境界のアルカナ・コード 〜隣ん家の子が何か主人公っぽいんだけど、もしかして俺は師匠枠なの?〜 作:夜月詠
足元に広がっていた、眩い魔法陣が消え去ると、そこにはもうアイカ兄ちゃんの姿は無かった。同様に、僕らを取り囲んでいた人達の内三人も姿を消していて、此処には目の前の彼だけが残されていた。
「……皆、連れて行かれたか。……構えろ。その
紫交じりの黒い髪。紫烏の瞳に殺意と憎悪を滲ませる、僕と同じ年頃の少年が
傍らに立っていたシャラは、竜翼と尾を展開した精霊としての姿を顕して、彼を然りと睨み返す。
「マスター、デッキを出せ。奴が本当に、"異界主"の配下だと云うのなら、我らは既に術中にある……!」
「……リンドヴルムは兎も角、
この術式を知らんとは……であれば、大人しくその精霊を差し出せ」
「術式? それはあの魔法陣の……いや、何か、違う……?」
足元に目を落とせば、そこには先程まで描かれていたソレとは違う幾何学模様が広がっていて、無意識のうちに後退りしてみればゴツリと、背中が何か透明な壁の様なモノにぶつかった。
「時空隔絶結界による世界隔離と、異界法則の擬似展開による異界構築……簡単に云えば、此処は"
「規定された法則は『敗者の封印』。オレとのアルカナコードに敗北したモノは、このカードに封印される」
そう言って、彼は懐から取り出した
素人の僕が、一目見ただけでも確信できる。
アレは、此処に在ってはならない
「く……! シャラ、行くよ! 兄ちゃん以外とやるのは始めてだけど……力を貸して!」
「承知。我が復讐──為るまで死ねるものか」
「リンドヴルムは全て抹殺する。精霊は
「「──
「先攻、メインフェイズ。手札より【捧げし命】を詠唱する」
庭師:CHANTO 5→4 : MANA 0/1
◆捧げし命
COST:1 種別:詠唱術式
自分は5のダメージを受け、山札の上から3枚ドローする。
彼がそのカードをフィールドに投げ込んで
捻じれ、色彩と空間の繋がりがおかしくなったその虚空より、黒い皮膚が薄く貼られた、悪魔の如き異形の腕が現れて彼の身体を鷲掴む。
「ぎ、ィ……!! さっさと、対価を、寄越せェ!!」
庭師:ENFORCEMENT 〈25/30〉(4→7) → MANA 0/1
絶叫。一体どこから発されているのか、怒りに満ちた彼の怒号と気迫はビリビリと、不確かな衝撃となって僕の身体を打ち据える。
輝堂さんの時とは、また別種の緊張感に包まれて、カードを手にする指先に力が籠る。
「はァ……はァ……見ろ、これが、真なるアルカナコード……人間の
ターンチェンジ。ぜぇぜえと肩で息をつく彼の、その問いに対する答えを僕は持っていない。
「気を付けろ、マスター。真なるアルカナコードに於ける力とは……!」
詩式コトハ:SUMMON 6→5 : MANA 0/1
「手札より、【駆竜ウィンド】を召喚──ぅ、あ……!?」
がくん、と急に膝から力が抜けてよろめく。崩した体勢は、隣に居たシャラが咄嗟に支えてくれたが、今は少し、気分が悪い。
まるで熱中症の様な。身体の中に、何かが足りない様な、そんな感覚で。
その脱力感と共に、顕現するは翠緑の竜。
二足歩行に短い前足をもった、まるで恐竜の様な緑色のドラゴンがコォーンと嘶いて僕の方をちらりと振り向く。
それは、立体映像にはとても見えない確かな……確か過ぎる存在感を持っていて……まるで、隣に居るシャラの様にも思える程だ。
詩式コトハ:ENFORCEMENT → MANA 1/2
「! はぁ、はぁ……今のは、一体……」
【ウィンド】が空高く嘶いた途端に脱力感は消え失せて、普段と同じ身体の調子が戻ってきた。
