結果から言うと、客人の青年二人は僕に負けた。ただし、何もできずに負けたわけではない。彼らは初見の魔法にもなんとか対応し、隙を見つけては攻撃を仕掛けてきた。
最初のベギラゴンは緑の服の青年がベギラマで威力を減衰させてギリギリで回避、ならばとメラミで青い服の青年を攻撃すれば、恐るべき剣捌きで無理やり気流を生み出してメラミを逸らされる。
初見でここまで動けるのは、彼らが旅で多くの経験を積んで身につけた戦闘カンと言えばいいのか、そういうもののおかげなのだろう。つまり彼らはその点においてはこの僕を上回っていたということだ。
途中青い服の青年が切り込んで来た時にはヒヤッとした。杖で受けたが、あれは向こうの剣がもっと質の良いものなら杖ごと体を切られていたな。
しかし、その後はヒャダルコ、バギマと性質の異なる魔法を連発したことによって彼らは段々と対処できなくなっていった。ヒャド系はこの未来では使われていないようだし、バギはあってもバギマは存在していない。知らない範囲攻撃の連発は彼らが反撃する余力を削っていった。
肩で息をする二人はそれでも諦めはしなかった。そんな彼らを見ているうちに僕も次第に楽しくなってきて、いよいよ魔法の威力を抑えるのをやめようかと思っていたところで、プリンに止められて戦いは終了した。途中で止められたので勝負はついていないとはいえ、向こうは膝をついていることを考えると、この勝負は実質僕の勝ちだろう。
「早とちりしましたね二人とも。私が五体満足でここに立っているのを見て攫われたなどと本当に思っていたのですか? 確かにこちらのお二人は竜王一族の方々ですが、私に危害は一切加えておりません。むしろあなた方が戦った方は私の魔法のお師匠様です。今日まで数ヶ月間、私に魔法をご教授くださり、お師匠様に出会わなければ知り得なかった多くの魔法を教わりました。これはきっとハーゴンを倒すために大いに役立つはずです。だというのにあなた方ときたら尋ねてくるなり私を助けるなどと敵意を向けて! どちらが悪なのですか!」
「ご、ごめん悪かった。悪かったって! で、でもそれなら最初からプリンが言ってくれれば良かったじゃん」
「それは、私もあなた方の今の実力が知りたかったですし……」
「……なら、プリンも僕たちと変わらないんじゃないか?」
「だよなぁ」
「ん? 何か言いましたか……?」
「「いえ! 何も言ってません!」」
「よろしい」
やはり女性は強いな。この感じ、生きていた頃の母上を思い出す。もし母上が生きていれば、父上が世界征服などという馬鹿なことをするのをこうして止めてくれたのだろうか。
「なに自分は関係ないような顔をしているんですか、お師匠様」
「えっ?」
「お師匠様、最後の方で加減するのやめようとしてましたよね? 私の目は誤魔化されませんよ。このまま続けてもし二人が大怪我でもしたらどうするつもりだったんですか!」
「す、すみません」
「じゃあ、早く話を進めましょう。時間がもったいないです」
「「「はい……」」」
プリンに三人揃って怒られて、それからこれまでの経緯と竜王の現在の在り方を話した。青年二人はムーンブルク城で霊魂と話して、犬にされたプリンを元に戻すためラーの鏡を探したことを話してくれた。なるほど、見事に行き違いが起きてたわけか。
「ですが、お二人はサマルトリア城で私がお師匠様に助けられて、弟子入りしたのを聞いたのではないのですか? それでなぜ私が攫われたという認識になったのです?」
「ああそれか、俺たちも最初はいつか合流できれば良いくらいに思ってたんだけど、お前ら宿屋の前でルーラしただろ? それでルーラで向かった方角を念のため覚えといたんだ」
「宿屋の前でルーラしたなんてよく分かったね緑の君。もしかして魔法の残滓を解析したとかかな?」
