もう一度、救ってもらってもいいですか? 作:激重感情大好き侍
アグレッサーと呼ばれる異形の侵略者の手によって、数多の人々の命が失われた。
人類の人口が半分まで減ったころ、魔法少女と呼ばれる存在が人類の中に生まれた。
年頃の少女だけが罹患する、病のような現象だった。
アグレッサーがもたらした未知のウイルスのようだなどと当時は騒がれたけれども、結局根本的なことはわからずじまい。
わかったことと言えば、魔法少女はアグレッサーに対して有効な対処手段となるということだけだった。
その後、人類の反抗が始まった。
もはや倫理や人権などと言っている余裕は人類にはなかった。
種族の滅亡をかけた戦争は、十年間続いたことから世界間十年戦争として歴史に名を刻んでいる。
「──この世界間十年戦争を終わらせた魔法少女たち。そのうちの六人が、六英雄と呼ばれています」
学校にて、歴史の授業を聞いている。
かつてこの地に刻まれた絶望の時代について。
未だに時折現れる、アグレッサーの脅威について。
今後、語り継ぐ人がいなくならないように。
「六英雄のうちの一人、——
この六英雄の名前はテストに出ますからね、と女性の先生は何度も強調する。
教室の顔ぶれを見ると、平和な時代に生まれた彼らは、あまりピンと来ていない様子なのが分かる。
アグレッサーの脅威は未だに終わっていない。
終わっていないが、魔法少女もまた消え去ったわけじゃない。
何かあっても避難警報に従い逃げれば問題ない。魔法少女が倒してくれるから。
そのぐらいの認識なのだ。
今日の授業を終わりを知らせるチャイムが鳴った。
「──では、今日はここまで」
静かだった教室が、にわかに騒々しくなる。
この後どうする? 遊びに行く? そういったやり取りが随所でされている。
私は静かに鞄を持って、教室から出て行く。
同時に、スマホに電話がかかってきた。
画面を見る。電話番号を確認すると、その場で出る。
「はい、
『——私だ』
「お疲れ様です。
倉田さん。今、私がお世話になっている女性だ。
訳あって、本当の家に帰れない私の面倒を見てくれている。
『今日の学校はどうだった?』
「面白かったですよ」
私は校門へ向かいながら、通話を続ける。
「新鮮ですね。私たちからすると、そんな昔な気がしないのに」
『……迂闊なことを言うのはやめた方がいい』
「大丈夫ですよ。私を知ってる人は、ここにはいませんから」
実は、先ほどの歴史の授業は少しだけ内容が間違っている。
語られていない真実が存在している。
なぜ授業で教えないのか? それは単純に都合が悪いからだ。
誰にとって? 政府にとって。
「それよりも、今晩の晩御飯は何ですか?」
『肉じゃがの予定だよ』
「いいですね。昔っから好きなんですよ、肉じゃが」
私が知っている肉じゃがの肉は、本物の肉ではなかったけれど。
今の社会では問題なく酪農や牧畜ができているから、きちんとした肉類も手に入る。
とても恵まれていることだと思う。
『ともかく、厄介事には気を付けて帰ってくるように』
「はい、わかってます」
通話が切られる。ちょうど、下駄箱に到着したのと同時だった。
そのまま靴に履き替えようとした、その時だった。
「あの! すみません!」
「はい?」
話しかけられた。
知らない男の子。別のクラスの子かな。話したことは、何回かあるかも。
「…………」
顔を真っ赤に染めて、黙りこくっている。
視線だけは、私の顔に真っすぐ向けられている?
