境界のアルカナ・コード 〜隣ん家の子が何か主人公っぽいんだけど、もしかして俺は師匠枠なの?〜 作:夜月詠
カードゲーム至上主義。それがこの世界の普遍法則だ。
数多無数の異世界よりこの基軸世界に姿を顕す精霊たち──その力が宿った
それがこの世界の在り方。それこそがこの世界の摂理。
要は代理戦争だ。人間の代わりにカードが戦う。精霊同士の諍いに人間が軍師として力を貸す。
相互に利用し合う事で、この世界は成り立っているのだ。
「──と、そう云う訳で精霊たちは俺たち人間に力を貸すのさぁ」
等と、目の前の少年に蘊蓄だか歴史知識だかを垂れ流してはみるものの、反応は薄い。
「……なんか、難しいね」
そりゃあ、まぁ、こう云う人間も居る。背景ストーリーなんて全く気にならないタイプのカードゲーマーなんて、そりゃあ一定数は存在する。俺も割とそのタイプ……いや、好きなテーマの背景ストーリーは気になるな。
「ま、コミュニケーションツールって事だよ、カードは。世に出回ってんのも大半は精霊付いてないし、只のゲームだ。代理戦争なんて大層な事をできる代物じゃない。安心しな」
「そりゃ、まぁそうでしょ。代理戦争の為の道具だったら小学校で皆がやってる訳無いもん」
俺の目の前でお茶を啜りながら返答してくる少年の名は
この世界ではとんでもなく珍しい非カードゲーマー──即ち、非
カードぐらい安いもんだろ、と思うかも知れないがそれがこの世界では違うのだ。前述の通り、この世界に於いてカードとは代理戦争の道具であり、コミュニケーションツールそのもの。
クソ雑魚
何しろ、パックからの排出率がクソ低いのだ。1パック程度じゃ、禄に使い物にならないバニラカードしか引けない。
その為、最低限"使える"カード1枚でもスマホ1台契約できる位の額が平気で飛んで行くのだ。
「は──ンな事言いながら
「……やっぱり、
普段は俺の部屋で適当なゲームやったり、漫画読んだりしているコトハがカードの事で俺に泣きついてきたのは今回が始めてだ。
何でも、御父堂の形見のペンダントを賭けての勝負を仕掛けられたらしい。
断っちまえば良いだろと思うかも知れないが、前述の通りこの世界で
この世界の人間はカードゲームを拒否、或いはそれに敗北したら、何をされても文句を言えないと云うカスみたいな価値観をしているのだ。
「いいや、カード持ってない奴にアンティ仕掛けるカスに屈するのは駄目だ。デッキは貸してやるからボコボコにして逆にデッキ巻き上げて来いよ」
「……僕、そもそもルール知らないんだけど」
「教えてやんよ。これでも、昔は有名な
昔は各所でブイブイ言わせまくったものだ。
何か悪巧みしてそうな奴をボコボコにして重要そうなカード巻き上げたり、国家間紛争に首を突っ込んで両国をボコボコにしたり色々やったのは良い思い出だ。
要するに、俺は滅茶苦茶強いプレイヤーなのである。とても凄くて強いのだ。
まぁ、異世界からこの世界に迷い込んで来て、その位は出来ないいとマトモに生きていけなかった──という切実過ぎる理由があったから、死ぬ気で頑張ったから強くなったというのもあるのだけども。
「てれれってれー【初心者用ドラゴンデッキ】〜。
初心者でも扱い易い様に調整しながら、引きによっては即死コンボを叩き込めるデッキだ。使えよ」
デッキケースに入れたままの
同じデッキで相手しながら、実戦形式で教えてやるのだ。
「……うん!」
ポカンと口を開いていたコトハは、手にしたデッキを握り締めて良い笑顔で返答してきた。よほど相手のクソガキをボコボコにしてやりたいのだろう。俺が目を掛けているだけの事はある。流石の闘志だ。
「ゲーム開始時の手札は5枚、マナは1からスタートだ。……用語は分かるよな?」
机の隅っこに山札を置いて、その上から5枚を引いて手札とし、スマホを開いて
「流石に分かるよ。友達がやってるとこ見てたりしたし」
「じゃ、取り敢えず俺の先行で始めよう。一通り説明しながらプレイして行くから、分かんない所あったら言いな。詳しく解説するから」
そこで一区切りして、茶を一杯口に含む。
