境界のアルカナ・コード 〜隣ん家の子が何か主人公っぽいんだけど、もしかして俺は師匠枠なの?〜   作:夜月詠

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VS【輝石兵】輝堂キセキ①

 アイカ兄ちゃんに相談してから1週間後。約束の時間に、小学校の祈争場(フィールド)に行くと、既に其処には人だかりが出来ていた。

 

 その人混みの中心には、まるで月の様に眩く煌く金の髪をした少女が無数の取り巻きを引き連れて立っていた。

 

「あら、コトハ君。等々その宝石を渡してくれる気になったのかしら。貴方には勿体ない一品なのだから、私が管理すべきだと理解してくれたのね」

 

「……いや、父さんの形見は渡さない。受けて立つよ、アルカナコードを」

 

 隣のアイカ兄ちゃんに借りたデッキを見せながら、輝堂さんと対峙する。すると、彼女は目を丸くした様子を見せて──

 

「カード、持っていたの? ……おかしいわね、詩式コトハはカードを持っていないと調べは……いいえ、いいえ。良いでしょう、受けて立ちます。掛けるものは以前言った通り、貴方の宝石(ペンダント)と私の山札(デッキ)。輝堂家が作り上げた至高のデッキと、希少な輝石──等価でしょう?」

 

 輝堂家は、かつての境界戦争で名を馳せた英雄の家系だ。

 人類最強の六人──精霊王──には一歩劣るが、それでも人界存続に多大なる貢献を果たした英雄の一人。それが、彼女──輝堂キセキの父親だ。その英雄が手掛けたであろうデッキと、形見とは云えただの宝石が釣り合う訳が無い。

 

「釣り合っては無い気がするけど……それでも、良いなら」

 

 フィールドに備え付けられた自動進行器にデッキをセットする。

 そうするだけで、このゲームフィールドが進行に合わせてドローやシャッフル、探索(サーチ)を処理してくれるのだ。

 

「ふふ、ならば始めましょう。これこそ、人類守護を担った輝堂のデッキ。さぁ──」

 

「駆け抜けろ数多の竜。走れ──」

 

「「──精霊招致(オープン・ホライゾン)」」

 

 黒い、無機質なゲームフィールドに蒼い光が奔る。それは長方形のフィールドの端から端まで生き渡り、僕らの足元までも囲いながら直上に立ち登り、フィールドの縁に沿って空間を長方形に切り取った。

 

「私の先行ね。スタート、メイン。1マナ支払い、【輝石兵(キラリ・ナイツ)ルビー】を召喚するわ」

 

 輝堂さんがフィールドにカードをシュッと投げ込んだ瞬間、蒼い光がそこカードの真上辺りに収束して、赤い鎧を纏ったヒトガタを形成した。

 

 輝堂キセキ:SUMMON 5→4 : MANA 0/1

 

 ◆輝石兵(キラリ・ナイツ)ルビー

 種族:騎士・鉱石 属性:地

 COST:1 ATK:1 DEF:1

 召喚時:【貴輝閃鉱】

 

「召喚時効果を発動するわ! 【貴輝閃鉱】! 手札の【輝石兵】を1枚特殊召喚できる! 私が召喚するのは【輝石兵サファイア】!」

 

 姿を顕したのは蒼い鎧を纏ったヒトガタだ。顔も見えない結晶質の兵士は、堂々と槍を構えている。

 特殊召喚(踏み倒し)による連続展開。これが輝堂家が操る【輝石兵】の本領だ。

 

 輝堂キセキ:SUMMON 4→3 : MANA 0/1

 

 ◆輝石兵(キラリ・ナイツ)サファイア

 種族:騎士・鉱石 属性:地

 COST:1 ATK:1 DEF:1

 召喚時:【貴輝閃鉱】

 

「特殊召喚の為、召喚時効果は発動できないわ。これでターンエンドね」

 

 やいのやいのと観衆の声援や罵声が聞こえてくるが、今はその言葉が意味を為してくれない。兄ちゃん以外とやる、始めてのアルカナコードの為か、おそろしく緊張して手が震え、声援も何もが左から右へと流れてしまう。