「はい? なんでしょうか」
帰りたいので、用事があるなら早くしてほしい。
そんなつもりで、催促をしてみる。
すると、想像してなかった言葉が出てきた。
「好きですっ、付き合ってください!」
――びっくりした。本当に、びっくりした。
下校時間の下駄箱という人の目がいっぱいあるところでの告白だなんて。
何かの罰ゲームだろうか。だとしたら、可愛そうなことだと思う。
「え、と」
反応に困ってしまう。
じっと、周りの子たちが私の方を見ている。
興味や好奇の視線に晒されているのは慣れている。慣れているけれども。
……本当に、心苦しい。
「……ごめんなさい」
一言断りの文句を言うと、名前もわからない男の子はがっくしと肩を落とした。
そして、とぼとぼと歩き去ってしまう。
申し訳ないことをしたと思う。でも、受けてあげるわけにもいかない。
私が、誰かと親密になるなんて許されない。
誰かと親しくした結果、どうなったのかを、私は知っているから。
私は誰かと親しくし過ぎない方がいいのだ。
クラスでいつも一人でいる、不思議な女の子。そのぐらいの認識でいてくれればいい。
「……帰ろう」
振ったことに対して責めるような視線もある。
今すぐこの場から離れてしまおう。
下駄箱から靴を取り出して、私はそっと学校を後にした。
帰り道で少しだけ考える。
告白されるのは、さっきのが初めてじゃなかった。
好感を持たれるようなことは、何もしてないと思う。
だとすれば、残り香が悪さしている可能性がある、と思う。
これは倉田さんに相談するべきだろう。
だって、私は何もするべきではないのだから。
私の今の家は、正確には倉田さんの家は、学校からそう離れたところにあるわけではない。
住宅街の一角にあるマンション。その一階部分に家がある。
マンションなのにどうして一階なのかと聞いたことがある。
曰く、『上の階だと買い物とかしたときに運び込んだり、階段の利用が面倒だから』とのことだった。
「倉田さん、ただいま戻りました」
「お、お帰り」
家の扉を開けて、リビングへ進むと、机の上に書類を何枚も散らかしながら作業している倉田さんの姿があった。
ロングのポニーテールを揺らしながら、熱心にノートパソコンに向き合っていた。
私が帰ってきたからか、一旦ノートパソコンを閉じて、私の方を向いてくれる。
「……何かあったって顔だね」
「ちょっと、はい」
「聞いても問題ない内容なら、聞かせてほしい」
「では――」
私は最近学校で告白を良くされることを相談する。
その原因が、私の残り香にあるんじゃないかという推論も。
それに対する倉田さんの答えはシンプルだった。
「残り香の可能性はない」
相談して速攻。迷う素振りすらなかった。
「前提として、君の力は殆どが傷ついていて使い物にならない。それに、大元も人に好かれるなんて効力はなかったはずだ」
「それは、そうですけど……」
「単純に君が異性から見て魅了的だというだけさ。安心していい」
倉田さんは笑って言ってくれるけれども、安心できる問題ではない。
私は目立っては駄目なのだ。
倉田さんもそれをわかっているはずなのに。
「……困ります」
「いいじゃないか。せっかく学校に通っているんだ。恋愛の一つでもしてみるといい」
倉田さんは再びノートパソコンを開き、仕事へと戻っていった。
「倉田さんはご存じでしょうが、私は学生って年齢でもないんですよ?」
「それはそうだ。だが、事実として君の体は成長が止まってしまっている」
そう、私こと水上
十五歳を語って高校に通ってはいるものの、年齢はそれよりも大きく上回っている。
そもそも、水上心愛という名前すら、本当のものではない。
「――まあ、運が良かったと思うべきだよ。あれだけの事をしておきながら、命が残ってたんだ」
「……それは、そうかもしれませんが」
「心ぐるしいかね? 後処理をかつての仲間たちに任せるしかないというのは」
私の存在は、政府の中でもごく一部にしか知られていないらしい。
だって――自分の命と犠牲にアグレッサーたちが現れる巨大なゲートを閉じた存在が、もしも生き残っていたとしたら?
世界は混乱する。同時に、政治的利用価値を計られるだろう。
それを、大人たちは良しとしなかった。
「我慢だよ、
そう、私の本当の名前は愛田美菜。
かつて、この世界を救った魔法少女の一人だ。