もう一度、救ってもらってもいいですか? 作:激重感情大好き侍
世界間十年戦争が終わった。
終わったとは言うけれど、どうやって終わったのか具体的に知らない人は多い。
戦争の起点は、富士山頂上に空いた巨大ゲートからだった。
巨大ゲートを起点に、世界各国にゲートが開き、アグレッサーはやってきていた。
それを、私は単身突撃して潰した。
誰かがやらないといけないことだった。私がやったというだけだった。
なのに、どうしてこうなってしまったんだろう。
「倉田さん」
「水上、どうした」
倉田さんは相変わらずずっとノートパソコンで仕事をしている。
今日は一般的には休日のはずなのに。
倉田さんは忙しい、のだと思う。
私は暇だ。やれること、というよりもやっていいことが極端に少ないから。
愛田美菜が生き残ってることはごく一部の秘密。
それが世間にバレてはならない。
必然的に、私はあまり活動的にならない方が良いのだ。
「私ってなんで生きてるんですかね」
「……そうだな。そのままの意味で受け取るが、奇跡としか言いようがない」
巨大ゲートを潰すために、私は私が持っている魔法少女の力を全開放した。
二度と戻れなくてもいい、その覚悟で命を燃やし尽くした。
――はずなのに。
「奇跡ですか」
「何度も言うが、お前の体は死人同然だ。現代科学では、なぜ命をつなぎとめているのかすら判明させられないほどにな」
そう、私の体は死人同然なのだ。
死体が動いていると表現したほうが適切なほどに。
体の成長が止まったのも、体が死んでいるからだと説明された。
「魔法少女に関しては分かってないことが多い。副作用のようなものなのかもな」
アグレッサーの世界とつながったゲートから漏れて出た何かが、人間に作用して魔法少女になる。という仮説が立てられている。
事実、アグレッサーが現れるゲートが減った今、新しく生まれる魔法少女は少なくなったそう。
その分、私と一緒に戦った、かつての仲間たちが活躍してくれている、らしい。
「不満か?」
「――いえ、何というか。死ぬ気で突撃したので」
「生き残ったことに実感がわかない、か」
「はい」
とりあえず、当時はアグレッサーとの戦争で通えなかった学校に通わせてもらって。
やりたいことが何なのかを探させてもらっているけれども。
本当にこれでいいのだろうか? という思いばかりが先行している。
倉田さんは「世界を救ったんだ、残りの人生は休暇に使ってもいいだろう」なんて言ってくれるけれど。
魔法少女になってから戦場に出っぱなしだった私には、休暇というものの楽しみ方がわからない。
「何でしょう。戦ってないと違和感があるんですよね」
「……日常に慣れるまでの我慢さ。いずれはその感覚も消える」
「そうでしょうか」
はっきり言ってしまって。
私は、私のために何かするということがよくわからない。
人類のため、人類のため。
そう言い聞かされて、魔法少女として戦い続けたのだから。
だから、そう、きっと。
誰かのためになら、頑張れるのだと思う。
私じゃない別の誰かのためならば。
「好きな食べ物はあるんだろう?」
「はい」
「なら、そういうのでいい。一つ一つ、好き、これがやりたい。そう言ったものを増やしていくんだ」
倉田さんは、今後ずっと私の面倒を見てくれる。と言っている。
私が死ぬときまで。いつ死ぬかも、もう死ねるのかもわからないのに。
それが英雄にできる唯一の報いだと言ってくれているのだけれど。。
実際に戦争が終わって五年間、ずっとお世話してくれている。
「難しいですね。普通に生きるのって」
「私からすれば、二十の女の子がそんな悩みを抱えているのが悩ましいよ」
「倉田さんはお幾つでしたっけ?」
「……三十五だ」
私も倉田さんぐらいの歳になれば、落ち着きを持てるのかな。
「まあ、だから告白の一つでも受けてみたらどうだ」
気晴らしの一つにはなるだろう。なんて、無責任なことを言われる。
「流石に相手に失礼ですよ」
「水上が世界を救わなければ恋愛にうつつを抜かすこともできなかったんだ。当然の権利として受理するといい」
うーん。そうなのかな。
でもなぁ、学校の子たちを好きと思ったことはないんだよなぁ。
学校の授業は新鮮だけれど。
恋愛というのは、とんとわからない。
「そもそも魔法少女って子供産めるんですか?」
「……恋愛について考えてた結果がそれか」
ちょっと飛躍しすぎただろうか。
でも、結局はそうなると思うんですよね。
倉田さんは少しだけ悲しそう。
