーが突っ込む。

アステリオンも前へ。

だが。

途中で速度を落とす。

留美。

一瞬の制約。

サーシェスは見逃さない。

『そこだ!』

アルケーが軌道を変える。

レイナスではなく。

アステリオンのコクピットへ一直線。

「……!」

GNバスターソード。

レイナスがシールドを上げる。

間に合わない。

その時。

遠方から。

細い光が走った。

アルケーの肩を掠める。

『あぁ!?』

サーシェスが機体を捻った。

第二射。

正確。

アルケーが離れる。

『狙撃!?』

レイナスがレーダーを見る。

二つの友軍反応。

高速で接近してくる。

「遅いぞ」

通信が入った。

『助けに来てもらって第一声がそれか?』

軽い声。

次の瞬間。

夜空を緑色の光が走る。

ケルディムガンダム。

GNスナイパーライフルIIを構えた機体が遠距離からアルケーを狙っている。

ロックオン・ストラトス。

ライル・ディランディ。

『こっちは大急ぎで来たんだけどな』

さらに。

別方向からオレンジ色の機体が飛び込んだ。

飛行形態。

急接近。

変形。

アリオスガンダム。

「レイナス!」

アレルヤ。

GNビームサブマシンガンが火を噴く。

アルケーが回避。

その先へ。

ケルディムの狙撃。

『っと!』

アルケーが急停止。

今度は00が待っている。

「サーシェス!」

GNソードII。

アルケーが受ける。

セラヴィーが砲撃位置へ。

アステリオンも射線を取る。

五機。

00。

セラヴィー。

アステリオン。

ケルディム。

アリオス。

一気に包囲が完成する。

『へえ』

サーシェスの声から笑いは消えない。

『随分と増えたじゃねえか』

「お前を逃がすつもりはない!」

刹那が踏み込む。

だが。

アルケーは付き合わなかった。

腰部から残ったGNファングを射出。

四方へ散る。

「来る!」

ファングから一斉射撃。

五機がそれぞれ回避、防御。

その一瞬。

アルケーが急上昇した。

『今日は顔見せだ!』

「待て!」

00が追う。

ケルディムが狙撃。

一発。

アルケーが回避。

二発目。

脚部装甲を掠める。

それでも止まらない。

『また遊ぼうぜ、ガンダムども!』

「サーシェス!」

『特にお前だ、クルジスのガキ!』

赤い機体が高度を上げる。

そして。

粒子の尾を残しながら戦域を離脱した。

刹那が追おうとする。

『刹那!』

スメラギの通信。

『追わないで!』

「だが!」

『アロウズが動いてる!』

戦術画面へ。

新たな反応。

一つや二つではない。

複数。

しかも。

別方向からも接近している。

『私たちの位置が割れたわ』

スメラギの声が続く。

『全機、プトレマイオスへ帰投!』

刹那はアルケーが消えた方向を睨む。

「……了解」

          ◇

プトレマイオス2・格納庫

五機が次々と帰還する。

00。

セラヴィー。

ケルディム。

アリオス。

最後に。

アステリオンが着艦した。

固定アームが機体を掴む。

コクピットハッチが開いた。

「……着いた」

レイナスが息を吐く。

その前には。

王留美。

「大丈夫か?」

「ええ」

留美が答える。

だが。

少し顔色が悪い。

「……少し、目が回っていますけど」

「やっぱりか」

「かなり抑えてくださったのでしょう?」

「まあな」

「それでもこれなのですね」

「MSのコクピットなんて、客を乗せて戦うようにはできてないからな」

レイナスが先に立ち上がる。

ハッチの外へ出る。

それから留美へ手を差し出した。

「足元気をつけろ」

「ありがとうございます」

留美がその手を取る。

格納庫へ降りると。

待っていたフェルトが二人を見る。

まず留美。

次にレイナス。

もう一度留美。

「……怪我は?」

「ないよ」

レイナスが答える。

「留美も無事だ」

「そう」

フェルトが留美を見る。

「大丈夫?」

「ええ。レイナスさんがかなり無理を抑えてくださったので」

「無理を抑えた?」

フェルトの視線がレイナスへ。

「同乗してるのに普段通り飛ばせるわけないだろ」

「それはそうだけど」

フェルトはアステリオンを見る。

「珍しいね」

「何が?」

「レイナスが戦闘中に無茶しないの」

「俺を何だと思ってるんだ?」

