ある日彼は、訪れた神社で出会った「神」からこう持ちかけられた。
「人生を、やり直したくはないか?」
『パワプロシステム』を与えられ高校入学前に戻された彼は、人生をやり直すためにシステムの力で成長を遂げていく……
※この物語はフィクションです
※実在の人物、組織などを侮辱する意図はありません
第一話 やり直した日
「人生を、やり直したくはないか?」
真っ白な空間で、唐突に現れた光り輝く老人から、 水流憲吾《つるけんご》はそう話しかけられた。
何が起きた?ここは何処だ?こいつは誰だ?……そんなこと考えながら、彼はつい先程までのことを思い返した。
今日は一月一日の年明けだ。初詣に行こうと思って、最寄りの神社まで歩いてきた。一人暮らし、神社で出会う知り合いも一緒に行く家族もいない。深夜に眠い目を擦りながら向かう理由を感じなかったが、それでも積み重ねられた習慣か、賽銭を用意して鳥居をくぐったのだ。
目をとじて一年の健康を感謝しつつ、何を願おうかと考えていると周囲から音が消えた。目を開けてみれば、先に述べた通りの状況だった。
「あなたは…誰ですか?」
「ワシは神様じゃよ。お主はワシのことを知らんが、ワシはお主のことをお主より知っとるぞ。」
「神様ってなんの神様ですか?此処は何処なんですか?人生をやり直すってなんのことですか?」
半ばパニックになりながら、彼は目の前の神を名乗る老人に話しかける。意味不明な現状を、全く理解できていなかった。
「まあまあ落ち着け。ゆっくり喋りなさい。一つずつ説明してやろう。……ワシはなにかの神様ではない。じゃが、人の思う神様っぽいことができる。 此処はワシの作り出した空間じゃ。外の時間とは断絶されておるから、時計を気にすることはないぞ。……人生をやり直す……それがまさに、お主を此処に呼んだ理由じゃよ。 知らんか?巷じゃ、こういうシチュエーションが流行っとるんじゃろう?転生がどうとか…」
老人の話を聞きながら、彼は少しづつ現状を受け入れていた。
(転生、転移、やり直し……テンプレだけど、まさか自分が…というか、幻覚かなんかじゃないのか?)
ブワッ
突然、彼の足元から水が吹き出した!水がまとわりつくように彼の周囲を取り囲んでいく
「うわっ、うわあ!」
(冷たい!なんだこれ…!)
「ホッホッ、幻覚の類いではないことはわかったかの?ついでに目も冴えたじゃろ!ホッホッホッ!」
老人は笑いながらそう言うと、軽く手を払った。すると水は綺麗さっぱり消えた。服も濡れていない。
(げ、現実だ…感覚がそう伝えてくる!というか、心を読まれた?)
「さて!いい加減に話を進めようかの…水流よ!これはワシの暇潰しじゃ。お主は過去に強い未練を抱えておる。やり残したこと、やり直したいことに再び挑戦できるなら、今の生活を捨てても構わんというほどにな。そんな人間だからお主を選んだ、これを受け取れい」
老人が指を鳴らすと、水流の手元にタブレットが出現した。
「これは…パワプロ?」
タブレットの画面には、パワプロのUIが表示されていた。
「よいか、お主には『パワプロシステム』という力を授ける。」
「やり直しとはいえ、ただ戻すだけではお主はどうにもならん。これは努力をポイントにして確実な成長をもたらすものじゃ。」
「お主の未練…断ち切れぬ野球への思いを叶えるためのツールじゃよ」
野球への思い…考えないようにしていた記憶を思い返す…三年間ベンチを暖め続けた中学野球、挑戦すらしなかった高校野球…ゲームやプロ野球の観戦をして楽しむ。でもそれは代替品に過ぎないことを、心の底でわかっていたのだ。三十歳になるまで何を成し遂げることもなかった。これからもそうだろう。そうやって、目をそらし続けた人生だった。
(やり直したい...出来なかったこと!やりたかったこと!全部!)
「神様!俺、やります!やらせてください!」
「ホッホッホッ…そうだろう、そうだろう。お主なら、そう言うと思ったぞ。」
「…水流!これからお主は高校入学前の一月一日に戻る。そこからはお主次第じゃ。思うままにポイントを稼ぎ、自らを成長させ挑戦するといい。」
「最後に、餞別をくれてやろう。パワプロに
老人はそう言うと、にやりと笑った。
(アイテムを一つだけ……どうする?!)