これは一体、と傍らのシャラに目を向ければ──
「人間の力……
続けて、名前も知れない眼前の彼が口を開く。
「カードとは、生命力を魔力に加工し、それを精霊に託して精霊力に変換する一連のプロセスを強制的に実行する装置。
才ある者のみが為せる技を、凡人であっても為せる様にする仕組み。世界に超常現象を起こすんだ。相応の代償は存在するとも」
けれど、そうであるのならば。普段のアルカナコードでは、こんな事は起こらない。起こるのであれば、あらゆる問題ごとをアルカナコードで解決する様には──そうか、だからこその
普段はリミッターや安全装置の様なモノが掛けられたカードの、その本質を強制的に起動させるのがこの世界なんだ。
……どうやら、負ければカードに封印される、と云うのは本当の事らしい。
今更ながら、兄ちゃんが心配になってきた。あちらはどう云う対戦ルールでやり合っているのかは分からないけれど、多勢に無勢、体力が切れて負ける、なんて事が有り得るかも知れない。
「……なら、兄ちゃんを手伝わないと、ね。
ターンエンド! 此処を切抜けて、助けに行くよ、シャラ!」
「オレのターン。メインフェイズ。
2コスト、【
庭師:SUMMON 8→7 : MANA 0/2
顕現するは、小さな子供が黒いクレヨンで落書きした人間の様な……人間に見えるカタチをした、黒いカタマリ。乱雑な殴り書きの様な肉体の節々から、血潮の様な紅蓮の火花を咲かせていた。
◆
種族:人 属性:地・闇
COST:2 ATK :1 DEF:1
①常在:【疾走】
②墓地にある時:このカードを除外して発動する。場のユニット1枚を破壊する。
【疾走】──召喚酔いを無視して、ユニットに攻撃できる常在効果だ。僕の場には
あの第二効果は、起動効果。彼のターンであれば、任意のタイミングで発動できる。
【ウィンド】と相打ちとなって墓地に行き、そこで更にユニットを破壊する……強力なカードだ。
「更に、【代償詠唱】! オドを5支払い【|精霊魔術"死者の秘宝《スピリット・コード:デッドマンズ=トレジャー》"】を特殊詠唱する!!」
庭師 :CHANT 〈20/30〉(7→6): MANA 0/2
「我が僕、【残骸】を糧に手札を寄越せ、死者共!!」
途端、彼が新たに投げ込んだカードから現れた死者の群が【残骸】をズタズタに引き裂いた。
──絶叫。それは、眼前の彼のものでなく、僕のものでもなく、シャラのものでもない、【残骸】が喉の奥から放つ苦痛の喘鳴。
「ッ、趣味の悪い……」
「カードは道具だ……効率的に使ってこそ、だろ」
黒い残骸の、指や皮膚片の様なその
◆|精霊魔術"死者の秘宝《スピリット・コード:デッドマンズ=トレジャー》"
COST:5 種別:詠唱術式
①【代償詠唱】
このカードを詠唱する時、マナを支払う代わりに、このカードのコスト分オドを支払える。
②自分の場のユニット1枚を破壊し、そのユニットと同じ名前のカードを1枚手札に加える。その後、山札の上から1枚ドローする。
庭師:ENFORCEMENT 6→8 → MANA 0/2
これで墓地に【残骸】が送られ、手札には追加の【残骸】が加わった。任意のタイミングで僕のユニットを破壊する除去効果に気を配れ、と言い聞かせる様に意識しながら、ターンチェンジを受け入れる。
「僕のターン、ドロー……!」
アルカナコードはまだ始まったばかりだが、心は逸ってしょうがない。連戦になっているであろう兄ちゃんの助けなければ、とその思いが木霊する様に何度も何度も
「────集中」
大きく息を吐き出して、余分な思考を隅に置く。
今はこの試合に集中だ。考えるのは、勝ってから、だ──!