1.みんな、がんばってるなー
「今年のクラシック世代は強い」
それは毎年、期待と願望を込めて繰り返される言葉。
その世代はいくつの壁を越えられるのか。
本当の答えが出るのは、シニア級とぶつかったその先にある。
秋、世代は躍進した。
マイルチャンピオンシップ――ステルヴィオ。
ジャパンカップ――アーモンドアイ。
チャンピオンズカップ――ルヴァンスレーヴ。
混合GⅠ、三連勝。
世代は、その期待に結果で応えた。
そして迎える年末の大一番、有馬記念。
四連勝がかかるこの舞台に立つのは――
ブラストワンピース。
このレースで、ただ一人のクラシック級ウマ娘。
───
2. おまえにきめた
ブラストワンピースの素質は高い。
その能力を疑う者はいない。
それでも――
ここまで、GⅠには届かなかった。
強いやつを倒す。
それが、自分を証明する一番わかりやすい方法だった。
周りより大きく、力もある。
だからこそ、最強を目指す。
それは自分にも、周囲にも説明しやすい生き方だった。
「……ダービーも負けて」
「菊花賞も負けて、それでもここにいる」
ぽつりと、独り言のようにこぼす。
「……なんか、不思議な気分だぞ」
エポカドーロに呼び止められて、
フィエールマンと笑い合って、
ダノンに、ララ、ステルヴィオ。
気づけば、知り合いも増えていた。
「ブーは、どうしたいんだろうなー」
考えても、答えは出ない。
なら、シンプルでいい。
このモヤモヤは、次のレースにぶつければいい。
視界の隅に、ふと思い出す名前が映る。
以前に聞いた“四強”。
その中でも、今いちばんの存在感。
一つ上の世代の――
“ダービーウマ娘”。
「レイデオロ、か」
少しだけ、口角が上がる。
「うん。おまえにきめたぞ!」
───
3. みーつけた
「おい、キセキぃ」
「お前、後輩相手に情けねぇぞ」
「無茶言わないでくださいよー」
「レイデオロさん、私も世界レコードで走りきったんですって」
「じゃあなにか?
アーモンドアイの強さを認めろってか!」
「そこは素直に認めましょうよ……」
ふん、とそっぽを向いたのはレイデオロ。
少々せっかちなきらいはあるが、
アーモンドアイを除けば、
現役最強に最も近いと評されるウマ娘。
「……まあいいや」
視線を切り替え、キセキを見る。
「今日も逃げるんだろ?」
「また秋天みたいに、ぶち抜いてやるから覚悟しとけ」
「なんのなんの」
「キセキはこの秋、四戦目ですよ」
「経験値、たっぷり溜まってますから」
同期同士の軽口。
気合は十分。
――さあ行くぞ。
勢いよく扉を開けた瞬間、
視界を塞ぐように、巨大な影が立っていた。
「……おまえ、レイデオロだな」
影が上から、にまっと笑う。
「うんうん」
「つよいなー。それでこそだぞ」
影はゆっくり背を向ける。
「たのしみだなー」
その一言だけを残して、
巨影――ブラストワンピースは、通路の先へ向かって行った。
レイデオロは、しばらくその背中を見送って――
何も言わず、静かに扉を閉めた。
───
4. 有馬記念
その日は、時折雨の混じる曇り空。
馬場は稍重、暮れの中山は力の求められるコンディションだった。
GⅠウマ娘が七人。
豪華な顔ぶれが揃った有馬記念は、重たい空気の下でスタートした。
障害競走からの挑戦者、オジュウチョウサンがハナを奪う。
しかし、その外から秋四戦目でも勢い衰えぬキセキが、迷いなく先頭に立った。
キセキが引っ張り、縦に伸びた隊列は第3コーナーへ。
中団から進出したのは、ブラストワンピース。
その一列後ろに、レイデオロがぴたりと続く。
最終コーナーを抜けて、まだキセキが先頭で粘る。
最終直線。
内からブラストワンピース。
外からレイデオロ。
宝塚記念の覇者ミッキーロケット、古豪シュヴァルグランも脚を伸ばす。
その瞬間――
様々な場所から、声が重なった。
──スタンドから。
「行けー!」
「がんばれ! ブーちゃん!」
──学園の談話室から。
「行けっ!」
「がんばってー!」
「ほらっ!
