落ち着いたところで少年に話を聞いてみれば、少年はオルテガさんの息子で、十数年前に魔王討伐の旅に出て行方不明となった父の代わりに、勇者として旅をしてきたのだそうだ。
オルテガさんは実は今の今まで記憶喪失だったらしく、故郷のことも家族のことも、自分が勇者として魔王討伐の旅に出ていたことも忘れていたのだそうだ。それでどうして大魔王の城に乗り込もうと思うんだろう。魂に刻まれたとかそんな理由なのか?
とにかくオルテガさんは記憶を取り戻し、ついでに追いかけてきた息子のアルスくんとその仲間たちも加わって、これから大魔王を倒しにいく準備はこれ以上ないくらいに整ったわけだ。
「それでは、君の話を聞かせてもらえるか? あのドラゴンに変身したことや、君の素性について」
「やっぱり忘れてはないですよね」
「無論だ。話したくないというのであればそれでも構わない。君はこれまで私を助けてくれた。私は君がなんであれ信じる」
「いえ、どうしても隠さないといけないということもないので、この場で話せる分だけは話しますよ。僕は……」
僕はオルテガさんたちに素性となぜ大魔王を倒したいのかをかいつまんで話した。未来から来たとかはややこしいので、別世界から来たが、大魔王がこの世界を覆っている力のせいで帰れなくなったことを伝えた。
「なるほど、君は竜の血族で別世界から来たと。我々の世界のことを考えると、そういうこともあり得るか」
オルテガさんがそう言って納得した様子を見せているところで、今度は息子のアルスくんが口を開く。
「そうなんですか。僕はてっきり竜の女王様の家系の方かと思ってました。雰囲気が少し似ていた気がしたので」
「うーん、もしかしたら関係あるかもしれないけど、僕は父上から何も聞いてないからわからないな」
「何にせよ、君が我々の敵ではないことはハッキリした。共に大魔王を討ち倒そう」
「はい」
「アルス、大魔王との戦いはこれまでのどの戦いやらも過酷だ。お前も成長していることはわかっているが、本当にやれるか?」
「心配しないで父さん。僕らはあのバラモスも倒したし、そのほかにも多くの魔物を退治してきた。なんなら、もしかしたら父さんより強いかもよ」
「ふっ、言うようになったな。ではもうお前の心配はせん。一人前の勇者として共に戦うぞ」
「はい!」
キングヒドラを倒した後の道中は、特に強力な魔物も出てこず、出てきた魔物はほとんどオルテガさんとアルスくんがあっという間に倒していた。そして最奥の階段を登ると、広く高く禍々しいデザインの広間にたどり着いた。
「あれが大魔王か」
そいつは広間の奥、王座のような椅子に腰掛けて、肘掛けに肘をつき、不適な笑みを浮かべていた。
凍てつくような空気が大魔王のいる方向から漂ってきている。
僕らは台座で怪しく煌々と燃える水色の炎に照らされながら、赤い絨毯の上を大魔王に向かって進んでゆく。
道中でアルスくんが一度戦ったというバラモスブロスと戦闘になるが、オルテガさんとの見事な連携と仲間たちのサポートによりあっさりと撃破、いよいよ大魔王を眼前に捉えた。
大魔王の足元が一気に冷気で冷やされる。立ち上がった大魔王ゾーマは、アルスくんに向かって語りかけた。
「アルスよ! なにゆえもがき生きるのか?」
「滅びこそ我が喜び。死にゆく者こそ美しい」
「さあ、我が腕の中で、生き絶えるかよい!」
直後、その手から放たれる猛烈な吹雪。そして、大魔王ゾーマの体からは闇が滲み出るように立ち上る。
「行くぞッ!」
オルテガさんが大魔王に斬りかかる。そこに僕はすかさずバイキルトをかけ、流れるようにフバーハを展開。
まるで避けることもせずオルテガさんのオノによる斬撃を受けるゾーマ。
「無駄だ!」