 

「僕のターン! スタート、ドロー、メイン! 1コスト、【駆竜ウィンド】を召喚!」

 

 ──コォーン、と嘶きながら一体の竜が顕現する。

 二足歩行に短い前足をもった、まるで恐竜の様な緑色のドラゴンが立ち並ぶ2体の【輝石兵】と相対する。

 

 詩式コトハ:SUMMON 6→5 : MANA 0/1

 

 ◆駆竜ウィンド

 種族:ドラゴン 属性:風

 COST:1 ATK:1 DEF:1

 召喚時:マナ上限値を1増やす。増えたマナは、このターン中使用できない。

 

 詩式コトハ:ENFORCEMENT → MANA 1/2

 

「召喚酔いがあるから攻撃は出来ない……ターンエンド!」

 

 再度、ターンが移行する。

 僕の場にユニットは一体。それも攻撃力・体力共に1で、【輝石兵】のどちらかの攻撃は祈祷者(ぼく)に対する直接攻撃となってしまう。祈祷者体力(オド)は30あるが、上級【輝石兵】の攻撃力は下級【輝石兵】とは比べ物にならない。

 

 上級【輝石兵】を引かれたが最後、【貴輝閃鉱】の効果で序盤に召喚できる【ドラゴン】では太刀打ちも出来ない強力なユニットを展開されてしまう。

 

「へぇ、最低限はやれるのね。お手本みたいな【ドラゴン】の使い方じゃない」

 

 ──だが、完全に無防備な訳では無い。

 【ウィンド】で増えたマナが使えないのは、召喚したターン(・・・・・・・)のみだ。つまり、ターンプレイヤーが輝堂さんに切り替わったこのターンであれば、使用できると云う事になる。

 

「でも、残念。通り名(テーマ)も持たないカードで組まれたデッキ程度じゃあ、私の【輝石兵】デッキは越えられない。

 ──メインフェイズ。1マナずつ支払い【輝石兵エメラルド】、【輝石兵トパーズ】を召喚」

 

 輝堂キセキ:SUMMON 4→2 : MANA 0/2

 

 ◆輝石兵(キラリ・ナイツ)エメラルド

 種族:騎士・鉱石 属性:地

 COST:1 ATK:1 DEF:1

 召喚時:【貴輝閃鉱】

 

 ◆輝石兵(キラリ・ナイツ)トパーズ

 種族:騎士・鉱石 属性:地

 COST:1 ATK:1 DEF:1

 召喚時:【貴輝閃鉱】

 

 新たに召喚されたのは、緑色の【輝石兵】と黄色の【輝石兵】。

 コストを支払った正規召喚の為に、その2体の【貴輝閃鉱】が発動する。

 

「2体の【貴輝閃鉱】を発動するわ。召喚するのは【輝石兵トパーズ】と、【輝石騎士(キラリ・ナイツ)ダイヤモンド】」

 

 輝堂キセキ:SUMMON 2→0 : MANA 0/2

 

 顕現するは2体の【輝石兵】。一体は先程と同じ黄色の【トパーズ】。だが、もう一体は姿形の全てがこれまでのソレらとは異なる輝かんばかりの輝石の騎士。

 未だ成立せざるその姿(シルエット)。成立途中の、中途半端なカタチであっても感じるその存在感(プレッシャー)。

 先行2ターン目に出てはならない筈の上級ユニット。

 

「地に眠りし、未だ視ぬキセキの輝きよ。我が声に応えて姿顕せ──特殊召喚! 来て、【ダイヤモンド】!!」

 

 ◆輝石騎士(キラリ・ナイツ)ダイヤモンド

 種族:騎士・鉱石 属性:地

 COST:5 ATK:5 DEF:3

 ①召喚時:【貴輝閃鉱】

 ②破壊された時:手札が5枚になる様にドローする。

 

 顕現するは、透いて煌く騎馬に跨った白き騎士。光を反射して、キラキラとプリズムの輝きを散らすその姿は、喩え投影映像であっても息を呑むほどに美しい。

 