フェルトは答えなかった。

「おい」

その横からクリスが走ってくる。

「留美!」

「クリスティナ」

「大丈夫だった!?」

「ええ」

「よかったぁ……!」

クリスが安堵する。

そして。

留美の格好。

レイナスの格好。

二人を見る。

何かに気づく。

「……あ」

「何だよ」

「そういえば写真」

「やめろ」

「留美、撮った?」

「もちろんです」

「消してくれって言ったよな?」

「お断りしました」

「なんでこういう時だけ連携がいいんだよ……」

だが。

笑っていられたのは。

そこまでだった。

艦内警報。

赤い光が格納庫を照らす。

『総員、第一種戦闘配置!』

スメラギの声。

『アロウズ部隊接近!』

レイナスの表情が変わる。

「もう来たのか」

フェルトもすぐに端末を見る。

「複数方向から接近してる」

「さっきの連中とは別口か」

「たぶん」

留美が尋ねる。

「私がここへ来たことで、追跡されたのでしょうか」

「いや」

レイナスは首を振る。

「向こうは俺たちがパーティーに来てることまで知ってた」

リジェネ。

リボンズ。

最初から。

ある程度こちらの動きを把握していた可能性が高い。

「どのみち、ここに長居はできないな」

格納庫へスメラギの通信が入る。

『レイナス、ブリッジへ! ティエリア、刹那も!』

「了解」

レイナスが歩き出す。

留美も続いた。

          ◇

プトレマイオス2・ブリッジ

メインモニターに周辺空域が表示される。

赤い反応。

多い。

アロウズ。

航空艦。

GN-X III。

アヘッド。

さらに。

別方向から増援。

スメラギが腕を組んで戦況を見ている。

「追撃が早すぎる」

ラッセが言う。

「こっちの現在位置までほぼ正確に来てるぞ」

「ヴェーダだ」

ティエリアが答えた。

全員が見る。

ティエリアの表情は険しい。

「リボンズ・アルマークは、ヴェーダを掌握している」

クリスが振り返る。

「……え?」

フェルトも手を止める。

「ヴェーダを?」

「ああ」

「それだけではない」

ティエリアが続ける。

「奴らは自らをイノベイターと名乗った」

「人類を導くために作られた存在だと」

「僕も……」

一瞬。

言葉が止まる。

「僕も、奴らと同じ存在だと言われた」

ブリッジが静まった。

スメラギは驚きを押し込み。

今は戦況へ戻す。

「詳しい話は後」

ティエリアも頷く。

「分かっている」

刹那が言う。

「リボンズが世界の歪みだ」

スメラギが刹那を見る。

「刹那?」

「アロウズを使い、人間を自分たちの意思で導こうとしている」

「ヴェーダも奴が支配している」

「なら」

刹那の声が強くなる。

「俺たちが戦う相手は奴だ」

レイナスが壁へ背を預ける。

「話が分かりやすくなったのは助かるけどな」

全員の視線が向く。

「問題は、向こうもこっちの場所をかなり正確に掴めるってことだ」

スメラギが頷く。

「そうね」

「地上に留まり続けるのは危険」

メインモニター。

アロウズ部隊が包囲を狭めている。

「このまま地上を逃げても追いつかれる」

ラッセが言う。

「数も増えてる。このままじゃジリ貧だぞ」

スメラギは数秒だけ考えた。

そして。

決断する。

「宇宙へ上がる」

ブリッジの空気が変わる。

クリスが振り返った。

「今から!?」

「今しかないわ」

スメラギが戦術画面を指す。

「アロウズは私たちを地上で捕捉している」

「このまま包囲が完成する前に、大気圏を突破する」

ラッセが前を見る。

「普通に上がったんじゃ追いつかれるぞ」

「ええ」

スメラギが答える。

「だから」

一拍。

「トランザムを使う」

          ◇

プトレマイオス2・格納庫

艦内へ指示が飛ぶ。

『全機固定確認!』

『格納庫作業員、退避!』

『大気圏離脱準備!』

イアンが叫ぶ。

「急げ! 全部固定しろ!」

整備員たちが走る。

八機。

00。

セラヴィー。

ケルディム。

アリオス。

アステリオン。

2機のGN-X III。

アヘッド・スマルトロン。

その全機が格納庫内で固定される。

サジもイアンの指示に従い、固定状況を確認していた。

「こっち終わりました!」

「次は第二ロックだ!」

「はい!」