「水上はもうちょっと夢や希望を持つべきだ」
「夢や希望、ですかぁ」
魔法少女をやっていたせいなのだとは、自覚している。
次の日には死んでいるかもしれない状況で。
けれども、戦いにはいかないといけない。
私たちしか戦えないのだから。
倫理も道徳も関係ない。種の存続をかけた世界間での争い。
そんな状況に置かれてた私に、夢や希望を求める方が間違っている気がするのだけれど。
でも、それを何とかするべきというのも、よくわかる。
だって、私の戦いは終わったんだから。
そう、私の、戦いは。
「……魔法少女の力を失ったわけでは、ないんでしたよね」
私は自分の手のひらを眺めながら、倉田さんに問いかける。
「おい、何を考えているのかは知らんが、止めろ」
彼女はずっとノートパソコンを見ながら会話していたのに。
途端にパタンと閉じて、私の方を見てくれた。
「お前の体は死人同然だと言っただろう。そんな状態で魔法少女の力を使ってみろ、肉体が四散してもおかしくないぞ」
魔法少女の力は体に負担がかかる。
それもそうだ。普通の人間には出せない、圧倒的な力を引き出せるんだから。
魔法少女はその圧倒的な魔法の力に適応した存在ともいえる。
でも、それは体が万全な状態での話。
普通の人だって、体が弱ってる状態だと普段はかからないような病気にかかってしまうように。
魔法少女だって、体が万全でなければ耐えられない。
長い戦争の研究の結果、分かったことだった。
「本気で死ぬ気か?」
「……死ぬ気はありませんよ。せっかく拾った命なんですから」
世界を救うために死んでもいいとは思ったけれど、死にたいと思ったことはない。
私がやるべきだったから、やっただけ。
そのはずなのに……。
「難しいですね、普通に生きるのって」
もう一度、同じことを呟いてしまう。
五歳の時に世界間戦争がはじまり、始まって少しして魔法少女としての適性を見出されていた。
八歳から魔法少女として戦い続け、十五歳の時に世界のために死ぬ覚悟を決めた。
それから五年間、こうして死にきれずにいる。
「いつかは慣れるさ」
倉田さんは世界間戦争前の世界を知っている人だ。
世界間戦争が起きる前の、平和な世界。
人間たちの争いはあったけれど、存亡まではかけていなかった世界。
私は、世界間戦争前の世界を殆ど知らない。覚えてもいない。
この認識の差が、どうしても埋められないと感じるときがある。
多分、倉田さん自身もわかってる。
私には目指すべき平和な日常が存在していないから。
こうして、一人未だに取り残された気分でいるのだと。
「……いっそのこと、死んでた方が楽だったのかな」
倉田さんには聞こえない声で呟いてみる。
今死にたいと思ったわけではない。
でも、生き残った後がこんなに大変だとは思わなかった。
いや、世界間戦争の時と比べてどっちが大変かと言われると世界間戦争一択なのだけれど……とにかく、自分がいるべき場所でない感じがする。
結局のところ、私は骨の髄まで魔法少女なのかもしれない。
魔法少女として生まれて、魔法少女として死ぬ。
そういう定めなのかもしれない。
だとしたら、これは一体どんな罰なのだろうか。
魔法少女として生きる道は閉ざされて。
それでも、未だに死ねないでいる。
何度でも思う。死にたくはない。
でも、死ぬべきだったとは思う。
きっと、私はどこか壊れているのかもしれない。
世界間戦争に。
きっと、大事な何かを置き去りにしてしまったのだろう。
「……みんなに会いたいな」
かつて一緒に戦った仲間たち。
彼女たちは何をしているんだろう。
私は死んだことになっているから、気軽に会いにはいけないけれども。
猛烈に彼女たちが恋しくなる時がある。
苦楽を共に分かち合った彼女たちなら。
私のこのわだかまりを解消する答えを知っているんだろうか?
それとも……。
「とりあえず、勉強して寝ますね」
「そればかりだな。いや、これは行動を制限している側が言っていいことではないな」
倉田さんは静かに自戒している様子だった。
私は気にしていないのに。
ああ、でも改めて考えてわかったことがある。
私は、死にたくはないけれど。
きっと魔法少女として、生きたいのだ。
平和な生活には、多分、馴染める日は来ない。
だから、きっと、いつか。
倉田さんとは、袂を分かつときがくると思う。
その時は、いつもみたいに、「馬鹿野郎」って言ってくれるだろうか。
笑ってくれれば、それが一番嬉しいのだけれど。