自分を犠牲に世界を救った魔法少女は、死にかけの体でも魔法少女を続けたい 作:激重感情大好き侍
学校は、嫌いじゃない。
授業も、嫌いじゃない。
クラスメイトも、嫌いじゃない。
でも、何かが物足りない。
何かが。
学校でいつものように、一人でぼーっとしている。
授業時間の合間にある休み時間。
トイレに行く時間が用意されてるのはとても良いことだと思うけれど。
倉田さんもいないと、どうしても考え事が増えてしまう。
例えば、本当の私は既に死んでいて、今の私は残された抜け殻なんじゃないだろうか、とか。
だから、こうして虚無感に包まれているんじゃないか、とか。
考えたって意味がないって理解しているのに、考えてしまう。
「出来損ないだなぁ……」
ぽつりと呟いた言葉は、誰にも聞かれていない。
教室はいつも通り騒がしく、私が何か呟いても誰も気にしない。
この平和な空間が、どうしても違和感がある。
私がいるべきは、もっと、こう、怒号が飛び交うような戦場だと。
そんな気がしてならない。
世界は救われた?
もう、アグレッサーの被害は少ない?
だから、私はもう戦わなくていい?
それはまるで、私が戦いたくないみたいだ。
「そうか、私は――」
死ぬ気はない。死にたくはない。
でも、今が生きているかと言われれば、そうでもないのだ。
その事実に、気が付いた瞬間のことだった。
『第一次警戒警報、第一次警戒警報。アグレッサーのゲートが確認されました。生徒の皆さんは――』
「っ!?」
校内放送で流れる緊急放送。
これは、学校近郊にアグレッサーのゲートが現れたことを表すものだ。
窓から外を見てみれば、そこには白色の中に赤のラインが入った異形。アグレッサーの姿がある。
校門から、学校内に侵入してきているのが見えた。
『生徒の皆さんは避難指示に従い速やかに――』
「――駄目だ」
咄嗟に、近くに魔法少女の気配を探る。
けれど、多分すぐ近くには戦える魔法少女がいない。
今から駆けつけてくれるにしても、時間がかかる。
被害が、出る可能性がある。
心臓がドクドクと高鳴っている。
それだけで体は軋んでいるし、悲鳴を上げている。
この体でまともに動ける気がしない。
動けたとして、その後が正常でいられるわけがない。
けれども、気がつけば体の方が先に動いていた。
教室を飛び出して、目指すのは屋上。
避難場所とは違う方向へ向かう私を見て、呼び止める子たちもいた。
でも、走り出してしまった。走ってしまった。
私はもう、私を止められる気がしない。
誰もいない屋上の扉をバンと開き、体中が軋んでいるのを感じている。
全力で走っただけでこれだ。
もしも、魔法少女の力を使えば、どうなるかわからない。
「――トランス・マジカ」
ためらうことなく、私は魔法少女へと変わる合図を口にした。
瞬間、宙から虹色の帯が私の体に巻き付き、制服から魔法少女衣装へと服装を変えていく。
締め付けられる、苦しい、魔力が体の内部で暴走している、苦しい。
「ガハッ、ゲホッ!」
変身の途中にも関わらず、口から血反吐が出た。
こんな体では、魔法少女として全力を尽くすことができない。
間違いなく、体が爆発して死ぬ。
――なら、制御すればいいのではないか?
「全力の、十分の一」
出力を制限する。
これなら、辛うじて立っていられる。辛うじて動いていられる。
魔法少女のコスチュームも不完全。かつて、世界を救った時のような煌びやかさはない。
色は褪せ、生地は痛み、ところどころかけている。
それでも、私を魔法少女たらしめるには十分だった。
「行こう」
中途半端なコスチュームに身を包んだまま、私は屋上から飛び降りた。
アグレッサーの行動原理は単純だ。
目に入った生物を攻撃する。それだけ。
かつての戦争では圧倒的な物量差で厳しい戦いを強いられたけれど、学校に侵入してきたのは一体だけ。
それなら、今の私でも何とかなる。
屋上からの着地の衝撃で、体がギリリと軋みあがる。
骨という骨がひび割れて、辛うじて繋がっているような痛みが全身に走る。
「だとしても、私は魔法少女だ」
痛みがなんだというのか。
アグレッサーは殺す。人は助ける。
そのための魔法少女だ。
アグレッサーの姿は既に外にはない。
校舎の入り口が破壊されているあたり、既に校舎内に侵入されているみたい。
急ごう。被害者が出てからだと、もう手遅れだ。
アグレッサーは本能のままに暴れているらしく、その道筋を辿るのはとても簡単だった。
同時に、それは追われている人がいるという事でもある。
生物を視認しなければ、アグレッサーは対して活動的ではないから。
「行かなきゃ」
今、この瞬間。
私はかつてないほどに生を実感している。
今にも崩れ落ちそうな体を動かして、気を抜けば口から血反吐を吐きそうになっていて。
それでも私は生きている。
倉田さんには、なんて言おう。
きっと怒られる。二度と家に入れてはもらえないかもしれない。
でも――これこそが、私の生きる世界なんだ!
