─春季県大会三回戦、ここで
試合数は少なければ少ないほど良いからな。特に愛知県は一回戦から勝ち続ければ甲子園に出る頃にはヘロヘロだ
…そういえば春の県大会のタイミングから新一年生はベンチ入り出来るらしい、
いきなり通用する化け物がたまにいるってことだ。世界は広いな…
中州の選手で一際目立つやつはいない。しっかり投げきれば十分に勝ちの目はある
相手投手陣も好投手揃いだけど
この試合は俺達の実力が全国に通用すると確める大事な一戦だ。勝ちきるぞ!
◇ ◇ ◇
「プレイ!」
試合開始、先行は蓮華学園。スタメンは
相手先発は平均して140中盤を投げる右腕。コントロールはややアバウトで、決め球のフォークで三振を奪うスタイルだ
一番の
打席は三番の
「ウシッ」 ククッ
「ストライク!」
初球フォークを見逃してワンストライク。ストンと落ちるフォークは落差があり、簡単に捉えられる球ではないと感じる
「ウッ」 シュパーーッ
「ボーッ!」
二球目は真っ直ぐが高めに浮きボール。球速表示は144km/h。かつて春場と対戦したときには全く目がついていかず手も足も出ない球速だった。しかし今の蓮華打線は簡単に打ち崩すとは行かなくとも、抵抗することは出来るようになっている
(やっぱり春場の球よりもキレが劣る気がする…コントロールもビタビタじゃない。甘くなったとこだけ狙おう)
「シッ」 ククッ
「ボールツー!」
三球目もボール。低めに落としたフォークを見逃し、カウントを整える
「オシッ!」 シュカァァァァァァッ
カキィンッ!
ベルトの高さの球を肘を抜き上手く捌くと、打球は高く上がり伸びていく
ドサッ
─スタンドまで届き先制のソロホームラン。球速表示は145km/hだった
試合を観戦する観客、視察に訪れたスカウトが色めき立つ。弱小公立や中堅私立から量産するホームランより、この一発の方が価値があることを知っているからだ
─後ろの
(先行のメリットの一つがこのタイミングの先制点だ…中州は一点ビハインドを意識して試合運びをしなくてはならない。この一発は出会い頭と考えよう、このまま逃げ切る!)
─一回の裏、中州の攻撃。中州の作戦は他の高校とそう変わらない。何とか球数を稼ぎ失投を狙うことだった
当然マシンを150km/hオーバーに設定し打ち込みはしているし、データを元に配球の研究やカウント別の狙い球も絞っている
しかし水流の特異性は平均球速にある。MAX150km/hオーバーの投手は毎年ある程度は出てくるが、平均して150km/h台のまま九回まで投げてくる投手はそうはいない
コントロールも良く、待ち球で四球狙いをすれば直ぐに追い込まれる。変化球も特別キレのある決め球があるわけではないが、持ち球全てでストライクが取れる。何より緩急が効くため変化狙いをすれば真っ直ぐに差し込まれてしまう
その為スタミナを削る作戦を取るしかない。水流はもはや高校レベルでは正面から打ち崩せる投手ではなくなったのだ
先頭が打席に入る。作戦通り打席のもっとも後ろに立ちバットを短く持つ
蓮華バッテリーに取ってはもう慣れたものだ。昨年から相対する高校はほぼ全てこの作戦を取ってくる
バッテリーがもっとも警戒するのは変化球を決め打ちされること。その為真っ直ぐを含めた全ての球種をバランス良く使うリードを
(ホームランさえ打たれなきゃいいんだ。ラッキーヒットは続きやしない。守備も打球が飛んでこないとリズムが作れないからね)
初球は真っ直ぐ。
「フシッ」 シュゴオオオ!!
ドパァン! 「ストライー!」
外角低めに決まった真っ直ぐは152km/h。中州のバッターが戦々恐々とする
(ボールだと思ったら伸びてきた…マシンより速く感じる)
二球目のサインはスライダー。低めに構える
「ンッ」 キュッ
「ふっ!」 スパァン!
