ウマ娘プリティーダービー 〜黄金の時代〜   作:リンゴ糖

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大阪杯:まって

1. 歩みを止めるな

 

どんなに悩んでも、傷ついても、時間は待ってくれない。

 

 

……私が弱いなんて、わかってる。

 

それでも、やるしかない。

 

大阪杯に向けて、戦略を練る。

 

今回は私とブーちゃん、そしてワグちゃんも復帰して参戦する。

 

上の世代からは、アルアイン先輩とペルシアンナイト先輩。

 

そして、キセキ先輩。

私が今回、一番警戒しなきゃいけない人。

 

同じ逃げ。

でも、違う逃げ。

 

キセキ先輩は、豊富なスタミナで周りをすり潰す逃げができる。

前に出て距離を稼ぐだけの私とは、決定的に違う。

 

だから――

あの人に勝てなきゃ、私の勝ちはない。

 

 

それと、

 

心の奥に火が灯る。

 

 

アーモンドアイさんと真正面から戦ったキセキ先輩と、私は戦いたかった。

 

 

───

 

2.帰ってきた、ワグネリアン

 

調整を実家のトレーニング施設で済ました上で、大阪杯の直前にワグネリアンが帰ってきた。

 

「ただいま、みんな」

 

以前よりも雰囲気が柔らかくなったような気がする。

 

きっとご家族といろんな話をしたんだろうな。

 

「おかえり、ワグちゃん」

 

「エポカ、ただいま」

 

ワグちゃんは、私をじっと見る。

少し照れちゃいそうで、どうしたの?と聞くと。

 

「…エポカ、おかあさんみたい」

 

なんて答えるから、思わず笑っちゃった。

ワグちゃんは珍しく、わたわたと弁明しようとしてた。

 

 

───

 

3.大阪杯

 

深呼吸一つ、ゲートへと進む。

対キセキ先輩のプランはたくさん考えたけど、結局はいつもの先手を取ってのスロー逃げに決めた。

 

新しいことをやろうとしてもボロが出るかもしれない。

それなら今日までの自分を信じて、できることをする。

 

 

ゲートが開く。

 

前に出る。

 

キセキ先輩はスタートが速くない。

ここで主導権を取る。

 

先頭に立ち、ペースを落とす。

キセキ先輩の形には、させない。

 

進路、動き出し。

後ろに全神経を集中する。

 

ペースを僅かに調整し、進路を少しずつズラす。

 

相手が気持ちよく走れないように、小さな、小さな変化を重ねる。

 

最終コーナー。

私が先頭。

 

 

――行きます。

 

 

ここまで、やれることはやった。

あとは、全力で粘るだけ。

 

 

その、はずだった。

 

 

直線の半ば。

喉と鼻の奥に、何かが込み上げる。

 

呼吸ができない。

スピードが、保てない。

 

なんで?

考えようとして、息苦しくて。

 

 

 

体がどう動いてるかわからない。

 

 

必死に作ったリードが消えて、

私の前を、何人も通り過ぎていく。

 

 

「……まって…」

 

 

 

⸻

 

4. もう走れない

 

入線したあと、私はそのまま倒れたらしい。

目を覚ますと、病院のベッドの上だった。

 

窓の外はもう暗い。

レースから、どれくらい経ったんだろう。

 

混乱して起き上がろうとすると、喉の奥に鋭い痛みが走った。

 

看護士さんが駆けつけて、状況を説明してくれた。

レース中に鼻出血を発症し、そのまま搬送されたという。

 

明日には両親も来るとのことで、その前にお医者さんから現状を伝えられた。

 

鼻出血は外科的治療が難しく、地道に治るのを待つほかないと。

 

「復帰には時間がかかります。

……現役を続けるなら長く付き合っていく覚悟が必要です」

 

ベッドに横たわり、天井を見つめる。

 

目を閉じても、浮かんでくるのは、不安と焦りばかり。

 

「っく…」

「…ふぅ、っう」

 

「…なんで、なんで、私ばっかり……」

 

「っ、う……うぅ……うあぁ……っ!」

 

嗚咽を押し殺すように、

声にならない声が漏れる。

 

その声を、

病室の外で一つの影が聞いていた。

 

⸻

 

5. ごめんね

 

翌日、両親と一緒に、再び説明を受けた。

 

昨日よりは詳しく教えてくれたが、やはり復帰は難しい選択だという。

 

両親はトレセン学園に向かって、入院用の衣類等をまとめてくれるそうだ。

 

私はどこか実感が湧かなくてぼんやりしていた。

 

するとノックの音がして、私が返事する前にブーちゃんとフィエちゃんが飛び込んできた。

 