「これが【輝石兵】が誇る上級ユニットの一体。どう、驚いて声も出ないのかしら?」

 

 場に並んだ5体の下級【輝石兵】と【ダイヤモンド】。計6体、総攻撃力10に到達するその軍勢。このターンに攻撃できるのは内2体、2点のダメージと云えどその数の差は圧倒的だ。

 ターンが回ってこようと、こんな序盤に召喚できるユニットは数に任せて突破される。【輝石兵】は序盤に全てを賭けて押し切る超速攻テーマだ。故に、戦況は圧倒的に輝堂さんが有利だ。

 

「いや、これを待っていたんだ」

 

 ──だが、僕はこの時を待っていた。

 

「──まさか」

 

「詠唱条件は、場に4体以上のユニットが存在し、新たにユニットが特殊召喚された時!

 反応術式を発動! 1マナ支払って【崩れ落ちる足場】を発動する!」

 

 フィールドに投影された【輝石兵】。その足元に大きな亀裂が奔って行く。

 

「このターン中に特殊召喚されたユニット全てを、破壊する!」

 

 バリィ、とそんな音さえ響く様な地割れが広がって輝かんばかりの【ダイヤモンド】と一体の【トパーズ】を飲み込んで行く。

 

 詩式コトハ:COUNTER CHANT 5→4 : MANA 0/2

 

 ◆崩れ落ちる足場

 COST:1 種別:反応術式

 詠唱条件:場に4体以上のユニットが存在し、新たにユニットが特殊召喚された時。

 このターン中に特殊召喚されたユニット全てを破壊する。

 

「反応術式(カウンター)……! けれど、【ダイヤモンド】の効果発動! 5枚ドローするわ!」

 

 輝堂キセキ:ENFORCEMENT → 0→5

 

 自動進行器が輝堂さんに五枚のカードを配布する。【ダイヤモンド】の破壊時効果。【輝石兵】の弱点たる手札消費の激しさを、その身を持って埋め合わせる献身効果が手札と云う可能性を彼女に齎す。

 

「侮っていたわ。どうやら、まるっきり素人の雑魚っていう訳じゃないようね。──バトルフェイズ。1ターン目に召喚した【ルビー】で【駆竜ウィンド】に、【サファイア】で相手プレイヤーに攻撃!」

 

 槍を振るう赤い【輝石兵】がウィンドと相打ちになって光へ代わり、蒼い【輝石兵】の振るう槍の投影映像が僕の身体を横薙ぎにした。

 

「くっ……!」

 

 輝堂キセキ:ATTACK → 詩式コトハ 〈29/30〉

 

 観衆達の歓声と、悲鳴の鳴動が耳に響く。アルカナコードの観戦が人気なのはこの立体映像の為だ。限りなく現実に近い幻想との、迫力満点の戦闘。傍から見ているだけでも十二分に楽しいんだ。

 僕も、少し前まではそちら側だったから良く分かる。

 

 けれど、今は少し違う。

 

「へぇ、泣いちゃうんじゃないかとも思ったんだけど……その度胸(こころ)だけは認めてあげる。貴方は祈祷者(プレイヤー)であるのだと」

 

 ──楽しい。観衆では無く、相対する祈祷者(プレイヤー)と云う立場が酷く楽しい。

 何が十二分だ。一番面白いのは此方だ。一番楽しいのはこっちだ。

 

 アルカナコードは、此処が一番楽しいんだ。

 

「僕のターンだ! スタート、ドロー、メイン。3コスト支払って、【竜契師リンド】を召喚する」

 

 詩式コトハ:SUMMON 5→4:MANA 0/3

 

 ◆竜契師リンド

 種族:魔術師・ドラゴン 属性:闇

 COST:3 ATK:2 DEF:3

 ①召喚時:自分の山札に存在する"種族:ドラゴン"1枚を手札に加える。

 ②常在:【守護者】

 

 新たに召喚したのは、黒いローブに身を覆い隠した一人の魔術師。金に煌く眼をしたその魔術師は、手にした杖で軽く地面を叩き、いくつもの魔法陣を浮かべた。

 

