毒蛇は10年後のドルフロ世界へ 作:チキンスネーク
ヴァリャーグに囚われていた人質を救出し、報復が出来ない様に大打撃を与えたエイハヴが集落に戻ると集落の多くの人々に感謝された。
「ありがとう!本当にありがとう!娘を助けてくれて本当に!この御礼は必ずさせて頂きます!」
人質として囚われていた女の父親は涙を流しながらエイハヴの手を握って深く感謝するとエイハヴは遠慮気味に言う。
「いや、俺が勝手にした事だ。礼を言って報酬を支払うならジャンシアーヌ達にやってくれ」
「エイハヴ。私達はあくまでも貴方をサポートしただけよ。作戦の実行は貴方がやったんだから報酬を正当に貰うのは貴方よ?」
「一度言ったがあれは俺の独断であって集落からの依頼は受けていない。報酬を貰うには虫が良すぎる」
エイハヴは確かに集落の住民から助けを乞われたが依頼として受けていない。
故にエイハヴは個人的な救出として扱い、集落からの報酬は受け取ろうとはしなかった。
略奪で困窮するであろう集落の為に少しでも蓄えを残してやりたいと言うエイハヴなりの気遣いでもあり、エイハヴ自身、そこまで苦労した訳ではないからだ。
結局、エイハヴは集落からの報酬は受け取らずに終わり、エイハヴとジャンシアーヌ、グローザはエルモ号へと戻った。
「本当に良かったの?貴方が何者にせよ入り用なのは確かでしょ?」
「ジャンシアーヌ。確かに俺は一文無しみたいなもんだ。だが、これから先で苦労していく者達から数少ない金や資源を貰っていく訳にはいかないからな」
「そうね……結局、集落の物資も吹き飛ばしちゃったしね。それでこれからどうするの?あの集落に残るなら少し手前で停めて下ろしてあげるけど?」
「そうだな……俺としてもこれからどう生きようかは考えてはいない。あの集落で俺自身の生き方を見つけられるのかすら分からん」
エイハヴはそう言って本当に困った様な表情を浮かべるとジャンシアーヌは少し考える素振りを見せた後、グローザに視線を送り、グローザはジャンシアーヌからの視線を受けて笑顔で頷いた。
「エイハヴ。もしもよ。貴方が良ければエルモ号に所属してくれないかしら?」
「俺がか?」
ジャンシアーヌからの誘いにエイハヴは聞き返すとグローザもエイハヴのエルモ号への参加に賛成とばかりに言う。
「貴方の能力や人柄はあの作戦で示せたわ。エルモ号の仲間としての信頼は得られているわ。それにエルモ号には医療分野を担当する人が今の所は存在しないの」
「えぇ、その通りよ。これからもエルモ号で活動するにあたってさっきみたいな事が起こるかもしれないし、私やメイリンが怪我や病気になるかもしれない。軽い怪我や病気なら何とか自力で治療が出来る範囲だけど専門的なものとなるとね」
「確かに医務室はあったが医者はいなかったな」
ジャンシアーヌの言う通り、エイハヴが起きた時には医療をする様な人間を見かけず、エルモ号の人員は三人だけと知った時は流石に人手不足にも程があるのではと組織運営に携わった経験を持つエイハヴが思う程だった。
「こうして医療技術のある貴方に出会えたのは何かしらの縁だと思ってるわ。どうかしら?給料は……相談でお願い」
ジャンシアーヌはそう言って経済面で厳しい所があるのか目を反らしながら言うとグローザは苦笑い気味に言う。
「無理にとは言わないわ。現状、エルモ号は色々と切迫してるから働き先としては不安があるわ。でも、これだけは言える。例え厳しい状態でも私はこのエルモ号は唯一無二の家だって思ってるわ。例え何があろうと」
グローザのその言葉はエイハヴの記憶をフラッシュバックさせた。
国境無き軍隊そしてダイアモンド・ドックズ。
この二つの組織はエイハヴにとっては家と呼べる場所だった。
この二つ組織は解体されてしまったが過去の思い出は決して消えない、仲間の絆もまた消えないのだ。
笑いあい、喧嘩をし、よく食べて、共に眠り、訓練で汗を流し、戦場で背中を預け合う。
仲間と言う枠を越え、家族と呼びあったあの日も何も変わらない一日になるとエイハヴも信じていたが結局、失った。
もう帰る家も深い絆で結ばれた家族と呼べる仲間もいなくなったエイハヴに差し出されたその手は役目を終え、死に逝くだけだった者を闇から再び引っ張り出すには十分だった。
「どうせ行く宛はない。お前達が良いならエルモ号に乗せて貰おう」
「良かった。流石に断られるんじゃないかって思ったわ。改めてよろしくお願いね。エイハヴ」
「あぁ、よろしく頼む。ジャンシアーヌ指揮官」
ジャンシアーヌとエイハヴは互いに握手を交わし、仲間となったのだった。