「何っ!?」
ゾーマの巨大な腕が薙ぎ払うようにオルテガさんを吹き飛ばす。その体にはオルテガさんが放った渾身の攻撃のダメージがほとんど見られない。
「父さん!」
「大丈夫だ! しかし、なんて硬さだ。私の全力に近い攻撃だというのにまるで効いていない」
「ならば魔法だ。魔法使いさん、合わせてください」
「わかった!」
「「メラゾーマ!」」
僕と老魔法使いさんのメラゾーマが二つ同時にゾーマに直撃する。だが、その膨大な火球の熱を受けてもゾーマは不敵に笑っていた。そして、次の瞬間には熱は冷気に書き換えられる。
「これならどうだ! ギガデイン!」
間髪入れずにアルスくんの電撃魔法ギガデインがゾーマに降り注ぐ。これには流石のゾーマもたまらずたじろいだ。確かにダメージは与えられた、けれど魔法力の消耗激しいギガデインですら、大ダメージを与えるには至らない。
「強すぎるわね。マヒャドが来る。避けて!」
盾役を買って出てくれている女戦士さんが、盾では防げない最大氷結魔法の攻撃を予見して僕らに指示出ししてくれる。
「とんでもない魔法力だ! とても避けきれない。僕が相殺する! ベギラゴン!」
ありったけの力を込めて僕の最も得意とする最大熱線魔法ベギラゴンを、目一杯の魔法力を込めて放つ。
マヒャドとベギラゴンが衝突して、辺り一体を水蒸気が埋め尽くした。ギリギリだ。本当にギリギリ何とか相殺できた。けれど今の魔法の衝突でわかってしまった。ゾーマは僕よりも随分魔法力が上だ。今のはほんの小手調べだった。
まだ奴は油断している。この蒸気の中、黙って突っ立っているのがその証拠だ。僕は滑るように移動して皆を一箇所に集めた。無断だけど念のためにと彼らの装備にアンカーを付けていて良かった。
「オルテガさん、今のでわかりました、奴の魔法力は僕を上回っています。奴はまだ本気じゃない。このままこちらの攻撃が通らないと、僕らの負けは確実です」
「ああ、私もそう感じている。おそらくゾーマの体を覆っているあの闇が、奴へのダメージを減らしているのだろうが、どうすればアレを消せるのかわからん。皆は何か案はないか?」
「いえ、ごめんなさい父さん。僕も何も……」
「私もあの攻撃を何度も受けていられないけど、案と言われても何も出ないね……魔法使いの爺さん。あんたは何かないのかい?」
「ふむ……。アルスよ、竜の女王にあった時のことを覚えておるか? あの時、女王から授かったものがあったじゃろう?」
「えっと、これですか?」
「それじゃ。いつかどこかの巫女に聞いた話じゃが、その光の玉は魔王の魔力を弱める力を持つという。あの話が本当であれば、大魔王の闇の衣もあるいは打ち消せるかもしれん」
魔王と大魔王。そこにどれほどの力の隔たりがあるのかはわからない。けれど僕らにはもう、その巫女の話す光の玉の力に頼るほか道はなかった。
蒸気の霧は晴れた。アルスくんは僕らの先頭に立ち、ゾーマを前にその手に光の玉を掲げる。
「光の玉よ! 大魔王の闇を打ち消したまへ!」
「なに?」
光の玉から眩い光が放たれる。ゾーマはその光を受け、体を覆っていた闇が剥がれだす。そして完全に消え去ると、それでも己の力に絶対の自信を持つ大魔王ゾーマは不敵に笑った。
「ほほう。我がバリアを外すすべを知っていたとはな」
「だが無駄なこと……。さあ、我が腕の中で、もがき苦しむがよい」
油断はもうない。あるのは残酷なまでの殺意のみ。
僕はあのマヒャド以上の冷気を受け切るため、ドラゴンへと変身する。
僕が冷気を、戦士が物理攻撃を、魔法使いがサポートを、そしてオルテガとアルス……勇者たちが攻撃を。
この場にいる者たち、全ての力をもって。
大魔王ゾーマ、お前を倒す。