1.あなたが私にくれたもの
フィエールマンは喧騒が苦手だ。
自分の世界を持ち、興味によって行動する。
クリエイター的な精神構造の彼女にとって、他人と同じは必ずしも正解ではなかった。
だから菊花賞の舞台に四戦目でたどり着いたことはRTAとして成功とさえ思っていた。
菊花賞を制したときのざわつきは、自分が異端だと改めて突きつけられたようで、少なからずショックを受けた。
――もう帰ろう。
そんな私の沈んだ心に体当たりで飛び込んできたエポカドーロは、
「すごかった」
と、私自身を見てくれて。
「がんばったぞ」
そういって抱きしめてくれたブラストワンピースは、私を包んでくれた。
エポカドーロがつないでくれた縁は賑やかで騒がしい。
フィエールマンは喧騒が苦手だ。
……でも心地良くも感じている。
⸻
2.友達のともだち
エポカドーロが長期休養に入ったことで、私の周りは少し変化した。
ブーとは変わらずつるんでいるけど、ダノンとは少し距離があき、ワグネリアンに至っては元々交流が少なかったから、静かな緊張関係に陥っている。
お互いにテンション低めかつ、積極的に関わろうとするタイプではないのだ。
私はこれでもいいか。
とも思ったけど、エポカは仲良くしてほしい?
自分がいなくなって変わっちゃったら、エポカは悲しむ?
……むふー。
フィエールマン、うごきます。
⸻
3.挫折
ワグネリアンと仲良くなるために、まずは次の春天のメンバーと仲良くなってみよう。
こういうのは半端に知り合いよりも、まっさらな関係の方がいい。
「……というわけで、エタリオウ」
「仲良くなろう」
「……何がというわけで、よ」
エタリオウは頭を抱えた。
「あなたね、私は敵よ」
「春天では菊花賞のリベンジを狙ってる」
「よくわからないけど、今は集中しなさい」
……ダメだった。
でもフィエールマンは諦めない。
「……というわけで、グローリーヴェイズ」
「仲良くなろう」
「……えぇ?」
グローリーヴェイズは、
天を仰いだ。
「フィエールマン、私は今のやり取りを見てたよ」
「そのまま私も体験するとは思わなかったよ」
うーん、と唸ったグローリーヴェイズは、
「私は仲良くなるのは否定しないよ」
「でもね、一緒に走ったらすぐ友達」
「それも違うと思う」
難しいね、とこぼして。
「今はフィエールマンには壁でいてほしい、かな?」
「先はわからないけど、私も今じゃないと思う」
……ダメだった。
ユーキャンスマイルに目を向けると、無言で首を振った。
⸻
4.スタンド・アンド・ファイト
「……私は、エポカみたいに、できない」
崩れ落ちた私に、
「バカやってんじゃないわよ」
と、エタリオウが、
「ごめんねー」
と、グローリーヴェイズが、去っていった。
「……」
ユーキャンスマイルは近づくと、しゃがみこんで頭を撫でてくれた。
「……私、間違ってたのかな?」
目線を合わせてユーキャンスマイルに聞いてみる。
彼女はふるふると、小さく首を振った。
「?」
「……やり方が違うってこと?」
彼女はコクンと小さく頷いた。
「……どうしたらいいのかな?」
彼女は手を差し出してくれた。
「……そっか」
「スタンド・アンド・ファイト。だね」
彼女は大きく頷いてくれた。
⸻
5.天皇賞(春)
昨年秋の大活躍の影響で、春天は世代ごと大きな期待を受けた。
菊花賞の上位三人が、そのまま春天の上位人気を独占したのである。
レースはゆったりしたペースで始まった。
フィエールマンは中団につけ、
その後ろにグローリーヴェイズ、
ユーキャンスマイルもそのやや後方。
エタリオウは最後方から様子を伺う。
勝負が動いたのは二度目の坂を超えた後。
下りに合わせてフィエールマンが加速、グローリーヴェイズ、いつの間にか前にいたエタリオウも続く。
最終コーナーを回って、グローリーヴェイズが先頭。
内を突いてフィエールマンも並ぶ。
エタリオウ、ユーキャンスマイルはやや離された。
前の二人が加速する。
後方を引き離し、体を合わせて、叩き合う。
――負けない。
今日は負けたくない。
私は、スタンド・アンド・ファイトする。
最後はクビ差粘り切ったフィエールマン。
三着には六馬身の差をつけた。
⸻
6.かわる世界
「やるじゃん」
走り抜けたグローリーヴェイズは、ニカッと笑う。
息を整えながら、バシバシ背中を叩いてくる。
「……痛い」
「こういうのがやりたかったんじゃないの?」
「ううん、もう大丈夫」
「そう?
でも今日は楽しかったよ」
最後はグータッチで別れた。
「……フィエールマン!」
「……エタリオウ」
「それでいいのよ!」
「次は負けないわ!」
ふんっと鼻を鳴らすと、去っていった。
「……おぅ」
ぽかーんと見送った私を、
「(なでなで)」
ユーキャンスマイルが隣で見ていた。
⸻
7.友達とともだち
レースの翌日。
フィエールマンは、いつもの場所でお茶を飲んでいた。
「……フィエールマン」
振り向くと、ワグネリアンがいた。
「……ワグネリアン」
「……昨日のレース、見てた」
「すごかった」
「……ありがとう」
「……ユーとなかよくなったんだ」
「……うん。あの子いい子だね」
「うん。むかしからともだち」
「ぼんやりしたわたしにも付き合ってくれる」
ワグネリアンは、少し微笑んだ。
「……ワグネリアン」
「……ワグって呼んでもいい?」
「……いいよ。よろしくね、フィエ」
二人は、並んでお茶を飲んだ。
静かな、穏やかな時間だった。
⸻
おまけ:それが大事
ダノンプレミアムは春天のあと、ワグネリアンとフィエールマンの間の空気が和らいだことに気づいた。
といっても大きな変化ではない。
相変わらずワグネリアンはボーっとしているし、フィエールマンもブラストワンピースとつるんで変なことをしでかしたりする。
目立つ変化としては、フィエールマンとユーキャンスマイルが一緒にいることを見かけるようになった。
まぁ、悪い変化ではないよな。
なんて思っていると、
「……ワグ、起きて。
次、移動教室」
「……むーん」
……意外なほどに仲良くなってるみたいだ。
ちょっと気になって、一人の時に声をかけてみる。
「なぁ、フィエールマン」
「……何?」
「最近、ワグと仲良くなったよな。
何かあったのかい?」
フィエールマンはその問いに薄く微笑むと、
「……特にない。
ただ、キャラ被りはダメって話」
「?」
こいつは相変わらずよくわからないことを言う。
なんだかわからないが、とりあえず改善したならヨシ!
――そんな一日だった。
⸻
おまけ:静かな時間
テラスでお茶を楽しむ二人。
温暖化の影響か、五月前というのに暑い日が続くが、朝夕はまだ冷える時もある。
「……ずずっ」
「!?」
「……ユー、またうでをあげたね」
ユーキャンスマイルは、ワグネリアンに褒められて照れくさそうにほおをかく。
「……こんどはわたしが、紅茶をふるまう」
「こっちは、まだまけない」
ユーキャンスマイルの笑顔がパッと広がる。
ワグネリアンの淹れる紅茶は絶品だ。
彼女はときどきお嬢様要素を出してくる。
「……ずずっ」
「ほぅ……」
「……ずずずっ」
鳥の鳴き声がする。
ツバメも飛んでいる。
季節の変化を感じながら、
特に会話もない、昔からの時間を楽しんだ二人であった。