その少し離れた場所。

ルイスも医務室から移されていた。

まだ自由に動ける状態ではない。

艦が大きく動くことを考え、安全な区画へ。

サジが一瞬だけそちらを見る。

視線が合う。

だが。

今は話している時間はない。

『総員、耐衝撃姿勢!』

スメラギの声。

サジが固定用シートへ身体を収める。

「ルイス!」

ルイスも身体を固定されている。

「大丈夫!」

返ってきた声。

それを確認して。

サジも前を見る。

          ◇

プトレマイオス2・ブリッジ

高度が上がる。

雲を抜ける。

機首が空へ。

さらに。

その先へ向けられる。

フェルトが報告する。

「敵航空艦、追撃継続!」

クリス。

「GN-X III、アヘッド接近!」

「迎撃は?」

ラッセが尋ねる。

スメラギは首を振る。

「しない」

「全速で離脱」

レイナスがブリッジ後方でモニターを見る。

アロウズのMS群。

その後方。

航空艦。

数が多い。

「今日は随分と人気者だな」

「嬉しい?」

フェルトが聞く。

「まさか」

「だったら黙ってて」

「はいはい」

「レイナス」

「ん?」

フェルトがモニターから目を離さず言う。

「さっきの戦闘、本当に怪我してない?」

「ないよ」

「留美は?」

「無事」

「ならいい」

「……それだけ?」

「今は戦闘中」

「ごもっとも」

前方。

空が暗くなる。

高度が上がるにつれ。

青が深くなる。

だが。

敵も離れない。

『プトレマイオス、停止しろ!』

アロウズからの警告。

当然。

応じる者はいない。

ビーム。

後方から飛来。

艦が揺れる。

「敵機、射程内!」

「回避!」

プトレマイオス2が進路を変える。

だが。

大気圏内。

巨大な艦。

MSのようには動けない。

第二射。

GNフィールドが受ける。

「フィールド出力低下!」

スメラギが時計を見る。

「まだ?」

「準備完了まで五秒!」

「三!」

「二!」

「一!」

クリスが叫ぶ。

「準備完了!」

スメラギが前を見る。

「トランザム!」

          ◇

赤。

プトレマイオス2の船体を。

赤い光が包んだ。

GN粒子の放出量が一気に跳ね上がる。

追撃するアロウズ部隊。

そのパイロットたちが息を呑む。

『な――』

次の瞬間。

プトレマイオス2が加速した。

巨大な艦とは思えない加速。

後方へ粒子の光を残しながら。

一気に高度を上げる。

「うおっ……!」

艦内へ強烈なG。

固定された乗員たちの身体がシートへ押し付けられる。

高度。

二万。

三万。

さらに上昇。

アロウズのMSが追う。

だが。

差が開く。

『追え!』

『逃がすな!』

『無理です、速度が――!』

航空艦は完全に置き去り。

MSも。

一機。

また一機と追撃を断念していく。

空が。

青から黒へ変わる。

大気が薄くなる。

機体を包む振動。

熱。

それでも。

プトレマイオス2は止まらない。

「高度上昇!」

クリスが叫ぶ。

「大気圏離脱まで――!」

スメラギが前を見る。

「そのまま!」

レイナスも。

モニターの先を見る。

地上が遠ざかる。

雲。

大地。

海。

そして。

地球そのものが。

少しずつ視界へ入り始める。

「……宇宙か」

隣でフェルトが見る。

「嫌?」

「いや」

レイナスは小さく笑った。

「地上じゃ追い回されっぱなしだったからな」

「場所を変えたくらいで終わると思う?」

「思わない」

即答。

「相手がヴェーダ持ってるってんなら、なおさらだ」

警報。

クリスがモニターを見る。

「大気圏外にも反応!」

スメラギの表情が険しくなる。

「やっぱり待ってたわね」

地上から追う部隊だけではない。

宇宙側。

既に。

アロウズの艦隊が展開を始めている。

レイナスが額を押さえた。

「……今日くらい定時で上がらせてくれないもんかね」

フェルトが横目で見る。

「もう上がってるよ」

「そういう意味じゃない」

プトレマイオス2は。

赤い粒子を纏ったまま。

地球を離れる。

地上から宇宙へ。

逃げ切ったのではない。

戦場が。

変わっただけだった。

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