(考えろ、現実離れしたものはダメ、つまりロックオンバットとかすけすけゴーグルは不可だ。そもそもあれらをつけて試合には出れないだろう…なら候補は1つ。)
彼は少し考え込むように目を閉じ、大きく深呼吸をした。
「神様。俺は、天才の入部届けを選びます!」
答えを聞いた老人は、意外という様子もなく。彼がそうすることをわかっていたようだった。
「合いわかった……それでは、お別れじゃ。よいか、ワシは此処からお主のやり直しをずっと見ておるぞ。ぜひとも楽しませてくれよ、のう?」
パチンッ
老人が指を鳴らし、真っ白な空間が崩れていく…彼は強烈な眠気に襲われ、目を閉じた……
◇ ◇ ◇
「憲吾、どうした?」
目を開けると、暫くあっていないはずの父の顔があった。しかも記憶より若い。
「なんでもないよ」
(自分の声が若い…本当に戻ってきたんだ。高校入学前に…まずは帰って、『パワプロシステム』とアイテムの確認をしよう、それから色々考えないとな…)
◇ ◇ ◇
自室に戻った彼は、タブレットをイメージして念じた。すると手元にタブレットが出現した。
「よし…まずはステータスの確認だ。」
UIが表示されると、サクセスの初期設定場面が映っていた。
「ここからカスタマイズできるのか…よし、やるぞ!」
まずは守備位置、これはかつて憧れて届かなかったポジション、投手を選んだ。
(ピッチャーなら後から内外野もとれるだろ…流石にキャッチャーは無理かな)
次は投球フォームと打撃フォーム。数多のプロ野球選手やパワプロオリジナルのフォームから、自分の思う憧れのフォームを選んだ。
投球フォームはかつて名古屋の地でエースとして君臨した右腕、『山上 堅司』 打撃フォームは、同じく名古屋の地で球界を席巻した天才大打者、『留木 浩介』
愛知の地で生まれ、名古屋ドルフィンズのファンとして育った俺にとってのヒーローのフォームを、システムに打ち込んだ。
「利き手は右投げ左打ちにして…次はアピールポイントだ」
ここは悩んだ。どれも魅力的だが、天才の入部届けでステータスの底上げを行えることを考え、『ノビのある速球』を選択した。
「サクセスが元になってるシステムなら、得能の方がとりづらいよな…イベントとか起きるかわかんねぇし」
(なにより、真っ直ぐで空振りをとるのはロマンだよな)
一通りの設定が終わり、現在のステータスが表示された。
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守備位置 投
弾道 1
ミート F20
パワー F20
走力 F20
肩力 E40
守備 F20
捕球 F20
球速 120km/h
コントロール F20
スタミナ F20
得能
ノビB
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「おお…」
表示された能力はいかにもフラットといった感じだ。まだ何者でもない、目立ちもしないプレイヤー。ただし、二つの能力が目を引いた
「肩力E40に球速が120㎞/h…ここだけ明らかに強いな」
補欠時代の球速は測ったことはないが、どんなに頑張っても100km/hもでなかったし、肩も弱かった。
「システムが下駄履かせてくれてるな、肩は球速に違和感がでないための辻褄合わせか」
おそらくは投手をメインポジションにした効果だろう。そう結論付けることにする
そして、ポイント使用場面から初期ポイントを消費して【Hスライダー】を習得する。これはこの後のための布石だ
「さあ、お楽しみのコイツだ…!」
タブレットの表示から使用したのは、天才の入部届け。これでいったい何処までステータスが伸びるのか…心が高鳴った。
【天才選手!】
UIが表示され、画面が切り替わる。
【習得する球種を選んでください】
「ここも悩みどころだけど…こういうときは、投げたいやつを選ぶのがいい!」
【スローカーブを習得しました】
(左の大投手、『岩中 信二』のようなスローカーブ!緩急は絶対に必要だ!)
よし、あとはステータスの成長を…!