アイさんも声出して!」
──そして、遠く北海道のお屋敷からも。
「……がんばれ」
直線半ば。
ブラストワンピースがキセキをかわし、先頭に立つ。
レイデオロが、すぐそこまで詰め寄る。
しかし、追撃は届かない。
最後はクビ差。
ブラストワンピースがついにG1の頂を制した。
───
5. へんなやつら
レースを終えたブラストワンピースが、スタンド前までやってくる。
晴れやかな笑みを浮かべて、スタンドに声をかけた。
「ブーもGⅠ勝てたし、
これでみんなの仲間だな」
その言葉に、思わず顔を見合わせる。
「なに言ってるの」
エポカドーロが、やさしく笑って続けた。
「もう、ずっと仲間だよ」
後ろで、フィエールマンが親指を立てる。
ダノンプレミアムは、やれやれといった様子で肩をすくめた。
──強さにこだわってきた。
証明したくて、走ってきた。
でも。
ここにいる理由は、
それだけじゃなかったらしい。
肩の力が、ふっと抜けた。
お腹の奥から、じんわりと熱が込み上げてくる。
あったかくて、
ほわほわしていて、
なんだかへんな気分だった。
「ここは――
おもしろいやつばっかだなー」
年の終わりの風が、
その言葉を、静かに運んでいった。
───
おまけ:デオロ先輩
「最優秀シニアはアタシがとった。」
「こりゃつまり、アタシが四強のトップ」
「そして現役のトップってことだよなぁ!」
URA賞の授賞式。
最優秀シニア部門を受賞したレイデオロは上機嫌で会場へと向かっていた。
ここはド派手に決めてやる。
レイデオロは扉を勢いよく開け放った。
「あっ、レイデオロ!
ひさしぶりだぞー」
「うぎゃー!」
目の前に、また巨大な影がいた。
「てめぇ、ブラストワンピース!
その急に出てくるのやめろ!
心臓に悪りぃーんだよ!!」
「あと、アタシのが先輩だ!
せめて“さん”をつけろ!」
「…レイデオロさん、
うーん、なんかむずむずするんだぞ。
レイデオロでいいぞ!」
「それを決めんのはアタシだ!」
「あんた、なに後輩に絡んでるのよ」
レイデオロの後方から声がした。
「あぁっ!
ってリス子か」
「初めまして、
ブラストワンピースさん」
「私はリスグラシュー。
こいつの同期よ」
「ごめんなさいね。
こいつ根は悪くないけど、とにかく口が悪くて」
「大丈夫だぞ。レイデオロはツンデレなんだな」
「…ツンデレ。
ふふっ、そうね。そんな感じ」
「ったく、リス子ォ!行くぞ!」
「おい、ブラストワンピース。
次はぶち抜いてやるから覚悟しとけ!」
「……お互い次もがんばりましょう、かしら?」
「だぞ」
「リス子ォー!!
とっとと行くぞ!」
───
おまけ:仔猫の胸の内
レイデオロと別れた後、会場にて。
「あっ、アイー!」
声をかけられたアーモンドアイがピクッと反応する。
「そんな隅っこでどうしたんだー」
「ほら、これとか、これ!
どれも美味しいぞ!」
「…いい。
苦手なの、こういうとこ」
「ふーん」
「ララが、顔出してきたらって。
だけど、もういい」
踵を返すアーモンドアイに、ぴょんと一歩で追いつくと、
「…なぁアイ、ひょっとしてララにおどされてるのか?」
声をひそめて問いかけた。
「はっ?」
「だって、そうでもなきゃおかしーぞ!」
「ララ、時々やばいぞ!」
「いや違う。
そんなんじゃ…」
思い返したアイの記憶のララも結構やばいヤツで。
「…とにかくそんなんじゃない」
「ララのことはす、す、す…」
深呼吸を一つして、
「………わるくない、と思ってる」