「召喚時効果により、山札から"種族:ドラゴン"を1枚手札に加える。僕が加えるのは【聖竜レイ】!」

 

 魔法陣の中から姿を現したカードを掴み取り、目を落とす。

 六枚の翼を持った白い竜の描かれたそれは、召喚時効果でマナを増やし、常在効果で【守護者】を持つ便利な奴だ。

 

「これでターンエンド。さぁ、君の番だ、輝堂さん」

 

「【守護者】……強制的に攻撃対象を移し替える護りの効果……ふん、私相手に護り切るつもり?

 メインフェイズ。2コスト、【ルビー】【エメラルド】を召喚。【貴輝閃鉱】を発動。手札から【クリスタル】、【ダイヤモンド】を特殊召喚するわ!」

 

 輝堂キセキ:SUMMON 6→4:MANA 1/3

 輝堂キセキ:ENFORCEMENT → 4→2 : MANA 1/3

 

 ◆輝石騎士クリスタル

 種族:騎士・鉱石 属性:地

 COST:5 ATK:7 DEF:2

 召喚時:【貴輝閃鉱】

 

 輝堂さんの場に新たに4体のユニットが追加され、総勢8体、総攻撃力18の【輝石兵】軍団が再展開された。

 このターンに攻撃できるのは四体、その全てが下級【輝石兵】で4点のダメージしか出せないが次のターンは恐ろしい事になる。

 

 手札に加えた【聖竜レイ】の攻撃力(ATK)は2、耐久(DEF)は4。攻撃力5の【ダイヤモンド】に破壊されながらも、相打ちをとれない数値だ。

 今召喚されているユニットだけでも、13点のダメージを受ける事になる。

 

 ──どうする。この数を処理できるカードは入っているが、手札に引けていない。次のドローフェイズに引けなければ、圧倒的に追い詰められてしまう。

 

「あら、次のターンの心配にはまだ速いわよ。1コスト支払って【破魔の矢】を発動。勿論、対象は【竜契師リンド】よ」

 

 不味い、このターン中で4点、前のターンと合わせてもう5点のダメージだ。このままだと次のターンに最低でも13点の合計18点でオドの半分以上を失う事になる。

 

「バトルフェイズ。無防備なコトハ君を、4体の下級【輝石兵】で攻撃。4点のダメージよ」

 

 輝堂キセキ:ATTACK → 詩式コトハ 〈25/30〉

 

 僕のターン。ドローフェイズ。引いたカードは──

 

「──メインフェイズ、3コスト支払い、オドを3消費して発動する。【竜骸の息吹】。場に存在する全ての【輝石兵】を破壊する!」

 

 詩式コトハ :CHANT 〈22/30〉: MANA 1/4

 

 ◆竜骸の息吹

 COST:3 種別:詠唱術式

 詠唱条件:オドを任意の数支払う。

 ①場に存在するDEFがX以下の全てのユニットを破壊する。

 ②ユニットをX以上破壊した時:自分の墓地に存在するコストX以下のユニットを1枚特殊召喚する。Xは支払ったオドに等しい。

 

「更に、第二効果を適用! Xは3、破壊数は8──よって【竜契師リンド】を特殊召喚!」

 

 トップ解決──!

 運良く引き当てられた、逆転のカード。その効果により盤面はリセットされ、更に僕の場には【竜契師リンド】が復活した。

 【ダイヤモンド】の効果で輝堂さんの手札が2枚から5枚に増えはしたが、これで致命傷にも近しい大ダメージは遠ざかった。

 

「まだまだ、ゲームはこれからだよ、輝堂さん……!」




TIPS:輝堂
かつて境界戦争を人類側で戦い抜いた祈祷者の一人、輝堂ゲンリとその一族を指す。地精霊【輝石兵】の一門と契約を交わした家門であり、精霊王"異界主"に付き従って数多の精霊界を滅ぼした人界守護の名家。
境界戦争終戦後は、戦場をガラリと変え宝石商として日夜市場で戦っている。
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