【ステータスが成長します…】
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守備位置 投
弾道 1→2
ミート F20→F33
パワー F20→F36
走力 F20→F34
肩力 E40→D55
守備 F20→F38
捕球 F20→F38
球速 120km/h→128km/h
コントロール F20→F37
スタミナ F20→F35
Hスライダー 変化量1→変化量3
スローカーブ 変化量1
得能
ノビB
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「おぉ……かなり上がったな!」
(やっぱり天才はマストだったな、経験点にバフが乗るかはわからないけど…)
(ひとまずこれで最初の確認は終わった。あとは練習でポイントを稼ぎながら、細かいシステムについて調べよう)
やりたいことはいくらでもある。逸る心をおさえて、眠りにつくことにした……
◇ ◇ ◇
次の日の朝、俺は軟式用のグローブとバット、ボールを持って近場の公園に来ていた。
理由はもちろん能力の確認をするためだ、まだ寒いが入念にストレッチをしてなんとかする。なにより、試したいという思いがおさえられなかった。
「よっしゃ、いくぞ…!」
公園のマウンドに立ち、プレートを踏む。ストライクゾーンをイメージして、ど真ん中に投げるつもりで…
「ウシッ!」
投球を始めた体はスムーズにフォームをなぞる、下半身のタメがボールに伝わり、指にかかった強い真っ直ぐを投げ込んだ。
シュッ! ─────ゴン!
直球はストライクゾーン真ん中を通過し、バックネットにぶつかってコロコロと転がった。
「は、ははっ!すげぇ!今の球…!」
(110キロは出てたぞ…かつてない手応え!しかも綺麗なバックスピンがかかってた!ノビB様々だ!)
「やべぇ…楽しすぎる!」
端から見ればなにがそんなに楽しいのかと思われるような顔で、ひたすらに投げ込みを続けた。安定したフォームも、真ん中に投げられるだけのコントロールも、数球では痛まない肩肘も。かつて欲して、ついぞ手に入らなかったものを手に入れたことで、夢中になって投球練習を繰り返した……
◇ ◇ ◇
「はあ、はあ、はあ……疲れたぁ…」
(調子乗って投げすぎた……まだ冬なんだ、あんまりやると怪我をしちまう)
グローブとボールを置き、バットを手にする。次は打撃フォームだ
「いくぞ…フシッ!」
ブンッ!
グリップを引き絞り、バットがスムーズに出てくる。全身を柔らかく使い回転し、フルスイングで振り切った。
「良い!いい感じだ!」
これまでとは全く異なるフォームも、自然と使いこなせる。
(システムの補助、辻褄合わせのおかげかな…ピッチングもバッティングも、今までだったらできるはずない動きを体がしてくれる。関節の柔らかさ、筋力とかも能力値やフォームに説得力を持たせるように成長するんだ…!)
実際に体を動かすことで、システムについての理解を深めた。ベンチに座って休憩しながらタブレットでシステムを開くと、経験点がたまっていた。
(あんまり多くはないな…練習レベルの概念があるのか?それともチームメイトがいないから?)
少し考え込むが、どうせまだわからないと後回しにする。その後も思う存分体を動かし、やがて疲れはて帰路についた………
◇ ◇ ◇
その後はひたすらに練習を行い、ポイントを稼ぐ日々を送った。もうこの時期には進路も決まっていて、冬、春休みを使ってとにかく練習をしまくった。
そのうちに気付いたことだが、身長と体重が増えていた。システムの影響だろう、かつての身長はとっくに追い越していた。いまは174cm67kgになった。
あれからポイントを消費したのは、【ケガしにくさ】と【回復】をとるために使ったことのみ。効率のよいポイント稼ぎのためには必須条件だと早い段階で気付き取得した。
しかしヒントなしのため、どちらもポイント不足でB止まりである。
そんな俺は今、高校の入学式に出席している。俺が入ったのは『蓮華学園高校』と呼ばれる愛知県の私立高校だ。
やり直す前も当然ここを卒業した。野球部ではなかったが。蓮華学園の野球部はかつて甲子園に出場し、プロ野球選手も排出したことのあるちょっと強い私立である。 しかし今はその面影は薄く、特待生もとってなければ、寮もないらしい。今はって言っても俺にとっちゃ過去の話だけど。
それでも一回戦負け常連の公立校とは一線を画す強さだし、『私学4強』には及ばないものの、たまに良い戦いをするくらいの強さである。
『私学4強』とは、愛知県下最強の私立高校4校のことである。甲子園常連校であり、古豪でもある。プロ野球選手を多数輩出してきた、ガチの名門校だ。
『共栄』 『東朋』 『中州大中州』 『愛商大名工』の四つである。
愛知県大会を勝ち抜き甲子園に出るには彼らを下さねばならず、それは困難だ。しかも愛知県大会は参加校数がトップクラスなのに北海道や東京のようにエリアを2つにわけてもらえず、まるで蠱毒のような様相の地獄の突破難易度を誇っている。
(それでも甲子園にいく、俺が連れていく!)
システムの力があれば不可能じゃない…やってやるさ!
決意を新たに、二回目の人生が今本格的にスタートする。
初投稿です
誤字脱字報告していただければ幸いです