毒蛇は10年後のドルフロ世界へ 作:チキンスネーク
エイハヴはグローザ、ネメシスと共にエルモ号に常備されている軍用車に乗ってジャンシアーヌを誘拐し、依頼の箱を持ち去ったヴァリャーグを追跡する。
「もっとスピードは出せるか?」
「駄目。今のこのスピードが限界よ。でも、車両が数台通った真新しい痕跡があるわ。もうすぐ追い付ける筈よ」
グローザはそう言ってアクセルを踏み続け、追い続けているとヴァリャーグの車列を発見した。
「見つけたわ。ヴァリャーグよ」
「あの車列で間違いないか?」
「痕跡を辿って来た以上はアレで間違いない筈よ。揺れるわよ。掴まって」
グローザはそう言って軍用車を走らせ、ヴァリャーグの車列へ突っ込む。
「ネメシス!」
「山峡漂う霧が如く……」
グローザの合図でネメシスが身を乗り出して狙撃の体勢に入る。
暫くの静寂の間を切り裂く様にネメシスの指が引き金を引き、弾丸が放たれると一番前の車のタイヤを撃ち抜いて複数の車を転倒させた。
ヴァリャーグの車列はその影響でスピードが落ち、遅れが生じると後ろのドアを開けて銃を手にしたヴァリャーグが現れた。
「彼処だ!撃て!」
「はい!」
ヴァリャーグが応戦を開始し、エイハヴ達の乗る軍用車を攻撃してくる。
「警戒!エイハヴ!援護を!」
グローザのその指示を聞き、エイハヴはAM MRS-4で応戦してきたヴァリャーグに対して発砲して牽制した。
エイハヴに撃たれたヴァリャーグが引っ込むとグローザはその隙を突いてヴァリャーグの車列の横にある高所に上るとそのまま落下の勢いを生かしてヴァリャーグの車両に体当たりする。
体当たりされたヴァリャーグの車両は大きく体勢を崩した時、その車両から飛び降りる者を捉えた。
「いたぞ!」
エイハヴはそれがジャンシアーヌだと視認するとグローザもすぐに対応する。
「接近するわ!ヴァリャーグに気を付けて!」
グローザはそう叫んで軍用車を走らせ、撃たれているジャンシアーヌを守る様に停車させた。
「指揮官!」
グローザはすぐにジャンシアーヌの確保に動く中、ヴァリャーグは諦めた様子が無い。
「グローザが指揮官を車に乗せるまでヴァリャーグを近付かさせるな!ネメシス!お前はヴァリャーグのスナイパーを中心に撃て!」
「大いなる者の導きのままに」
ネメシスはエイハヴの指示に従ってヴァリャーグのスナイパーを中心に狙う。
エイハヴはその他のヴァリャーグを相手に交戦してグローザがジャンシアーヌを連れて来るまで時間を稼ぐ。
ヴァリャーグと激しい戦闘を繰り広げているとグローザがジャンシアーヌを連れて軍用車へ戻ってきた。
「このまま離脱するわ!掴まって!」
グローザはそう叫んで軍用車を走らせるがそれに追い縋ろうとするヴァリャーグ。
それを見たエイハヴはスモークグレネードを投げて視界を奪い、簡単には追跡できない様にするとそのままジャンシアーヌ達と離脱するのだった。
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ヴァリャーグの追跡を撒き、軍用車を暫く走らせた。
軍用車の中でジャンシアーヌの手当てをエイハヴが行っていた。
「……良し。終わったぞ。顔の殴られた痣と肩の打撲だけで運が良かったな」
「昔から運だけは強いのよ。それよりも遅かったわね?」
ジャンシアーヌが救援が遅れた事を指摘するとネメシスが答えた。
「……原野の上、嵐より遁れし、不可視の物体……」
「え、え?ネメシス今、なんて?キャロリックは?それに、どうしてダミーの素体なんかを?」
ネメシスの不可解な言動にジャンシアーヌは困り果てる。
ネメシスの会話は普通の言葉では言い表さず不可解で難しい言葉の意味で伝える為、ネメシスの意思を知るのは至難の技なのだ。
ネメシスの言葉を完全に理解しているのは現在、キャロリックのみでメイリンもネメシスの言葉専門の翻訳機の開発を目指す程だ。
ヴェノムもまたネメシスの言葉の意味までは理解出来ず、曾ての仲間である言語を話さない女スナイパーとの交流した経験を生かして伝えたい事や行動を出来る限り察する位の事しか出来ない。
ジャンシアーヌが完全に困った所でグローザがネメシスの代わりにと訳を説明した。
「空の燃料タンクに逃げ込んだメイリンを除いて、司令室の私やエンジンルームのネメシスは爆発に巻き込まれたの。例外として医務室のキャロリックだけどエイハヴを庇って撃たれて機能を停止させたの。爆発のおかげで素体格納庫は全壊したけどその後、メイリンが私とネメシスのメンタルを運良く残ったダミー素体にインストールしてくれたおかげでようやく再起動出来たと言う訳。メイリンは今、ドローンエレベーターを修理してるから空からの支援はまだ時間が掛かりそうね。指揮官、ご指示を」
グローザは説明を終え、ジャンシアーヌに指示を願う。
ジャンシアーヌはそれを聞いて暫く考え込んだ後、決断して指示を出した。
「……箱を取り戻す」
その言葉にグローザの息を飲む音が聞こえる。
その短い言葉は単純に取り戻しに行くのではなく、ジャンシアーヌを守るグローザとネメシスを割いて取り戻しに行く捨て身の奪還命令とも取れるのだ。
エイハヴは今、死にかけたと言うのにまた死地に飛び込むのかと少し呆れているとグローザが反論する。
「人形の護衛無くして指揮官の身の安全は保証出来なくてよ」
「私が護衛を必要としている様に見える?貴方達だけじゃないの。エイハヴもいるのよ。それに箱が無ければ野垂れ死ぬのを待つ事になるわ」
ジャンシアーヌはそう言って何処か遠い目をする。
今回の輸送対象である箱には通常よりも遥かに高額な報酬が用意されている。
ヴァリャーグの襲撃と言うアクシデントさえ無ければ大金を手に入れてたし、その報酬さえあればある程度の損害も補填できる。
どのみち、輸送に失敗すればエルモ号は大赤字を抱えて破壊されたままの状態になり、グローザ達も修復できなくなり、ジャンシアーヌだけでなくメイリンそしてエイハヴまでも野垂れ死ぬのは間違いなかった。
そうなれば結局、やる事は一つしかないのだ。
「此処で野垂れ死ぬくらいならまだひと暴れした方がマシだな」
エイハヴのその言葉にグローザも諦めた様子を見せ、溜め息をつくとジャンシアーヌに向き直る。
「承知したわ」
グローザの短くも明確に指示を承った言葉は次の戦いの始まりの合図だった。