「先行1ターン目はスタートフェイズ、ドローフェイズ共にスキップする。後攻1ターン目──次のコトハのターンはスタートフェイズのマナ増加のみスキップだからな」
マナは各ターン開始時、スタートフェイズに上限値が増加し、最大値まで回復する。だが、先攻後攻共に1ターン目だけは例外でマナ増加も回復も行われない。何故なら初期状態で未使用マナが1点存在するからだ。
「メインフェイズ。コスト1──マナを1点支払い、手札から【駆竜ウィンド】を召喚する」
マナを1減らして、机の上に緑色のドラゴンが描かれたカードを置く。攻撃力1、体力1の低コストのドラゴンユニットだ。
「召喚時効果を発動。マナ上限値を1点増やす。この効果で増えたマナは、このターン使用できない」
アプリを操作して、マナの上限値を2にする。
即ち【駆竜ウィンド】はマナ加速ユニットなのだ。序盤にはコイツを召喚するのが【ドラゴン】系デッキの鉄板行動だ。
「バトルフェイズ──も、お互いに1ターン目はスキップとなる。だからエンドフェイズ。ターンチェンジだ」
スペリオルデッキは13枚、同名カード1枚まで──なんて、デッキ構築の際のルールもあるが、それは今置いておく。
「この通り、難しい事は無いよ。フィールド備え付けの処理器とか使えば
「スタートフェイズ──ドローフェイズ──メインフェイズ……! コスト1、【駆竜ウィンド】を召喚! 効果でマナを増やして──ターンエンド!」
同じデッキを使っている為、そりゃ【ウィンド】も入っている。初手で引いていたのか、はたまたドローフェイズで引けたのか。どちらにせよ、基本の動きを手早く覚えてくれるのは話が早くて助かる。
「俺のターン。スタート、ドロー、メイン──だけど、何もせずにバトルフェイズ。【ウィンド】でコトハの【ウィンド】に攻撃」
ウィンドの攻撃力・体力は共に1。故に、両者相打ちとなって墓地行きだ。これで俺はターンエンド。
アルカナコードにメイン2なんて無いからそのままエンドフェイズに行くのだ。
「2マナ使ってないけど良いの? 何か出さなきゃ勿体ないでしょ? ……それとも、手札に2コストのカードが無いの?」
「言ったろ? 教えてやるってな」
「……スタート、ドロー、メイン。1マナ払って、手札から【駆竜ウィンド】を召喚。ユニットは出したターンは攻撃できない……でしょ?」
「その通り。召喚酔いって奴だな。ま、効果で出したターンでも攻撃できたりするから気を付けな。テキストはちゃんと読み給えよ」
「じゃあ、エンドフェイズ──」
「その前に、反応術式。1マナ支払い【破魔の矢】を詠唱する」
コトハがメインフェイズを終了する直前、カード効果を挟み込んで発動する。手札から示すのは詠唱・反応術式【破魔の矢】。場のユニット1枚に3点のダメージを与える
効果により、コトハが召喚した【ウィンド】は破壊されて墓地へ行く。
「あ、反応術式! マナさえあれば相手ターンでも使えるんだっけ」
「その通り。マナさえあれば相手ターンでも動けるから、油断しちゃ駄目だぜ?」
──と、同じデッキをしばきながら一通りコトハに教えているといつの間にやら午後5時を示すチャイムが鳴り始めた。
「あ、もう5時だ。兄ちゃん、僕もう帰るよ。そろそろお母さん帰ってくるし……今度また、ご飯持ってくるね?」
「子守代だな、助かるよ」
適当に手を振って帰りを見送る。まぁお隣さんだし危険とかそう云うのは無いのでさっさと部屋に引っ込む。
くわぁ、と欠伸を零すとふと棚の片隅に置いた写真立てが目に入った。
「写真写りわっる。……ま、そりゃ戦時下で撮った奴だしな」
もう少し良い機材を使えば良かったかな、と呟くように言葉を転がす。今は何処に居るのかも分からない、昔の友人達の事を思い出して──らしくもなく感傷的な気分になってくる。
「……そう云えば、アシエに貸した千円まだ返して貰ってないな……!」
ふと、思い出した。写真の中の一人に貸した金をまだ返して貰ってない事を。……いつか何処かで会ったら取り立てよう。
これからこの主人公暫く出番無いってマジ?