「見つけた」
アグレッサーの姿を視認した。
こちらを見ていない。きっと、向こう側に生徒がいる。
「ステラ――」
魔法少女の力を解放する。
こぽりと口の中に血の味が広がる。
けれども、こぼさない。
「――レイド」
魔力を込めて、解き放つ。
私の放った星の弾幕は、こちらを見向きもしていないアグレッサーの体をハチの巣にする。
そして、白の巨体がその場に崩れ落ちた。
「……助かった、の?」
やっぱり、生徒たちがいた。廊下の隅に追い詰められ、血の気が引いているのが見える。
魔法少女になって強化された五感は、彼女たちの表情も言葉も、はっきりと拾いきっている。
「魔法少女……?」
距離が離れているからか、多分こっちの姿ははっきり見られていない。
今のうちに離れよう。
……勢いで変身してしまったけれど、私が生きていることは秘密なのだから。
もしも、私を知ってる魔法少女が来たら、魔力の残滓で気づかれてしまうかもしれない。
そこまで考えが回っていなかった。
それに……そろそろ体が限界だ。
悲鳴を上げている四肢を引きずって、この場から離れる。
急いで屋上へと戻る。後になって、整合性が取れなくなると困るから。
道中は避難しきったのか、生徒や先生と出くわすことはなかった。
屋上までたどり着いたところで、私はそっと意識を手放した。
疲労感に負けて、変身が解ける。
変身が解けると同時に、私は虚脱感に襲われた。
ああ、やっぱり。
私は、魔法少女でありたい。
☆ ☆ ☆
「ここがアグレッサーの襲撃があった学校ね」
魔法少女として、私は野良のアグレッサー襲撃が撃退されたという知らせを受けて調査をしに来た。
「はい、来てくださりありがとうございます。
「やめてよ。私はただの魔法少女なんだから」
少女って年齢でもないしね。
魔法少女って言う名称は、魔法を使えるようになる年齢が少女だから言われてただけ。
かつての世界間戦争を運良く生き延びただけの魔法少女でしかない。
六英雄の側で戦っていたけれど……彼女たち程強くはない。
まあ、今生き残っている六英雄は四人だけ。一人は自ら命を絶ち、一人は世界間戦争を終わらせるために自らを犠牲にした。
「美菜……」
見ていて、危ういところがある子だった。
誰よりも強かった。誰よりも魔法少女に向いていた。
けれど、誰よりも幸せになれない子だった。
誰よりも報われない子だった。
五年経っても、あの子の面影を忘れられない。
誰よりも最前線で戦って、誰よりも人々を救ったのに。
私だけは忘れない。それが、私にできる最大限の弔いだから。
「それで、これがアグレッサーの死体です」
「どれどれ……」
確かに、アグレッサーが死んでいた。
地域の担当魔法少女がたどり着く前に死んでいたというアグレッサーは、生徒の目撃情報曰く確かに魔法少女が倒したらしい。
今の環境で偶然魔法少女が生まれるとは思えないけれど……。
「野良魔法少女は、危険だからね」
政府に登録されていない野良魔法少女は、犯罪に手を染められれば非常に危険な存在となる。
未だに魔法少女が戦争に起用されていないのも、奇跡のようなものだ。
各国が魔法少女を世界間戦争の英雄として象徴化しているからこその、かりそめの平和というべきか。
「生徒の中に魔法少女に目覚めたと名乗り出た者は?」
「いません」
「だろうけど」
一般的に魔法少女に目覚めるのは八歳から十二歳の間。高校生は対象外だ。
にもかかわらず、見計らったかのように野良魔法少女がアグレッサーを討伐した。
魔力の残滓が辛うじて残っている。
これを辿れば――。
「……美菜?」
「はい?」
――いや、そんなはずはない。あの子は富士山山頂のゲートを閉じるために、命を使い果たした。
でも、この魔力の残滓は、確かに彼女のものだ。
私が間違えるはずがない。
何度あの子の隣で戦ったと思っているのか。
何度あの子の力になりたいと願ったものか。
その私が間違えることなんて、あり得ない。
「まさか」
可能性を考える。
だとしたら、どうして。
いや、でも。
「生きているのなら……」
会いたい。
会って、感謝を伝えたい。
「魔法少女を見たという子がいるらしいわね」
「ええ」
「今すぐ呼び出して」
もしもあなたが生きているのなら。
絶対に、今度こそ――。