約140km/hの高速スライダーが膝元に決まり、空振りツーストライク
三球目のサインはシンカー、低めに構えゴロを打たせに行く
「エイッ!」 ククッ
「っ!」 カンッ
真ん中の高さから沈んでいくシンカーを打つと打球は
─二番、三番と同じように真っ直ぐを見せ変化球で打ち取った。全ての低めに制球されているため外野まで飛ばず、どうしても真っ直ぐがよぎるため決め打ちしようにもバッターの振りに迷いが生じた
三振を狙うのではなくストライクゾーンで勝負する投球。後の試合…そして夏の過酷な日程を見据えた球数を少なくする為の投球だ
◇ ◇ ◇
その後試合は早いペースで進んでいった。中州の打者は水流を全く崩すことが出来ず、球数も稼げない
蓮華打線は比較的早打ちで勝負した。このクラスの投手と正面から勝負出来なれば甲子園を勝ち進むことは出来ないからだ。彼らは本気でそう考えていた
しかし相手も名門の投手。簡単に打てる相手ではなく、なかなかチャンスを作れない
しかし五回表、半田が高め真っ直ぐを振り抜くと打球はフェンス直撃の
一点を追加し2─0とすると、七回の表も蓮華打線が攻め立てる
一、二番でチャンスを作り三番水流、四番半田の連続タイムリー
さらに二点を追加し4─0とした
その後は全く危なげなく水流が抑えていく。球数が100球に迫り、九回の裏を迎えても球速は150km/hを下回らない
中州打線は最後までチャンスを作れず、蓮華学園は水流の完封勝利でベスト8に駒を進めるのだった
◇ ◇ ◇
その後も蓮華学園は順調に勝利を重ねていった。準々決勝では
1失点はエラー絡みの失点で、名工のバッターもまともに真っ直ぐを捉えられなかった
準決勝は東三河の強豪
打線は水流が2本塁打を放ち三打点を上げ、神田、瀬尾のタイムリーで三点を取った
─そして決勝。相手は私学4強の中でも春の強さは折り紙つき、センバツに出場し予選を免除された
またまた中2日での登板。チーム力では現在の県最強とも言われる東朋との勝負が始まる
◇ ◇ ◇
─東朋の水流対策は変化球を叩くという作戦だった。チーム全体が狙い玉を絞るのではなく、投球の組み立ての中で必ず投げてくる変化に個人でヤマを張るのだ
結果初回に連打を浴び一点を失う。変化球を狙い打たれてからは真っ直ぐ中心の三振を狙うリードへ切り替えたが、真っ直ぐの残像を一切無視し変化球をしっかりミートした所に東朋の強さが表れていた
東朋は決勝のゲームを継投で乗り切る作戦を取った。タイプの異なるレベルの高い投手をつぎ込み蓮華打線に的を絞らせない
それでも七回裏、半田が替わった投手からソロホームランを放ち、ゲームを振り出しに戻す
その後は膠着し、試合は延長戦に突入した…
◇ ◇ ◇
─いやーきっついなあ!東朋のバッター皆しっかり振ってくるから圧がある!
今までの対戦相手のような球数を放らせる作戦じゃないけど、結果として延長までもつれたな。しかし半田がホントに頼りになる。一発なかったら終わってたよ…
でもこっからは俺達の完全有利だ。裏の攻撃ならサヨナラがあるからな
球数は100球とっくに超えてるし中2日だけど、【回復A】のおかげでまだまだ投げられる
まずは十回の表をしっかり抑える。延長タイブレークだから無死一二塁からだ
セオリーならバント。でも簡単にはやらせない…!
─いけっ!
キンッ
正面!取って三つ!…よし!一塁も...アウト!
「ツーアウト!」「ナイスプレー!」「ゼロで締めるぞ!」
あとは抑えるだけ、真っ直ぐで…いけっ
ドパァン! 「ストライーッ!」
アウトロー完璧!次はインハイに...しゃあっ!
ズバァン! 「ストライクツー!」
よしっ良い球!ラストは落とす…オラッ!
ブンッ
よっしゃ三振!後はサヨナラで決めるぞ!
◇ ◇ ◇
延長戦十回の裏、蓮華学園は先頭の森がしっかりと送りバントを決めると、打席には遠藤
冷静にボールを見極め、カウント2B0S。投じられた真っ直ぐを打ち上げると打球はセンターへ
タッチアップでランナーの半田がホームヘ還ってくる。延長戦十回1─2で蓮華学園がサヨナラ勝利
春の県大会を勝ちきり春季東海地区大会への切符とチームの優勝というこの上ない結果を手に入れたのだった
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