「いや、俺も魔法は使えるけどそこまでじゃない。単に聞き込みしたらたまたまルーラしたことがわかって、方角も見た奴がいたからわかっただけだよ。あと、俺のことはクッキーと呼んでくれ」
「なるほどね。それでクッキーはどうして僕がプリンを誘拐したと思ったの?」
「ああ。しばらくはそのまま旅してたんだが、最近俺たち船で移動できるようになってな、そんで探索してたときにふと思い出した、そういやプリンたちがルーラした先がこの辺りだったなって。そんで近くのラダトームに向かったんだけど、そっちでは空振り。じゃあこっちの城かと思って聞き込みしたら、なんてこった、この城はあの竜王の城だったっていうじゃねぇか。しかも未だに竜王の子孫が棲みついてるとかいう噂まである」
「なるほど、竜王といえば君たちからすると悪のイメージ強いもんね。それで実際来てみれば王座にはこの悪人ヅラの竜王と後ろに控えた僕とプリン。勘違いするのも無理ないか」
「ん? 今わしのことを悪人ヅラと言わんかったか?」
そうか、そりゃあ僕がプリンを誘拐した竜王の手先と思われても仕方ないよなぁ。それだけの要素揃ってるし。魔法の修行を隠れてするならうってつけだと思ったけど、迂闊なことしちゃってたか。
「それにしても、貴方の魔法はどれも凄かった。桁違いの威力のギラ系の魔法も、バギの上位のような魔法も、氷系の魔法にいたっては見たこともなかった。貴方はもしや賢者なのですか?」
「褒めてくれてありがとう青服の君。だけど、残念ながら僕は賢者じゃないよ。色々と魔法は使えるけど、単なる魔法使いさ」
「ロランと呼んでください。そうなんですね。だとしてもそれだけ魔法を使える方に師事したのなら、プリンも相当魔法を使えるようになったのでしょう。もしプリンが僕たちの旅に同行してくれるなら、とても心強い」
「もし、ではなく、断られたとしても私は一緒に行きますよロラン。むしろ私こそハーゴンを一番恨んでいるのですから」
「そうか。ありがとう、プリン」
「お礼を言われることではありませんわ」
話し合いが続くと、外ではすっかり日が落ちていた。そのため今日は二人も城に泊まり、明日の朝プリンを連れてハーゴン討伐の旅に出ることとなった。
ここにきてこの数ヶ月の間に城の空き部屋を少しずつ掃除していたことが役に立った。この城に来客なんて滅多に来ないからいつ役立つのかなとは思ってたけど、案外早かったね。竜太には無駄な事してるなとか言われてたよなぁ。どうだ竜太、役に立ったぞ!
翌朝、ロランとクッキーは久しぶりにフカフカのベッドで寝て体力が全快になったとお礼を言ってくれた。勇者の子孫というからもっと堅物かと思っていたが、案外話してみれば良い奴らだったな。
「それではお師匠様、行ってまいります」
「気をつけてハーゴン倒しておいで」
「はい!」
後ろでロランとクッキーが、今のやりとりおかしくないか? とヒソヒソ話している。聞こえてるぞ。
「二人とも、プリンをよろしくね」
「もちろんです。必ず無事に返します」
「そんときゃ俺らも一緒に来るぜ!」
うんうん。二人は人柄も良いし、頼もしい。これならプリンが加わればそうそう負けることはないでしょ。
「あ、そうそう。竜太、アレを渡さないと」
「お、そうじゃったな。ほれ、なんかうちにあったロトの剣じゃ。ちょっと切れ味落ちとるかもしれんが、そこそこ使える武器じゃからな。ハーゴンを倒すのに役立てるがよい」
「嘘だろ。こんなところに伝説の剣があったのかよ!?」
「伝説……まあ、ほどほど伝説かな。まあまあ、って感じだよ。うん」
「ありがとうございます」
ロランがロトの剣を受け取って早速背中に装備する。様になってるね。
ちなみにプリンには僕の予備の杖を渡しました。性能はまあまあかな。クッキーには用意してないんだ、ごめんね。
三人の背中が去っていくのを竜太と並んで見送る。僕らが勇者の子孫の旅立ちを見送るのはちょっと変な感じだけど、無事にハーゴンを倒せることを祈っているよ。