「エポカ! 大丈夫か!」

 

「…痛くない? 大丈夫?」

 

後ろにはダノンさんとワグちゃん。

お医者さんに頭を下げるララちゃん。

 

……また、迷惑かけちゃった。

 

私は目の前でオロオロする二人の手を握ると。

 

「ごめんね」

 

とだけ答えた。

 

「…っ」

 

ブーちゃんが、ぎゅっと握り返してくる。

 

「……謝らないで」

 

フィエちゃんも、小さく呟く。

 

「…エポカ」

 

ワグちゃんが、そっと私の頭に手を置く。

 

「…待ってる」

 

後ろで、ララちゃんが小さく鼻をすする音が聞こえた。

 

後ろで、ダノンさんが深く息を吸うのが聞こえた。

 

 

 

⸻

 

6. Epoca d’Oro

 

……変われたって思ったのに、

私は相変わらずで。

 

みんなに心配かける自分が嫌いで、

消えてしまいたくなった。

 

 

「…エポカドーロ、勇敢な皐月の王よ」

「君に問う、まだ走れるか?」

 

「ダノンさん?」

 

「友よ、運命のイタズラに傷ついた友よ」

「それでも戦うか?」

 

「…私は」

 

「エポカドーロ!

ボクは君の名に誓う!」

「黄金の時代(Epoca d’Oro)として戦い抜くことを!

ボク達の皐月賞ウマ娘の強さを、走りで語り継ぐことを!」

 

「だから、だから!」

 

ダノンプレミアムはハッとして一息つくと、

 

「だから、安心して戻ってきなよ」

「みんな待ってるからさ」

 

語調を和らげ、ほおをかく。

 

「……勝手に巻き込むな、だぞ」

 

ブラストワンピースが潤んだ目でつぶやいた。

 

「…ダノンはずるい」

 

フィエールマンも続く。

 

「…約束」

 

ワグネリアンは真っ直ぐ見つめていた。

 

「みんな心は一緒よ」

「エポちゃん、待っとるよ」

 

ラッキーライラックが優しくまとめる。

 

「みんな…待ってて」

 

エポカドーロは答えた。

あふれる涙も拭わずに、そう答えた。

 

 

 

───

 

おまけ:二人はペルアイン

 

大阪杯を制したのは四強の一角、皐月賞ウマ娘のアルアインだった。

 

最終直線で抜け出したキセキが外によれた隙をついて最内から差し切った。

 

「いやー、アルアインさん、流石です」

「その坂も苦にしないパワー、うらやましいですよ」

 

 

「きゃー! やったわー!」

「ペルちゃん、私やったわよー!」

 

「アルちゃーん! おめでとー!」

「やったね! アルちゃん!

これでG1二勝目だね!」

 

「ペルちゃんのおかげよー!

ペルちゃんと一緒だと私がんばれるの!」

 

「アルちゃーん!」

 

「ペルちゃーん!」

 

「同期のアルアインさんと、ペルシアンナイトさん」

「…この二人、単体だと問題ないのに」

「一緒になると二人だけの世界になるんだよな…」

 

アルアインに祝福の言葉をかけたのに無視され、キセキは若干凹んだ。

 

 

「あぁ、でも今日は着順離れちゃったわ」

「ペルちゃんとワンツーフィニッシュしたかったのに…」

 

「ふっふっふっ、アルちゃん、わたし今日は十一着!」

「1と11で…?」

 

「数字が並んだわ!」

 

「そうだよ! アルちゃん!」

 

「ペルちゃーん!」

 

「アルちゃーん!」

 

 

いつまで続くんだろ?

キセキは考えるのをやめた。

 

 

───

 

おまけ:ワグの想い

 

 

エポカは、笑っていた。

 

でも、その笑顔は、

おかあさんの笑顔に、似ていた。

 

おかあさんは、いつも笑っていた。

でも、ときどき、

笑顔の奥に、悲しみを隠していた。

 

エポカも、今、

同じ顔をしていた。

 

「…エポカ、おかあさんみたい」

 

そう言ったら、エポカは笑った。

 

でも、わたしには分かった。

 

エポカは、無理をしている。

 

――何か、言わなきゃ。

 

でも、どう言えばいいか、分からない。

 

「…えっと」

「…ちがう、そうじゃなくて」

 

言葉が、出てこない。

 

「ありがとう、ワグちゃん」

 

エポカがそう言った。

 

――ちがう。

 

わたしが、ありがとうを言いたいのに。

 

エポカが、無事に戻ってきてくれますように。

 

わたしは、心の中で、そっと祈った。

 

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