境界のアルカナ・コード 〜隣ん家の子が何か主人公っぽいんだけど、もしかして俺は師匠枠なの?〜 作:夜月詠
「スタート、ドロー、メイン。【代償詠唱】──【
黒い爆炎が、僕の場にある全てを焼き尽くし塵一つ無い荒野に帰す。場に在った【護竜アクア】と【聖竜レイ】は塵一つ遺さず消え失せて、フィールドにはただ、護りを失って無防備な僕が独り。
「さぁ、これでおしまい。私の勝ち。輝堂に負けは有り得ない」
手にした槍を、各々の武器を構え突撃してくる輝石の騎士たちを眼前に、手にした2枚のカードを構える。
「【輝石兵ルビー】、【輝石兵サファイア】、【輝石兵エメラルド】、【輝石兵トパーズ】──」
縦横無尽に振るわれる結晶質の眩い槍。その恐ろしいまてまの
まだ、カードを切るべき時では無い。
「──さぁ、【ダイヤモンド】、攻撃よ。輝馬突撃、ジェム・ストライク!」
二騎の【輝石兵ダイヤモンド】が、時間差で突撃してくる。凄まじい勢いで迫りくる金剛石の騎士の煌く影。その一騎目の突撃は甘んじて受け入れ、二騎目の攻撃の瞬間に合わせてカードを1枚発動する。
「──反応術式!! 【竜の献身】を発動する!」
詩式コトハ:COUNTER CHANT 5→4 : MANA 2/7
【ダイヤモンド】の
「これで、
◆竜の献身
COST:1 種別:反応術式
詠唱条件:自分が直接攻撃を受けた時。
①そのダメージをX下げる。Xは手札・山札から墓地に置いた"種族:ドラゴン"の総数である。
②このカードが墓地にある状態で【竜の献身】が発動した時に発動する。墓地に存在する全ての"種族:ドラゴン"を除外する。
手札にある【竜王ファフニール】以外の2枚のドラゴンと、山札に残る15枚のドラゴン全てを犠牲に、竜の献身の効力を最大まで高める。
──これで墓地のドラゴンの枚数は、計24枚。
「ならッ、限界まで削るのみ!! 速攻こそが、輝堂の必勝兵法よ!! 征け、【クリスタル】!!」
「反応術式!! 【破魔の矢】!! クリスタルに、3点のダメージを与えて破壊する!!」
詩式コトハ:COUNTER CHANT 2→1 : MANA 1/7
透き通った結晶の騎士が、音も無く飛来した矢に貫かれて消滅する。砕け散って消える事も無く、ただ霧や霞の様に、元から其処には存在しなかった幻の様に。
「クッ……ターン、エンド……!」
「──僕が勝つよ、輝堂さん! 手札にある【竜王ファフニール】の効果を発動する!!」
◆竜王ファフニール
コスト:26 種族:ドラゴン 属性:闇
攻撃力:40 体力:40
①このカードのコストはX下がる。Xは自分の墓地に存在する"種族:ドラゴン"の総数である。
②召喚時:手札を全て捨て、山札から捨てた枚数分ドローする。
「手札で効果を発動できるユニット!? そんなレアカードを、どうして貴方が!」
「第一効果──このカードのコストを墓地にあるドラゴンの枚数分、つまり、24軽減する事が出来る!!」
詩式コトハ:SUMMON 2→1 : MANA 6/8
「来たれ、欲深き竜の王よ!! 暗き闇より出で、我が仇の一切を撃滅せしめよ!! 召喚ッ──【竜王ファフニール】!!!」
顕現するは、黒き巨竜。それは折り畳まれていた翼をバサリと広げ、大地を征する四足の脚で大地を砕き割って降臨する竜の王。
先程までの、押されるだけだった僕の盤面とは打って変わり、【輝石兵】達はその威容に怯えるかの様に輝堂さんを取り囲って防御陣形を構築した。
「召喚時効果により手札を全て捨て、それと同じ数だけドローする!」
手札は【竜骸の息吹】。それを捨てて、新たな可能性を手札に引き込むべく竜王の恩寵に預かる。
引き当てたのは──
「今引いた【精霊術"
詩式コトハ:CHANT 1→0 : MANA 0/8
◆精霊術"
コスト:6 種別:詠唱術式
①このカードはコストがX下がる。Xは自分の場に存在する"火属性"の"種族:ドラゴン"の総数である。
②場のカードを1枚指定して発動する。そのカードを破壊し、相手に3ダメージを与える。
僕の場にあるドラゴンは、闇属性の【竜王ファフニール】だけ。故に、発動コストは6となる。
「対象は、【輝石兵ダイヤモンド】!」
