病室にいる全員の視線が突き刺さる中、まず声を発したのはオルテガさんだった。
「私には妻がいる。それに息子はまだ10代半ばだ。子を残すとすれば息子になるだろう。時間がかかると君は言ったが、それは私たちの子孫をこの世界に残すためなのか? そうだと言うのなら断る。私たちは自分たちの力で元の世界に戻る方法を探す」
「時間がかかると言ったのは、子孫を残してもらうための言い訳ではありません。僕の使う方法では確かにあなた達の世界を探し当てるのに時間がかかるのです。子孫を残してほしいと言ったのは別の理由があります。それをこれからお話しします」
納得を得るために、僕は僕の素性と未来での出来事を話した。僕がゾーマの言っていた後の世の闇から現れしものの子供であること、その者を勇者が倒したこと。さらにその先の未来でも、勇者の子孫達が破壊神を倒して世界を救うこと。話せることは全部。
オルテガさんとアルスくんは黙って聞いていた。ゾーマがあっていた通りに世界はまた闇に閉ざされる。それを聞いて顔がこわばる二人、しかし勇者に倒されると知って緊張は解ける。
「なるほど、それで君は竜に変身できるということか」
「信じてくださるんですか……?」
「いまさら君のことを信用しないことなどない。それがたとえ荒唐無稽なことを言っているように聞こえたとしてもな」
ひとまず信じてもらえたことに僕は胸を撫で下ろす。
「竜二郎さんの未来で魔王がまた現れて、勇者が倒したのはわかったんですが、その勇者は本当に僕らの子孫だったんでしょうか? 全く関係ない別の勇者ということはないですか?」
「無関係ということはないと思う。今アルスくんが装備している防具や武器とかなり似通っていたし、何より顔立ちがそっくりだった。他人の空似というにはあまりにも特徴が似通いすぎてたからね」
「ということは、やはりこの世界に我々の子孫が必要ということか……しかし良いのか竜二郎。この世界に我々の子孫が残らなければ、君の父ぎみは死なずに済むのではないか?」
「それはそうです。ですが、世界を闇に染めて支配するなんて僕は絶対に望みません。とはいえ、あの時点の父上が僕らの話を聞くとも思えないし、その後に改心するなんてことも望み薄。止める力なんてそれこそ世界が支配された後にしか得られません。当時の僕はまだ10代にも満たない子供だったので」
僕だって父上が勇者に殺されたことに思う部分がない訳ではない。あんな父でも僕と兄さんにはきちんと親としての愛情を持って接してくれていたし、死んだ母上のことも愛していた。ただ、それ以上に闇と支配欲が強かっただけで。
「それに僕には他にもお二人の子孫をこの世界に残してほしい理由がありまして。実は僕の時代からさらに100年後の未来に行った際に僕の弟子になった娘がいるのですが、その娘は勇者の血を引く者なんです」
「未来にか。なるほど、我々がこの世界に子孫を残さなければ、その娘の存在も消え去ってしまう。納得した。しかしまいったな、この世界に子供を置いていくことなどできんし、かと言ってアリアハンに帰ることを捨てることもできん。どうしたものか……」
僕たちがどうすべきかと悩んでいると、不意にこれまで黙って話を聞いていた魔法使いさんが疑問を口にする。
「一つ聞きたいんじゃが、オルテガ殿とアルスは一度アリアハンに戻ればもう二度とこの世界に来れんのかの?」
「ん? いえ、そういう訳ではないですよ。一度アリアハンに行けば座標は記録されるので、僕がいれば何度でも行き来できます」
「であれば、アルスがこちらで結婚して子供を作り、時折里帰りとしてアリアハンに連れて行って貰えば良いのではないか? 子供はいつか親元を離れるものじゃろ」
「そうか! それは良い考えです! どうですか竜二郎さん!」
