1. 読売マイラーズカップ
復帰二戦目をダノンプレミアムは危なげなく完勝した。
好スタートからの二番手追走。
最終コーナーで並びかけ、進出開始。
上がり二位の末脚で前を捉えると、最後は一馬身の差をつけた。
「……よし」
ダノンは、小さくガッツポーズ。
マイルのペースも問題ない。
春の大目標は安田記念だ。
「勝負の時は、来た。
アーモンドアイ」
ダノンプレミアムは空を指差しながら、決意を固めた。
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2. 海の向こうの女王
アーモンドアイは昨年秋の衝撃のレコードから、もはや世界の注目の的だった。
招待を受けて臨んだドバイターフ。
初の海外、ドバイの暑さ。
いくつかの不安要素も彼女の前には杞憂であった。
スタートから中団で進めたアーモンドアイ。
レース相手からの、
スタンドからの、
そしてカメラの向こうからの視線を一身に受けた彼女は、
直線で周りがスパートをかける中、涼しい顔で抜け出した。
最後はちらっと後方を確認し、一馬身の差を保ったままゴールした。
ティアラ三冠、
ジャパンカップ、
そして海外G1の勲章を手に入れたアーモンドアイ。
世代の一番星は栄光を抱いて凱旋する。
次の舞台は東京レース場、
G1安田記念。
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3. これから始まる物語
安田記念、世間の注目を集めたのはアーモンドアイとダノンプレミアムであった。
最強女王。
世代の一番星。
向かうところ敵なしのアーモンドアイ。
人々は最強の物語と、それと同じくらいに新たな英雄の登場を望んでいた。
───
「アーモンドアイ、今日は良いレースをしよう」
宣戦布告。
物語はレースの前から始まっている。
ダノンプレミアムは内心の高揚を押さえきれず、アーモンドアイに声をかけた。
アーモンドアイはこちらに向き直ると、ダノンプレミアムをまじまじと見つめる。
しかし、何も言わず、
ふいっと視線を切り、そのまま背を向けた。
「…ふふ、いいだろう。
言葉はいらない、ってやつだ」
…別に傷ついたわけじゃない。
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4. 安田記念
スタート直後。
大外のロジクライがバランスを崩し内に切れ込む。
接触し、
慌ててかわし、
リズムを崩す。
真ん中から外枠に大きな混乱が生まれる。
七枠十四番、アーモンドアイ。
八枠十五番、ダノンプレミアム。
注目の二人も大きな影響を受けた。
それでも、レースは止まらない。
アーモンドアイは、すぐに立て直した。
前へ出る。脚を溜める。
何事もなかったように、
ただ、いつもより後ろからになった。
ダノンプレミアムは、一瞬遅れた。
予想外のトラブルに思考が止まる。
慌てて切り替えようとするが内心の動揺は走りに現れた。
結果は残酷だった。
アーモンドアイは、直線食らいつき三着。
ダノンプレミアムは最下位十六着。
同じ不利、
違ったのはそこからの対応だった。
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5. 小さな炎を抱えたキミは
屋上で柵に寄りかかるダノンプレミアム。
「今日は完敗だったわね」
「…うん」
あのダノンプレミアムが落ち込みを隠さず凹んでいる。
ステルヴィオも初めて見るかもしれない姿に少し驚く。
「めずらしいわね、あなたがそこまで態度に出すなんて」
「…負けたのはともかく、全力を出しきれなかったんだ」
「ちょっと自己嫌悪だよ」
ため息一つ、
顔をあげたダノンプレミアムは答えた。
「…不利を受けたあと、レースに戻れなかった」
「気づいたら終わってた。
そんな感覚だよ」
うぁー、と情けない声をあげて、髪をかき乱す。
「…エポカドーロはさ、こんな不運を乗り越えてたんだな」
今はいない彼女を思う。
ボクの知るだけでも、ダービーの落鉄や、神戸新聞杯。
不運に負けない、と言うのは容易いが今日初めて思い知らされた。
「…つよいよ、キミは」
「負けてられないな、ほんと」
空には糸のように細い月が浮かんでいた。
消えそうな輝きに見えた。
差し込む光にも見えた。
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おまけ:あと始末
「ごめんなさいー!」
安田記念が終わったターフにはロジクライの泣き声混じりの謝罪がこだました。
「ごめんよー!
アイちゃんごめんよー!」
「あたしが余計なことしちゃって…」
「ほんとにごめ〜ん!」
アーモンドアイにすがりつくように謝罪を続けるロジクライに、
アーモンドアイはしゃがみこんで視線を合わせる。
キラキラ輝く彼女の瞳が涙に濡れるロジクライの瞳を捉える。
「私は大丈夫ですよ!」
「みんなもアクシデントだったんだし、わかってくれますよ!」
アーモンドアイはロジクライを優しく立ち上がらせた。
「それより怪我はありませんか?」
「結構な勢いでしたけど?」
「うぅ〜、アイちゃん!
ごめんねー! ありがとうー!」
よしよし、と少しぎこちなく撫でるアーモンドアイ。
ロジクライはアーモンドアイに伴われ、他のみんなにも謝罪して回った。
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おまけ:ムカつく
「ア〜イさん」
「今回はちょっとツイてへんかったなー」
「おいで、なでなでしたる♪」
レースの後、寮に戻ったアイはララに捕まった。
「…いい」
「そう言わんと、な?」
ララは手をわきわきさせながら答えた。
かわして部屋に逃げ込みたいが、入り口はララに塞がれてる。
逃げようとも思ったが、今日は早く休みたかった。
…だからララの言葉に乗ってあげることにした。
疲れたから、それだけだから。
「アイさん、聞いたで。
あの後ロジクライさんのお手伝いしたったんやって」
「おつかれさんやなー」
「勝ったインディチャンプさんもな」
「決着にモヤモヤしてたけど、まあいいかって」
「アイさんとはちゃんと挨拶したかったみたいで、よろしく言うてたで」
ララは優しい声で、頭を、背中をさすってくれる。
少し眠気がやってくる。
疲れたから、それだけ。
「…ララ、ダノンプレミアムにあったよ」
「うんうん、みてたよ。
ダノっち、なんか言ってた?」
「…レース前に、宣戦…布告…された」
「そっかそっか。
ダノっちらしいな」
「たぶんな、これからボク達のライバル関係が始まる(キリッ)」
「みたいに考えてたんやで」
ララはくつくつ笑う。
…なんかおもしろくない。
「…なんか、むかついた…から…
無視…しちゃった」
「そっかぁ、ほな次はごめんなさいせななー」
「ロジさん見習わなあかんなー」
「……」
アーモンドアイは返事をする前に夢の世界へ旅立った。
ララはベッドを整えると、部屋の電気を落とす。
「おやすみ、アイさん」
「今日はおつかれさん」