大魔王の城は、外から見たところ父が魔王として君臨していた時よりも随分と禍々しかった。けれど、城門は堂々とひらかれており、来るものを拒まずという姿勢が見て取れた。
大魔王は余程自信があるらしい。
僕とオルテガさんは場内に入ると、僕らはあてもなく探索する。後の世で竜王の城になった頃とは内部の構造がずいぶん違っていた。外見は確かに違っている部分も多かったように思うが、内部も違うとなると竜王の城は後から再建したのかもしれない。
僕はあまり城の構造とかには興味がないので詳しくはわからないけど、元の時代に戻ったら改めて竜王の城を観察してみるのも面白いかもね。
そんなこんなで行き止まりに行っては引き返すような事を繰り返し、僕らは少しずつ城を攻略していった。城の中は外と比べてもかなり強力な魔物がウジャウジャと出てくるのでかなり大変だが、オルテガさんのオノと僕の魔法でのサポートがあれば苦戦する魔物は多くない。
途中宝箱があったりするのをオルテガさんは見事に無視して進んでいく。僕は若干勿体なく思いながらも並走していると、城の中の池に架けられた橋の終端で、これまでの魔物とは一線を画す魔物と遭遇した。
「オルテガさん。油断しないでください。こいつは他のとは訳が違う相手のようです」
「おそらくそうだろうな。だが、こんなものも倒せないようでは魔王など倒せはせん」
僕たちのいく道を丸々隠すように立ち塞がる紫色の巨体。無数の首を胴体から生やした四足歩行の魔物は、八岐大蛇を彷彿とさせる外観と相応の威圧感を僕たちに与えてくる。
「来るぞッ!」
「グオォォォォォッ!」
先手は敵のドラゴンからだった。複数ある口いっぱいに溜め込んだ灼熱の炎が、広い橋全体に向かって放たれる。
オルテガさんはさすがの判断で持っていた頑強な大楯を構えるが、あの盾は物理的なダメージをカットするのには大変有効だが、炎や氷といったものに対してはほぼ無力だ。せいぜいが直撃を防げる程度。このブレスの規模と威力なら大火傷を負ってしまう。
「フバーハ!」
咄嗟のフバーハはギリギリで間に合った。白い風のベールが僕とオルテガさんを包み、炎ダメージを軽減する。
「出るぞ!」
「サポートします!」
オルテガさんは僕がフバーハを使うと、炎がまだ来ている段階で盾の影から前に躍り出た。この数時間の急拵えだが、敵が強いお陰で連携そこそこが様になっている。
炎を掻き分け、八岐大蛇のようなドラゴンに果敢に飛びかかっていくオルテガさんに対してスカラとベホマをかけ、僕自身は攻撃魔法は使わずにオルテガさんの攻撃と敵の観察に集中する。
「オルテガさんの攻撃は通っている。だけど、鱗の硬さで傷は浅いか。ならオルテガさんはあまり好きじゃないかもしれないけど使う。バイキルト!」
バイキルトにより、オルテガさんのパワーが2倍に上昇。これまで弾かれることもあったオノによる斬撃はあっさりと八岐大蛇もどきの肉を切り裂く。
実はオルテガさんはこの呪文をあまり使ってほしくないと話していた。理由は単純で、上昇したオルテガさんのパワーで振り回すと武器が壊れてしまう可能性が高くなるからだ。大切なオノで、武器はあれ一本しかないため、オルテガさんは緊急時以外のオルテガさんへの使用は禁止されていた。
オルテガさんは八岐大蛇もどきを連続で切り付けている。こちらを咎めるような視線は飛んでこない。むしろ攻撃が通りやすくなって生き生きとしているように見える。
僕はそんなオルテガさんを見ながら、ルカニで敵の守備力を下げようとするがこれは失敗。どうやら耐性があるらしい。ならばとメラゾーマで攻撃してみても、やはりドラゴンといったところか、全く効果が無かった。
「オルテガさん下がって! マヒャド!」
オルテガさんが飛び退いてすぐ、マヒャドによる巨大な氷が八岐大蛇もどきを襲う。しかし、氷に包まれた八岐大蛇もどきはすぐに氷を破壊して出てきた。少しは効いたかと思ったが、ほとんどダメージはなかった。