「んー、まあそれくらいは構いませんよ。頻繁に行き来するとなると僕の都合もあるので無理ですけど、年一回か二回程度なら大丈夫です」
そんな話をしていると、今度は女戦士さんが口を挟んできた。
「というか、それならその世界を渡る方法とやらをアルスが使えるようになれば良いんじゃないの? 竜二郎のことだから、どうせ新しく作った魔法とかなんでしょ?」
「確かにお二人をアリアハンに戻すのは僕がルーラを改造して作ったワタルーラという魔法だね。けどこれをアルスくんに教えることは今のところできないんだ」
「なんで?」
「この魔法は、異なる世界を渡ることも時間を遡ったり先に行ったりすることもできる。こんな魔法を誰それが使えるようにしておくと、万が一敵に知られたらどんなことになるか分からないだろう? だから僕以外には使えないように基本構造に組み込んでるんだよ。しかも、この構造は僕自身でも簡単には変えられないようにしてる。洗脳されたりすることがあったら怖いからね」
「なるほどね。まあそれなら仕方ないか。じゃあ魔法使いの爺さんが言うように竜二郎が送り迎えしてやりなよ。その方が気分がいいだろ?」
「そうしましょうか。どうですか、お二人とも?」
そう聞くとオルテガさんは少し複雑そうに、アルスくんは良かったと輝かしい顔で頷いてくれた。
オルテガさんに後日その時のことを聞いてみたら、長い間離れていた分、今後は家族皆で仲良く暮らしていきたいと思っていたらしい。それがアルスくんはこちらの世界で家庭を持ち、しかも孫が産まれても年に数回しか会えないというのが少しばかり苦しかったのだとか。
とにかく、話は決まった。僕は魔法で傷を念入りに直した後もしばらく宿屋で休ませてもらい、数日後に一度オルテガさんとアルスくんを連れて僕の時代にワタルーラした。
兄さんとその家族には勇者の先祖であることを伝え、オルテガさん達は数100年後の世界を見て回ったりしていた。
その間、僕はワタルーラの調整がてら過去や未来に飛んだり、別世界へ行ったりした。そのおかげで時間間隔の調整は概ね順調だ。おそらくドラクエ世界ならほぼ誤差なく移動できるだろう。
その後、アルスくんは過去の世界へ戻って奥さん探し、オルテガさんは僕とワタルーラでアリアハンの特定をすることになる。
アルスくんの方は魔法使いさんと女戦士さんとその旦那さんがサポートしてくれて順調にことが運び、僕らの方も半年かけて数十回ワタルーラを行使してようやくアリアハンに辿り着くことができた。
一度過去へ行き、お見合いがうまくいったアルスくんを丁度いいからと奥さんともども連れてアリアハンの実家へと送り届けると、諸々のご挨拶の後僕も呼ばれてお祝いのパーティーを楽しんだ。
オルテガさんの奥さんもそうだけど、お爺さんの方も印象的だったな。涙顔でめっちゃ感謝されたし、僕の正体も話したのだが、ものすごい昔の伝説の勇者の本に出てくる世界を守護する聖龍のようだと拝まれた。
パーティーが終わって数日後、アルスくんと奥さんを元の世界に送り、アリアハンに戻ってオルテガさんとご家族に挨拶して、僕の事故的な過去への大冒険は終わりを迎えた。
僕の時代に戻って色々あった数ヶ月の後、アルスくんの元を訪ねると子供ができたと言う報告を聞くことができた。良かったこれで未来は僕の知る通りになっていくだろう。そう安心してついでにオルテガさんに報告に行ったら、なんとオルテガさんと奥さんの間にも子供ができていてビックリ! アルスくんに伝えると、まさか僕の子供に同い年の叔父か叔母ができるなんて、とかなり面白い顔で驚いていた。
「ふぅ……なんやかんや最後までとても面白かったけど、同時にとても疲れる旅だったな。こういう時はビルボに会いに行ってのんびりするに限る」
僕は兄さん達にバカンスに行ってくると告げると、そのまま中つ国にワタルーラするのだった。