ある晴れた日のこと……正確には多分晴れてた日。城の周りは父上の力のせいでいつも曇っててよくわかんないんだよね。
まあ、そんないつも通りのある日、僕は兄さんと一緒に地下室で魔法の研究をしていたんだけど、何やら上で父上が盛大に叫んでいるのが聞こえてきた。
何だ何だと見に行ってみれば、そこには父上の姿はなく、父上の座っていた椅子と、変な形の杖だけが残されていた。
そこで僕はすぐに悟った。そうか、父上は勇者に負けたのかって。
兄さんもすぐに僕と同じ結論に達したらしい。王座に縋り付いて泣き崩れしまった。たぶん僕はまだ小さいから知らされてなかっただけで、兄さんは今日勇者が来ることを知っていたんだろう。やたらと地下室から出ないように言ってたし。
僕はないている兄さんを見ながら、生前の父上のことを思い出していた。威厳のある魔王らしい人形形態に真の姿を見せた竜形態。炎を自在に操り、僕らに色々と教えてくれた……厳しくも、優しく教えてくれる父に、僕も兄さんも確かに親子として情を抱いていた。
でも、僕にとってはぶっちゃけ父上が勇者に負けるのなんて予定調和だ。だってそうだろ? 父上、魔法はベギラマまでしか使えなかったんだから。そんなんで勇者に勝てるわけないよ。せめてベギラゴンくらいは使えないとさぁ。
当然僕だって父上にもっと強い呪文覚えた方がいいんじゃないかとか提案してみたけど、父上は自分は最強の魔王なのだから問題ない。それよりお前は竜形態になれるように訓練しろというばかり。確かに僕は兄さんと違って人間の母さんの血が濃いのか竜形態にになかなかならないけど、その分魔法の腕は結構自信あるのに、プライドが高いと息子のいうことなんていちいち聞いてられないのかな。
「それで死んでりゃ世話ないよ」
「ぐすん……どうした竜二郎?」
「何でもないよ竜一兄さん。それより、これからどうしようかなって考えてたんだ。父上が亡くなってしまったのは悲しいけど、これで僕たち食べ物を調達するのも難しくなったよ。父上色んなところを脅してたし」
「それは俺が何とかする。竜二郎は何も心配しなくていい。お前のことは俺が絶対守るからな!」
「うん。ありがとう兄さん」
竜一兄さんは優しい。勇者との戦いも父上に表立って反対することはなかったけど、僕にはこんな争いはやめるべきだっていつも言っていた。もうちょっと兄さんが大きくなってたら父さんと喧嘩でもして止められたかもしれないんだけどな。
とにかく僕らは孤児になってしまった。父上が率いていた部下の魔物たちもほとんどは勇者にやられ、残りも父上が倒れたとしれば逃げるように出て行った。それからの日々はまあ厳しい毎日だった。兄さんも頑張ってたけど、勇者一味の監視はまだある。結局城から出るにしても夜の間にコソコソ出るしかできず、畑で野菜も育てられなかった。
そんな中、僕は人間の血が濃いことを利用して人間に化ける術を会得。これによって多少マシになったけど、人間の金を稼ぐのはそう簡単な事じゃない。ちなみに、城にあった蓄えは勇者が根こそぎ持ってったんだとさ。
魔法使いとしてモンスター退治の仕事を請け負い、夜になると兄さんと一緒に討伐して朝方1人で街に戻る、そんな生活を続けて13年。僕は18歳、兄さんは22歳になった。
その年の夏のことだ。僕が街に買い物に行って城に帰ってくると、兄さんが知らない人間の女性と話していた。
「兄さん、ただいま。その人はお客さん?」
性格から考えて兄さんが人間を攫ってくるわけがない。ならば客人だろうと問うてみれば、兄さんの口からまさかの言葉が返ってきた。
「おかえり竜二郎。紹介する、こちらは俺の妻となるミリアだ」
「よろしくお願いします。竜二郎さん」
「ええっ!? いつのまに!?」
詳しく話を聞けば、どうやら僕が留守の間にミリアさんが城にやってきたらしい。ミリアさんは魔物使いという珍しい職業の冒険者で、この城には勇者が戦った城ということで観光目的で来たのだとか。そこでミリアさんと兄さんはばったりでくわし、あわや戦闘勃発かと思われたところで、ミリアさんの魔物が兄さんに懐く。なんだかんだと客人扱いでお茶したりお話ししていたら意気投合、それからはあれよあれよと話が進んでこの度結婚することになったそうだ。何それ僕何も知らない。ちょっとぐらい話してくれてもよかったじゃん兄さん。
「俺はこの機会に二代目竜王としてこの城を収める決心をしたよ」
「そ、そうなんだね。まあ急でビックリしたけどとにかくおめでとう」
「ありがとう。それとミリアのお腹には赤ちゃんも宿ってる」
「展開早すぎでしょ!? 今日何回ビックリさせんの兄さん!?」
「すまん」
もう。しかしそうなると、兄夫婦と子供のいる家におじさんもいっしょに住んでることになるのか……うーん、なんか嫌だなそれ。こうなったら城を出るしかないか。ちょうどやりたかった事もあるし。
僕は忙しい中でもずっと考えてきたことがある。この世界の魔法レベルはかなり低い。仕事で大陸中を回ったけど、ベギラゴンなんて一度も見なかった。僕の頭の中にある薄ぼんやりした記憶には、ベギラゴンより上の魔法またあったのに。
ただ大昔の本なんかではベギラゴンらしき魔法があったらしいんだよな。ということは魔法文化が衰退したのか、それとも何から別の要因があるのか。
もし、魔法文化がこんなレベルまで落ちていなかったら、あるいは父上も負けなかったかもしれない。
最近僕は頭の中にあった魔法を復元、研究していた。その魔法の名前は『ルーラ』。そしてルーラという魔法にあるいくつかのバリエーションから、発想の転換によって生み出した新しいルーラ、『ワタルーラ』は過去から未来、果ては違う次元に存在する世界にまで行くことができる。
これで父上を救うことは出来なかった。使用者が存在する時代には行かなかったからだ。だけど、このワタルーラは遠い過去や遠い未来に行くことはできる。それは何だかワクワクしない?
「兄さん、僕はこの機会に旅に出るよ。心配しないで、年末年始にはちゃんと戻ってくるから」
こうして僕、竜王の息子、竜二郎の摩訶不思議な冒険は始まった。
まずは100年ぐらい後の未来にでも行ってみようかな。たぶんその頃には僕、死んでるだろうし。
ドラクエ9とドラクエ10はやったことがないので、タグに入れてません。