焔が溢れて、【ダイヤモンド】を焼き尽くす。暫くの爆炎と閃光よ後、溢れていた黒煙が収まると、白き騎士は其処から消え失せていた。
「このターン、僕に出来る事はもう無い。ターンエンドだ」
ルール上、プレイヤーに対する直接攻撃は場に一切のユニットが存在しない時のみしか行えない。一体でもユニットが存在すれば、そちらを攻撃対象とするしか無い──だが、ユニットとの交戦で発生したDEFを超過する分のダメージはプレイヤーに与えられる。
次のターン、下級【輝石兵】を【竜王ファフニール】で攻撃すれば39のダメージが発生して輝堂さんのオドは0になる。
「まさか、この、私が、輝堂が、負ける……? いいえ、いいえ……! 最後まで、可能性を……勝利を……それが、輝堂、人間界を護った、祈りの在り方……!」
ドロー。引いたカードに目をやって、彼女はふと笑い。
「ターンエンド。輝堂に
飽くまでも投了はしないと、彼女は誇り高く笑って見せる。その姿に、英雄の一族としてのプライドを垣間見て──遺品のペンダントを賭けたアンティを仕掛けてきたとは思えない程の気高さだ。
やはり、何か理由があるのだろうか。彼女は意味も無くこんな事を仕掛けてくる人間性では無いだろう。
「バトルフェイズ──【竜王ファフニール】で【輝石兵ルビー】に攻撃! 竜王咆哮、ドラゴニック・バースト!!」
その思考も何もかもを、【竜王ファフニール】が放った黒き極光が焼き尽くした。
──GAME SET:WINNER 詩式コトハ
†
黄昏時の、校舎の影。ゲームが終わって、人混みに混濁するフィールドから何とか抜け出して、謗法の体で人気のない此処まで辿り着いた。これまで1度もアルカナコードをやっていなかった僕が、この小学校で最強の輝堂さんに勝った──そのジャイアントキリングに、皆が沸いているのだ。
……輝堂さんの取り巻きは、何か失望した様な表情でどこかへ去って行ったけども。
「それで、何で
「……別に、欲しかった訳じゃないわよ。ただ、惜しかっただけ。
それ、希少な宝石をあしらっているものだから、適切な管理と手入れをしなくっちゃね。貴方に出来ない様なら、私が──と、そう思っただけよ。まさか、遺品だなんて知らなかったけれどね」
──悪かったわね、ごめんなさい。
と、彼女はそう頭を下げて。
「賭けは賭け。私が賭けたものは、私のデッキ。……持って行きなさい」
デッキケースに納められたデッキを、僕に手渡した。
「じゃあね。……はぁ、ただの同級生に負けた、なんて、お父様は何とお叱りになるのかしら……」
力無く項垂れたその背を、呼び止める。
「これは貰えないよ。君のデッキでしょ? 君が作り、君が愛し、君に忠誠を誓った精霊符だ。それを、赤の他人の僕が奪うなんてできない」
だからこそ、このデッキは僕には扱えない。
精霊の応答を前提とした組み方をしたデッキは、その忠誠を得ていない僕には扱えないのだ。
だから、これは無用の長物。強力なデッキではあるが、持て余してしまうものだ。
「……はぁ。お人好しね、貴方は。戦時中には真っ先に死んでるタイプの人間よ。でも、ま……感謝するわ」
複雑そうな表情をして、僕からデッキケースを受け取った彼女はその中から1枚を引き抜いて、シャっと僕に投げ渡してきた。
「でも、賭けは賭け。それだけでも持って行きなさい。精霊王"魔王"──今や、世界の敵として追われる人類最強の一人が扱った伝説のカード。私のデッキと同等の価値があるわ」
そのカードの名は【
そんな人達のカードが、今、僕の手にある。
「そしてもう一つ。私の、
じゃあね、と手を振って彼女はさっさと歩き去って行った。僕の返答とか、そう云うのは一切聞かず見ず。言いたいことを言うと、夕日に向って歩き去って行ってしまった。
「……兄ちゃん、勝ったよ……!」
TIPS:魔王
人間界を救い、数多の精霊界を滅ぼした六人の英雄──精霊王の一人。"風の精霊王"リンドヴルムを討ち滅ぼした祈祷者であり、"魔導大典"を扱う超一流の精霊術師。
"水の精霊王"を滅ぼした"弑逆者"と特に親しいとの記録があるが、詳細不明。
終戦後、戦時中の罪を問われ逃亡。無数の精霊や、国家・治安維持組織に狙われる身でありながら、尚も英雄と慕う者の多い存在。