境界のアルカナ・コード 〜隣ん家の子が何か主人公っぽいんだけど、もしかして俺は師匠枠なの?〜 作:夜月詠
コトハがクソガキをしばき倒してから何日か経った。折角のアンティなんだからデッキの一つでも巻き上げれば良いのに、気の優しいあの子はなんとカード1枚で許してやったらしい。
幾ら魔王の奴のカードでも、丸ごと一つとはレートが釣り合わんと思うが……まぁ、納得しているんなら良い。
「ほーん、で、帰りにこの間のクソガキとパック買ってきたのか」
「うん。……学校帰りにコンビニに寄り道とか、始めてやったよ。早速開けるから、ハサミ貸して?」
最近の小学生はお行儀が良いと云うか、何と云うか。俺が小学生の頃は平気で帰り道にコンビニで道草食っていたぞ。クソガキだから下校するだけなのに、毎日2時間くらい掛けていた記憶がある。
「はいよ。……けどなぁ、多分碌なカード当たんないぜ? いつになったら、俺のレンタルデッキと同じカードを揃えられる事やら」
「兄ちゃん、あのデッキに結構レアカード入れてるからね……」
コトハに貸し出したデッキについてだが、そのまま暫く貸し出しておくことにした。アキちゃん曰く、最近は
そこで、コトハが手に入れる事ができたカード以外は俺のカードわ使う、という契約の下に『初心者用ドラゴンデッキ』を貸し出したと云う訳だ。
目の前のユニットに対処し続けて時間を稼ぎ、墓地に大量のドラゴンを溜め込んで【竜王ファフニール】でワンキルする、と云う大変分かり易いコンセプトの下に組んだデッキだが、実戦でも中々強いらしい。
机上論だけで組んだデッキだが、割りかし上手いこと動くもんだなぁ。……そんなデータが集まる位には、同級生達とのアルカナコードにのめり込んでいると云う事でもあるのだけど。
「じゃあ、1枚目……【風精霊】……兄ちゃん、コレ、やっぱり……?」
「ハズレだな。視た所、精霊も付いてないただのカードだ。
「2枚目……【放火】……場にある火属性ユニットの数に応じて、全体にダメージ……おぉ、使えそう」
「火は結構そう云うの多いよな。無差別処理カード」
「3枚目……【火事場泥棒】……4枚目、も、【火事場泥棒】……」
段々コトハの声色が低くなって行く。この世界のパックではこう云うクソ引きはしょっちゅうある事だ。
10パック空けて、全てクソ雑魚バニラカードだけ、なんてのはザラだ。使えそうな術式を引いただけ、今日は運が良い。そう思うしかない。
「4枚目……【竜宝剣リンドヴルム】? あ、これ装備カードか。珍しいな」
種別:装備。ユニットやプレイヤーが装備して
術式と一緒に装備も引けるなんて、今日のコトハは滅茶苦茶運が良い。……拝んどけばその恩恵に預かれるか……?
「……いや、リンドヴルム? ちょっと見せて……あー、中身入りだ……
リンドヴルム。それはかつての"風の精霊王"竜王リンドヴルムの一族を示す名だ。竜人の一族であるリンドヴルムは、戦時中、人間界、精霊界を問わず傭兵としてそのどちらにも手を貸していた。
竜と人を足して良い感じに2で割った様な存在の竜人族は、優れた傭兵としてどちらの側でも優れた戦果を上げていた──のだが、まぁ。
人間界にも精霊界にも手を貸す勢力なんて邪魔なだけだ。だから、人類側に──精霊王"魔王"によって滅ぼされた。
「中身つっても、精霊が入ってる訳じゃない。
装備やチャントの中身入りってのは、精霊界に在った器物や事象がカードに封じられている、ってニュアンスだな。封印カードと大体同じだ」
人間やら精霊やらを封じたカードを使うと、イラストそのものや召喚する精霊や投影される幻影が封印されていた中身になる。
要はカードを触媒とした監獄や保管庫の様なもの……と云う事になるのだが、この辺り、ニュアンスや表現がおそろしく難しい。
何も、器物として本物が入ってるのでは無く……帯の様に切取られた一瞬の時間や、現象、概念として宿っているのと同じ様な意味合いであり、そしてそのどれもが正しくは無いのだとか何だとか。
精霊付きのカードを説明する時の『イラストの精霊に直通の通話装置みたいな
友人の1人がそう言ってただけで俺も詳しくは知らないのだけど。
「ま、レアカードだな。カードパワーは後で確かめようぜ。5枚目は?」
「──ぶ、
コトハが見せてきたソレは、絵柄一つ無い白紙のカード。けれど、其処に渦巻く精霊力の奔流は、それが力あるカードである事を何よりも雄弁に示している。
「──ッ、精霊付きかよ!? それ触媒に境界が開くぞ、俺の後ろに隠れろ!!」
"境界"。精霊界と人間界が接触した時に開門される、次元の揺らぎ。蒼く揺らぐ空間のたわみと軋みをそう呼ぶ。
精霊界と人間界の空間に満ちる根源的な"力"の差。その位相差によって、人間界と精霊界の境界線が揺らぎ、孔が穿たれる。
その結果として、その世界の隔たりを移動できる門が発生する。
「祈祷者との契約締結の為、若しくは、契約下に於いてのみ精霊単独にでの人間界への顕現を認める……境界条約に従い、この子を──詩式コトハを契約者と認めるのならば、名を明かせよ、精霊。
さもなくば、強制送還願い奉る」
デッキを片手に、境界と相対する。蒼く揺らぐその向こう側から顕現しつつある精霊の、その肉体を深く視やる。
精霊力を双眸に籠め、其処に刻まれた精霊契約を喚起する。
かつて水の大精霊から貰った魔眼、霊視能力の類。あらゆる隠匿を跳ね除け精霊を視認するだけの眼。それを頼りに、成立しつつあるその姿を視る。
「……強い、水の気配。……違う……しかし、此処が人間界であるのなら」
それは、翡翠の眼持つ少女のカタチ。縦に割れた瞳孔に、竜の翼と尾を持つ竜人族。"魔王"によって滅ぼされた筈の、絶滅種。かつての風の精霊王リンドヴルム、その一族。
まさか、こんなモノを引き当てるとは。コトハめ、また厄介なモノを引き寄せやがって。
「竜人……生き残りが居たのか。精霊王は"魔王"に、その他は各戦場で精霊王に殲滅され滅亡した……筈なんだけどな」
傭兵部族リンドヴルム。竜と人の力を併せ持つ彼らは、傭兵として各種族に加担し──そして、それを厭うた国連軍によって殲滅された。当然だ。あらゆる種族に加担する強力な戦闘種なんて、目障り極まりない。人間側にのみ付かないのなら、滅ぼしてしまった方が後腐れなくて都合が良い。
「──応えろ、我が運命。貴様こそ、私の標となる者か?」
而して、その瞳は俺を写す事は無く。
背後に隠したコトハを見つめている様で。──あぁ、本当に、この子は面倒事を引き当てたらしい。
忙し過ぎてやばい