「氷もダメか。他に使える魔法はあるか?」
「バギ系とイオ系は使えます。けど、ここは狭すぎる。あの巨体にダメージを与えられる規模で使うと、天井が崩れるかもしれません。オルテガさんは雷の魔法は使えますか?」
「いや、私が使えるのはホイミぐらいだ。仕方がない、ならば私が直接叩くしかないな。奴の攻撃に私の回復呪文では間に合わん。君は補助と回復を頼む」
「わかりました」
それからの攻防は一進一退の激戦だった。僕がドラゴンになれば八岐大蛇もどきを倒すことは訳ないだろうが、オルテガさんに説明もしていない状態で変身するわけにもいかない。僕にはオルテガさんを魔法で強化して、頭のいくつかを引きつけるぐらいしかできない。
オルテガさんは僕が注意を引いている間に一つづつ首を戦闘不能にしていく。バイキルトでパワーの上がったオルテガさんの会心の一撃は、肉を割き骨を削り、気道まで到達する。八岐大蛇もどきが吐き出そうとする炎は傷から漏れ、威力が落ちたブレスはもはや灼熱の炎ではなく火の息だ。
一つ、また一つと落とされていく首。万全の補助と回復でオルテガさんの攻撃は止まらない。
順調にいけばこのまま倒し切れる。しかし、手負いの獣ほど恐ろしいものだ。致命傷を負って倒れたはずの首が一斉に持ち上がり、その獰猛な牙を剥き出しにしてオルテガさんに襲いかかったのだ。
巨大な質量に剣よりも鋭い幾つもの牙。自分で自分を傷つけるのも構わず、互いに首を衝突させながら迫るそれは、オルテガさんといえども簡単に死に追いやる威力があった。
しかも、こんな時に後ろから迫る気配が二つ。敵の増援。
「クソッ!」
迷っている暇はない。
「オルテガさん! 伏せて!」
僕の体が人から竜に変身していく。伏せたオルテガさんの頭の上を飛び越えて、我はその顎と爪をもって八岐大蛇もどき、いや『キングヒドラ』を抑え、ぶつかる。
「我は竜王なり! 頭が高いぞ、ひれ伏せ!」
我はキングヒドラの図体を押し込み橋の向こうへと追いやる。後ろでオルテガが立ち上がった気配。あと、誰だ? 何人かの気配が近づいてきている。
オルテガは我を切るだろうか……もしそうなっとしても、ここでこいつを離すわけにはいかん。
俺の背中を踏みつける感触。そして、気配は頭へ。
「すまんが頭を踏むぞ。ふんっ!」
直後、一つの影が我を飛び越え、キングヒドラの前へへと飛び出た。そしてそのままオノを振り上げ……
「私は間違っていた。首を取るなら根本からだったな!」
振り下ろした。
振動は大地を震わせるほどで、彼の力の限りが込められた一撃だった。力の抜けたキングヒドラの体は次第に粒子となって消えていく。
後に残ったのは、ドラゴンになった我とオルテガのみ。
「……」
「……」
気まずいな。とりあえず攻撃はされないらしいが。
「あー、取り敢えず我は元に戻る。話はその後でどうだ?」
「それで構わん」
目を閉じて、ドラゴンから人の姿へと戻っていく。体が大きくなるのにも、縮むのにもいつまで経っても完全には慣れないな。
再び目を開けると目線の先にオルテガさんが見える。
「……あの」
口を開きかけるが、その先は続かなかった。なぜなら、僕よりでかい声を出して近づいてきた人がいたからだ。
「父さん!」
僕の体の横を素通りして、ツンツン頭の青年がオルテガさんに抱きつく。
「おっと! 君は……?」
「父さん。やっぱり記憶がないのか!?」
「記憶……いや待て。君の顔をよく見せてくれ」
顔を見合わせる二人。何が何だかわからない僕。
「思い出した。私はアリアハンのオルテガ、そしてお前は私の息子。大きくなったな、息子よ!」
「父さん!」
抱き合う二人。状況がわからない僕。そしていつのまにか知らない魔法使いのお爺さんと、戦士のお姉さんが僕の横で頷きながら涙ぐんでいる。
……なにこれ?